コードギアスDESTINY
第13話 平和の歌
月面ダイダロス連合軍基地宙域に、ミネルバを旗艦とするザフト艦隊が見えてくる。
その数は、オーブを襲撃したときの倍にのぼる。
これだけ見ても、デュランダルが本気で仕掛けてくることはよくわかる。
だが、それが逆にルルーシュの中で、疑問となっていたのである。
「どうしたの?ルルーシュ、さっきから黙っちゃって」
出撃前にカレンがルルーシュに聞く。
C.C.もルルーシュの納得いか無そうな顔を見ながらルルーシュの答えを待つ。
「デュランダルの行動がな、どうにも引っ掛かる」
「罠か?」
「いや、そういうものではない」
ルルーシュは、それ以上の言及を避けた。いずれはわかることだ。
戦闘にかんしては問題にはならないだろう。
次々と出撃をしていくMS部隊、騎士団旗艦ローズクォーツの指揮はラクシャータに任せている。
のらりくらりしながらも、鋭い洞察力で良い指揮官になれるはずだ。
「ラクシャータさん!私にオペレーター、やらせてもらっていいですか?」
メイリンがそういってブリッジにやってくる。
ラクシャータは笑いながら、空いているオペレーターの席にキセルで指差す。
メイリンの後ろにいて、何か言いたげなルナマリアにも、微笑みながら
「格納庫に改修した、あなたの機体があるわ、せいぜい頑張ってね」
「…ありがとうございます。ラクシャータさん」
ルナマリアは頭を下げると、ブリッジから駆け出しで出て行く。
「若いわね…、それじゃ~順次出撃…」
シンを守るため、カレンやC.C.を守るために、自分は戦う。
自分にはそれしか上手く表現できないから…。
この灰廉とともに…。
『灰廉、発進どうぞ』
「…ステラ・ルーシェ、灰廉…でる!」
目つきを変えたステラの乗る灰色の機体が漆黒の宇宙を舞う。既に艦隊戦は始まっており、主砲のビームが飛び交っている。
その中で双方のMSが出撃を始め、先方では戦いが始まっている。
『カレン、思う存分やりなさい。もう経験できないかもしれない興奮よ?』
「…わかってます、ラクシャータさん!紅蓮暁式、発艦!!」
ステラを追うようにして出撃する紅蓮暁式。
その赤い色は宇宙でも良く目立つ。だが、それこそ格好の餌。
自分を狙うものは誰であれ排除する。カレンと紅蓮のコンビはナイトメアフレームであれMSであれ関係ない。
ステラの補佐を努めるようにルルーシュからは言われている。
灰廉と紅蓮の二機で敵を振り回す。
―――
月面では連合軍のデストロイが配備されており、援護攻撃として戦艦以上の働きを見せる。
放たれた巨大な光がザフトのMSや戦艦を吹き飛ばす。
ザフトMSもまた攻撃を強めていく。数では圧倒的に有利だ。
この数を上手く利用しなくては…。
『…レイ、お願いするわ。敵の中核はおそらく、あの赤い機体。そしてゼロが搭乗している戦艦、この両方を叩けば戦いは終わるわ。頼める?』
タリアの言葉をミネルバで唯一、残っているパイロットであるレイは頷く。
「やってみせます。必ずや勝利を議長の下に」
『…レイ・ザ・バレル、レジェンド出撃!』
「レイ・ザ・バレル……レジェンド、いくぞ!」
出撃した黒きMSレジェンドは、周りに散開する敵のMSに対して、ドラグーンシステムという、宙間戦闘においてレジェンドの背中から放出されたビット形式のものによる多角攻撃を行う。
攻撃を受けたMSは爆破し、レジェンドの周りで光が広がる。
レイを出撃させたタリアは、敵の旗艦を見つける。
ローズクォーツ…、ゼロがいるであろう戦艦。
デュランダルの考えが、正しいかどうかはわからない。
ただ…この戦いが終わるのであるならば…。
デュランダルの意志を…。
