コンペ第5回

Last-modified: 2010-07-24 (土) 15:25:47
おにんぎょうのロンド  綺羅氏
「一言で、本当にシンプルに言うと、私は人生に失敗したのだ」

【作品集】第五回こんぺ
【タイトル】おにんぎょうのロンド
【書いた人】綺羅氏
【あらすじ&感想】
「一言で、本当にシンプルに言うと、私は人生に失敗したのだ」
失意のまま病に伏す老人チャールズ。
死が迎えに来るその時を静かに待つ彼の前に、奇妙な少女が現れて……。

第五回東方SSこんぺ優勝作品。正直私程度の者がレビューするのが烏滸がましく思える程の作品です。
個人的に雛メインの作品としてこれほど完成度の高い作品を見たことがありません。
舞台は現代アメリカ。主人公はオリキャラアメリカ人と、大変扱いの難しい素材を爽やかに調理仕切り、
雛と主人公それぞれの出会い、別れ、再会、そして死を誠実に描ききった筆力は素晴らしいの一言。
最後の一行では鳥肌が立ちました。
綿密に練り込まれた、安易でない"感動”を味わいたい方。お勧めです。

【五段階評価】
文章力 ★★★★★(文章の質にはかなりシビアなコンペ。しかしこの作品は文句付けるところが見つからない)
構成力 ★★★★☆(些か冗長な部分がある。とは言え丁寧に練り込まれた完成度は流石。質が高いからこそ欠点が気になる)
せつなさ ★★★★★(ストレートに、そして強力に心を揺らしてくれます)
読後感 ★★★★★(圧倒的です。読んだ後、暫くボーっと椅子に座ったまま、何もやる気が起きない。そんな感覚にさせてくれました)

人生に失敗した男性が、その最期で過去の一点を思い返し、微笑む。

【作品集】第5回SSこんぺ
【ポイント】301(第1位)
【タイトル】おにんぎょうのロンド
【書いた人】綺羅 氏
【あらすじ】
 画家を志し、失敗したジョーンズ。人生をまもなく終えようとしている彼の枕元に、奇妙な髪の色、奇妙な服を着た少女が現れる。
雛と名乗ったその少女は、御伽話を彼に語り始め……
【感想】
 第五回東方SSこんぺ優勝作品。この事からも分かるように完成度が極めて高い。
ただ、その完成度の高さ故、読むにはかなりの体力がいるので、しっかりと時間のある時に読むことを推奨する。
 綿密に練られた文書のもと、ほぼ完全なオリジナルな状態から、パズルを解いていくかのように一つ一つ東方の世界観が近づいてくる。
 文章が綿密で丁寧であるため、幻想郷外でオリキャラ主役の話にも関わらず、二人の存在をすんなりと受け入れて読むことが出来る。
 人生に失敗した男性が、その最期で過去の一点を思い返し、微笑む。
まるで書店に置いてある海外小説を呼んでいるかのようなしっかり作られた作品。

一人の男に、死期が近づいていた。

【第五回コンペ】
【タイトル】おにんぎょうのロンド
【書いた人】綺羅 氏
【サイズ】134.50KB
【URL】ttp://www10.atpages.jp/thcompe/compe06/?mode=read&key=1202617869&log=0

【あらすじ】
 一人の男に、死期が近づいていた。悪性の腫瘍に蝕まれ、激痛に苦しむ彼の精神は、彼に度々幻覚を見せた。自分の身体から紫の光が出てきて舞うという、とても綺麗な幻想を。ある日、普段ならすぐに消える光が収束し、一人の少女が現れる。美しく、どこか懐かしい気持ちがするその少女は、「雛」と名乗った。雛は告げた。自分は厄神であること、そして、彼に復讐をしに来た事を。そして彼女は、ある、呪いの人形と呼ばれた一体の人形についての話を始めるのだった。

【感想】
 主人公は、画家を志し、貿易商だった父の財産を一人で食い潰した、世間的にはどら息子と呼ばれてもおかしくないような人間です。彼に残ったのは、妻とメイドと一人息子、そして館と三枚の絵。
 そんな彼の元に現れた雛は、何を語るのか。
 終盤の疾走感を文字のみで表した作者の力量には感服するほかないです。また、それなりにテンプレートな終わり方ではあるものの、心を揺さぶるラストシーンは必見です。

【五段階評価】
★★★★★(時間のあるときに、味わいながら読みましょう)

香霖と嘘とビデオテープ  小山田 氏

【こんぺ】第五回「きかい」
【タイトル】香霖と嘘とビデオテープ
【書いた人】小山田 氏
【URL】ttp://thcompe.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/anthologys04/anthologys.cgi?action=html2&key=20080210195118
【あらすじ】
 誰だって邪魔されたくないひと時が存在する。森近霖之助にとっては、読書の時間がそうだ。
「香霖、邪魔するぜ!」
 そのひと時は白黒少女によって打ち破られた。その手に持たれていたのはビデオカメラだった。
 用途を香霖の能力によって知った幻想郷の住民たちは、自らを里の人々に知ってもらうために撮影を行った。
 映像を編集する役割を押しつけられた香霖。彼が見たものとは?
【感想】
 二次ネタを多少使っているものの、個性豊かな幻想郷の住民「らしい」お話。それに尽きます。
 ビデオカメラというツールを用いてすっきり終わらせるオチも見事。ほのぼのとした、やさしい気持ちになれます。
 最近二次ネタ突っ走りギャグばっかり読んでるなぁ、という方に是非ともお勧めしたい一品。

少如群像  俄雨 氏

【第五回コンペ】
【タイトル】少如群像
【書いた人】俄雨 氏
【サイズ】173.89KB
【URL】ttp://www10.atpages.jp/thcompe/compe06/?mode=read&key=1202674336&log=0

【あらすじ】
 人が死んでいる。そう通報を受けた慧音達が現場へ急行したときには、死体は消え、死体が確かにそこにあったことを示す血だまりだけが残っていた。

【感想】
 ここから、二転三転の怒涛の展開が待っています。その中であぶりだされるのは、人間の弱さ。三分の二ほどを使って表現されたそれは、ラストに圧倒的な説得力を与えています。
 この長さだからこそ書くことができた、秀作と思います。

【五段階評価】
★★★☆☆(鬱っぽい話が好きなら、星4)

神様は助けない。  blankii氏

【作品集】第五回東方ssこんぺ
【タイトル】神様は助けない。
【書いた人】blankii氏
【URL】ttp://www10.atpages.jp/thcompe/compe06/?mode=read&key=1202682544&log=0

【感想】
力のある文章には「声」があると常々思う。そしてこの作品は非常にユニークな声をしている。
この文章、合う人にはこの上もない美文だが、合わない人にはとことん合わないだろう。
そして私はどうやらこの文章にぴたりと適合しているらしい。
飄々として、それでいてどこか陰のある文章で、うねる様な響きを持った声である。
そして物語構造がその文章に見事なまでに合っている。相矛盾するいくつもの感情がうねる様にせめぎ合い、
一つに止揚されていく有様は、素晴らしいカタルシスをもたらしてくれた。
とにかく感情の描き方が巧い。臆することなく絶望を描き、媚びることなく憎悪を描いている。
そしてそれらを全て受け止めて描き出された希望と愛は、余りにも克明で、胸を打つものとなっている。

お題に関しては、確かにその解釈はどうなんだと言いたくなる。しかしその解釈にはこれ以上もないほど忠実である。
仮に初めから、氏が解釈したとおりのお題であったら、点数は跳ね上がったのではないだろうか。