イベント/生屍不明編

Last-modified: 2011-12-26 (月) 20:55:45

発生条件

人気の無い夜道を一人で歩いていると低確率で発生。
なお、このイベントが発生するとPTメンバーの都合により霊幻道士編が起こらない。

イベント内容

毒爪の邂逅

「うーごーくなー!」

 

突然、あまり流暢でない少女らしき者の声が聞こえた。
南蛮人の夜盗か!?そう思い振り返ると…

  • ぎこちない動きの少女
    不意打ちから戦闘開始となる。なので一撃目は先行できない上とても痛い。この時点で敗北は高確率で決定したのだが攻撃はまだ続いて毒付き。
    相手の動きは悪く、攻撃を回避することは難しくない。だが最初の一撃と毒のせいで体力を大きく奪われている状態なので、かなり辛い。回復手段があればいいのだが無いと短期決戦を挑むしかない。
    だが少女は見た目からは想像できないほど力強く、しかも受けた傷を何らかの方法によてみるみる治してしまうので、それも難しい。
    幸いなのは、負けてもゲームオーバーにならず最大HPが減っているくらいだということだ。

「ぐおぉぉ!やーらーれーたー!」
おいィ?不意打ちとかお前絶対忍者だろ…悪いことはやめて改心すろ
「うぐぐ…」

 

興味本位で少女に色々質問してみた。
名前は芳香。僵尸(キョンシー)。
なんで自分がそんな状態になったかは思い出せないが、とりあえず死なない程度に人間を食べて身体を維持していたという。

 

悪い人物では無いようで、退治された以上は言われた通りにするしかない、と素直に従ってくれた。
「だが食わないと身体が保てない」
……動物とかで代用できませんかねぇ?
「出来るが足が思うように動かないので狩りが出来ないのだ」
むむむ…
「誰かが食事を用意してくれればもう人を襲わないんだけど…(チラッ」
露骨なチラッ見だ、いやらしい…
というわけでしばらく芳香の食事を提供してやることになりました。
「オマエ優しいんだな」
困ってるリア♀見捨てるとか男として小さすぐるでしょう?…このままでは俺の財布が消費でマッハなんだが…

求ム解術ノ法

とにかく、いつまでも芳香を保護していると、主人公の財布が底を突いてしまう。それより早く彼女の呪いだか術だかを解除する方法を探さなくては。

お永を訪ねる

「悪いけど、死体を戻す薬は無いわね」
頼ったはいいが返事はそれだった。
「即答が過ぎやしないかー?」
「そう言われてもねぇ。死体を生きている正常な状態に戻すって、どういう意味だか分かっているの?」
早く言うべき死んだままでいたくないから言うべき
「結果だけ言えば、死人を蘇らすのと同じことなのよ?簡単なはずはないわ」
「あ……」
言われてみればそうだ。
呪いor術を解けばはい、お終い…みたいに考えていたが、大前提として『芳香は死んでいる』のだ。後にどんな方法を使ったのだとしても、その根底にある事実は揺るがない。呪いor術を解いただけでは元通りの何の変哲もない普通の死体に戻る、それだけではないか。
…………
「…ふぅ。虐めるつもりは無かったんだけどね。ごめんなさい」
い、いや、気にすることはにいぞ。気にすることは…。
「そう。ただ、ヒントにもならないかもしれないけど、その子の死因なら分かるわ」
「私の死因…。それは?」
「刀傷や矢を受けた後はあるけど、直接の原因ではない」
「毒ね!」
急に元気の良い声が聞こえたと思ったら、小さな少女が飛び込んできて張り切って解説を始めた。
「長い…長い時間を掛けて体全体に馴染んでいき、最後には全身を毒が巡る…そんな毒。あなたの爪に毒が流れているのもそのせいよ!」
「めめ、お客さんの前よ?」
「へっへーん♪」
それだっけ言って、めめ、と呼ばれた少女は嵐のように過ぎ去った。
「毒…?それに刀傷とか矢とか…それでは私が戦士のような…ううん?」
「これは私の仮説だということを念頭に置いて欲しいのだけど…あなたは戦場の兵士だったのではないかしら?敵に捕らわれたか何かで毒を注入され、僵尸になった今でも血の代わりに毒が全身を巡っている…というのは、どうかしら?」
「むむむ…そうだったような、そうでもないような…?」
「今日はここまでね。困ったらまたいらっしゃい。いつでも力を貸すわ」

