作品集9

Last-modified: 2010-05-23 (日) 23:56:12
完全なる夜雀の月歌 しん氏

完全なる夜雀の月歌 しん氏

正直言ってちょっとがっかりした。
「冥い姫」を書いた氏にしては構成が稚拙。というか短すぎる。
旅人が夜道を行く→ミスティア唄う
これだけの物語なのに、必要最低限の描写しか無いのであっけないほど尻切れトンボで終わってしまう。
それとこれは氏の作品全体にも言える事だけど描写がちょっと着飾りすぎている。
例を挙げると、
「月の光」を表現するのに
『深々と降り注ぐ 月の雫 狂気の涙 昏い枝葉を貫く ぎんいろのあめ』
とまで書くのはどうかと。凝りすぎてやしないか?
『熾天の光輝 堕天の暗炎』とかは何を表現したいのかさっぱり分からない。
『紅い炎 蒼い炎 ほのおは全てを―――――天に還す』って言うけれど、そもそも炎とミスティアの関連性が見えない。

こんな感じ。
あと、あとがきの『前向きに善処します』って発言はちょっと……
そういう書き方はあまり良い印象を与えない。
悪く言うなら傲慢だと見てしまう人も出てくるぞ?
読み手も書き手も傲慢になっていい事は何一つ無い。
読み手がいてこその書き手だし、その逆もまた然り。
お話の構成力は前作で既に証明されているのだから、次回に期待を寄せたいと結んでレビューを終える。

月夜 ENX-静流氏

月夜 ENX-静流氏
短い。
行間が空きまくって短さを騙そうとしているとしか思えない。
「行間を空ける」という手法は手軽に使える演出方法の一つだ。
何しろ何も書かずに改行すればいいだけなのだから。
が、それはここぞという場所で使うから効果的なのであってこんなに沢山使われてしまうとむしろスカスカじゃん、と感じてしまう。
本当の行間空けは文章が書いてある場所と同等かそれ以上の情報が詰まっていてもおかしくないのだが、この作品の行間からは特に何かを感じる事はなかった。
もしくは感じたのかもしれないけれどそれがどこの行間からなのか分からなかった。
それと輝夜と妹紅の対比のシーン、手法が漫画的で俺はあまり好きではなかった。
ENX-静流氏には、空間による文章の演出よりも文字そのものの力での演出にもっと力を入れてもらいたい。
ちなみに、今までの意見は作品をSS(ショートストーリー)として見た場合の意見。
詩として見るなら特にいう事は無い。
この短さも納得できる範囲だ。
まあ、詩のレビューはしたことないし出来そうも無いというのが本音。

最後に、行間から読み取れるものが無かったのは俺の読解力の低さに原因があるのかもしれないから、一概に作品のせいだとは言えない事を加えておく。

少女と館と湖と 12K氏

少女と館と湖と 12K氏

やや作者である12K氏のオリジナリティが強い作品だが、キャラクターの東方らしさはかなりのもの。
会話から地の文まで、徹頭徹尾淡々とした調子を貫いているお陰で全体に一本芯が通っている感じ。
短いお話だけれども、起承転結がしっかりと備わっていてすらすらと読めた。
GJ。

五月雨閑話 峰下翔吾(仮)氏

五月雨閑話 峰下翔吾(仮)氏

長い。
それでいて読者のテンションを一切動かそうともしないので読んでいて疲れる。
ヤマなしオチなしを自覚していながらこの長さはどうかと思う。
逆に、「じゃあこのお話の何処で切れっていうんだ」と返されるとそれもまた難しいのだが。
この長さに目を瞑れば、後は言う事無し。
感想にあるように、「なんでもない日常を楽しく書く」事を忠実に遂行した作品だった。
ネタは地味。だがそのネタを最大限に活かす表現により、作品は素晴らしい仕上がりを見せた。
読み手だけでは無く書き手にも是非一読を勧めたい一品。

