試薬の取り扱い

Last-modified: 2023-04-07 (金) 11:57:11

あぼん

ヨウ化サマリウム

MakiokaFufudo氏ブログhttp://nanoniele.jp/wordpress/?p=65から
(リンク先には溶液の画像もあり。掲示板も参照、同氏の許可による転載)


【調製の体験から】私はジヨードメタン&日本イットリウム派。
・油浸けサマリウム金属は無酸素乾燥溶媒で洗浄し、真空下で乾燥。酸化皮膜で守られているので、不活性ガス吹き込んでいないデシケータ内でも短~中期間保存可能。
・調製時、風船or密閉不可。酸素を遮断できない。発生するエチレンの量を考えるべし。
・調製したらなるべく早く使用する。
・金属(溶媒と混ぜない)にヨウ化物のTHF溶液を滴下する。最初は金属が溶液に浸される程度に滴下して、そこで滴下をストップ。混合物が黄色orオレンジ→青色となるのを確認してから、滴下を再開。再開後オレンジ色の固体が析出するようであれば、滴下が速すぎるかもしれない。
・滴下終了後、オレンジ色の固体が見える時は、反応が完結していない可能性大。しばらく撹拌していれば、オレンジ色の固体(恐らくSmI3の類)は金属サマリウムと反応し、消失するかも。
・保存時/調製時、黄色又は黄緑色の固体が見える時は、生成したヨウ化サマリウム(II)が酸素酸化された可能性大。失敗臭い or 保存状態が悪く、使用には不向き。金属が残っているようであれば、しばらく撹拌すれば固体が消失するかもしれないが、立体選択的な反応には向かないかも。

市販品に関しては、ようわかりません。買ったことないので。

【使用した経験から】
・溶媒(たいていはTHF)の脱酸素は必須。位置・立体選択性が重要な反応では脱水も重要。
・文献記載の薬品の使用量を忠実に守る。ヨウ化サマリウム(II)は添加剤の種類や量が反応性(還元力等)に大きな影響を与える。ヨウ化サマリウム(II)にはルイス酸性もあるので、基質とヨウ化サマリウム(II)のモル比が反応の立体選択性、位置選択性にモロに影響する。
・反応に長時間を要する場合は、酸素フリーを徹底する。
・反応後の後処理(いわゆるクエンチ)も、文献に忠実に。希塩酸を加えるべきところで水を加えると、望まない反応が起こる可能性あり。逆も同じ。

  • 参考文献:M. Szostak , M. Spain D. J. Procter, "Preparation of Samarium(II) Iodide: Quantitative Evaluation of the Effect of Water, Oxygen, and Peroxide Content, Preparative Methods, and the Activation of Samarium Metal" J. Org. Chem., 2012, 77 (7), pp 3049-3059
    DOI: 10.1021/jo300135v

アルキル化剤

発がん性があるので、要注意。

なお皮膚刺激性のある物質(ある種のベンジルハライドやα-ハロケトン)を大量に扱っているときには手袋着用はもちろん、無意識に髪の毛を触る事のないようにディスポキャップの着用を勧める。気がついたら目に入って目脂が出たり、顔が腫れてしまう。
また、実験中はトイレにいく前に悪いこた言わん、手袋を外したあとの手をクレンザーで徹底的に洗え。普通の石鹸や有機溶媒では不完全だ。陰部に刺激物質が触れると、笑い事じゃない悲劇が待っている。

アルキルリチウム試薬

  • C4H9Li
    空気と水に敏感なため不活性ガス雰囲気下で扱う。
    特にt-BuLiの扱いには注意が必要。2009年にはUCLAで死亡事故が発生している。*1

UCLAが作成した自然発火性液体に関するビデオ(YouTube)

  • n-BuLi/Hexaneの濃度に関して
    試薬会社からn-BuLi/Hexを購入する場合は1.6か2.6 Mのものが最も一般的だろう。
    アルドリッチ社から10 Mのn-BuLi/Hexも販売されているが、
    これを購入して1.6 M溶液と同様の感覚で扱うと痛い目を見るので要注意。

