再開発と再建築は違う

Last-modified: 2019-09-04 (水) 11:57:36

https://www.sumu-log.com/archives/4821/より

再開発と言っても規模や形はいろいろ

「再開発=発展=バリューアップ」の図式は、どこまで信じられるのでしょうか?

首都圏各地で行われる再開発ですが、皆さんは「再開発」をどのようなイメージでとらえていらっしゃるでしょうか?

再開発によるマンション、その多くはタワーマンションですが、よく知られるのは、武蔵小杉駅周辺のマンション群です。他には、JR中央線の国分寺駅前で現在工事中の「シティタワー国分寺ザ・ツインWEST」や、横浜市の「グレーシアタワー二俣川」、葛飾区の「シティタワー金町」などです、最も新しい話題の物件を追加すると、JR京浜東北線の大井町駅4分の「(仮称)大井町再開発タワープロジェクト629戸」を挙げることができます。

こうしたマンションは、すべて広義の再開発に属するものです。しかし、開発区域の面積は大小さまざまで、0.5haくらいから5haくらいまで幅があります。

併設される店舗を除くマンション単体の規模で言えば、タワーマンションが1棟、戸数にして300戸程度から、タワー3棟1500戸などというケースもあります。

大規模工場の跡地開発を再開発とは言えない?

販売中の「ザ・ガーデンズ東京王子(京浜東北線・東十条駅より徒歩5分」は日本製紙王子倉庫跡地での開発で、総敷地面積 32,477.12㎡(マンション3棟864戸)という広い敷地の開発です。

間もなく売り出される「芦花公園ザ・レジデンス(京王線芦花公園より6分)」は、389戸と世田谷区では大規模なマンションですが、ゴルフ練習場(15,310.83m²)の跡地です。

少し前に戻ると、京浜急行大師線・港町駅前の「リヴァリエ」は、日本コロンビア工場跡地に建てられた超高層3本、合計1394戸という壮大なものです。

同じ川崎市で進行中のプロジェクトでは「クレストプライムレジデンス」という計画戸数2500戸という大規模な物件もあります。

こうした物件を、十把一絡げに「再開発マンション」と呼んでしまうところに誤解が生じているような気がしています。

「大規模な工場跡地を取得して、そこに多数のマンションを建てました」は、間違いなく再建築ですが、再開発マンションのイメージとは差があるような気がしませんか?

工場だった場所に大型マンションが建てられ、敷地内には居住者だけが利用できる公園・庭園が造られるとともに、敷地外周部に高木・中木の植栽が施され、稀に周辺住民も通行できる歩道上の公園があったりすると、景観は一変します。

工場が緑で覆われた住宅ゾーンになるのですから、綺麗とは言えなかった工場の建物が緑をまとった美しいマンションに置き換わるのです。

しかし、その敷地内にスーパーマーケットができたわけでも、銀行や診療所が併設されたわけでもありません。せいぜいコンビニエンスストアが入居した程度なのです。

住まいは、交通インフラ、その他の生活インフラがなければ価値があるとは言えません。

1000戸規模の大規模マンションの敷地は旧国鉄の操作場だったとか、電機製品や製紙工場などだった場合が多く、製品の搬出に便利な場所、例えば運河に近い、貨物列車の駅に近い、高速道路のインターチェンジに近いといった立地条件にあります。

こうした場所は「工業地域」に指定され、人が住むという前提が置かれていないものです。駅からも距離があるケースが多いのです。また、工場地帯の場合、最寄り駅自体が工場労働者の通勤専用駅のような色彩のものが多く、駅の周辺は労働者のための飲食店が目立つ駅だったりするのです。つまり、生活インフラは十分と言えない街です。

このような工場跡地開発は、定住者にとって魅力あふれるマンションとはならないことが多いものです。

街ぐるみの面的な大規模開発が再開発のイメージ

これに対して、自治体が関与しながら街全体の再開発を進めて行くものがあります。

先に例示した中で大井町プロジェクトを取り上げると、住友不動産の発表によれば低層の木造住宅など69戸が密集していたそうで、0.8haの事業区域内の道路も狭く、災害が起こったときに緊急車両が通行しにくいことから、同社と地権者とで再開発組合をつくり開発計画を実行に移すべく進めて来たと報道されています。

