コンペ第6回

Last-modified: 2010-07-24 (土) 15:26:44
「青い鳥の物語」twin氏

青い鳥の物語 twin氏
お爺さんならぬ男は山へ芝刈りに。
そこには思わぬ幻想的な光景が……

純文学的で文章は美しいものの、ややくどい。
特に前半の描写に息切れするかもしれない。
登場人物の描写もなるほどとても面白いが、主人公に傾倒出来るかは話は別。
個人的にはとても愚かで悲しい物語だと思った。
心に残ったのは舞のシーンもそうだが、子どもって残酷だな、ってことだったりする。

「本読み少女に恋をした!」反魂氏

「本読み少女に恋をした!」反魂氏

好きです! のひと言に、咲夜は途方に暮れていた。
目の前では年端も行かない少年が自分に手紙を差し出している……

ってそういう冒頭にするならタイトル変えようぜ。
シニカルでホームコメディな紅魔館、ラブレターを巡った恋愛騒動のお話。
ホームコメディで引っかかった人は回れ右してもいいかも知れない。
が、序盤のパチュリーの反応や、所々のレミリアの発言には爆発力がある。
だがおまいさんら、少々ネンネ(死語)すぎやしないかい?
個人的にはこんぺお題をそう使うならもっとあっさり風味な作品にしてよかったのでは、という気がする。

「華燭の春、燐火にて」Id氏
男は友人の遺稿を差し出した。名もない墓の前、緑眼の少女へ向けて。

「華燭の春、燐火にて」Id氏

男は友人の遺稿を差し出した。
名もない墓の前、緑眼の少女へ向けて。

パルスィを題材にした意欲作。
時代背景、異人に苗字、そして橋姫。それぞれの要素を限界まで膨らまし、書き表している。
長編ではあるが、冗長さはない。語りが多いものの、飽きさせない。
物語を前後編にスイッチさせることで、読者を改めて引き込む猶予を作っていたりと構成の妙も素晴らしい。

最後の最後、なぜ解説してしまったのか。せざるを得なかったのか。
敢えて遺稿という形で現実とリンクさせた著者の意図と、この解説が乖離してしまっているように感じた。
電車に乗って以降で、酔いが覚めてしまった気分。
それだけが残念でならない。

最悪のデッドエンドでもあり、最高のハッピーエンドでもある。

【第六回コンペ】
【タイトル】華燭の春、燐火にて
【書いた人】Id 氏
【サイズ】195.50KB
【URL】ttp://www10.atpages.jp/thcompe/compe07/?mode=read&key=1223155009&log=0

【あらすじ】
 幼い頃に水難事故に遭い両親を亡くした少女パルスィは、水橋家に引き取られ、外出こそままならないものの、育ての両親と、それから義兄と仕合せに暮らしていた。月に一度ほどの義兄との外出を心待ちにしながら。そんな折、義兄に縁談が持ち上がる。自分の気持ちにうっすら気付きながらも、必死に自制し、祝福するパルスィ。だが、届けられた本の一冊を見た瞬間、彼女の理性の結界は崩壊した。生きながらにして鬼と化す外法に手を染めた彼女は、ついに「橋姫」と出会う。橋姫は言った。

 お前が信じている両親は、本当に何の下心も無くお前を育てているのか?

――と。

【感想】
 非常に丁寧な文章で描かれる、パルスィの心情。義兄の優しさ。善意と悪意が織り成すこの物語は、真実は観測する側によって全く違うものになりうるという当たり前のことを思い出させてくれます。
 最悪のデッドエンドでもあり、最高のハッピーエンドでもある。壮絶で破滅的な話である一方、切実な悲恋の話でもあり、一人の英雄を生んだ英雄譚でもある。
【五段階評価】
★★★★★

「CROSS RIVER 」時計屋氏

「CROSS RIVER 」時計屋氏
あらすじ
川に流れてきた女性を助けたにとり。流れていた理由を訊ねれば随分難儀な理由らしい。
そして女性より話を聞いたにとりの行動は……?

