カラードランク2 東風谷 早苗
……えーと、まぁ。
つまるところ私の事ですが…
貴方は私の名前を聞いて、まず最初に何を連想します?
戦績から、インテリオル・ユニオンの最高戦力などとよく言われますが……
…うん。連想されるなら博麗 霊夢の後継という声が最も大きいのではないでしょうか。
彼女ありきのようなワードですが、あながち間違ってないと思います。
霊夢さんと私は所謂師弟関係の様な間柄でしたから。
その苛烈さから様々な異名で畏れられた彼女ですが、決して横暴なだけの人物ではありませんでした。
……今思えば、自分の感情に正直すぎた人だったのだと思います。
世界移動シナリオ-ARMORED CORE Paradise of Stain編のイベント
A Daughter's a Daughter -娘は娘-
- ミッション解放条件
- オーダーマッチでランク2 カゼハフリを撃破
SHRINE MAIDEN -博麗 霊夢-(リンクス養成訓練・実戦演習)
10年前の当時、私はインテリオル新鋭のリンクス候補生として養成施設で訓練を受けていました。
元々、私はインテリオル重鎮の一関係者だったのですが、たまたま高いAMS適正を有していた事をきっかけにそのインテリオルにスカウトされ、リンクスとして調整を受けることになったんです。
個人の才能に大きく左右されるリンクスの希少性から、優秀なAMS適正を持つ素材の獲得は企業にとって命題とも言えました。
当の重鎮である私の保護者は、これに対して幾ばくか難色を示しましたが、私を中心になんとか説き伏せ、
そして、私は養成施設にてリンクスとしての調整を受けることになります。
そこでの訓練は辛いものばかりでしたが、あまり苦にはなりませんでした。
"ネクストに乗れる。"
当時の私にとって、その事実はあらゆる障害を吹き飛ばすに足り得る魅力的な事柄でしたから。
鼻高々になってたきらいすらありましたね…。
ともあれ、
そうやって着実に成果を出しながらステップを踏み続けて、いよいよ実戦訓練という段階に入った時、
その教官として宛がわれたのが、彼女でした。
「えーと、あんたがリンクス候補生…だっけ?
お偉いさんの関係者っていう。……何で私に押し付けるかなぁ、こーいうの」
「はい、貴方が…その、実戦演習の教官ですか?」
「そうだけど……何?」
「いえ、あまり私と変わりないな、って……」
実戦訓練の教官を担当する「博麗 霊夢」という人物は、インテリオルの最高戦力に食い込む凄腕のリンクスと聞いていたが、
当の彼女は、大人びてはいるものの、私より少し年上の少女だった。
思わず口走った不躾な感想を、しかし彼女は気にした様子もなく飄々とした調子で返した。
「リンクスに老若男女なんて関係無いわ。AMS適正と技術があればそれでいいの。
まぁ、外面良いに越したことはないらしいけど。
それに女子供ばかりだからね、インテリオルのリンクスは。あんただけってわけじゃないわ」
そんなものなのだろうか…?
