永琳は本当に賢者なのか

Last-modified: 2023-07-02 (日) 12:50:03

問題提起

永琳発言の矛盾はさておき、ここでは作中で披露された推理、作戦に着目し、永琳は賢者なのか否かについて考えたい。
永琳は小説最終話によれば、以下のように考えていた。

永琳は全て判っているつもりだった。
ある妖怪月の都に不穏な噂を流すために巫女を利用した。
巫女はその妖怪に言われるまま神様を呼び出し使役した。
それが許されるのは月の都にいる綿月依姫だけであった。それによって綿月姉妹は疑われ、
その師匠である永琳も疑われた。これもその妖怪が仕組んだことだ。
巫女が呼び出した住吉三神の力で、算段宇宙ロケットが完成するなど誰が想像できただろうか。
確かに住吉三神は航海の神様で筒である。まさにアメリカが最初に月まで到達したロケット、
サターンVの神様だった。永琳が初め吸血鬼のロケットを見たとき
外の世界のロケットの本を見て吸血鬼が住吉三神に気付くわけがないと思っていた。
外の世界にも月の都にも明るい者である必要がある。その時点で誰が裏から操っているのか
永琳には明白であった。巫女に神様を扱えるように稽古した人物がその人物像と一致した為、
永琳は確信していた。黒幕は八雲紫であると
たまたま月から兎が逃げてきたのでその兎を利用し、綿月姉妹に手紙を送った。
もしその兎が居なければ、再び月を偽物と入れ替え、主犯だけを月に到達させないつもりでいた。
ただ、それはまた幻想郷に不安をもたらす危険な方法ではあったが…。
だが永琳にも不安要素があった。その黒幕の目的がいまいち不明だったのである。
そこまで手の込んだ方法で月に潜入したとしても恐らく何も出来ないであろう。それだけに不気味であった。
そしてその黒幕が目の前に居る。紫は永琳を酒の席に呼ぶという挑発をしてきたのだ。
(小説最終話)

重要な箇所を絞って引用すると

永琳が初め吸血鬼のロケットを見たとき、
外の世界のロケットの本を見て吸血鬼が住吉三神に気付く訳がないと思っていた。
外の世界にも月の都にも明るい者である必要がある。その時点で誰が裏から操っているのか
永琳には明白であった。巫女に神様を扱えるように稽古した人物がその人物像と一致した為、
永琳は確信していた。黒幕は八雲紫であると。

つまり、漫画八話で紅魔館に侵入し、ロケットを見た時点で「明白に紫だ」と確信した。
理由は、紫が「外の世界にも月の都にも明るい者で、かつ神降ろしを教えてたから」である。

問題は、推論の内容が
別に賢くも何ともない上に、八話でようやく気づくってむしろ遅くないか
ということである。

 

【第一話の時点でわかること】

たとえば、漫画一話(及び小説一話)の時点、つまり儚月抄開幕直後で以下のヒントがある。
①旗を抜いたのは、月の民以外。

引用

永琳「月の都の人は表の月を弄れなかったはず」(漫画版第一話)

②人類による仕業ではない。技術力に差がありすぎ、旗を抜く理由もなく、
永琳自身そう考えている。

引用

さて、月を支配しようとする新たな勢力とは一体何なのだろうか。
もし、その勢力が前回の月面戦争のように外の人間であれば特に問題はない。
その昔、人間は月面に旗を立てて、月を自分たちの物だといった時代があった。
人間は自分の科学力を盲信していて、月ですら自分の物だと思ったのだろう。
しかし、蓋を開けてみると月の都の科学力とは雲泥の差であった。
月に月面をつくると豪語していた人間も、
基地どころか建造物を造るような段階まで至らずに逃げ帰ってきたのだ。
人間の惨敗だった。
外の世界では、月面着陸は大成功のように報道されているが、
惨敗だったときは報道されていない。
最初の月面到達以来、人間は負け続きだったので
それ以降月面には行っていないことになっている。
本当は、何度も月に行っては月面基地開発に失敗している事を、
月と通じている私たちは知っていた。
人間は大して成長していない。むしろ退化している位である。
再び月を侵略開始しようと、月の都にとって大した恐怖ではないだろう。
しかし、今回は人間ではないようである。どうやら月の都の中で何か起きたのではないかと思われる。
(小説一話)