ここでは、広場、緑地、保育園、防災倉庫、集会室なども設ける計画だと言います。

このような開発のスケールを数倍に拡大したのがご存知「武蔵小杉」で、工場や倉庫、研究所、グランド、駐車場といった大規模な企業所有の敷地が、JR横須賀線の駅を新設することと並行して次々に開発され、マンションと大規模商業施設が進出して、新しい住宅都市が誕生したわけです。

駅からマンション、商業施設まで一体的に開発された形なので、人が住むための必要条件はズべて同時期に整った恰好と言って過言ではありません。

再開発のイメージは、面積の差は多少あるにしても、マンションと生活インフラと、公園・緑地、歩道などが一体的に実施されるものとは言えないでしょうか?

無論、大井町のように、駅周辺に豊かな生活インフラが既に整備されていて、ある意味で成熟した街であれば問題ないわけですが、それらが十分とは言えないエリアの場合は、三井不動産グループが得意とする「ららぽーと」の誘致などが必要になるでしょうし、他社においても、イオンショッピングモールやイトーヨーカドーのAlioなどを隣地に同時オープンするような開発が必須となるのです。

こうした生活インフラが整えられながら、大規模マンションができたとき、街の風景が変わるだけではなく、人口が増え、新たな人口を呼ぶのです。言い換えると、再開発とは、街ぐるみの整備計画を指すのです。

「再開発」とは、筆者の勝手な定義で表すなら、以上のようなものです。

道路や公園などとともに街が整備されれば価値が上がるのは当然

武蔵小杉のマンションが一時は東京都心並みの価格になりました。今も高い値段で取引される街になったのですが、マンションの価値は大半が立地条件の良し悪しで決まるものなので、当然の帰結です。

駅から離れた位置に500戸や1000戸であっても、マンションだけ建てても、駅からマンションまでの間が変わらなければ魅力は増すものではありません。

マンションの価値は街の価値です。再開発によって、駅周辺が整備され、駅舎も建て替えられ、道路も拡幅され、とりわけ歩道が広く買い物がしやすい、店舗もリニューアルされたり、新しいお洒落なショップがたくさん出店して来たりして、歩くのが楽しい、活気がある、賑やかである、おいしい飲食店も増えたといった感想が聞こえて来ることが再開発エリアのマンションの価値を高めるのです。

問題は価格。「5割高」は妥当か?

再開発によって街の価値が上がり、そこに建つマンションの価値も上がるのは当然ですが、しばしば将来のバリューアップを織り込んだ価格でマンションが分譲されます。

具体的な物件名は、完売したことでもありますし、契約した方に申し訳ないので述べませんが、それまでの地域相場の5割高、6割高でも売れました。その多くは駅直結という条件を持つ稀少な物件です。

駅前という物件価値、マンションとともに整備される店舗群は、マンションの価値を上げるものであることは確かですが、その街のインフラは十分に整備されており、既に高い人気を持つ街になっていたのです。マンションを含む駅前が再開発されてますます良くなるとはいえ、飛躍的に街の価値が上がることはもうないと(筆者は)思うのです。

然るに、この高値は一体どう説明できるのか? 生活インフラが十分に整えられた既存の普通以上の街、その駅から5分では5000万円だが、駅から1分以内で7500万円とか8000万円いう差が果たしてあるのか、傘なしで駅と繋がるとしても、そしてその条件を満たす物件はたったひとつだとしても、その格差の対価として妥当かどうか疑問に思うものもありました。

しかし、何故か、短期完売の結果となる傾向が見られます(例外もありますが)。

開発によって駅と街がイメージアップし、利便性と美しさが魅力となって高い人気を博すのは理解できるとして、価格が高過ぎる気がします。

再開発という魔法の言葉が、将来性の高さに過度の期待を抱かせてしまうのでしょうか?将来性があるのは確かであるとしても、将来価値の先取り価格になってはいないでしょうか?

今後も、再開発の美名のもとに売り出される大規模マンションは少なからず登場して来ます。本稿が、そのときの参考になれば幸甚です。