内心いまだピンとこなかったが、頷くことにした。
これで結果を出せば、念願のネクストに乗れるのだと自分に言い聞かせて。
[Hakurei Reimu]
演習について軽くおさらいするわよー。演習内容はシミュレーターマシンを使っての模擬戦。私とあんたとの一対一の勝負になるわ。
使うネクストのデータはインテリオルの企業標準機のTELLUS。
武装については機体設計図のものと同じ。あと擬似的なものとはいえ、あくまでネクストの使い方に触れるだけだから、勝敗は二の次よ。
一応覚えておいて。えーと、説明は以上。
じゃあ、軽くやってみますか。
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作戦エリア | シミュレーター戦闘・砂漠 |
作戦目標 | 敵ネクスト撃破 |
[Hakurei Reimu]
うーん、どうしたもんかしらねー…
……とりあえず、馴らし程度にQBからやってみよっか。
機体動かし慣れないままやっても、演習にはならないし。
「……
いえ、大丈夫です。演習を開始してください。
訓練は受けてますから」
[Hakurei Reimu]
……訓練って、あんた。…………まぁ、いいか。説明する手間が省けたと思えば。
プレイヤーと敵側の機体は両方「Y01-TELLUS」。
武装は右腕武器にパルスガン「PG02-DENEB」、左腕にレーザーライフル「LR01-ANTARES」。
右背中にASミサイル「BM03-MEDUSA」左背中にはレーダー「RD01-SIRENA」を装備。
ミサイル以外はEN系武器、しかもテルスのEN防御はかなり高いため、お互い思うように削れない。
APを50%削れればそこでミッションは終了なので、とにかくガンガン責めよう。
勝てるかもしれない。
模擬戦とはいえ、現役のリンクス相手に、勝てる。
初見とは思えない手応えと実感に、私は悦と興奮に浮かされていた。
『…あまり良い傾向じゃないわね』
教官の呟きが、自分に負かされることへの焦りと勘違いする程に。
『……成る程。お偉方が有頂天になるだけはあるわ』
投げ掛けられた称賛をブーストに、さらに敵に攻め込む。
このままいけば勝てる。そう確信し、
『でも、言ったわよね? あくまでネクストの使い方に触れるのが目的。勝敗は二の次って』
直後に、一斉射撃をまともに受けた。
「えっ」
『……演習じゃなくて、戦闘がしたいなら、先にそう言ってくれないと困るんだけど』
「…!」
『でも、そうしたいのなら話は早いわ』
『お手柔らかにね』
結果は散々だった。
あの後、まともな反撃も許されず一方的に叩き伏され、メインカメラ画面上部の装甲値はあっという間にゼロまで削れてしまった。
半ば茫然自失とした私に対し、教官は溜め息をつき私に言葉を投げ掛けた。
「あんた、ネクストに乗りたいんだっけ?
…乗れるようになるのは良いけど、ネクストに乗ってそこから先どうするか、考えたことある?」
言われて、気が付いた。
ネクストの搭乗という目的が先行していたが、乗れるようになってからの目的までは考え付いていなかった。
……それまでの私は、ただ「ロボットに乗ってみたい」という、子供染みた考えで行動していた。
「……綺麗事でもなんでもいいから、理由みたいなものを見付けておいた方がいいわ。
…燃え尽き症候群のままやれるほど、リンクス業は優しくないから」
つっけんどっけんな言い方だが、その言葉には少なからず私への心配が含まれていた。
「じゃあ…貴女は……一体何の為にネクストに乗るんですか…?」
「え?」
絞り出すような私の問いに対し、彼女はきょとんとした表情を浮かべたが、
すぐさま右の人差し指と親指を曲げて円を形作ると
「金」
…思わず頬が引きつった。
確かに賃金は生きるためには必須な要素だが、その時の彼女の眼差しと表情はあまりにも真剣染みていた。
周囲に強い殺気を漂わせ、聞かなければよかったと引いてしまうくらいに。
……思えばこれが博麗 霊夢との馴れ初め。
そして、守銭奴かつ奢らせ魔かつ面倒見のよい先輩であった彼女との付き合いの始まりだった。
TRIAL -試練-(対サー・マウロスク戦)
以後、ネクストが発注されるまでの間、
私は霊夢さん基準で「使い物」に為の指導を受けることになったのですが…
その訓練方針が一昔前のゲームみたいに、「とにかく死んで覚えろ」的なものだったんですよ。
そして、その難度が絶妙と言うか。
段階的に手を抜いて、私が後もうちょっとで手が届く所まできた、
と思ったら少しずつ本気を出してくるんです。
その都度、ボッコボコにして、その都度ケロリとした顔で私を迎える訳です。