③紫は月と地上を繋げられる。
(レイセンが来なかったら偽の満月を用意しようとしていた事と、
紫を月に明るい者と考えていた事、そして月人なら皆知っていると言う設定から、
永琳は紫が月に行ける事を知っていた事になる。
加えて、永琳は第一次で紫を捕まえた公転周期トラップの制作者でもある)

引用

「紫、八雲紫ね」豊姫は会話に参加してきた。その名前を聞いて何か納得したようだ。
「知ってるの? あの幻想郷一駄目な妖怪を」
「知ってるも何も、月の都に住んでいて知らない者はいないわ。
地上にいて自由に月の都と行き来できる厄介な妖怪ですから」(小説最終話)

外の世界にも月の都にも明るい者である必要がある。その時点で誰が裏から操っているのか
永琳には明白であった。(小説最終話)

たまたま月から兎が逃げてきたのでその兎を利用し、綿月姉妹に手紙を送った。
もしその兎が居なければ、再び月を偽物と入れ替え、主犯だけを月に到達させないつもりでいた。
(小説最終話)

④永琳は、依姫の能力を知っている。

引用

永琳は全て判っているつもりだった。
ある妖怪は月の都に不穏な噂を流すために巫女を利用した。
それが許されるのは月の都にいる綿月依姫だけであった。それによって綿月姉妹は疑われ、
その師匠である永琳も疑われた。(小説最終話)

永琳「…ま、何の対策を取らなくても最初から戦力差は絶対だったと思うけどね。
   依姫とあの吸血鬼&三馬鹿トリオじゃ」(小説4話)

今一緒に暮らしている輝夜姫以外にも、二人のお姫様姉妹を小さい頃から教育していた。
二人の姫は私の遠い親族である。人間風に言えば私から見て又甥の嫁、
及び又甥夫婦の夫婦の息子の嫁、という何とも遠い縁だったが、
私は二人の教育係として様々な事を教えた。姉は天性の幸運で富に恵まれ何不自由なく暮らし、
妹のお姫様は非常に頭が切れ、私の言うことを何でも吸収していった。
私はいずれこの二人に月の使者を任せる事になるであろうと考えていた。(小説一話)

⑤てゐが博霊神社で天石門別命を見かけている。

引用

私は気になっていたことを質問した。
永琳「あ、ちょっと待って。てゐ、祭りの最中、神社の方で気になることは無かったかしら?」
てゐは少し考えて「……天石門別命(あめのいわとわけのみこと)。懐かしい神様が見えた」
と言って廊下を走って行ってしまった。(小説一話)

【まとめ】
①~③で、
「旗を抜いたのは『人間』でも『月人』でも無いと分かる。
となると消去法で『紫ではないか』と言う情報が得られる。
さらに、⑤の、てゐの発言から
「博麗霊夢が、神降ろしを習得した」事が分かる。
ここから、どういう行動が取れるか。
ふつうの人賢者永琳で比べてみる。

 

【1:ふつうの人】

第一話の段階で、ひとまず犯人は「紫ではないか」と当たりをつけ、調査を始める。
他の妖怪がいるのかも知れないが、何もしないよりマシである。
まず調べるのは、『紫の行動』と、そして『霊夢の神降ろしについて』の二つである。
理由は④⑤の通り、「依姫の能力を知っており、その上で、霊夢が急に神降ろしを始めたから」だ。
少しでも怪しければ、調べておいて損はない。

 