きっちり整った綺麗で綻びの無い文章で綴られる、にとりという妖怪の話。
序盤は軽妙なギャグでしっかり笑わせ、後半はシリアスに狂気的に決める。
しかし、前半と後半のギャップが凄まじいにもかかわらず、物語の雰囲気は安定していて、
にとりも最後までしっかりにとりしていると。素晴らしい技巧を見た気がしました。
惜しむらくは、オチがわかりづらい事。おそらく意図的にぼかしているのでしょうが、お陰でちょっとすっきりしない物がのこったかなと。
まあ、しかし。このにとりは本当に素晴らしいです。東方SS屈指のにとり描写であると個人的に絶賛したいくらいです。

ちょっと真似したり、改変してみたりして。あと主観だから、あくまで参考程度に。
傾向
ギャグ☆☆☆★★★★★★★シリアス

爽快感★★★
不気味さ★★★
揉みやすさ★★★★
にとりかわいいよ★★★★★

※揉みやすさは読みやすさの誤字だそうです。にとりのおっぱいとは関係ありません

TEACHER GETS ANNOYED yuz氏

TEACHER GETS ANNOYED yuz氏
「何だ、うるさいぞ。何がおかしい」
寺子屋でことわざの授業をする慧音先生。しかし、そんな彼女を邪魔するように次々と不可解な現象が……。
内容はとってもシュールなギャグ。
幻想郷の面々のお前ら暇だなぁwっていう、しょうも無い行動と、違うだろといちいち感情一杯に反応する慧音先生がたまらなく滑稽です。
そして、誰も予想していなかったであろうオチ。
慧音先生!“いい勉強であった”じゃないよ! 全然爽やかでもないよ!

簡潔ながらも要を押さえ、乾いた笑いを誘う切れ味鋭さは氏ならでは。
筒井的って言うんだろうか、そんな印象を持った。
『私が悪かった。ごぼごぼごぼごぼ』この一文とか大好き。
短いので、さらっとしたギャグが読みたい人にお勧め。

アルキメデス・フリー deso氏

【作品集】第6回こんぺ
【タイトル】アルキメデス・フリー
【書いた人】deso氏

【あらすじ】
「私、カナヅチってよくわからないのよね」切っ掛けは、そんな一言だった。(本文より抜粋)
そう言えば霊夢の泳ぐ姿を見た事がないと、魔理沙は霊夢を湖に連れ出すが……。

【感想】
コンペというのは、何だかんだでどの作家さんも勝負を意識して書いてくる訳です。
そして採点側もそのつもりで、かなりシビアに評価を下す訳です。そして創想話との最大の違いが、多くの場合採点は絶対評価ではなく相対評価で決定される事です。
その結果、物語をきちんと作る事ができる中~長編の方が高得点を得られやすく、一発ネタの短編はどうしても低評価に収まりがちな傾向があるように思います。
そんな中にあって、テキストにしておよそ6kb。読了時間3分というこの超短編が5位に食い込んだのは、短編でも十分に人を引き付ける力があれば上位を狙えるという可能性を示唆した重大な結果であったと思うのです。

内容は霊夢が湖に行って、泳ぐ。それだけの話ですが、終盤のインパクト。とにかくこれに尽きるでしょう。
油断すると腹筋をやられます。
ただ、勿論文章その物もハイレベル。
派手な修飾とかはないですが、収まるべき所に収まるべきセンテンスが過不足なく収まっているという印象。
上質の短編です。

【五段階評価】
文章★★★★★(単純に上手)
構成★★★☆☆(短いし、構成云々の話じゃないと思う)
インパクト★★★★★(え、ちょ霊夢w えぇぇぇ!?)
総合評価★★★★★(トップ5に食い込むまでの支持を得たのは、伊達じゃないと思うのです)

Pride  八重結界氏

【作品集】第六回東方SSこんぺ お題「水」
【タイトル】Pride
【書いた人】八重結界氏
【URL】ttp://www10.atpages.jp/thcompe/compe07/?mode=read&key=1223160803&log=0
【あらすじ】
溺れる夢を見た咲夜、しかし視界に映るレミリアはもがく咲夜をただ見てるだけで…

【感想】
なんだおぜうさま結局咲夜さんのこと大好きなんですねウフフ。

やっべえこれしか浮かばない。
すれ違いは些細なことから起こるってことでしょうか。違う気がするなあ。
詰まるところ、素直になれないレミリア可愛いよ。

八重結界氏はこういうレミリア書くのが滅茶苦茶上手いですね。
凄く「らしい」し可愛らしいので大好きです。

水辺に宿る想いとは~The Riverside story   まりも 氏

【第六回コンペ】
【タイトル】水辺に宿る想いとは~The Riverside story
【書いた人】まりも 氏
【サイズ】117.39KB
【URL】ttp://www10.atpages.jp/thcompe/compe07/?mode=read&key=1223149214&log=0