……でも、まあ、手応えは感じていたんですよね。
ちょっとずつですけど霊夢さんと戦えている時点で。
「はい。今日の訓練はここまでー」
累計十数回目になる本日の実戦訓練が終了し、上官の暢気な声が私の耳に届いた。
シミュレーターから降りた私を待っていたのは、団子串を口に咥えた上官こと、博麗 霊夢その人だ。
「最初のころに比べて、こなれてきた? 簡単に死なないくらいにはなったみたいだけど」
「十回以上も相手してればそうなりますよ……」
相変わらず暢気な声に脱力しながら、返す。
そんなことよりも、だ。
「…それよりも、訓練が終わるたびに私を居酒屋に連れ込んで、会計を払わせるのなんとかなりませんか…?」
「今月は危ないのよ」
「いつもそればっかりじゃないですか。というか、お金くらいもらってるんじゃ…」
「企業の方はネクストの修復費用以外はあまり払ってくれないのよ。歯車だからって足元見てるの」
そう言って養成施設の職員をジト目で睨んだ。睨まれた女性職員は慌てた様子で首を横に振る。
「そんなことない」という精一杯のアピールだった。
彼女は忌々しげに溜息をついたと思えば、急に此方に振り向いた。
「あ、そうだ。ネクストといえば、決まったらしいわね。あんたのネクストの発注。
まだネクストが届くのはだいぶ先だけど、名前は決めたの?」
「非想天則、なんてどうでしょうか」
名付けるならロボットらしい名前を、ということでそれらしい名前にした。
割りと会心の出来だと思ったのだが、彼女の反応は芳しいものではなかった。
「……縁起が悪いわね」
「縁起、悪いですか?」
「個人的にはねー。非想天則って、要は『天の法則を想えない』…自我がないって意味でしょ?」
「……」
実際は特撮番組のノリで名付けた名前に漢字を充てただけで、そこまで深い意味を含んではいない。
……だがその感想を聞いた時、私は怖気に似た何かを感じた。
「……あんたはそんな人生、送らないようにしなさいよ。私みたいな赤貧じゃないんだから」
「言われても、今日は奢りませんよ?」
「…………あはははー。…勘が良いわね」
…怖気の正体はこれか。
そうやって肩を落としていると、
「なんだ、そいつが例の候補生か?」
背後から鼻につくような男の声が聞こえる。
振り向くと、見下したような表情を浮かべた男性が立っていた。
長身かつ端正な顔立ちの、イタリア系だろうか。その態度からは傲慢がにじみ出ている。
私達の会話を聞いて談笑していた他の職員もその男から明らかに距離を取っていた。
「なーんだ、マウロスクか」
「サー、"サー"・マウロスクだ」
……サー・マウロスク。
リンクスナンバー9、インテリオルグループの盟主、レオーネ・メカニカに所属するオリジナル。
…レオーネ・メカニカの最高戦力。
「あら。知ってたの」
「ハッ、当り前だ。所属する事になる企業の最高戦力の名くらい、知って当然のことだ」
「で、その最高戦力サマが何の用? 別に文句がある訳じゃないけど」
呆れたように呟いた上官の呟きに、サー・マウロスクは鼻を鳴らした。
「新人候補を見定めに来た。文句はあるか?」
「ない。……で、どう、この子? 結構いいセンいってると思うんだけど」
「腹立たしい。実に腹立たしいが、及第点だ。ノーマル共を蹴散らす分には釣りがくるだろう。
……貴様が扱いたのだからそうあってなるべきか。だが気に食わん」
「……そーとー腹立たしいみたいねー」
「貴様にも言えることだが、こんな子供が戦場に立つ事が気に入らん。
……何でも志願してそうなったと聞いたが理解に苦しむ。レオーネの戦力など、私一人で賄えればいい」
「男尊女卑? 貴族サマは言う事が違うわねー……それにミスティアとかはどうなのさ」
「憂いているだけだ。成人を迎えてすらいない子供が戦場を這いずり回ることにな。
そして奴は妖怪だ。外見はまるで当てにならん」
霊夢さんはへいへい、と面倒くさそうにいなした。
周りが遠巻きに見ているのに対して、この対応である。
「大層な自信だけど、如何にネクストといっても質だけでどうにかなるものじゃないわ」
「ああ、カノンフォーゲルの英雄の様にか? それともサージェント・フクダか?」
「……いやいや、あんなリアル絢爛舞踏、何人もいてたまるもんですか」
前者は確かドイツの軍人だっただろうか。
大昔の大戦で大暴れしたと聞くが、結局自国は勝てなかったそうだ。
しかし、フクダ軍曹とは一体誰の事だろうか。
素朴な疑問を内心で考えている一方、サー・マウロスクは朗々と持論を述べていた。
「だが、それも現実となりつつある。それを体現するモノを私達は扱っているだろう?