アヤに依頼する

「天狗を相手に歴史資料の要求とは…構いませんけどね。これも人妖共存の一環ということで」
軽い感じではあったが、アヤは依頼を快く引き受けてくれた。
「芳香さんですね、私に出来る範囲で可能な限り調べてみましょう」

 

数日経過

 

芳香を元に戻す道中、協力を頼んでいたアヤから報告があった。
「ええ、それらしき人を見つけましたよ。…宮古芳香。豊臣秀吉の軍勢として朝鮮出兵に出向いた兵士の一人です」
朝鮮出兵…って、「」確か、この時代から200年くらい昔だった気がするんだが…
「はい、天狗の記録にもそのように。妖怪と化したお方なら、特別長い時間ではないはずですよ」
「むむむ…私はそんなに年増ではないのだ…」
「死んだ時点で成長止まっているんで心配要らないと思いますよ」
朝鮮に行って芳香はプリケツ晒したのか?
「『明ノ援軍押シ寄セリ。多数ノ兵ガ捕虜トナル屈辱ヲ味ワウ』とあります。多分、この時に捕虜になったんじゃないでしょうか?」
それで捕虜になった後で……
「まぁ私に出来るのはこんな所ですかね。新しい情報を手に入れたらまた会いに来ますんで、失礼しますね!」
そう言って、アヤは空高く飛んでいった。

華扇と遭遇する

旅の剣客、丹下華扇。
実力も知れた彼女と遭遇したのは、雨を避けて飛び込んだ洞窟の中だった。
突然現れたこちらに警戒しつつも、自分たちは同じ雨宿り目的であることを確認すると腰を落ち着けた。
彼女は芳香を呟くように問うた。
「…人では、無いわね」
ばっと後ずさり、武器に手を掛ける。戦闘か!?と思ったからだ。
しかし華扇は刀に手を付けない。
「武器を振るう必要は無いわ、この雨が止むまで血溜まりの中で過ごしたくは無いでしょう?」
「こいつに敵意は無いようだ」
無言で頷き、武器から手を離す。
「綺麗な声ね」
「えへへ照れるな」
「ひとつ、詩でも諳んじて頂けないかしら」
「え、詩?」
おいおい(苦笑)この脳まで腐った僵尸に詩なんて高等なものが…

 

気霽(は)れては風新柳の髪を梳(けづ)る

 

…えっ
「うーん…駄目だ、昔はもっとすらすら思いついたんだけどなぁ」

 

氷消えては波旧苔の鬚を洗ふ

 

「お?」
芳香が途中で切った詩を、華扇が続けた。
「ほむ。なかなかね、気に入ったわ」
芳香に詩なんてものが出来るとは露とも思わず、ちょっとわずかにショックを隠せない。
「…あら、いつの間にか晴れたようね」

 

「ありがとう、名も知らぬ人ならざる者よ。雨で憂鬱だったけど、貴方のおかげで有意義に過ごせたわ」
「詩も詠める高性能僵尸でーす」
「愉快な僵尸もいたものだわ」
先ほどまでとは打って変わって清々しい空が広がる道を華扇は歩いていった。
芳香、おもえ実は吟遊詩人だったのかと驚きが鬼なった。昔とか言ってた気がするんだが記憶が戻ったのけ?
「う?…いや全く」
おいィ

