2022年のIJLとIVLのデータから考えるBO3という試合形式において先制点が与える影響

Last-modified: 2023-07-17 (月) 03:36:10

4というドラマ

2021年には第五人格の認定クラブ制度がスタートし、2021のIVCではプレシーズンが開催されました。続いて、昨年に日本でも最高峰のリーグであるIdentity V Japan Leagueが立ち上げられました。プレシーズンから現在まで、各チームはリーグ戦での経験を積み重ね、リーグという試合形式を有利に進める戦略を確立してきたようです。この記事では、BO3という試合形式が戦略にどのように影響を及ぼすかを、データを元に分析します。具体的には、早い段階でリードを取ったチームがどのように戦略を変えるか、または逆転を目指すチームがどのような戦略を採用すべきかを考えていきたいです。

リーグ戦は通常BO3形式で行われます。この試合形式では、試合の進行をどのように管理するかが非常に重要となります。たとえば、一度リードを取ったチームはそのリードを保つための戦略を立てる必要があります。逆転を目指すチームは、リードを奪い返す戦略を考える必要があります。また、世界大会であるCall of the Abyssの決勝という頂に至るまでにはBO3を突破する必要があり、BO5へ突入する前の敗退は避けたいところです。そのため、リーグ戦を制するだけでなく、Call of the Abyssの優勝を目指すなら、セットの取得状況や得点状況による試合進行の戦略的な観点を理解し、適切な対応が重要となります。BO3は、先に2セットを取得すれば勝利となる形式です。この形式では明らかに、先にセットを取得したチームが有利となります。

第五人格の大会が面白いとされる要素のひとつは、4吊り及び4逃げが通常の4ポイントではなく5ポイントであることです。初戦で5ポイントを獲得された場合、その後の試合の進行は2セットを取得するか、あるいは多くの場合、4吊りまたは4逃げを実行しなければ逆転が難しいという状況になります。これは大会を観戦している皆さんもお気づきでしょう。そして、4逃げ必須や4吊り必須という絶望的な状況でこれを達成するシーンほど、観戦しているファンの心を揺さぶることはありません。2022夏季IVLプレイオフのWBG_ymmのジョゼフや2022秋季IJLプレイオフのZETA サバイバーのプレイは、大会史に残る名シーンと言えるでしょう。この4という要素は数々のドラマを生む要素となってきました。

では、第1ラウンドを取得することと4の発生がどれだけ有利であるかを、2022年のIVLとIJLのリーグ戦の全試合のデータから分析していきます。

第1ラウンドのスコア状況による最終的な勝率変化

2022年のIVLとIJLのリーグ戦、合計246試合から、第一ラウンドでセット勝利が達成された際に、最終的にそのチームが勝者となる確率を計算しました。
初めに全体の結果を見ると、246試合中185試合では第一ラウンドでセット勝利が発生し、そのうち147試合で先にセットを取得したチームが最終的に勝利しました。これは約79.5%の確率で、先にセットを取得したチームが勝者となることを示しています。このBO3という形式では、いかに最初のセットを取得するかが重要であることがわかります。

BO3_win_rate.png
次に上のグラフを見てみましょう。これは5-3(3逃げかつ2吊り、または3吊りかつ2逃げ)が行われた場合と、6-2(3逃げ、3吊り)の場合、さらにはこれ以外の得点が4逃げもしくは4吊りが発生した場合の、それぞれの最終的な勝率を示しています。

このグラフからは、5対3の状況が76試合で一番多く発生しており、この場合でもセットを取得されたチームが逆転する可能性は残っていて、約28%の確率で最終的な勝者となることがわかります。しかしながら、8-1や7-2の場合はかなり絶望的で、その逆転の確率は合わせて約12%ほどになります。10対0は試合数が3試合しかないためあまり参考にはならないものの、この状況が一番逆転が難しいことはいうまでもありません。逆転した試合の例として、AXIZ対FLの試合があります。初戦でサバイバーが4吊りされ、続くRoseの夢の魔女も4逃げされた状況でスコアは10-0となりました。しかし残り2セットでRoseのガードNo.26が4吊り及び3吊りを達成し、逆転勝利を収めました。