質が量を圧倒する。かつての戦争のバランスを覆す存在、それが我々リンクスだよ、博麗 霊夢。
質だけで如何にかものではないと貴様は言うが、レイヴンだのノーマルだの、旧世代の遺物とは格が違う。
……主義主張さえなく、金さえもらえれば、それだけで殺しを繰り広げるあのテロリストもどきとはな」
レイヴン、ノーマル、テロリスト。その単語を吐きだした途端、サー・マウロスクの顔が嫌悪に染まった。
それにつられるように、嫌な寒気が私の背筋を走った。
霊夢さんは胡乱気にサー・マウロスクを見つめていたかと思うと。
「……。
早苗ー、居酒屋いこっかー。お酒呑も、お酒」
「霊夢さん、私達未成年ですよ? あとスルーするのもやめましょう?」
「……ク、ククク……ズドン巫女とは違って、そこな新人は分を弁えているようだな……」
「ズドン言うな、蹴り散らかすわよ」
「あ、そうだ。早苗」
会ってから嫌というほど思い知ったが、この人はかなり唐突な発言を零す。
意味あっての事なのだろうが、それで振り回される事は確実であり、今回もまさにそうだった。
「いいこと思いついたわ。マウロスクと一回勝負してみ?」
「「えっ」」
思わず間の抜けた声が出た。
以外にもサー・マウロスクも似たような反応を見せていた。
「勝負してみ?」
「馬鹿か?」
「無理ですよ、最高戦力ですよ? 蹴り転がされるに決まってます」
サー・マウロスクが冷笑を含んで切り捨て、
私も慌てて反対すると、サー・マウロスクが何故か嫌そうな顔で私の顔を見てきた。
「お前もあの巫女と同じか……」と言いたげな表情だが何の事か理解できない。
すると、霊夢さんは同性から見ても素敵な笑みを浮かべて、
「麻雀での貸しを忘れたとは言わせないわ、マウロスク。協力するか、COAMで返すかどっちがいい?」
「ぐっ! ……あれはどう見てもイカサマだろう、ノーカウントだ。
というかだな、なんなんだ、あの国士無双十三面って。訳がわからんぞ」
「生憎自力の運なんだなあ、これが」
「化物め、リンクスではなくサマ師として生計を立ててしまえばいいモノを……!」
「賭け事で生計立ててたら、周りにやっかまれて、売り飛ばされました♪」
そんなどす黒い会話を繰り広げた。うわあ。
「……一体どういう意図だ、博麗 霊夢」
「この子の土台を固めるのにあんたとの実戦演習はやっておいて損はないの。
レオーネの最高戦力との戦いでいいとこまで喰らいつけられたら、これ以上の評価はない」
「私の後釜に据えさせるつもりか? 馬鹿げた真似を」
「……少しでも有利な立場がいいの。上にいい様にさせる訳にはいかないでしょ」
「…………チッ、まあいい。不本意な貸しを返せるなら、それでもいいだろう…
……で、貴様はどうする? 言っておくが手加減などせんぞ、新米。やる気なら精々喰らいつくがいい」
……土台。
彼相手でも十分戦えると証明すれば、オリジナルの戦力にも引けを取らないと盤石な評価を得られるだろう。
だが、それだけでいいのだろうか。
凄腕のリンクスが相手とはいえ、シミュレーター戦闘のみで、実戦も経験した事がない私が。
内心で困惑していると、霊夢さんが声をかけてきた。
「早苗」
いたずらっぽくウィンクしながら笑みを浮かべ、穏やかな声で、
「できるわよ、あんたなら」
私はしばし迷い、しかし目の前の最高戦力に一礼した。
「お願いします。サー・マウロスク様」
ネクストを志した動機は御世辞にもまっとうなものではない。
だが、それをいさめつつ、後ろ背を押す人物がいる。
…乗れるようになるのは良いけど、ネクストに乗ってそこから先どうするか、考えたことある?