アヤの追加報告

「芳香さんは詩の詠み手でもあったそうですよ。
 え?もう知ってる?まぁそう言わずに。
 仲間内や上司にも相当評判だったみたいですねー。戦の前に一句詠んで軍を鼓舞させることも多かったとか。というか、朝鮮出兵だって鼓舞のためで、本来は戦闘要員ではなかったようですらあります。
 どちかというと和歌よりも漢詩の方が得意だったようですけどね。全鬼が泣いたとかいう話も!…え?一気に胡散臭くなった?そんな~
 …その詩の力で亡霊が成仏した、という逸話もあります。もちろん、これも伝説の域を出ないのですが…
 仮に本当だとすると、逆のことも出来るのかもしれませんね。
 どういう意味かって?そりゃあ…封印した霊の復活とか、ですよ。
 何でこんな事言うかについては、最近いや~な噂を聞くものですから。
 まさか…とは思うんですけどね」

夜の京を往く

夜は妖怪の天下である。
それはここ、京の都でも例外では無い。
「夜でも大きな町は良いものだ。気持ちが盛り上がるみたいで」
生前を思い出すのか、芳香も少なからず元気だった。

 

そんな折、傘を持った妖怪…というか小傘が一人の少女と戦っている場面に出くわした。
「からかさ後光ー!」
「無駄よ!」
小傘の放った弾幕は、少女が展開した結界に阻まれる。お返しにと少女の手を離れた御札が小傘を直撃した。
「オウフ」
「小傘ー!何そんな子供に負けてるのよー!」
どこにいたのか鵺が飛んできて小傘を抱きかかえるとピューっと飛んで行ってしまった。
見事な妖怪退治だと関心はするがどこもおかしくはないな
「で、あんた達は何?一緒に退治させられたいの?」
少女はどこぞの腋巫女に似た装束を身に纏い、手には子供ながらに侮れない巫力の篭った御札を構えている。
「ちーかよーるなー!」
「この町で悪さする奴は許さないわ!」
落ち着きたまえ^^
「?」
変に霊夢を連想させる少女には必殺の呪文も通用しない。
「カグラ、悪霊退散の舞!いきます!」

  • 少女…カグラとの戦闘
    身体は小さくとも宿る力は確かで、生半可な攻撃は結界に阻まれてしまう。
    しかし絶対ではないのでめげずに攻撃し続けて、結界を破壊すると戦闘は終了となる。

「参ったかー!」
「うう…私は京の警護をしなくちゃいけないのに…」
おもえみたいな子供がそんあに頑張るのは何でどうして?
「道真が復活したのよ!」
「…道真?」
誰それ?外人?詩読み?
「この国最大の悪霊よ!」

 

菅原道真…日本最強の悪霊。
その話は聞いたことがあった。権力争いに巻き込まれ、悲劇的な死を迎えた末に祟りを与える存在になったという、あの。
…あの、道真が…?
アヤが話していた嫌な噂とは、このことだったのか。
「とにかく、そんな訳で京は今は警備強化中なの!用が無いなら僵尸は出て行って!」
かくして京から追い出されてしまった。
菅原道真の復活…これが後にどんな影響を与えるか、不安を感じずにはいられなかった。

続・アヤの追加報告

「関係あるかは分かりませんが…興味深いものを発見できました。
 都良香…平安時代の文人です。
 無論、戦国時代の芳香さんと関係のある人物とは思えない時代に生きていた人なのですが…偶然とは思えない名前でしょう?
 それに…菅原道真の噂はもう聞いたでしょうか?彼にも関係のある人物と言われることもあるのです。
 また、良香は仙人になって百年の後も健在であった、なんて話もあるのですよ。
 ますます偶然の一致とは思えない。貴方はどう思います…?」

過去から飛来する悪意

芳香と出会ってから大分経つ。
芳香の過去については少しずつ判明してきたが、相変わらず彼女を元に戻す方法は見つからない。
それどころか、菅原道真という新たな不安の種が出現した。
一体これからどうなるのだろうか…。

身の内に潜む野心

そももも菅原道真の復活がささやかれるのにはしばし時間を遡る。
それは、芳香が人を襲うのを止めた日。『彼』と出会った日。
それまで芳香を動かしてきた漠然とした生への本能が、『彼』という目的を得た。その日から芳香の心は『彼』が支配したも同然だった。
ずっと昔に芳香の心を支配したがったその男は、それが気に入らなかったのだ。
彼女が俗世を捨てて仙人となったその後も想いを捨てることは出来なかった不器用な男。
悪霊となって戦い、その身を呪って力と記憶を捨てさせた男。