【あらすじ】
 パチュリーが頻繁に見るようになった、まるで母親の胎内で漂っているかのような、不思議な、しかし心地よい夢。
 魔法を通して、自然と密接に関わる彼女だからこそ持つことができた、なにかが自分を呼んでいるという確信。
 パチュリーと、彼女から話を聞いた魔理沙、アリスの三人は、情報収集のため、人里に向かう。だが、そこで彼女らを待ち構えていたのは、想像を絶する光景だった。

【感想】
 1章で「ヴワル魔法図書館」の表記を見たときは、割と本気で読むのをやめようかと悩みましたが、「基本的に全部」と大見得を切った手前そういうわけにも行かず。結局全部読みましたが、意外と綺麗に纏まっていてよかったと思います。
 わざと抽象的に書いているのか、どうとらえていいのか分からない描写が続きますが、大事な種明かしの部分の表現が直接的過ぎるように思いました。
 作中で何の説明も無く魔理沙とアリスが「昨夜はお楽しみでしたね」程度の仲になっていたり、三点リーダが「……」ではなく「…」になっていたり、会話の括弧が「」でなく『』になっていたり、基本三人称のはずの地の文にキャラクターの独白が度々紛れ込んだりと、マニア心をくすぐる要素は沢山ありますが、三回以上読み返す時間とその覚悟がある方にしかお勧めしません。

【五段階評価】
☆☆☆☆☆(細かいところを気にせず、雰囲気だけを楽しめる人には星1.5)

ジャパニーズサムライ・ミーツ・ガール1590  ねじ巻き式ウーパールーパー  氏

【第六回コンペ】
【タイトル】ジャパニーズサムライ・ミーツ・ガール1590
【書いた人】ねじ巻き式ウーパールーパー  氏
【サイズ】146.87KB
【URL】ttp://www10.atpages.jp/thcompe/compe07/?mode=read&key=1223147174&log=0

【あらすじ】
 九州随一の奇山、桜島。その山を一心に登る人物が居た。
名を、東郷藤兵衛重位。島津家の家臣であり、家内屈指の剣客であった。
 修行のために登ったその山で彼は一人の天狗と出会い、その稽古を受けることになる。

【感想】
 これがレビューされていないことを知ったときは、小躍りしました。といってもコンペ優勝作品、読んだ人も多いとは思いますが、未読の方は一度だけでも開いてみることを薦めます。冒頭部分から引き込まれるそのつくりは、さすが。長さを気にせず読めてしまいました。
 内容は「オリキャラと東方キャラの恋愛物」になってしまうのでしょうか、そういう要素があることは確かです。ただどちらかと言えば、恋愛というよりも、信頼という表現のほうがしっくりくると思います。

【五段階評価】
★★★★☆(大体星4.5。オリキャラが心底嫌いな人は3)

其処に居る神  Spheniscidae氏

【作品集】第六回東方ssこんぺ
【タイトル】其処に居る神
【書いた人】Spheniscidae氏
【URL】ttp://www10.atpages.jp/thcompe/compe07/?mode=read&key=1222997683&log=0

【感想】
ただ一言、気分が悪い。
人間も神も妖怪も、皆ただただ傲慢で、力の有る無しだけで世界の営みが決まっていく。
何という単純な世界の捉え方をしているのかと、胸糞が悪くなった。
これがせめて、謙虚であろうと勤めながら拭いきれない傲慢、といったものを描いているなら心を動かされるものもあったろうが、
そんな姿勢を登場人物誰一人の内に見ることもできず、ただただ不快であった。

何よりも腹が立ったのは、あんなものを「形のない、ただ其処に居る神」としたことだ。
人が忘れれば力を失い怒り、力を得ては人に復讐し、人が祭れば機嫌を直して災厄をもたらすことをやめる。
そんなわかりやすいものが「見えざる神」などであってたまるか。
そして旱魃で死んだ獣や鳥や虫はどうなる。よもや旱魃で死ぬのが人間、妖怪だけだったなどという妄言は言うまい。
禽獣や草木を神として捉えた日本人の書いた物語だとは、到底思えない。

この作中には、タイトルにあるような「其処に居る神」などは登場しない。
いるのはただ、己の傲慢に従って暴威を振るう、「見える荒魂」だけである。