儚月抄は文学

Last-modified: 2023-07-02 (日) 12:45:59

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以前「儚月抄の文章は酷い。分かりづらい」「いや、あれは味があるんだよ
というやりとりを見かけたので、検証してみました。
酷いように見えるのと、味があるのとを引用しています。

(神を)正式な手順を踏まずに勝手に呼び出す事が出来るだなんて誰にでも出来る事ではない。
(小説六話)

解説

まあこれは編集が直すべきだったと思います。
「正式な手順を踏まずに勝手に呼び出すなんて、誰にでも出来ることではない。」
でしょう。

 

今、庭では兎達が団子を搗いているはずである。
その団子には私(永琳)の指示により様々な薬が混ぜられている。
その薬にはふたつの意味がある。月の兎が搗いている物は、今はお餅と言われているが本来は
薬であるという事と、もう一つは兎たちが団子をつまみ食いする事を想定したという事である。
団子に兎を興奮させる薬が入っている為、予定通り兎がつまみ食いをすれば
祭りは弥が上にも盛り上がるのである(小説一話)

解説

・まぜた薬の説明なのに、なぜか月の兎の話が挿入されている。
・庭の兎の話なのに、いきなり月の兎の話になっている。
・なんというか、文法的にまったく隙がない。
薬搗きは蓬莱の薬の飲んだ贖罪になる行為で、例月祭も輝夜の贖罪になるという話はあるが、興奮剤を入れなかったら何故代わり滋養強壮薬を入れて薬搗きの体裁を保つのか、ちゃんとした説明がなされていない。

 

海で生まれた生命は、生き残りを賭けた長い闘いの末に海は穢れ、
そして勝者だけが穢れ無き地上に進出した。(小説三話)

解説

主語がまざってますね。
「海で生まれた生命は、生き残りを賭けた長い闘いをした。その結果として海は穢れ、
そして勝者だけが穢れ無き地上に進出した」

 

「八意様は即断で殺せって仰ってたけど…」(小説三話)

解説

儚月抄での永琳を象徴するセリフ。
その前の文章に「八意様は即断で~と言った」とあるので、実際に言った部分を強調すると「八意様は即断で、『殺せ』と仰った」と言う事であり、
意味としては「八意様は殺すことを即断して、そう仰った」と言う事なんでしょう。
この場合「で」は手段・方法・道具・材料を示す助詞ですが、「即断と言う方法又は手段で仰る」事は出来ません。
事情・状態を表す用法もありますが「即断」はその事情・状態が継続するものではないので、この意味では使用できないと思われます。

助詞「で」は他に
・理由・原因を示す。
・事の起きた所を示す。
・身分・資格を示す。
・期限・範囲を示す。
・配分の基準を示す。
用法があります。

 

綿月依姫は心配顔をした(小説三話)

解説

まあ一人称の語りだし、いいっちゃいいんですが、豊姫のキャラ的にも見栄え的にも
「心配そうな顔をした」のほうが適してるのではないでしょうか。

 

咲耶姫はこの世の物ならぬ美しさと、何処か火口で燃え尽きてしまいそうな儚さを携えていた。
(小説第四話)

解説

火口で燃え尽きてしまいそうな儚さ
これはいいですね。安直に「消え入りそうな」とかじゃないのがステキです。
まあ火口にいたらふつう燃えるんじゃねというような気がしないでもないですが、
よく考えたら火口に立ったからと言って即燃えるわけではないですし、ありだと思います。

 

風が止み、冷えた空気が凍り付いた。(小説六話)

解説

冷えた空気が、さらに凍りつく。緊迫感が表れています。

 

アンティークなテーブルに上品な料理が並んでいた。テーブルには霊夢と、綿月姉妹が座っている。霊夢はみたこともないような見事な料理を前にして、機嫌が良くなっているようだ。
「さ、今日はお疲れ様」豊姫が労いの言葉をかけた。霊夢は早速料理に手を付ける。
味は見た目ほどではないようだ。(小説最終話)

解説

読み手の想像に任せてると見れば、簡潔にまとまっていて良いとも思えるのですが、
具体的な描写が欲しいとも思います。たとえば、山田悠介(リアル鬼ごっことかの人)の朝食の文は

宮殿では朝食の時間を迎えており、メイド達が次々と豪華な料理を運び出していた。
それは朝食とは思えないほどの豪華さで、一般市民がこの料理を見たらこれが本当に朝食か?
と目を仰天させるに違いない。これだけで一般市民との差は歴然と離れており、
王様が毎日どのようにして暮らしているかはこの朝食だけでも想像がついてしまう。
なおも料理は運び込まれていく。
王様の目の前に全ての料理が出そろった。豪華で目を見張るほどの大きなテーブル。
目の前には全てが金で作られているナイフやフォーク。
そして、背もたれが必要以上に天井へと伸びている豪華なイス。
全てが”豪華”これ以上の単語が見当たらない程、豪華であった。 (山田悠介の文)

といったもので、
朝食の場面なのに食べ物についての具体的描写が全くない、豪華さしか伝わってこない、同じ言葉使いすぎ
という批判をされます。
儚の方は同じ言葉の多用はなく、短くまとまってもいるのですが、上品さしか表現されていない
という点では上と同じです。ただでさえ月の都は「中華風」ということしか分かっていないので、
食事の描写はあってもよかったと思います。
ちなみに「アンティーク」という言葉ですが、

アンティーク【(フランス)antique】[名・形動]《「アンチック」とも》
1 古美術。骨董(こっとう)品。「―ショップ」「― ドール」
2 年代を経て品格があること。また、そのさま。「―な家具」
[ 大辞泉 提供:JapanKnowledge ]

となっており、ここでは「古いながらも品がある」という意味だと思うのですが、
前述の通り月の都の文化が明らかになっておらず、そもそものテーブルが分からないので
どういう品なのかはイメージしにくいです。
とはいえ、描いていない分、想像の余地があるとも言えるでしょう。