コンペ第9回

Last-modified: 2012-02-28 (火) 13:05:27
わたしのかわいいこいし  みづき氏

【作品集】第九回東方SSこんぺ

【タイトル】わたしのかわいいこいし
【書いた人】みづき氏
【URL】ttp://www10.atpages.jp/thcompe/compe10/?mode=read&key=1288539353&log=0
【あらすじ】
サトリという妖怪を見事に描ききった力作。心の弱さと本当の強さを、心の鏡たるサトリの目から暴き出す。
秀逸なのは、そのさとり自身をとても弱いものとして描いた点だろう。心を映す鏡の心は、一体誰が映せるのか。
沢山の愛情と、一欠けらの悲しいエゴが織り成す弱者たちの物語。

【感想】
一番最近涙腺をやられた作品です。ボロ泣きです。
弱さというものが徹底的にリアルに描かれていて、自分の弱さに自覚的な方が読めば泣けること間違いなしです。
ただ、物語は曖昧に収束してしまうため、カタルシスという点では少し見劣りするかもしれません。
しかしそれを差し引いても、名作と呼ぶに相応しい作品だと思っています。
創想話の『わたしの可哀いこいし』も合わせてどうぞ。

かがみのうさぎ うさぎのかがみ  Spheniscidae
形式は鈴仙がその一生を独白形式で語るものです。

Spheniscidaeさんの「かがみのうさぎ うさぎのかがみ」ってのを読みました。

形式は鈴仙がその一生を独白形式で語るものです。
儚月抄以降鈴仙はより一層書き難くなったというか難しくなったと思っているんだけど、
前半部分の独白部分は凄く読み応えがあって引き込まれました。
永遠亭の住人の描写とか、魅力的なオリキャラが出て来て丁寧に丁寧に語られています。

ただ後半部分の展開が非常に強引かつ説明不足で違和感ありありだったんです。
前半のまま終れとまでは言わないのだけど、後半の展開をするのならもう少し読者への説明が必要
なんじゃないかなと思う。永琳の思惑は?幻想郷の現状への説明は?
後書きを読むに鈴仙に描写を集中させて、幻想郷その他の背景は極力語らないというのが作者さんの拘りみたいなんですが、その拘りちょっと独りよがりなんじゃと思わずにはいられませんでした。
結末が決まってて無理矢理展開を持ってっている感があって、
後半部分にいろいろ納得の出来ない点が多くて勿体なかったです。謎が謎のままいっぱい残っちゃってるし。
折角魅力的に描けたオリキャラも最期には上手くいかせず、勿体ない。
実に勿体ない作品ではありますが、色々書きましたが、面白いです。読む価値はあると思います。
面白い分だけもったいなさが募り、なんか語りたくなる作品です。

私の歩いてきた道は、罪と恥によって塗り重ねられている。

【作品集】コンペ9
【タイトル】かがみのうさぎ うさぎのかがみ
【書いた人】Spheniscidae氏
【点数】153点(56作品中7位)
【URL】ttp://www10.atpages.jp/thcompe/compe10/?mode=read&key=1288463545&log=0

【あらすじ】

 私の歩いてきた道は、罪と恥によって塗り重ねられている。
 しかし、過去から目をそらして生きていくことは出来ない。
 だから私はこうして、文字にして書き遺しておくことにする。
 それこそが自分を見つめ直すことであり、またかつての仲間たちに対する手向けにもなるのではないか、と思うのだ。

【感想】

 徹底したリアル路線ともいうべき作風。
「レイセン」という一匹の玉兎が、生まれ、苦悩し、自分の在り方を見つけていく過程を克明に、鮮烈に、あるいは残酷に描く。
 そこに一種の物語に対する甘え――ご都合主義的な因果応報と言った類のものがことごとく排除されていて、あるのはただただ現実感の溢れる一匹の兎の生き様だ。

 鈴仙の一生。
 その言葉に尽きる本作である。
 まず、彼女の今までを、彼女自身の筆跡という体で語り、彼女の生きる意味までを描く。
 そして、そこに補文という形で急展開した世界観を描き、ひとまずそこで彼女の過去、つまり現在の鈴仙までを書き表す。

 ここまでは見事だと思う。文句なしに惹き込まれてしまう。
 鈴仙の性格と、彼女の過去をしっかりとした筆さばきで描いている。
 また彼女の苦悩の仕方が何とも生々しく、その半生には否応にも共感してしまう。
 彼女の生い立ちを書く筆致は懇切丁寧で、しっかりと余すところなく描いていると思う。

 そして、現在を起点として、物語は反転する。
 曰く、かがみからうつつへ。
 鑑というのは、この作品においては「とある人物の歴史」に相当するものだと思われる(慧音先生の言葉を借りれば)。
 そうして鏡を見るがごとき物語は、現実へと――現在から先の物語、つまり未来へと紡がれていく。