妖夢とお暇と一日と 碧氏

妖夢とお暇と一日と 碧氏

妖夢が妹キャラってどんなだ?
ひょっとして幽々子の妹分でちっこくてふにふにで白楼剣や楼観剣が両手持ちじゃないと構えられなくてうおお可愛いかもしれん!?
とか想像してちょっとドキドキしたのだが。
だが。
「俺」ってだれやねん。
妹キャラってそういうことかよ!
作者独自のキャラクターが主軸となるいわゆるオリキャラものだが、オリキャラがどうとか言う前に妖夢が崩れすぎ。
原作との妖夢の接点が名前のみ。
その証拠に「妖夢」の部分を別の名前に変えても何の支障も無い。
碧氏は妖夢のどこに可愛さを見出したのだろうか?
お絵かき掲示板の白氏の絵が大部分の理由なら、創作するのはSSではなく漫画にするべきだった。
ここまで性格が変わってしまうと、あとは見た目でしか妖夢を妖夢と判断する材料が無い。
つまり文章ではこれは妖夢という名の別人としか見れない。
『この作品中において、妖夢は妹キャラです。』
OK構わねえさあ貴様の妖夢たんを見せてみろ!
と思って騙されたと感じたのは俺だけでは無いはず。

冬の黎明 そる・あーす氏

冬の黎明 そる・あーす氏

妖々夢Final~クリア直後の紅魔館が舞台。
タイトルに飾るだけあり、これでもかと言うほどに気合の入った日の出の描写は秀逸。
最後の会話も彼女達ならいかにも交わしそうで良かった。
本当にワンシーンのみの短い作品だが美しい。
と同時に勿体無いとも思った。
同時刻の魔法の森や博麗神社やマヨヒガや永遠亭や竹薮の奥を見てみたい、そんな感情は欲深いのであろうか。
ともあれGJ。

菩薩様が見てねぇ c.n.v-Anthem氏

菩薩様が見てねぇ c.n.v-Anthem氏

ポスト九曜氏の声も高まりつつあるc.n.v-Anthem氏。
今回もはっちゃけキャラ破壊系ギャグで笑わせてくれる。
キャラクターが崩れ度合いは「妖夢とお暇と一日と」と同等かそれを凌駕する勢い。
なのに面白く読めてしまうのはキャラクターに原作を擬える一つ以上のキーがあるからだろう。
どこまでもマイペースな幽々子。
幽々子に逆らえず流されてしまう妖夢。
輝夜大嫌いな妹紅。
たった一点の原作との繋がりが読者に安心してこの作品を読ませてくれる原動力となっている。
残念だったのは慧音と輝夜。
この二人に関しては、もう完全に別人。
慧音は2chのイメージ、輝夜は前作の影響があるために、そちらに引っ張られすぎたか。
キャラ破壊の難しさを確認させられる作品であった。

盲目の僕と、夜のコーラスマスター psy家氏

盲目の僕と、夜のコーラスマスター psy家氏

非常に短い文章で、一人の人間と多分夜雀の話。雰囲気ほんわか系・・・?
このSSの特徴はミスティアとその人間がすでにもう知り合いだという前提から始まること。
どうしてそこまでに至ったかはきっと考えてはいけない作品。
気になるところは多いけれど、中でも一番気になったところ。
なぜ話に出てきた人間は自分が死ぬと歌うのをやめると思っているのか。
死んだら食べられるからそのときだけ歌が止まると解釈できなくもない。
が、彼女が歌うのをやめるなら・・・この後はきっと「私は生きがいを失って死んでしまうだろう」と続くと予想される。
ということは別に死の病魔におかされて残り僅かな命というようでもない。
目が見えないとあるが、後悔していないという文からミスティアのせいだと考える。
つまりそれはただの鳥目。生きる目的を失うほどの要因とは考えられない。
それに歌を聞けている間は死ぬわけではない。しかしその少し後の文で私が死んだら・・・とある。
もうよくわからない。いろんな意味で残念な作品。
ぶっちゃけミスティアじゃなくても余裕で通じるSS。題名にコーラスマスターを置いたのも、出てくるのはミスティアだよと最初に印象付けて展開のぼろをごまかすためだろう。
もしかしたら初めから盲目の人間と、夜な夜な外に出て歌うレイラとのSSなのかもしれないと深読みしてみたものの、結局後悔していないの一文に見事に否定されたり。

