サイド 月冴ゆる雪消の丘で 現地人

Last-modified: 2025-12-04 (木) 07:10:13

只吉

十三番
tadakichi_s01.jpg只吉(ただきち)
資料室説明
年齢:15歳

盲目の少年。弟の弥吉とふたりでくらしている。
目が視えなくとも村の中は自由に歩き回ることができる。

手に持つ杖の先には数がついている。
熊よけであり、他の村人に只吉の居場所を教えるためのものでもある。
―追記―
白笠の里の只吉は地魂男児たちに対し、慎重に接しているようだ。
まだ信用されていないのか、なにかを隠そうとしているように感じた。

しかし、白笠の里の村人は元来よそ者に対し警戒心が強そうなため、特筆すべきことではないかもしれない。

只吉は村で按摩師の仕事をしているらしく、その腕はなかなかのもの。
―追記―
貧しい里のなかでは目が見えないことで只吉はお荷物だと思われているようだ。
ナモミハギのことを「おっちゃん」と呼び、慕っているようだ。

弟の弥吉に対しては負い目を感じている。

いくつかの出来事のあと、只吉は地魂男児たちに心を許してくれているようだ。
―追記―
白笠の里。
なにひとつ資料の見つからない「存在しない村」で、兄と弟はあの日、白笠の里にとって最後の日、確かにそこに居た。

他人だったふたりは支え合いながら、本当の兄弟になったのだろう。

その後、ふたりの消息を見つけられることはできなかった。
ただ、遠く離れたある小さな村の石碑に、ふたりの子どもを助けた心優しい鬼のお話が刻まれていることを発見した。

旅人から聞いた話を、村人が刻んだと言い伝えられている。

本件に関係あるかはわからないが、念の為、ここに記録しておく。

絵:OSU

弥吉

十四番
yakichi_s01.jpg弥吉(やきち)
資料室説明
年齢:12歳

狩人見習いの少年。兄の只吉とふたりで暮らしている。
目の視えない兄の世話をしながら、村の狩人集団「山立衆」に入るため、日々訓練を積んでいる。

首に巻く狐の毛皮の襟巻きは初めて仕留めた獲物を母親が仕立ててくれたものだとか。
―追記―
弥吉と只吉は血のつながりがない。

ふたりがもっと幼かった頃、流行り病で只吉の両親が亡くなり、弥吉の両親が只吉を引き取った。
しばらくして、山立衆だった弥吉の両親は山で死んだという。

それからはふたりで支え合って生きてきたのだ。
―追記―
山立衆に入りたがっているのは只吉を守るためでもあった。

まだ幼いながらも、目が視えない兄を守るために頑張っているのだが、只吉にその想いが伝わっているのかわからず、悩んでいる。
―追記―
両親が死んだとき、弥吉は泣いて泣いて、ずっと泣き続けた。
母親が仕立ててくれた狐の襟巻きを見ると、また悲しくて、田んぼに放り投げた。

ずっと部屋で泣いて、お腹が空いて、また泣いた。

「いくらでも泣いていいよ」

居候の盲目の少年は隣に座ってそう言った。

「でも、これは大事にしなきゃ」

盲目の少年が首に巻いてくれたのは、捨てたはずの狐の襟巻きだった。
どうやって彼がその襟巻きを見つけたのか、どうやって拾い上げることができたのか、それはわからない。
でも確かな事はある。

それは、そのときが少年たちが初めて「兄弟」になった日だということだ。

本当の家族になるまではまだ何年も先のこと……

でも幼い弥吉にとって、その狐の襟巻きは、兄弟の証になったのだ。

――弥吉と地魂男児のある日の会話より

絵:A禄