この試合を含め、4が関わった状況を逆転するには、続くラウンドでも4を関わらせる必要性が生じている傾向があります。なぜなら、先に4を関わらせた場合、そのチームは次のセットを分けるという安全策を採用することが多く、第3セットを厳しい条件下での勝利を相手チームに押し付ける進行が多々見られます。プロチームは、得点状況における試合進行の戦略が非常に巧みになっていると言えるでしょう。以上のことから、先にセットを制する重要性を理解していただけたと思います。次に、よりミクロな視点から、つまり第1ラウンドの前半の結果が後半の結果にどのように影響を及ぼすかを探っていきましょう。

第1ラウンドの前半の影響

ここでは、条件が限られた1ラウンド目に焦点を当てて、前半のチームが得点する状況が後半のチームにどのような影響を及ぼしているかを考察します。使用するデータは2022年のIVLとIJLのリーグの全246試合です。
これを以下のグラフでまとめました。

R1_s_h.png
まず、前半の脱出人数が後半の吊り数にどのように影響を及ぼすかを見てみましょう。グラフから見えるように、前半に4逃げ、3逃げ、2逃げが達成された場合、後半のハンターが引き分けを獲得する可能性が最も高くなります。しかし、前半で1逃げ、0逃げを被った場合、後半で1吊りに留まる可能性が最も高くなります。このグラフからも、比較的条件が少ない第1ラウンドですら、サバイバーの前半の成績が後半のハンターに影響を及ぼしていることがわかります。

R1_h_s.png
次に、サバイバー側から見て、前半の吊り数が後半の脱出人数にどのように影響を及ぼすかを見てみましょう。前述したように、これは自明のことかもしれませんが、前半のハンターの吊り数が増えると、後半のサバイバーの脱出人数も増えています。

前半の状況による場合分け

前半の脱出状況と後半の脱落状況を表にまとめ、第1ラウンドのサバイバーから見た試合進行についての考察を行います。

前半脱出数後半勝率後半分率後半負率分以上後半平均脱落数データ数
4逃28(21)3636(7)642.0714
3逃27(8)4528(6)722.0283
2逃20(12)4040(7)611.8586
1逃20(12)3248(4)521.825
0逃26(16)2450(3)501.8938

この表では、前半脱出数に応じて勝率と後半平均脱落数を算出しています。()はそれぞれ4吊り、0吊りです。表から読み取れることは、前半で2逃げ以下となると後半の平均脱落数が1.9以下になり、一方で3逃げ以上だと2以上に増えるということです。
前半で4逃げの場合、3逃げと比べて引き分け以上の率が下がるのは、最悪の場合でも1吊り狙いに切り替える可能性があるからでしょう。


4逃げ

まず、前半でサバイバーが4逃げしてくれた場合は、93%はセットを取れる計算となります。そして64%の確率でで7-2以上の点差と4逃げの発生はかなり有利な盤面を築けたと言えるでしょう。


3逃げ
前半で3逃げしてくれた場合は72%の確率でセットを取れる計算となり、22%で引き分け、そしてセットを落とす確率は6%となります。


2逃げ
しかし、2逃げの場合にセットを取れるのは20%に下がりセット分けが40%そして、セットを落とす確率が40%となります。


1逃げ
1逃げの場合はセットを取れる確率は12%となり、8%でセット分けセットを落とす確率は80%と跳ね上がります。しかし後半のハンターが52%の確率で5-3位内に収めてくれるので逆転の目はまだまだ十分にあります。


0逃げ
0逃げの場合はハンターも4吊り狙いに切り替わり16%でセット分けとなりますが、それ以外の84%はかなりきつい点差でセットを落とすことになります。前述の通り第1ラウンドで4が発生した試合の最終的な勝率の低さから0逃げだけは避けたいところです。