 

菅原道真。

 

芳香は道真の呪いによって、その身に彼の霊力を宿したまま転生した。
数奇な人生を辿り、僵尸となった芳香は、皮肉なことに道真の霊力によって意思を取り戻すことが出来た。
しかし…それは道真が効力を発揮できる日本国内でだけのこと。
再び国を離れるか、道真が霊力を無くせば、芳香は単なる僵尸に戻る。撃滅せざるを得なくなる。
…道真の他に、それを知る者はいない。

気になる

ひとまず、道真の墓を見に行ってみることに。
件の墓は見事に破壊されていた。
町人に話を聞けば、ある日晴れていた空に突然黒い雲が現れて雷を落とし、墓を壊してしまったのだという。
同時に「怨霊王」と名乗る平安貴族の服装の男が現れた。天皇の私兵を退けた実力と墓の惨状と照らし合わせて、きっとそうに違いない、と言うのだ。

 

「気になるのだ」
何だ急に疑問アッピルしてきた>>芳香。何が気になるんですか?
「道真は日本最強の悪霊と言われているが…同時に、神でもあるはずなんだぞ」
なるほど、「」確かに。
当時は道真の恐怖が都を支配したために、彼を悪霊では無く神として奉ることで脅威を取り払ったのだ。一種の祟り神という奴だろう。
「道真は神として崇められた。長い時間を経て悪霊としての恨みは消え去り、善良の神として存在するようになった。今更なんの目的で悪霊として復活して災いをもたらす?もう、道真を苦しめた者達は居ないというのに…」
封印された巨大な存在は開放されてラスボスになるのが常。
だが同時に、この手合いの裏には事件の糸を引く黒幕も付き物だろう。
なにより放ってはおけない、と言う芳香のために、まだ調査を止めるわけにはいくまい。

悪路王

現れた道真と思わしき存在、「怨霊王」は、別段何をするわけでもなく神出鬼没に行動しているようだ。
時折、自身の元に飛来する黒い気質を吸収しているらしい。
余裕かましてられるのも今の内。お前はすぐにメガトンパンチで前歯ロストさせるから覚悟しとけよ?
と意気込んで捜索した結果、どうにか怨霊王を発見できた。
あれがOnryouのKingだな!バラバラに引き裂いてやろうか!
「人の身で我に挑むか、愚かな…」
浮遊する怨霊王を見て、芳香が呟くのを聞き逃さなかった。
「…違う」

  • 怨霊王
    怨霊王は剣を持ち術も扱う万能タイプの敵だ。さらにファイナル分身までやってのける。
    絶対に勝てないイベントバトルだが、負けイベントでもない。時間制限まで粘ろう。

「違うぞ!」
「なに?」
「お前は、道真では無い!」
怨霊王との戦いの最中、芳香が叫ぶ。
「道真の身体から出て行け、怨霊王!それは…冒してはならない一線なんだぞ!」
「…その身に宿る霊力は、まさか。神と呼ばれるこの身体にまともな霊力が残っていなのは、貴様の存在ゆえか。道理で、簡単すぎると思っておったのだ」
一人でブツブツと呟く怨霊王。
不意打ちいただきィ!とヒキョウ上等に仕掛けた攻撃もあっさり止められ、吹き飛ばされてしまう。
「ならば貴様を!」
「ちーかy…ッ!?」
怨霊王は空中を滑る様に移動し芳香に襲い掛かろうとする…が。
その手は途中で見えない壁に阻まれた。この結界は…。
…カグラ!?
「見つけた、菅原道真…いえ、怨霊王!」
あの腋巫女っぽい服装の少女カグラが天皇の兵士多数と共に援護にきてくれたのだ。
「鬱陶しい!」
彼らは怨霊王の一撃で脆くも飛ばされそうになるが、それをカグラが結界で抑える。目障りに思った怨霊王が力を込めようとして…逆に力が抜けた。

