東北楽天ゴールデンイーグルスによる外国人補強のこと。特に
- メジャーリーグで好成績を残した
- 1億円以上の高年俸
- 国内他チームに在籍経験がない
を満たした選手を補強することを指す。後述の事情から、打者補強に関して使用されることが多い。
経緯
楽天は長距離打者がほとんどおらず*1、力の衰え始めた他チームの選手や外国人を補強することで補う状況が続いていた。
だが統一球導入のタイミングなどもあり、期待通りの活躍をした選手はほぼいなかった。
そんな状況で2012年8月に楽天球団社長へ就任した立花陽三は、高年俸の目玉選手を次々に獲得する方針を打ち出す。
同年オフには、楽天と業務提携していたニューヨーク・ヤンキースから、NPB史上最多となるメジャー通算434本塁打の強打者の「AJ」ことアンドリュー・ジョーンズと2009~2011年にミルウォーキー・ブルワーズでレギュラーを務めたケーシー・マギーを獲得*2。そして2013年シーズンはこの2人だけでチームの半分以上の本塁打を稼ぎ、チーム初のリーグ優勝、日本一に貢献した。
そして翌2014年2月に行われた立花へのインタビューの中で「『僕らがワクワクしない選手を獲って、球場にお客さんが来るか?』っていう議論をよくしています」と発言したことから、特にイーグルスの大型補強を指して「ワクワク補強」と称されるようになった。
二転三転する評価
ところが2014年はケビン・ユーキリスが故障の末にシーズン途中帰国、トラビス・ブラックリーの僅か3試合登板などをはじめ、高年俸選手が期待外れに終わる例が続出。
一方で、低年俸で獲得したゼラス・ウィーラーやライナー・クルーズ、シーズン途中に緊急補強したカルロス・ペゲーロ、他球団在籍経験のあるジョン・ボウカー、ウィリー・モー・ペーニャ、ブライアン・ファルケンボーグらの立花の方針と合致しない選手たちの方が成績を残してしまう事態が頻発した。
また、怪我を理由に帰国したユーキリスが本国でアイス・バケツ・チャレンジ*3に勤しんでいたり、性格の明るさも評価されていたゴームズが「チームに馴染めなかった」と退団後に語るなど野球以外の面でも問題が噴出。
これらのことから「ワクワク補強」は煽りワードとして定着し、立花自身も「ワクワククソメガネ」などと呼ばれるようになってしまった。補強の失敗に引きずられるかのようにチーム成績も低下、2013年の日本一以降は3年連続でBクラスに沈んでいる。
そして2017年、ワクワク補強は事実上終結*4。皮肉なことに同年の楽天は強打の2番ペゲーロ、4番に座るウィーラー、下位打線ながら長打力のあるジャフェット・アマダーの3人が揃って活躍。夏場まで首位を争い、ワクワク補強が成功した2013年以来4年ぶりとなるAクラス(3位)の座に収まった。
翌2018年は上記の3外国人が全員残留し打線の破壊力という点では例年にない期待を受けていたイーグルスだったが、予想外の大不振に陥ってしまう。3外国人はいずれも成績を落とした上、アマダーにいたっては成績が上向いたころにドーピング検査に引っかかってしまう大失態でチームは再びBクラスに沈んでしまった。同年オフには立花が再び「メジャー選手を獲得したい思いもある」と発言しており、今後の補強にも注目が集まった。
そして、2019年にロッテからFAで鈴木大地、美馬学の人的補償で酒居知史、さらに金銭トレードで涌井秀章を獲得したが、涌井にはわくわくさんという愛称があったため、外国人獲得とは別の意味でワクワク補強と呼ばれた。*5また、楽天からヤンキースに移籍した田中将大は、2021年に楽天に復帰する際の会見で「ワクワクを抑えられない」と発言している。
主なワクワク補強選手の楽天通算成績
名前 | 打率 | 本塁打 | 打点 | 備考 |
---|---|---|---|---|
アンドリュー・ジョーンズ | .232 | 50 | 165 | 2013~2014年所属。 低打率ながらも長打力と高出塁率でチームに貢献。 経験とリーダーシップも武器に主力として活躍。 |
ケーシー・マギー | .292 | 28 | 93 | 2013年所属。 ジョーンズとともに主軸として活躍。 同年はベストナイン獲得(三塁手)。 のちに巨人にも在籍。 |
ケビン・ユーキリス | .215 | 1 | 11 | 2014年所属。 メジャー通算150本塁打、2009年WBC米国代表。 故障のため5月に帰国、そのまま退団。 |