前半での3逃げか2逃げかは、数字で見れば脱出する人数のたった1人の違いに過ぎませんが、セットを獲得するか失うかという観点から見れば、この差は大きな影響を持ちます。3逃げという前半の陣営の結果が有利な状況をもたらすことは明白ですが、その一方で、敗色濃厚になったときに、どれだけ傷口を広げず敗北を迎えれるか。言い換えれば、そうした状況でどれだけ1を獲得できるかという視点もかなり重要になります。前半のサバイバー陣営にとって、試合展開によって積極的に3逃げを目指すか、あるいは安定を考え引き分けを狙うかという選択だけでなく、早い段階で勝利が困難となった場合には、いかにして4吊りを避けるかという最善の期待値の判断が求められます。

これらの判断をどれだけ適切に行うかが、チームのコーチや司令塔にとっては重要となるでしょう。そして、リーグ戦という観点からすると、一戦一戦の勝利だけではなく、リーグ全体での4位以上の順位を確保することも重要です。そういった視点から見ると、ある試合が結果的に敗北で終わった場合でも、その試合をリーグを通した視点でどのように戦い抜いたかが鍵となります。積極的に勝利を目指してリスクを取るべきか、それとも最低限のセットを確保して戦略的に敗北を受け入れるべきか、その判断も求められるでしょう。

デンノッホ(それにもかかわらず)

この記事では、第1ラウンドの結果を中心に試合の進行を考察しました。しかし、強調して言いますが、重要なことはこのような数字遊びではなく、選手の「確かに4は起こった。だが、それがどうしたというのだろう」という闘志です。4逃げ、4吊りが必須という絶望的な状況を、BPから試合展開に至るまで周到に考え抜き、覆す不屈の姿こそが、第五人格の大会をより熱狂的にする要素でしょう。フィッツジェラルドが崩壊というエッセイで「一流の知性とは、事態に望みがないと認識しながらそれでも明るい未来を切り開くことを決意する」と述べたように。

この逆境を覆すシーンが多く見られたのが2020年秋季IVLと言えるでしょう。まだIVLがプロリーグとしての1年目であったこともあり、試合の進行に対する理解がまだ深まっていなかったためか、数々の逆転劇が生まれました。そして、その逆転劇を生んだ選手たちは、逆境の东玄、絶境(絶体絶命の境地)の阿福と呼ばれました。このシーズンのDOU5サバイバーの成績は7勝22分21負で、セットを取るには4吊り必須、4吊りをしてもセット分けという絶望的な境地にDongXは何度も陥りながらも47試合中21試合をも4吊りし、大魔王という二つ名が誕生しました。またAfuはリーグ戦で何度も不利な状況を覆しました。また、プレイオフでも最初のラウンドを2度のDongXによる4吊りで落としながら、大逆転劇を見せました。プロリーグ化してから年数経過しゲームの理解が進んだ今、このシーズンほどの多くの逆転劇を見ることは難しくなっていることは確かでしょう。

この夏のIJLでは、AXIZのRyzが勝利には4吊りが必須という状況での逆転劇を披露しました。その瞬間、会場にいたファンたちは間違いなく間違いなく盛り上がったことでしょう。今夏のIJLプレイオフでは、復活組と初戦以降の勝者組の試合はBO5形式となります。BO3よりも第1ラウンドの影響が少ないこの形式では、異なる試合展開が見られると思います。昨年の決勝では、4逃げショーと最後の戦いで勝利が必要条件となった状況で、ZETAのalfがガードNo.26による4吊りを成し遂げるなど、名場面が数々生まれました。さらに、普段はクールなSZのShinamiが決勝で4逃げを達成した際に会場で見せた咆哮等、配信では見ることができない選手の姿を身近で感じることができます。気になる人は、ぜひ現地のビッグサイトまで足を運んでみてくださいね。

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