 

その横腹に、芳香が毒爪を突き立てたからだ。
同時に、カグラの結界に怨霊王が弾き飛ばされる。
「ぐおぉぉ…!生意気な…」
「覚悟しなさい、怨霊王!」
カグラと天皇の兵士が怨霊王に止めを刺そうと駆け寄るが、それより早く彼の身体から黒い煙のようなものが立ち昇り、カグラたちは後ずさる。
やがて黒い煙が大きく口を開け、その中にギョロリと目玉が覗いた。
「死体ニ活力ヲ期待スルハ愚デアッタ…ヤハリコノ姿ガ落チ着クワ」
「…それが、怨霊王の本性か!?」
「訂正セヨ、我ハ悪路王。タダノ動ク死体とは比ベ物ニナラヌ」
「自分で墓を暴いておいて、よく言う!」
悪路王と名乗るそれは空高く舞い上がる。これでは手が出せない。
「聞ケ、道真ノ霊力ヲ宿ス黄泉帰リヨ」
「…私?」
「ソノ身ノ霊力が尽キル時…ソレガ貴様ノ本当ノ死トナル」
説明が足りない不具合を修正すろ!
「我ニハ力ガ足リヌ…ダガ十分ナ力ヲ取リ戻シタ時、改メテ道真ノ霊力ヲ頂クトシヨウ」
結局不具合の修正は無いまま悪路王は飛び去ってしまった。
呆然とする一同を痛いほどの沈黙が支配するが、ただ芳香だけが呟いた。

 

「全部…思い出した」

晴天の風は柳の髪を梳かす

京を騒がせた菅原道真と思わしき存在、怨霊王の正体は、彼の墓を暴くことで日本最強の悪霊と云われる道真の力を得ようと画策した妖異、『悪路王』だった。
意味深な言葉を残しいくえを眩ました悪路王に対して手の打ちようが無い一同に出来るのは、全てを思い出したという芳香の話をきくことだけだった。

八意堂にて

…なんでここに連れてこられたか理解不能状態。
「理由はアレね」
アレ…?
お永が指差した先に居たのは、新撰組羽織の2り。
「新撰組一番隊隊長、沖田総司」
「同じく十番隊隊長、原田左之助」
「悪路王討伐の命を受け馳せ参じた」
なんでこの2りが…。
「もう一つの理由があっち」
別の方角を指すと、そこにはまた別の人物が。
「天皇の命により、この夢子が助太刀いたします」
「ね?」
「幕府と帝、両方が参加するのか…」
…なるほど。だから中立の、どちらでもない八意堂に。
「狭くて困るわ。患者が居ないのは幸いだけど」

 

役者が揃ったところで、芳香が切り出した。
「まず、悪路王が言っていたこと…私に道真の霊力が宿っているという話だけど。あれは、本当のことだ」
「一度に話すとややこしくなっていけねぇ。一つずつ纏めていこうぜ」
左之助の提案に芳香は頷いた。
「道真は平安時代の人物でしたね」
「死人の力が今になっても残ってるなんざ、本当にあるのか?」
「本来ならありえないだろう。実際、道真本人に霊力なんて無かったのだ。だが、道真は死後に悪霊として、さらに天神として畏れられ崇められた。神と化した道真に信仰が注がれた…それがこの身に宿る『道真の霊力』だ」
「その僵尸の身体そのものが、祈っている者たちも知らず、信仰の対象になっているわけか」
言ってしまえば、芳香の存在が『道真に対する信仰』とイコールなのだ。
これは恐ろしいことだ。
信仰によって神が得る力は莫大だ。天神とまで呼ばれる道真ならば尚の事。
「悪路王の様な妖異が道真の霊力を得たがるのは無理の無いことですね。彼の霊力を得るのは、自分がそのまま強大な神に成り代わることと同義なのですから」
今まで漠然としていたが、夢子が纏めてくれた言葉で、ようやく悪路王の目的が理解できた。

 

