コンペ第7回

Last-modified: 2010-06-21 (月) 19:08:05
黒き海に紅く Spheniscidae氏
時は天正十二年(1584)。舞台は九州、筑後の黒木。

【SSコンペ】7(お題:色)
【タイトル】黒き海に紅く 
【書いた人】Spheniscidae氏
【あらすじ】
時は天正十二年(1584)。舞台は九州、筑後の黒木。
【感想】
一言で感想を述べるとするのならば「日本史と東方のクロスオーバー」
東方キャラクターでは永江衣玖、藤原妹紅、星熊勇儀が登場。
実在の人物側はネタバレになるのでここでは控えさせていただきます。
第7回コンペにて2位を獲得した250kb越えという大作。
桁外れの長さながら、それに負けずとも劣らぬ物語の濃密さに引き込まれました。
作者さんの綿密な下調べによって作り上げられた構成には舌を巻きます。
「色即是空・空即是色」というテーマに沿って作り上げられたこのお話、ぜひ一度ご拝読ください
【五段階評価】
文章  ★★★★★
構成  ★★★★★
テンポ ★★★★☆
日本史 ★★★★★
総合  ★★★★★

人間と魔、双方のあまりに数奇な運命。そして彼等の逃れられぬ悲劇を描く。

【作品集】第七回東方ssコンペ
【作品】黒き海に紅く
【作者】Spheniscidae氏

【あらすじ】
 天正十二年。現実と幻想がまだ直截とした交流を持っていた時代。豊臣秀吉が天下統一に向け邁進し、九州は沖田畷の戦いで疲弊し、また新たな混乱を迎えようとしていた。舞台はその激動の最中にある九州は筑後。
 人間と魔、双方のあまりに数奇な運命。そして彼等の逃れられぬ悲劇を描く。
【感想】
 物語の舞台として、非常に微妙な年代を選ばれたと思われる。別に悪い意味ではない。
 ストーリーは主に、筑後の猫尾城攻略戦を中心に展開し、史実の人物達(立花道雪、田北弥十郎、黒木家永とその娘柏など……因みに僕は一人も知らなかった。恥ずかしい)と我らが東方projectの名キャラクタ達との交流が描かれている。
 この時代、この史実に詳しければ、もっと楽しめるかもしれない。作者自身も難解且つ複雑な物語であると言うとおり、一度目を通しただけでは、この物語の全貌を把握出来ないかもしれない。それ程ディティールに富んでいて、まるで作者がその時代を見てきたかのように、確信とした筆致に満ちている。そして物語の進行は、史実に沿った論理的な語りで彩られている。そのため妙な現実味を帯びているのだ。これは、この小説を最も面白くしているファクターなのだ。
史実をリアリズムと定義するなら、幻想の住人達はそのリアルを交錯する、字義通り幻想である。これはガルシア・マルケスの『百年の孤独』を思わせる。神話のように、幻想のキャラクタの輪郭が歴史の一ページの中に浮かび上がる。その幻想と現実のオーバーラップという試みは、ゲームの二次創作という枠組みを越えて大成功している。僕は東方のキャラクタを、東方のものとは見なかった。もっと別の人格である。誤解を恐れずにいえば原作より魅力的でさえあった。
さらにリアリズムを堅固にするための、文章の狭間に挿入される歴史の基本的な説明は、ストーリーを盛り上げるための重要な要素として充分に機能している。諄々と説くような書き方で、歴史に無知な僕を物語の中に導いてくれた。
 だから全く歴史に疎い私が読んでも、とても楽しく読むことが出来た。
 それにこの小説は非常にエンターテイメント性に富んでいる。衒学的なだけで無いのだ。読者を楽しませる工夫が、鎧の装飾のようにあちらこちらに施されている。
 合戦の場面では、パウル・カレルの戦記物のように、淡々としていてその反面、ダイナミズムを感じさせる。因みに僕は、立花道雪がエルヴィン・ロンメルに見えて仕方がなかった。まぁ、二人は武将としてはタイプが違うところが幾つかあるのだけれども。何となしだ。
 また活き活きとした登場人物たちの活躍から目が離せなくなる。特筆に値するのは、東方のキャラクタ達である。既述の通り、格好良いわけである。また敢えて誰が登場するのかは書かないが、怪物じみたキャラクタ達の持つ人間的な優しさや脆さは、些か感傷的なきらいがあるかもしれない。しかしこれから読もうと思っている人は、彼等の心のありようや、その推移を感じとりながら読んで頂きたい。これこそ著者の最も書きたかったことだからだ。悲しくも儚い彼等の思いを感じていただきたい。
 
 おまけ。物語の終盤にて、網将道雪と雷神の如き少女との対決のシーンである。
『大友興廃記』に伝わる道雪の逸話を知っていれば思わずニヤリとするところである。僕は知らなくて、読んだ後で知ったから、少し自分の浅学さを情けなくなってしまった。