ギャビー・サンチェス | .226 | 7 | 18 | 2015年所属。 メジャー通算61本塁打。 |
ジョニー・ゴームズ | .169 | 1 | 7 | 2016年所属。 メジャー通算162本塁打。 不振で登録を抹消され家庭の事情で帰国、退団を申し入れ5月13日に自由契約*6。 |
ジャバリ・ブラッシュ | .255 | 35 | 113 | 2019年~2020年所属。 メジャー通算8本塁打*7。 ヘッドを投手に向ける独特のバッティングフォーム。 1年目で33本塁打、95打点は楽天の外国人野手の1年目の成績としては最高。2年目は不振に陥り同年退団、そのまま現役引退。 |
ブランドン・ディクソン | .167 | 4 | 15 | 2021年所属。 メジャー通算20本塁打も2019年に二桁本塁打。 オリックスに同姓同名の投手が居た*8ため注目されていたが、不振で一年限りで退団。 |
【比較】非ワクワク補強選手の楽天通算成績
2013年以降の低年俸で獲得した選手、他球団在籍経験のある選手を一部抜粋(成績は2022年終了時)。
名前 | 打率 | 本塁打 | 打点 | 備考 |
---|---|---|---|---|
ジョン・ボウカー | .248 | 7 | 22 | 2014年途中から所属。 元巨人の助っ人で前年14本塁打。 期待された成績には及ばず同年限りで退団。 |
ウィリー・モー・ペーニャ | .268 | 17 | 40 | 2015年在籍。 NPBでは3球団目の所属チームに。 一定の成績を残すも得点圏での弱さがネックとなり戦力外。 |
ゼラス・ウィーラー*9 | .262 | 106 | 345 | 2015年~2020年途中。 1年目の終盤から主軸に定着。 2017年には31本塁打で外国人シーズン本塁打の球団記録を更新。 2020年6月25日に池田駿とのトレードで巨人移籍。 |
ジャフェット・アマダー | .250 | 52 | 126 | 2016年~2018年所属。 低打率ながらも夏場に強い長距離砲として活躍していたのだが…。 |
カルロス・ペゲーロ | .265 | 53 | 145 | 2016年途中~2018年所属。 2017年前半は「恐怖の2番打者」として打線を牽引しシーズン26本塁打。 192cm・119kgという恵体ながら走力もあり、2017年の内野安打数はリーグ3位。 |
ステフェン・ロメロ | .272 | 24 | 63 | 2020年所属。 オリックスからの移籍。 2020年前半は絶好調で首位争いの原動力となったがその後はやや失速。最終的な打撃成績は十分だったが守備難や故障癖もあって残留交渉が難航し1年で退団。 その後はオリックスに復帰するも、同年8月3日に退団。 |
ルスネイ・カスティーヨ | .225 | 1 | 3 | 2021年所属。 打率を残せる中距離打者という触れ込みだったが、来日初出場の試合の第1打席でハーフスイングで脇腹を痛め、そのまま長期離脱。2ヶ月後に復帰するも出場機会は限られ、最終成績もパッとしなかった*10。 |
なお、特にウィーラー、ペゲーロの2人は補強が大成功した例であり、その陰で非ワクワク補強で失敗した選手が多いこともまた事実である。しかしアマダーも加えた3人の2017年度合計年俸は約2億1500万円でユーキリス(3億円)やサンチェス(2億5000万円)1人分以下で打線の軸となっており、どちらがコストパフォーマンスのいい選手かは自明であるだろう。
余談
参入当初の楽天はろくな外国人調達を行なっておらず、球団創設の2005年に至っては7名もの助っ人を補強するも3名はシーズン途中で解雇、残り4名もシーズン終了後に解雇されるなど入団した年に全員が退団するというコントを行った過去がある。
イーグルスと同じく楽天が運営しているサッカーJ1・ヴィッセル神戸は、2017年に獲得した元ドイツ代表のFWルーカス・ポドルスキ*11、2018年に獲得したスペインの名門・FCバルセロナ*12を退団したアンドレス・イニエスタを筆頭に海外の大物選手を次々と獲得することで知られる。その一方で彼らの多くは年俸に見合わない働きに終わり、チームの成績も伸び悩む*13ことが定番となってしまい、こちらもワクワク補強として注目を集め始めている。
一方、同じく楽天が台湾で運営している*14CPBL・楽天モンキーズではそれほど目立った補強は見られず、国内外である程度の温度差があると考えられる。