「タンホイザー、目標…敵旗艦。敵に気づかれる前に撃つ。射線上にあるMSに対する回避勧告急げ!」
「…艦長」
アーサーはどこか渋い顔をしながらタリアを見つめる。
「…アーサー、この戦い、負けられないよ?例え道化師となろうとも…議長の想いを無駄には出来ないわ」
副長であるアーサーは、そのタリアの鋭い視線に何もいえない。
レイは次々と、敵をなぎ払いながらその視界上に、紅蓮を発見する。
「あたれぇ!!」
ドラグーンが紅蓮を狙う。
カレンはその殺気を感じ取り、避けようとするが、多方向攻撃に、避けることが出来ず、いくつかのダメージを受ける。
「きゃああ!!」
コクピットを狙うドラグーン、カレンはやられたと感じた…だが、そのドラグーンは、間に入ったものに切られ爆発する。
「ステラ…」
「カレン、平気?」
「え、えぇ…」
2人の視線のなかに姿を現すレイは、ビームジャベリンで突っ込んでくる。それをステラは回避し、カレンは紅蓮の輻射波動の凶悪な腕で掴む。
「かかった!!」
「…動きを止めたのはこっちだ」
レイのドラグーンは再び動き出す。
カレンは舌打ちをしながら、握った手を離し、回転しながら、ドラグーンを回避しつつ、後ろに下がり距離をとる。
「厄介ね、あの兵器…」
カレンは、ドラグーンを背中に仕舞う、その新たな機体いらつきながら、操縦桿を強く握る。
ここで時間をかけてはいられない。目標は敵の旗艦のみ。
「ステラ、2人で一気に仕掛けるわよ!」
「…了解」
そんなとき、レイとカレン、ステラのレーダーに映る機体。
それは改修を受けたインパルスである。
「ルナマリア?あなた、やっぱりザフトに戻るの?」
カレンの問いかけに、ルナマリアはレイを見る。
レイはルナマリアのインパルスに接近し
「ルナマリア!よく戻ってきてくれた。敵を殲滅するぞ」
「レイ、あなたは…、議長の言葉になんの疑念も抱かないの?」
「なに?」
ルナマリアの突然の言葉にレイは驚く。
「私は…ずっとブルーコスモスを、ロゴスを倒さないと平和は訪れない、そう思っていた。
だけど、私は騎士団で見た。連合の人とも、ザフトの人ともみんなで普通に話すことができるって。
話せる人を、意見が通じる人と戦い続けることが本当に最善の策なの?」
「ルナマリア…。議長のやろうとしていることは、人間の新たな革新にと繋がる。
戦争の無い世界、人がもっとも自分を成長することができる場所を手に入れることができるんだ」
妄信的…。
レイがここまで議長に固執するのはなぜか。
ルナマリアはずっと疑問だった。
確かにいいことはあるかもしれない。
だけど、全部が全部そういうわけではない。
レイはそれを切り捨てている。
「レイ!」
ルナマリアのコクピットに隠れて一緒に搭乗していたシンが叫ぶ。
「まさかシンまで乗ってるの?あなた、まだ治ったばかりでしょう?」
カレンは驚きながらも、今更どうしようもない。
カレンとステラは周りの敵を倒し2人の邪魔をしないようにしてあげるしか今は出来ない。
「シン…、お前も議長の理念を理解できないか?
そこにいるステラのような人間、そして…俺のような人間が生まれなくて良くなる世界をつくろうとしているのに」
「なに?」
レイは、コクピットでシンの声を聞きながら、落ち着いた表情で話し出す。
「俺は、前大戦にいたラウ・ル・クルーゼといわれた人間のクローンだ」
「!?」
「クローン…」
シンとルナマリアはレイが何を言っているか分からない。
「俺は議長と共に、この世界を変えるために存在している。
それが俺の存在意義なんだ。そのために俺はシン、ルナマリア…お前達のことを見てきた。
全ては、議長の理想を実現するために!誰もが戦うことの無い世界、誰もが自分の居場所を見つけられる世界、それのどこがいけない!