自らの存在をかけた望みがぶつかるとき、何が生まれるのか。

【第七回コンペ】
【タイトル】黒き海に紅く
【書いた人】Spheniscidae 氏
【サイズ】266.24KB
【URL】ttp://www10.atpages.jp/thcompe/compe08/?mode=read&key=1241844919&log=0

【あらすじ】
「凶兆を運ぶもの」としての自らの在り方に苦しんでいた「龍宮の使い」永江衣玖は、巴という少女の純真さに心を救われ、己の運命を変えるために黒木に付いた。ある少年の波乱の半生を知った「不死人」藤原妹紅は、己の最善を尽くしてなお、民を死地へと連れて行かなければならない彼を見かねて田北に付いた。「悪さをする鬼を人間が力で退治する」という、古い、鬼と人との関係に縋ろうとする「鬼」星熊勇儀は、鬼と呼ばれる猛将、大友家の道雪に同行する。

 時は天正十二年。一般に、戦国時代と呼ばれる時代である。九州の筑後は、龍造寺家の黒木を境として、田北が属する大友家との二つに分かれていた。
 哀れな人間達の戦禍は、三人の人外を巻き込みながら、結末へと加速していく。

【感想】
 ボーイ・ミーツ・ガールというジャンルの作品があります。普通の生活を送る少年の元に異能の力を持つ少女が現れて……とかいう話の総称です。出会った二人は、時に協力し、時に反発しあいながら、望みを叶えようとしたり目的を達成しようとしたりします。
 この話には、三組の二人が登場します。三者三様の望みは、決して相容れるものではありません。自らの存在をかけた望みがぶつかるとき、何が生まれるのか。ぜひ、自分の目で確かめてください。
 人によっては、「軽すぎる」と感じるかもしれない文章ですが、それは、のどかでどこかほっとする、美しい風景を想像させてくれているように感じました。

【五段階評価】
★★★★☆(人死にが嫌いなら-1.0、いい話が読みたいなら+1.0)

色盲河童  じんのじ 氏

【作品集】第7回SSこんぺ
【ポイント】213(第3位)
【レート】1.54(第8位)
【タイトル】色盲河童
【書いた人】じんのじ 氏
【あらすじ】
「あれを作るためなら」
河童のにとりは、外界から流れ着く物を手に入れては、分解しては復元するという奇妙な行動を日々繰り返していた。
その裏に秘められた、にとりの傑作「光学迷彩スーツ」と「胸の鍵」の秘密を描く。
                                              (作者サイトより引用)
【感想】
 オリキャラメインだが、すんなり読むことが出来る。原作の設定の曖昧さを上手く利用した二次創作。
原作の曖昧さから、落ちこぼれのにとり、天才の妹を作った発想力は凄いと思った。
 いかにも理系の天才らしいにとりの妹の視点で、
天才が誇りを失う様子が妖怪の山の美しい風景とともに描き出されている。
 なお、この作品は作者のサイトで縦書き挿絵入りの物を読むことが出来る。
縦書きで読んでみたいと思うならば是非、行ってみてほしい。

ジヴェルニーの妹達の庭  nig29  氏

【第七回コンペ】

【タイトル】ジヴェルニーの妹達の庭
【書いた人】nig29  氏
【サイズ】137.45KB
【URL】ttp://www10.atpages.jp/thcompe/compe08/?mode=read&key=1241873226&log=0

【あらすじ】
不思議な不思議な入口。
なんだこりゃ。
こいしは思わず頭をぽりぽり掻いた。
        (本文冒頭より)
 魔法の森でさまよっていたこいしが見つけた、ぽつんと建っている一枚の扉。前から見れば中があるのに、後ろに回ってみても何も無い、不思議な扉。
 その扉をくぐった先にあったのは、美しい箱庭と、狂気を孕んだ吸血鬼の少女だった。
 何度も逢ううちにどんどん仲良くなっていく二人だったが、実はフランにはある秘密があって……

【感想】
 美しい箱庭は、パチュリーとフランが館の地下に造ったもの。
誰かが遊びに来るかもしれないからとわざわざ外と直結する扉をつけてもらうほど皆に想われているフランが、それでも外に出られない理由とは? それを知ったとき、こいしのとる行動とは?
 個人的に一番の見所は、スカーレット姉妹の設定と解釈だと思います。彼女らの過去はもちろん、あんなことにも説明が付くなんて!
 ただ、本当にご都合主義的な展開があります。また、誰視点か分かりにくい
部分もいくつかありました。

【五段階評価】
★★★☆☆(3.0、北欧神話がすきなら+1.0、雰囲気を楽しめる人なら+0.5)

Hello,my friend ―6つの色が揃うとき―  ぴぃえぬえす 氏

【第七回コンペ】

【タイトル】Hello,my friend ―6つの色が揃うとき―
【書いた人】ぴぃえぬえす 氏
【サイズ】160.95KB
【URL】ttp://www10.atpages.jp/thcompe/compe08/?mode=read&key=1241872046&log=0

【あらすじ】
 さとりの最近の楽しみは、地上に住む人物「陽子さん」と文通すること。初めての、心の声が聞こえない他人との会話は、彼女にとって本当に大切だった。
 しかし、そんな幸せな生活に終止符が打たれる。
――彼女が、来る
 さとりの懸命の説得にも応じず、ついに地下へやってくる「陽子さん」。主のピンチに勇んで迎撃に向かうお空とお燐。
「陽子さん」の、そしてさとりの運命はいかに!