まず一つ目の調査。てゐに頼んで、霊夢に神降ろしについて質問させれば、
紫が、霊夢に『踊らない神降ろし』を教えている」事が分かる。
(話しかける理由も「懐かしい神だから」という自然な物があるし、霊夢は口止めされていないので可能)
これによって旗を抜いた犯人と、霊夢に不正な神降ろしを教えた人物が一致し、
「紫が黒幕」という仮定が真実味を帯びる。

 

二つ目の「紫についての調査」では、藍が「月に忍び込んでくれる協力者」
を募っている事が分かるだろう。
ついでに、紅魔館がロケットを作ろうとしている事も。住吉はまだまだだけど。
(漫画第一話で、藍は色んなキャラに頼みまくっていた。萃香や天狗にまでベラベラ喋った上、
他にも頼むつもりだったらしい。紫は「もういい」とまで言っている)

 

まとめると、
第一話前後の時点「紫は、不正な神降ろしを巫女に習得させながら、
月への忍び込みを計画しつつあり、旗も抜いた可能性が高い」
と考えられる。
これ以上の動機や、紅魔ロケットが今後どうなるかは分からないが、とりあえず
紫が死ぬほど怪しい事は良く分かる。
これらの情報を手紙に書いてレイセンに持たせれば、本編での指示に加え
依姫が今後疑われるであろう事と、その原因が地上の巫女である事、
紫が非常に怪しく、満月時には攻め入るかも知れないから、満月の日は入り口を張っとけ
と言う事が伝えられる。

 

後は、紫の動向に細心の注意を払いつつ、なりゆきにまかせればいい。
ロケット組だけ月の羽衣で月面着陸させ、依姫及び綿月姉妹の冤罪を晴らすのに使う。
そして紫の「湖を使った満月スキマ移動」だけ永琳&輝夜で通せんぼする。
(まさか負けまい。輝夜の代わりにうどんげでも良い)無論、幽々子&妖夢も通さない。
普通の通せんぼだから偽の月が必要でもない。

 

これで、紫の目的は分からないものの、
本編通りに綿月の不穏な噂は消えるし、コソドロも入らない。
どうしても紫の目的が知りたければ尋問でもすればいい。

 

【2:賢者】

第一話の段階で、紫が霊夢に不正な神降ろしを教えている事&表の旗を抜く事が出来る事、
そして藍の情報から「紫の目的は、月の技術(が用いられた宝)を盗む事」だと予想しておく。

その根拠

本編でも、

そこまで手の込んだ方法で月に潜入したとしても恐らく何も出来ないであろう。(最終話)

という見立てがあるし、実力差も知っているのだから「ガチ戦闘はない」とは予測出来、
そうである以上「月の技術を盗む」と言うのも嘘じゃないだろう、と考えるのは賢者ならアリだろう。
実際、紫の目的は酒ではなく、何か宝物だったため、
藍「月の技術が欲しいから、忍び込んでくれ」という発言は、間違いでは無いし。

紫「幽々子が手荒な真似をするとは思えないし 何か宝物を盗んできているんじゃないかしら 
  それに気づいた綿月姉妹がぎゃふんと言ってくれるはずよ」
幽々子「賢者の家には珍しい物も置かれていたけど 剣とか玉ばっかりであんまり面白そうな
    物がなかったので…これにしたわ」
紫「…幽々子、この古くさい壺は何かしら?」
幽々子「お・さ・け 月の都に置かれた千年物の超々古酒よ」(漫画最終話)

そして、紫の友人である幽々子体質位には気付いて良いだろう。
紫は幽々子に指示をしていないから、作戦に気づく事は不可能だろうが、
下調べでゆゆステルスに気付く位は出来て良い筈。(もっと言うなら、永夜で気付いて欲しい)

 

目的が「コソ泥」で、「友人がステルス」。確実では無いにしろだいたい想像はつく
スレ住民だって出来ていたんだから賢者ならいける筈だ。
あとは【1:ふつうの人】のよりもさらに放任に経過を見守れば、ロケットが飛び立ち、
紫が月面から月に行き、その後で幽々子&妖夢が湖に来るので
「あー、やっぱりね」となる。