「ならば何故、今になって悪路王が道真の墓を暴いた?それほど容易く得られる力ならこれまでにも妖どもが狙っていてもおかしくないものだろう?」
総司の疑問はもっともだ。
霊力を得る、という行為がどんな難易度かはさっぱり分からないが、平安時代から今日まで道真の力を狙った存在が他にいなかったとは思えない。
「見れば分かると思うが、私に宿る道真の力は、実はそんなに多くない。これは道真の霊力が分散して存在しているからだ」
「今までは分散された霊力が墓を守っていた…?」
「分散していた力は私が朝鮮出兵に赴いて日本を離れ…つまり道真の霊力同士が離れたために一度沈静化した。それでも墓は暴かれなかったが…僵尸として日本に戻ってきた私に自我を取り戻させるために道真は消耗し、墓の守りが薄くなった。悪路王はそのわずかな隙を突いたのだ。既に墓に残っていた道真の霊力の半分は奴が吸収しているはずだ」
「なるほどな。悪路王とやらは汚い真似が好きなようだ」
そして…芳香自身は口にはしなかったが、その話は日本最強の悪霊にして天神の力を持ってしても、僵尸を元の人間に戻す術は無いということを示していた。

悪路王討伐隊

「ま、いつまでもグダグダ話してても仕方ねぇや」
元来長話の苦手な左之助が痺れを切らした。
「要はその悪路王ってのをぶっ倒せばいいんだろ?」
乱暴ではあるが、彼の言う通り、実際に道真が復活したわけではなく、芳香はこの通りなのだから、悪路王さえ倒せば今回の事態は丸く収まるのだ。
「単純明快でいいじゃねぇか。俺好みだ」
「ですが、悪路王は今、京にはいないのでしょう?戦うにしても場所が判明しないのでは手の出しようが無いじゃないですか」
「その心配には及ばない」
心強い言葉を期待して、一同が芳香を見る。
「悪路王の目的は何だ?道真の霊力だ。私が力を解放すれば、奴は無視できないはず」
「囮作戦というわけですか。あまり気が進まないですが…」
「それは弱音か、それとも失敗した時のための予防線か?」
「な、なんですって!?」
総司の言葉に、夢子が立ち上がる。
「私は意見は無いぞ。必ず成功させる自信がある。…帝の侍女長殿は如何かな?」
「も、もちろん!不確定要素なんてありません!新撰組様のお手を煩わすこともありませんよ!」
「まぁ…そうピリピリすんなよ」
かくして、ここに悪路王討伐隊が結成されたのだった。

 

ところで、お永先生は参加しないんでうsか?
「あら、善良にして非力なる一般市民をそんな壮大な相手との戦闘に混ぜないで欲しいわ」

雪解けの波は苔の髭を洗う

芳香が決戦の舞台に選んだのは、道真の墓から見下ろせる平原。最後の戦いを彼に見せようという魂胆が垣間見えたが、誰も何も言わなかった。
夜。
その場には既に命令を受けて待機している新撰組隊員たちとカグラ含め有志たち、また、天狗のアヤもいた。
ここは危ないぞ?
「私は真実を記す者として、見届けなくてはいけない義務があるのです!…私が生まれるよりずっと長い間続く因縁の決着を、この目に焼き付けたい。…お願いします」
「…いいぞ」
「やっと許しが出たか!封印が解けられた!」
芳香が戦陣の中央に立ち、祈るようにして、身の内に宿る霊力を解放していく。
戦力は十分、後は悪路王が現れるのを待つだけだ。

 

やがて。
「ようこそ悪路王、お前の死に場所へ。我の仲間の眠る地へ」
「…餓鬼デモ理解デキヨウ罠ダ」
「餓鬼でも分かる罠にわざわざご足労だったな!」
「まぁ、ゆっくりしていけやぁ!!」
訪れた決戦の時は、悪路王の黒い影で出来た両手が総司と左之助と打ち合う音で始まった。
同時に、悪路王の配下であろう夥しい数の妖異が夢子率いるカグラや新撰組の皆と戦闘に入る。
「まるで戦争だ」
兵士だった頃を思い出すのか?
「私にとってはそんなに昔の話じゃ無い」
暢気に会話しつつも、悪路王と刃を交える2りの新撰組の助太刀に入った。
「虫ガ何匹集マロウトモ無駄ダト理解サセテヤロウ」