才能を、導いてくれることのなにがいけない?」
「…それは、違う」
ステラが目の前のMSの頭部を潰し輻射波動で破壊しながら言う。
「私は、自分で見つけた。自分の居場所を…、誰かに教えられたものじゃない!」
強い口調で言うステラに、カレンも同調する。
「…そうね。私がここにいるのは、私の意志だもの。
誰かに示されたわけじゃない。そして、私は今の自分に納得している。
誰かに決められたんじゃ…人生なんかつまらないわ!」
二人の言葉に、ルナマリアとシンも頷く。
「私は、私の道を人に決められたくない…。例え、それで後悔しても、受け入れる。
だって自分が決めた道だもの。納得するわ」
「レイ、俺は…議長の言っていることが間違っていると思う。
自分の生きる道は自分で決めるべきだ。才能を閉じておくことも、才能を開花させるのも、その人間自身だ」
レイのレジェンドが動き、インパルスに襲い掛かる。
ルナマリアはインパルスを操縦し、レイの攻撃を避ける。
「議長の言うことが聞けないのなら、お前達は敵だ!」
「やめろ!レイ!どうして、どうしてそんなに急ぐんだ?どうしてそんなに人間が信じられないんだ?」
シンはルナマリアの後でレイに呼びかけ続ける。
「…シン。クローンである俺に残された命は少ない。遺伝子的な問題でな…。
今までの戦争を見てきただろう?残虐的で冷酷…もう人間は、誰かに管理運営されなくてはいけない存在となりつつあるんだ。
この少ない命で、俺はラウ・ル・クルーゼの複製として、やり遂げられなかったことを、やり遂げる…」
「バカ野郎!!」
シンの言葉に、レイのインパルスに向かって振り下ろしたビームジャベリンが止まる。
「お前は、ラウ・ル・クルーゼなんかじゃない!お前は…、レイだ。
俺たちの戦友であるレイ・ザ・バレルだ。そうだろう?レイ!!
お前は誰でもない、俺たちと一緒にいたレイだ!」
レイは、操縦席に涙の雫を落す。
「…俺のことを、お前達を監視していた俺を、友と呼ぶか?」
「あたりまえだろう。誰がなんと言おうと、俺の戦友は、レイ…ルナ、そしてミネルバにいるみんなだ。誰もそれにけちはつけさせない」
「…レイ、シンの言うとおりだよ。私達が戦うなんて間違ってるわ…」
シンとルナマリアの言葉…、
自分の固くなっていたものが解けて流れていくそんな感覚。
…ギル。
俺は、俺は…ラウ・ル・クルーゼとしてではなく、レイ・ザ・バレルとして…生きてみたい。
この俺を友と呼んでくれるものたちを…、この限られた命の中で供に過ごしたい。
「シン、俺の戦友である、お前に……俺はかけてみたい」
「…お前は、相変わらず堅苦しいな?」
「元からだ」
ルナマリアの操るインパルスがレイのレジェンドに手を伸ばし、しっかりと掴む。
「タンホイザー…発射!」
巨大な閃光が近くからあがる。
シンたちがそれを見たとき、ミネルバから放たれた光が、味方を巻き込みながら騎士団の旗艦であるローズクォーツに向かう。
「しまった!!」
カレンは声を上げるがもう遅い。
回避運動かけているローズクォーツを前にして光が向かう。
だが、その放たれた光はローズクォーツの前で弾かれる。
宇宙の闇の中でローズクォーツを守る黒き機体。
それはカレンやステラたちが待っていたと思うものが乗っている。
『ルルーシュ、何タイミングはかってるのよ?いやらしいわね』
『ゼロ、かっこいい…』
相次ぐ仲間からの通信に頭を痛めながらルルーシュは絶対守護領域を開放すると、
肩から強力なハドロン砲を放ち、ローズクォーツに集まる敵を撃破する。
「…まったく、あいつらは…戦いをなんだと思ってるんだ?」
ぼやくC.C.の後に乗り絶対守護領域の計算を行うルルーシュ…。
「ガウェイン、蜃気楼に次ぐ黒の騎士団ゼロ専用機…『黒耀』。
ラクシャータ、短期間によくここまでやってくれたものだ。このまま…。C.C.!」
黒耀は、その砲口をミネルバに向けた。
―――
ザフト機動要塞メサイア…。
デュランダルは、戦線の報告を聞きながら自身の計画を考えていた。
デスティニープラン。かつて自分とタリアが恋人であったとき、自分たちの遺伝子では子供を残せないことがあって、子供を欲したタリアとの恋仲は破局した。
それからだった…。運命というものを最初から決めてしまうことで、誰も哀しまない世界を作り上げようと考えたのは。
だが、それも結局は夢でしかなかった。最終的にそう持っていくようにすればよかった。
自分の考えをここまで早急に行わなくてはいけない理由…それは。
「デュランダル議長。お久しぶりですわ」
ラクス・クライン…。
ラクスは1人、歩きながら、椅子に座るデュランダルに近づいてくる。
「ここまではどうやってこられたのかな…ラクス・クライン嬢」
「堂々と正面からですわ。皆さん優しくしてくださいました」
ラクス・クラインはモニターのコントローラーをとると、チャンネルをかえる。
そこに映し出されるのはメサイアに内蔵されている、ジェネシスである。決戦兵器として稼動はまだ先としていたというのに。
既に発射体勢を取りつつある。
『で、デュランダル議長!ジュール隊が離反しました!それ以外の部隊も次々と反逆し、あ、アークエンジェルがぁ!!』
爆音と共に通信が途切れる。
デュランダルは、大きく溜息をつく。
「私を暗殺するのに随分といろいろと考えていらっしゃったようですわね?」
ルルーシュたちが来る前、オーブにいたときのMSまで使用した暗殺未遂。
さらにはミーアを囮として、ラクス暗殺。
他にもいろいろと講じたが結局すべて失敗という結果だった。
「…そのための、この戦争だと思ってくれていいよ。君の力は危険だ」
その言葉にラクスはデュランダルの前でクスクスと笑ってみせる。
「だからこそのディスティニープランですの?