    高粘度すぎてシリンジで吸うのは太い針でも一苦労だし、
    キャニュラーも受け側をほとんど常時引きっぱなしにしないと上手く流れない。
    更に、t-BuLiには及ばないだろうが、低濃度のn-BuLiに比べるとはるかに空気に敏感。
    針を抜き差しする時も雑にやると空気と反応して僅かに白煙が上がる。

    もし買った場合は薄めて使うか、量が多くなるのが嫌でも素直に低濃度のものを使うことを強くお勧めする。

    当然経時劣化するので、厳密な実験を行う前には滴定すべき。Diphenylacetic acidを用いる方法は簡便だが、水酸化リチウムが生成していた場合、実際よりも濃度が高く見積もられてしまう。N-Pivaloyl-o-toluidineを用いる方法(http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jo00263a052)がベターだろう。この試薬は市販もされているが、pivaloyl chlorideとo-toluidineから容易に調製できる。
    • o-トルイジンが膀胱がんを惹き起こした労災事件もあるから、自分で調製するのはやめたほうがいい。

水素化アルミニウムリチウム(LAH)

  • 秤量
    • LAHは普通に手早く量れば大丈夫。金属スパチュラは使ってはいけない。テフロンスパーテルでも発火する(?)
      万一こぼしたら、少量ならそのまましばらく放置すると空気中の水分で分解する。最後は固く絞ったペーパータオルで拭けばいい。
      LAHは、古くなって固まると処分が難しくなるので、使う予定がなくなったら早めに処分した方がいい。固まったやつを砕こうとすると、火柱をあげることになる。
      純度の悪いLAHは爆発性があって、結晶でしか買えなかった昔はよく爆発したって聞く。
      今売っているやつは、顆粒状のがほとんどなので、多少固まっても崩れる。
      但し、無理は禁物だ。

水素化ホウ素ナトリウム(ボロハイ)

  • 反応溶媒
    メタノール中では数時間でファーストハイドライドが分解するので、あまり勧められない。メタノール:ジオキサン=1:9とか、エタノールやイソプロパノールがいい。
  • 副反応
    基本的にエステルの還元は進行しないが、N-保護アミノ酸エステルでは迅速に還元される。また後処理が不完全だと含窒素化合物では、ホウ素錯体が形成されることがある。IR取ると2000cm-1あたりに吸収が現れる。試薬の分解はブルーベリーエキスで検出すると良い。

四酸化オスミウム

高いし、揮発性だし、毒性は強いので要注意だ。いいにおいだけどな。

  • 1gのアンプルを購入したらラベルをはがして(きれいにノリも取る)、表面を超音波洗浄する。100mLのtert-ブタノールを使用済みの試薬びん(重クロのボトルが推奨・内部を過酸化水素-NaOHで洗浄する)に入れて、その中にアンプルごと入れて中で破壊する。安定剤としてtert-BuOOH*2を1滴入れる。
    この1%溶液が使いやすい。
    どうせ NMO を共酸化剤に使って触媒で回すんだから、正確な濃度も必要なし。経時変化で黒くなってくるが、気にしなくてよい。瓶の内部やアンプルの外側に指紋などの有機物がついていると、劣化が早くなる。

水素化ナトリウム

  • 洗浄
    脱水ヘキサンもシリンジもまったく必要ない。缶出しのヘキサンを使うと必ず泡は出るからビビる。
    しかし、それで反応がうまく行かなくなることはない。
    そもそも無水蒸留したヘキサンであっても、表面に付着した水分が反応するから泡は出る。
    しかも、それによって消費されたNaHの物質量は無視出来る範囲内にある。ヘキサンウェットの状態でそのまま溶媒に希釈してよい。
    • ヘキサンとDMFは完全には混和しない。簡単にヘキサンを飛ばした方がいい。
  • 試薬の選択肢として
    エステルのα位にアニオンを出してアルキル化するような反応の時、水素化ナトリウムは簡便でいいのだが、どうしてもアルカリ加水分解反応が一部発生する。実験技術にもよるがある程度は覚悟したほうがよく、量上げをすると時に再現性の問題となって思わぬ失敗につながる。
    単に反応性だけではわからない、試薬の性質は常に気にしておくべし。