 未来の話だが――これはいまいち納得しかねる。
 未ネタバレになるので詳細は省くが、あまりにも急展開にすぎる。読者にとってはすぐに飲み込める設定ではない。
 イマイチ不明だったり、納得いかない点が多く、その所為で前半でリアルに固めた世界観が、突如地盤が緩いものに感じてしまうのは否めない。
 特に、個人的には後半に登場するとある勢力が、悪役を無理やり押し付けられているようで嫌な感じを受けた。「私に卑怯になれというのか?」という台詞があるが、いやもう十分卑怯だろあんたら、と素で突っ込んでしまう。

 とにかく、過去とは打って変わって毛色の違う話で、再びそこに没入するまでに時間がかかった。
 
 ただ、ここまで鈴仙というキャラクターをひたすら突き詰めて、それを書き切ったというのは見事であり、不満点を差し引いても読みごたえの十分にある良作。
 特に鈴仙の過去を描くパートは、ひたすら生々しく、鮮烈で、見るものを圧倒する。これほどまでに鈴仙の過去を綺麗に描き切った作品を、少なくとも私は知らない。

 テーマがかがみということで考えてみると、この話は、一本丸々で『鈴仙の鑑』なんだなあ、とひしひし感じる。

創想話のみならず東方SSの中でも指折りの鈴仙作品だと言ってしまっていいと思う。

【作品集】コンペ9
【タイトル】かがみのうさぎ うさぎのかがみ
【書いた人】Spheniscidae氏

【あらすじ】
同年代の兵隊仲間に囲まれて育ってきた鈴仙だが、戦場にでれば親友さえも見捨てて逃げ出してしまう。
永遠亭で安穏と暮らす日々の中でも、捨ててきた仲間にたいする罪悪感は胸を締め付ける。
自分のしてきたことを確認するためにも、鈴仙は過去を振り返るのだった――。

【感想】
『かがみのうさぎ うさぎのかがみ』は創想話のみならず東方SSの中でも指折りの鈴仙作品だと言ってしまっていいと思う。
作品は、鈴仙が知らない部分は書かないという縛りがあるらしく、最後までなにが起きていたのかわからない部分も多い。
ただ詳細をつづらなくていい縛りこそが、赤ん坊時代から現代まで書くなんて大事を可能にしたのかもしれない。
悪い部分については、作者自身に弁明させてしまったのでこれ以上の追求は避けたい。
読んだ当時の頃を思い返してみれば、最後の部分は悪いと感じられず、ただただ興奮していたように思う。感情移入してたんだろう。

華胥の永遠  gene氏

【作品集】コンペ9
【タイトル】華胥の永遠
【書いた人】gene氏

【あらすじ】
同年代の兵隊仲間に囲まれて育ってきた鈴仙だが、戦場にでれば親友さえも見捨てて逃げ出してしまう。
永遠亭で安穏と暮らす日々の中でも、捨ててきた仲間にたいする罪悪感は胸を締め付ける。
そんな思いを悩みながらも、薬を売るために鈴仙は人里に向かう。人々の中で彼女は何を聞いて何を考えるのか――。

【感想】
『華胥の永遠』は、上の作品と同こんぺ内で鈴仙の過去話を扱った作品。鈴仙が罪の意識で押しつぶされそうな点も同じ。
こちらは過去話よりも現在の話が交互に展開されていて、どちらかというと現在の話に比重を置いている気がする。
今振り返れば、故郷を捨てて逃げてきた鈴仙に対して、棄てられた人形であるメディスンをぶつけてくるのは凄いと思った。
残念に思う点は、物語の最後のほう。月の使者が出てくるのが唐突すぎて違和感を憶えた。
作品は地上の人たちと鈴仙の物語だと思っていたから、月の人たちは現代パートには登場しないでもらいたかった。

以下、……ネタバレ気味だけど、
『かがみのうさぎ うさぎのかがみ』では、罪に対する償いが、リトライしての克服しかないのに対して、
『華胥の永遠』では罪の償いが生きていくことそのものだけど、登場人物はみんな優しいし、許されてる話なんだなぁ、と思った。

博麗神社防衛戦せん  八重結界さん

八重結界さん「博麗神社防衛戦せん」

序盤で霊夢が能力を使えなくなり、しかも人格まで変わって泣き虫で臆病な感じになります。
そこで色々と解決しようと足掻くのですがという物語。

博麗の巫女の設定と紫が抱えていた感情がとても良かった。
周囲の人間が去っていったけどピンチには駆けつけますという王道展開で、
とても好物な展開なのです。でも、最初霊夢に冷たくなるところで違和感ありありなので、
皆が駆けつけてくれてもさほど感動できなかったのが残念かな。
あと敵が小物なのもあります。もひとつお題の使い方がとってつけた感じなのも減点対象でしょうか。

ただ、そういう点を差し引いても余あるくらい良い点もいっぱいある話なので読む価値はあると思います。