  • 悪路王
    悪路王は結界で守られているため、先にマスターハンド両手を攻撃する。ある程度ダメージを与えると本体にも攻撃できるようになる。
    注意したいのは悪路王の技でも最大の威力を誇る「黒い波動」。発動に溜め必要だが、一度放つと大ダメージと共に悪路王は悠々と回復してしまう。溜め中にスタンを取って中止させないといつまでも戦いが終わらなくなってしまうのだ。

「ムゥ…」
「怯んだか!」
「舐メルナッ!!」
悪路王が叫ぶと、周囲に影が現れた。その影は形を変えて…対峙している相手とそっくりになる。
「人間如キニ、コノ我ニ勝利スルコトハデキン!!」
「チッ、化け物が…」
や、やばい…もうこっちは大分消耗してるのに、悪路王はまだ戦えるようだ。これ以上は危険すぐる…。
「……ッ!」
その時、芳香が皆を庇うように仁王立ちする。
「…!?おい、僵尸!何の真似だ!?」
「私には奴と…悪路王と同じ力が宿っている。本来、それは奴の身にあるべきものではない!」
芳香の身体がにわかに輝きだす。
「どうなっている!?」
「この霊力の全てを、本来あるべき場所に戻すだけだ」
「何ヲ……!?」
元が同じ源の力同士が共鳴する、磁石のように…あるいは愛する者のように、互いが互いを呼び合っている、引き付けあっている。通常ならそれは、互いの位置を理解できる程度の効果しか無かったのだが…皮肉にも、僵尸という不浄の存在に宿っていたために、霊力は普通より離れやすくなっていたのだ。さらに、不浄の存在は悪路王も同じこと。
消費した魔力は時間の経過と共に本来の持ち主に帰っていく。霊力も同様、本来あるべき者に…『菅原道真への信仰』に還元されていく――!

 

それは、光だった。
悪路王の身を焦がし、溶かし、飲み込む光。
芳香の身を包み、抱き、愛しむ光。
菅原道真。
天神と呼ばれる存在。

 

みな、ただ憮然と見ているしかなかった。
『神の降臨』という、一生で一度も体験できないであろう光景を、その目に焼き付けながら。

 

「芳香は三度死ぬ!!
 一度目は仙人として、悪霊との戦いに敗れ!
 二度目は兵士として、血潮を毒に変えられて!
 三度目は僵尸として…いや、この国を愛する者の一人として、この国を守るために!!」
お…おい、待て!待てよ!芳香は、芳香はどうなる!?
「………」

 

「私、馬鹿だから分かんない!!」
おいィィィ!?!?
言っている内にも芳香の身体は光に飲み込まれてどんどん薄くなっていっている。
「でも、でもね!!」

 

「私に楽しい時間をくれて、ありがとう!!」
……!!!

 

光が薄れていく。形を無くして元に戻っていく。
誰も動けない。誰一人として動けない。
これまで一緒に旅を続けてきた仲間を連れ去ろうとしているその光を恨めしく思い、、でもどうしたって動けない。
そして…空が青色に戻った頃。いつの間にか夜が明けていた頃。
一陣の風が、新しく芽吹いた柳の枝を揺らした。

 

懸念すべきものなど、もう何も無い。何も恐いものなんて無くなった。
めでたし、めでたしだ。何も悲しむ要素なんて無いだろう。野心家の妖異が一匹、それと…いつかはこの手で仕留めなくては成らなかったであろう僵尸が一人、消えただけだ。
…それだけ、なのに。
「…守れてるだろう、お前は」
……。
「あいつの想いを、間違いなく守った」
……。
「泣くぞ。すぐ泣くぞ。ほら泣くぞ」
……ッ!!

 

京を襲った危機は、少年の慟哭で幕を閉じた。

 
 

僵尸のその後