アジ化物

ステンレススパチュラ厳禁。かきとる時は容器に不用意に押し付けたりしないようにする。
ガラスのスリの部分にも付着させないようにする。爆発すると、火は出ないが猛烈な体積膨張を伴う。
ハロゲン系溶媒にも注意する。濃縮中にジアジドメタンが生成して爆発する事故が発生している。(参照:実験中の事故・危険性-残留溶媒からジアジドメタンが生成して爆発
反応終了後に残った過剰のアジ化ナトリウムは、亜硝酸ナトリウムを加えた後、希硫酸で酸性にすることで分解できる。

シアン化物

肌表面の水分で分解してシアン化水素が発生しないようにする。
手袋着用はもちろんのこと、できれば粉末を吸わないようにマスクを着用し、肌の露出を少なくするため袖を下ろすなどする。
ふだん排気設備のないベンチで実験しているならドラフト内で扱う。*3

接触還元触媒

水素添加反応では稀だが、ベンジル基除去が途中で進行しなくなることがある。特に含窒素化合物(ペプチドなど)ではよく起こる。
触媒を足すのもいいが、できれば一度触媒を濾過してからフレッシュな触媒を加え直すべし。また触媒を足すときには、溶媒で懸濁して加えると危険性は大幅に減少する。

金属末の活性化

金属銅

ヨウ素-アセトンで処理する。

Org. Synth. Coll. Vol. 3, p339 (1955)

モバイル版ですが下でも
http://www.scribd.com/mobile/doc/88947247
CuOをCuI にして塩酸で洗い流すみたいですね

金属亜鉛末

希塩酸で数分処理した後、蒸留水で中性になるまで洗う。
底に塊状に沈殿していた亜鉛が、蒸留水で洗っていくうちに急に巻き上がるようになる。その時点でpHを見ると中性になっている。
ついでメタノール、エーテルで置換して減圧下に乾燥する。

なお、どうしても文献の反応性が再現できない場合はメーカーを変えてみるといいらしい。気相で精製したものと、イオンから金属化(湿式)させたものでは不純物が微妙に異なり、反応性が違うという例がある。

  • なお反応後の過剰な亜鉛末を濾過する際、空気を通すと急速に酸化反応が進行し発熱して危険である。大量合成の場合、溶媒に引火する危険がある。ブフナー上で絶対に溶媒を切らしてはいけない。水をはった容器を用意し、適当なところで水につけてしまうこと。そのままドラフト内に放置して穏やかに酸化させ、1週間後ぐらいに無機廃棄物として適切に処置する。

金属還元などが進行しない時は・・・

超音波をかけてみよ。金属表面の酸化皮膜などが機械的に除去されて、反応が進行する事がある。
ただし暴走する危険があるので、大量合成の時は禁止!

酸塩化物の蒸留精製

カルボン酸塩化物やスルホン酸塩化物の試薬を蒸留で精製する事は多いが、比熱や潜熱が小さいためか留出温度が安定せずにじわじわ上がってくる傾向がある。
ト字管を包帯などで十分に保温するなどの工夫が必要。ただし、純度そのものはそれほど気にしなくてもよい。

ステンレス製スパチュラでかきとって危ないものってどんなものがある?

  • BPOみたいな過酸化物は、爆発の危険性があるのでフッ素樹脂スパチュラを使うことを推奨
  • アジド。とくに重金属のアジド。アジ化ナトリウムは大学で重傷事故あり。
  • 水素化アルミニウムリチウム(LAH)
  • 過塩素酸塩(ClO4塩)

エーテル系溶媒の取り扱い

開封して放置したものは、空気酸化によって過酸化物を生成することがある。
なるべく使いきりたいが、なかなかそうもいかない。そんな時には直前に活性アルミナでの処理がおすすめだ。クロマト用のカラムにアルミナの層を作り、溶媒を通過させる。ジエチルエーテルやTHFではアルミナの20倍容、ジオキサンやDMEなど高極性エーテル類では5倍容まで処理できる。

  • なお、THFは保存時にモレキュラーシーブを沈めておくとポリマー化?のためにドロドロ→スライム状になる。一旦空気中で開栓したTHFは、ほかの溶媒と違ってどんなに密栓していても、どんどん水分が増えてくる。すぐに使いきるべし。
  • アルミナ処理でBHTなどの安定剤も除去できる。

乾燥用シリカゲル(青ゲル)の活性化

磁性容器(百均でグラタン用を買ってくると良い)に平らにならして入れ、電子レンジで1~2分加熱し、一旦取り出し軽くかき混ぜて1~2分待って湿気を飛ばす。さらに電子レンジで1~2分加熱し、デシケーターに移して放冷するかフラスコに入れて冷めるまでポンプで引く。
2回に分けるのがコツで、1度で行うと、冷ましている間にせっかく放出させた水分をまた吸収してしまう。やけどに注意!