【感想】

子、襲来
 手紙で嘘をついたから、失望させてしまうから、会いたくない。そんな設定の話は、たしか手塚治虫がブラックジャックでやっていましたが、こちらはもっと深刻。さとり妖怪である彼女が直接会ってしまえば、嫌われてしまうのは絶対なのだから。
 こいしもさとりも、割と簡単に第三の目を開けたり閉じたりしていますが、それほど気になりはしませんでした。特にラストシーンは、それが良い方に作用していました。

【五段階評価】
★★★★☆(3.5。地霊殿が大好物なら+0.5)

とうに終わった後の話  yamamo 氏

【第七回コンペ】

【タイトル】とうに終わった後の話
【書いた人】yamamo 氏
【サイズ】181.47KB
【URL】ttp://www10.atpages.jp/thcompe/compe08/?mode=read&key=1241866500&log=0

【あらすじ】
 妹紅は人里の大通りを一人、歩いていた。ほんの一ヶ月前までは、慧音と二人、並んで何度も歩いた道。だが今は、隣に誰も居ない。それだけではない。この人里から、この幻想郷から、全ての生物が姿を消していた――

【感想】
 まさか東方SSでフーダニットが読めるとは。素晴らしい試みと言っても良いと思います。
 しかし、後半が駆け足であること、突然文明の塊が登場すること、犯人と相対したときに、皆烈火のごとく怒っているはずなのに態度が軽いことなど、人によっては「興ざめ」と感じることがあるかもしれません。

【五段階評価】
★★★☆☆(妹紅が大好きなら+0.5、細かいところを気にするたちなら-0.5)

東の空の、ゴールデンエイジ  佐藤厚志 氏

【第七回コンペ】

【タイトル】東の空の、ゴールデンエイジ
【書いた人】佐藤厚志 氏
【サイズ】123.31KB
【URL】ttp://www10.atpages.jp/thcompe/compe08/?mode=read&key=1241856111&log=0

【あらすじ】
 空には新聞よりも早い情報伝達手段が踊り、毒の人形は人形解放戦線の為の資金集めに奔走する。
 何かが決定的に変わってしまった未来の幻想郷で、人形遣いの少女は失った記憶を求めて郷中を舞台とする矮小な事件に巻き込まれていく。

【感想】
 冒頭を読んでいるときには、それほど凄い話を読んでいると言う感覚は無く、むしろ、誤字の多さに辟易するくらいでした。しかし、気付いたときには読み終わっていました。それだけの力のある作品です。今までに読んだ中では一番二番に入る良作です。

 時代は移り変わっていくものです。ですが、変わるのは環境だけではありません。世代の交代と共に変わっていく人間と、それに取り残された「妖なるもの」達。今にも瓦解しそうなほどに歪みきった幻想郷で繰り広げられる、恐怖と狂気の悲劇。

 作者さんが自分の話に振り回されているような印象を受けましたが、それもまた、この作品の力なんだと思います。

【五段階評価】
★★★★★(自分の中に確固たる幻想郷があって、それが壊れるのが堪らなく嫌な人なら-1.5)

白狼天狗捕物帳   智高 氏

【第七回コンペ】
【タイトル】白狼天狗捕物帳
【書いた人】智高 氏
【サイズ】126.86KB
【URL】ttp://www10.atpages.jp/thcompe/compe08/?mode=read&key=1241852798&log=0

【あらすじ】
 張り番の夜勤を終え、家路についていた椛が見たのは、天まで届くかと思われるほどの、巨大な火柱。
(火事だ!)
大慌てで同僚を現場へつれてきた椛だったが、そこには山火事はおろか、何かが燃えた後さえなかった。いたずらに衆を惑わせたとして、一週間の謹慎を命じられてしまう。
 一方、そのころ山ではもう一つの異変が起きていた。

【感想】
 「目ぇ血走ってるよ、椛ぃ」
 「それじゃあ血走椛になっちゃうよ」
(本文冒頭より)
 こんな話といえば大体想像できるでしょうか、細かいギャグが随所にちりばめられており、長さを感じさせない楽しい作品でした。
 ですが、それだけではありません。膨大なネタのかげにひっそりと隠された伏線の数々は、読み終わったあなたに驚きを与えてくれることでしょう。
 地底のくだりは、確かに蛇足ではあると思いますが、本当に面白い足です。

【五段階評価】
★★★★☆(メタネタが嫌いな人は-0.5、好きな人は+0.5)