しかしこの作品で本当に一番残念なところは、題名では「盲目な[僕]と・・・」なのに
話に入った瞬間に一人称が[私]に変わることだろう。
あるならば次回作に期待。

幽霊のお仕事 その1~その4後編 隼氏

幽霊のお仕事 その1~その4後編 隼氏

「冥界に帰りなさい幽霊。 あなたの祟りは成就したわ」
ありとあらゆる歴史を食してきたワーハクタクをして「ぶーっ!猛毒!」と言わしめる程の、幻想郷史上例を見ない動乱の火蓋がきって落とされた。
すなわち春を独占し咲夜にこらしめられた冥界の復讐劇。 幽霊の尊厳復活を賭けた妖夢のあの手この手のへっぽこ肝試しを天下無敵のメイド長が華麗にスルー!?
しかし……取り返しの付かない事故というのもございまして……
幽霊はただ出現するだけでは怖くありません。 出現しても不思議はないと誰もが思う取り返しの付かない悲劇。晴らせない無念。尽きない未練。これらを持って始めて幽霊は幽霊足りえ、恐怖を感じる対象となるのです。
どうやら未完のようですが、だからこそより強い恐怖を思い起こさせるのでしょう。それは未知という名の恐怖。

博麗伝綺――うぶめの事  ミコト氏

【作品集】9-12
【タイトル】博麗伝綺――うぶめの事
【書いた人】ミコト氏
【URL】
(第1話)ttp://coolier.sytes.net:8080/sosowa/ssw_l/?mode=read&key=1103428456&log=9
(第2話)ttp://coolier.sytes.net:8080/sosowa/ssw_l/?mode=read&key=1105807534&log=10
(第3話)ttp://coolier.sytes.net:8080/sosowa/ssw_l/?mode=read&key=1108670225&log=11
(第4話)ttp://coolier.sytes.net:8080/sosowa/ssw_l/?mode=read&key=1110336306&log=12
【あらすじ&感想】
 自殺した母親の屍に縋りつく子供を見た霖之助は、鬱屈とした心地のまま帰途を急いでいたところ、
 一人の女と出会ってこんな言葉を掛けられる。
 「私の子を知りませんか?」
 翌日。博麗神社にやって来た魔理沙は、霊夢に妖怪”うぶめ”退治を持ちかけるが……
     ※※※
 「幻想郷は華やかな分影も強そうだ」
 そんなある人の言葉に触発されたという氏が紡いだ、恐ろしくも切ない夏の怪談話。
 『求聞史紀』発売前に書かれた作品なので、現在から見ると設定面でやや違和感を覚える
 かもしれませんが、前近代の業と因縁に彩られたストーリーの前には瑣末事でしかありません。
 弾幕決闘とは勝手が違う妖怪退治に戸惑う霊夢など、あまり見られない彼女の姿が拝めます。
 そして端々にて語られる魔理沙の苦悩。幻想郷といえども理想郷では有り得ない、
 どんな世界においても変わりが無い人の業というものを強く認識させられる作品です。
 あと、おそらく作者氏も読んでおられるに違いない某妖怪ミステリを想起させる台詞や表現が
 出てきてファンである私はちょっとニヤニヤしてしまったり。
 たまにはこういう、泥々とした湿り気の多い幻想郷も良いものではないでしょうか?

虚空の門番  天馬流星 氏

【作品集】個人サイト(作品集9→削除)
【タイトル】虚空の門番
【書いた人】天馬流星 氏
【あらすじ】
 紅美鈴の朝は早い。空が白んで来る頃には起き、館の警備を始める。
【感想】
 ネタバレなので詳細は伏せるが、認知が狂った描写という物がリアルに記されている。筆者が違和感を感じたのは序盤の終わりくらいだが、読み返してみると、最初の数段落で既に綻びが描かれている事に気付いた。
 紅魔館が変わっても美鈴は変わらない。変わる事が出来ない。それだからこそ読んでいて痛々しい。短編だが、心に容赦なく突き刺さるシリアス作品。
【総合評価】★★★★☆(ナイフのように鋭いシリアス短編)

【著者紹介】
 創想話初期に活躍した作家。作品集6でデビューし、紅魔館を中心にシリアスからギャグまで手掛けた。度々スレで話題に上る、作品の削除が話題となり遺憾の書き込みで溢れる、削除後も話題に上るなど、最も最初に、創想話のベテランらしい扱いを受けた人だった。また、SSだけでなくイラストも描く事が出来た方で、東方最萌トーナメントや同人誌などでイラストを描いていた。
 残念ながら、氏に対してはその活動全てを過去形で書く事しかできない。2007年、突如として、氏の人生は終焉を迎えてしまった。現在は、親族の方の御厚意により、制作された作品とイラストがサイトで再公開されている。