 

後はドヤ顔で帰ってくる幽々子をとっちめてパクり返せばおk
うどんげの通信でレイセンへ「綿月姉妹へ伝言。予想通りステルスコソ泥でした。
といっても内容は酒一本ですので、みんなで飲んじゃいます。体とアンチに気をつけてね。えーりん」
そんで永遠亭で宴会を開いて、月の古酒を飲んだ輝夜が

そんな日々を経て、
いつしか地上を月の都よりも魅力的な場所だと思うようになっていた。」
(小説二話)

という小説内のセリフを踏まえて
輝夜「私には月のお酒より、穢れてても味がある地上のお酒のほうが嬉しいわ」
とか言っちゃうんだよ。あーやっぱ輝夜はかわいいなあさすが永夜抄の続編だぜ。
永夜キャラが勝つのはあたりまえだよねーウヒッ、ウヒヒ、ゲッ、ゲシャッ、ゲッシャシャシャシャシャシャ…

 

【3:月の賢者こと永琳師匠】

第一話の段階で
ゴシップ好き玉兎の噂から真実を推測するという作戦に出る。
その結果『いつかこのような日が来ることは想像していた。
私達を利用して月の民を先導する輩が現れる事を
という考えに至り、
いつのまにか『月面戦争』に巻き込まれていること
を覚悟し、
私を利用している犯人をこの手で捕まえてやると心に誓った。
弟子でさえ解読に難儀する手紙を出してからしばらくは特に何もせず
漫画八話(中巻)で紅魔館に赴き、黒幕は紫だと気づく。そこで月の羽衣を貼るが
あとは最終回まで特に何もしない。行動だけ見れば手紙を出して羽衣を貼っただけ
なんの調査もせずに悠然と構え、第十話にて
「だれが黒幕かなんて分かりきったことじゃないの」と余裕の豪語(分かったのは八話)。
その結果、最終話で裏をかかれ
忘れる事の出来ない恐怖を心の奥深くに刻み込まれる
という東方史上最悪クラスのダメージを喰らったままエンディング。
そして輝夜ちゃんの小説最終話での台詞は
輝夜「だから地上の民はいつまでも下賤なのよ」だった。

引用

いつかこのような日が来ることは想像していた。私達を利用して月の民を先導する輩が現れる事を''
(小説一話)

永琳「いつの間にか月面戦争に巻き込まれていることを考え、
私を利用している犯人をこの手で捕まえてやると心に誓ったのだった。」
(小説一話)

増長した月の民同士の穢れ無き争い──月面戦争が(漫画一話)

「だれが黒幕かなんて分かりきったことじゃないの」(漫画第十話)

輝夜は笑った。
「そう思うでしょう? だから地上の民はいつまでも下賤なのよ
「どういうこと?」
「気温は一定で腐ることのない木に住み、自然に恵まれ、一定の仕事をして静かに将棋を指す……、
遠い未来、もし人間の技術が進歩したらそういう生活を望むんじゃなくて?」
霊夢はお酒を呑む。
「もっと豪華で派手な暮らしを望むと思う」
「その考えは人間が死ぬうちだけね。これから寿命は確実に延びるわ。その時はどう考えるのでしょう?」
「寿命を減らす技術が発達するんじゃない? 心が腐っても生き続けることの無いように」
その答えに輝夜は驚き、生死が日常の幻想郷は、穢れ無き月の都とは違うことを実感した。

紫はにやりと笑った。その笑顔は永琳の心の奥深くに刻まれ、
忘れることの出来ない不気味さをもたらした。
死ぬことのない者へ与える、生きることを意味する悩み。正体の分からないものへの恐怖。
それが八雲紫の考えた第二次月面戦争の正体だった。(小説最終話 神主視点)