モレキュラーシーブ

溶媒乾燥用で試薬ビンに沈めておくペレットの活性化は、シリカゲルと全く同じやり方でよい。

 

反応用(シャープレス反応など)は、反応容器に入れてから直火で加熱するのが簡便でよい。フラスコの口に水分が凝結することに十分注意し、底を直火で溶かさない程度に3分間(きりがないので、時計見ながらやると良い)加熱し、直ちにポンプで引きながら放冷する。
研究室によっては180度で一晩、真空中で活性化させるというやり方をする場合もあるが、少なくともシャープレス反応では差がなかった。
モレキュラーシーブは乾燥速度が遅いので、反応の前処理には十分に時間をかけること。

 

モレキュラーシーブは弱い塩基性(プロトン受容性というべきか)を示すので、酸触媒反応では試薬が殺されることがある。
そういう時は、AW-300・AW-400 (それぞれ3Aと4Aに対応する)を使うと良い結果が得られることがある。ペレットしかないので、反応用には乳鉢ですりつぶすとよい。

 

使用済みのモレキュラーシーブ(ペレット)は器具の洗浄に使えるので、とっておきましょう。

  • なお、THFの乾燥にモレキュラーシーブを沈めておくと、ドロドロのスライム状のポリマーになる。THFは無水シリンダーからの直出しか直前蒸留が原則。

五酸化リン

強力な脱水剤だが、よく知られているように吸湿するとメタリン酸ができてベタベタになる。その中の方に生きた五酸化リンが残っているし、廃棄の時に危険。
グラスウールにまぶすやり方もあって、これはこれで悪くはないが、それでも取り扱いは面倒。もっといいのはセライトにまぶす事だ。量は半々ぐらいだけど適当でいい。どのぐらい乾燥剤が残っているのかわかりにくいのが難点ではあるが(思った以上に生きているから心配はいらない)、多少死んでも最後まで効く。また廃棄も簡単。オススメだ。

  • セライトまぶしの五酸化リンの廃棄は、水に少しずつ投入してろ過して酸廃液で捨てれば良い。

重水

開封後、空気と接触させてはいけない。吸湿性の試薬と同じ扱いをすること。

過塩素酸

爆発性だということを忘れている人が多いが、重金属塩は衝撃で爆発することがある。
また酢酸中で最強の酸性を示すというあまり知られていない性質があるんだが、この溶液も爆発性。文献の注意をよく読むべし。

ギ酸

皮膚に触れると、あっという間に水ぶくれができる。濃度が薄くても油断厳禁。

冷蔵試薬

冷蔵した試薬は、室温になるまで待ってから開栓するのが原則。
待つのがかったるい場合は、シリカゲルを入れたビニール袋に入れて口を閉じ、外から手探りで開栓する。ビニール袋の外からシリンジで突き刺して試薬抜くという裏技がある。もちろん、液体に限られるが。

アルコール溶媒

厳密な無水溶媒を要求されることはめったにないので油断しがちだが、空気中に放置したアルコールには結構な比率で対応するアルデヒドが混じっている。
特にアミン(アミノ酸)の反応では、Schiff baseを形成することがある。Zの還元除去なんかでは、N-アルキル化されることがあるので注意すること。


*1 http://pubs.acs.org/cen/news/87/i04/8704news1.html
*2 誰だ、これをピバル酸って書き換えたやつは!Aldrichのカタログ読め
*3 昔は「タバコを吸いながら作業すると、味が変わるのでシアン化水素の流出がすぐにわかる」といって、実際そのようにしたという話を聞いたことがある。真偽は不明だが、多分本当だろう。もちろん、今はそういう都市伝説じみたことはしてはいけない