人間の運命を遺伝子統制してしまうなんて、随分と乱暴なことを考えなさるのですね?」
「戦争を無くす最善の方法だよ。人間は自分の才能における部分を延ばせば良い。
余計な欲を持つことで戦争が起こる。これ以上の戦争は、人類の絶滅の危機さえありえる」
「まぁ~私も同意見ですわ。だから、私も、私なりの世界平和を考えましたの」
ラクスはデュランダルに背中をむけ、踊るようにして振り返る。
そこには赤く輝くギアスの力がこもった目がある。
デュランダルは、その目を見ないように視線をそらす。
「議長も、見てください。私のことだけ考えるようになれる『魅了』のギアス…。
これさえあれば、戦争なんかおきませんわ。みんな私のことだけを考え、私のために生きることになります。
一度見れば、時がたっても、また私の声と容姿を見れば、私にひれ伏しますわ。
アスランやイザークさん、オーブの国民のように……」
「…それは、戦争を止めるのと同様に。世界の覇権を君が握ることになる。君を中心とした、支配国家の建設…」
ラクスは微笑みながら、デュランダルの背中を向けて画面を見つめる。
『ジェネシス、発射シークエンス開始。目標をセットします』
デュランダルは、既に起動を始め、さらには、そのジェネシスの目標ポイントを見て、言葉を詰まらす。
場所は月面…ダイダロス基地。
今まさにタリア、そしてレイが黒の騎士団と戦っている場所である。
「邪魔なものがみんな、ここに集まってくれたおかげで、私も助かりましたわ」
「…善悪の心さえも失ってしまったのか?ラクス・クライン!」
立ち上がり拳銃を向けるデュランダルだが、周りで音が聞こえる。
それはデュランダルの部下であった者たちだ。
その目は赤く輝いている。
「兵士の皆さん、撃ってはいけませんわ。まだ彼にはやってもらわなくてはいけないことがあるんですもの」
「「わかりました。ラクス様」」
ラクスの答えに従う兵士たち。
デュランダルは銃をおろす。すべてはラクスの計画通りということか。
『ジェネシス発射までカウントを開始します』
デュランダルは、ラクスの嬉しそうな様子を背中越しに眺めている。
ラクス・クライン…彼女の存在が、この戦争、そしてディスティニープランの計画を早くしたきっかけとなった。
彼女の力は知っていた。
人間を魅了し、己の手先とする力。
あの目に見られたものは、誰もがそうなる。
世界がそうなれば…それは世界の死だ。
だからこそ…デュランダルは最後の賭けにでたのだ。
願わくば…この後、彼らが勝利することを願って。
デュランダルは握っていた銃を自分の頭にあてる。
『ジェネシス、発射!』
レイ…、タリア。
君達が、無事にこの戦争を終え、平和で幸せな生活を迎えることを祈っている…。
デュランダルは、強く願いながら引金を弾いた。
「あら?あっけないですわ。議長…。もう少し頑張ってくれると思ったのですけれど」
ラクスは背後の銃声を聞き、振り返り微笑む。
『月面ダイダロス基地に、ジェネシス直撃』
これから…、さぁ~これから…平和の歌の第二楽章を始めましょう。
争いの無い平和な世界を創造するために。
私は歌を謡いますわ。
皆さんの心を、縛りつけ…私しか見えない世界に誘うために。
皆さんのラクス・クラインは、ここにいます。