未だ決まってはいない。だが、志もなくネクストを駆るつもりもない。
私にできることを、今あることを努力するまでだ。
[Sir Maurescu]
聞えているか、新米。
演習内容は海上での一対一の戦闘だ。
その上で私はラムダを使わせてもらう。
嫌とは言わせんぞ。申し込んだのは貴様からだからな。だが、凡庸な標準機など叩き潰しても面白みに欠ける。
貴様は博麗 霊夢の機体データを使え。
奴の機体ならそこそこは使えるだろう。以上だ、他に語ることなど無い。
さっさと終わらせて、面倒な貸しを返してやる。
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作戦エリア | シミュレーター戦闘・海上 |
作戦目標 | 敵ネクスト撃破 |
[Sir Maurescu]
教えてやるよ、新米。
オリジナルNo.9との格の違いってやつをな。
[Hakurei Reimu]
オリジナルナンバーはあくまで通常戦力への優位性でしかない。
臆する必要なんてないわ。いいとこ見せてよ、早苗。
「……了解です!」
[Sir Maurescu]
ええい、余計なことを!
この戦闘ではパルスガン「PG03-SPICA」、レーザーライフル「LR02-ALTAIR」、レールキャノン「RC01-PHACT」、レーダー「RD03-PANDORA」を装備、パルスガン「PG02-DENEB」を格納した「シュライン・メイデン」がベース。
中距離からの戦闘が大得意な機体構成で仕上がっている。レールガンで中距離から削る様に戦おう。
相対するラムダは追加PA装置を搭載しており、EN兵器への耐性も高いが、純粋な総火力の面では此方が上。
なによりフェルミがいない。
「おめでとさん! まさかあんなに鮮やかにボコるなんてね。想像以上と言うか、霊夢さんは御満悦です」
「あ、ありがとうございます!」
なんとか勝利をおさめて、シミュレーターから抜けると霊夢さんに熱い抱擁と賞賛を貰った。
正直、自分でもあまり実感がない。ただ達成感に近いものが胸中からこみあげてくる。
「……」
サー・マウロスクもとても不愉快な表情を浮かべていたが、渋々といった感じに頷いていた。
私が深々と一礼すると、表情を引き締めて、首を軽く振った。
「いや……いい。忌々しいが負けは負けだ。……なるほど、上層部が気にするだけはある」
「んー、気にしてる?」
「……まあ、侮れん新人であることに違いはない。仮想戦とはいえな」
しかし、と言葉を切ると、サー・マウロスクは私に向けて指を鋭く突きつけた。
「……だが、実戦ではこうはいかんよ。最高戦力の座も譲り渡すつもりは毛頭ない」
「はいはい。ユーアーナンバー⑨」
横槍を貰い、サー・マウロスクが憮然とした表情で退室した。
周囲の職員がホッとする辺り、相当やり辛い相手なのだろう。それに堂々と相対する霊夢さんも霊夢さんだが。
霊夢さんはそれを横目で見ると、指で髪を軽く梳いた。
「……まあでも、私も教官面してられないわね、こりゃ」
ぽつりとつぶやいた言葉だったが、それを聞いた私は只管嬉しく思った。
いつもはノラリクラリ躱されるだけだったが、ようやくこの人がたっている場所に近付けたことを実感した。
「でも、あんまり調子にのっちゃ駄目よ? マウロスクを負かした事は間違いなく誇れることだけど、
初めての実践演習のように、あんたは浮かれると痛い目を見るタイプだから」
そう、霊夢さんからは釘を刺されたが、暫くの間はややご機嫌な状態だった。
自惚れないように、内心では留め置いたが、オリジナルを撃破した事は施設内はおろか、インテリオル全体でもちょっとした噂になった。
だが、今までにない高評価を叩きだそうが、霊夢さんは相変わらず私に対して奢りを要求してくるのであった。
こう何度も続けられては、私の財布も彼女と同じく素寒貧になりそうだった。
そして、それから数日が経ちようやく私のネクストが届いた。
私は自分の半身となるそれを、最初に考えていた「非想天則」ではなく「カゼハフリ」と名付ける。
「シュラインメイデン」と自分自身の役職をネクストに名付けた、博麗 霊夢へのちょっとしたリスペクトを込めての命名だった。
リンクスナンバーはまだ与えられていないが、それも時間の問題だ。
ナンバーを与えられると同時に、私は正規のリンクスとして企業に所属する形になる。
師である霊夢さんと一緒に戦場を駆けるのだと、そう心に決めていた。
そうなる筈だった。
程なくしてリンクス戦争が起き、その中でサー・マウロスクやシェリングが戦死し、
その最終盤と終結を同じくして、博麗 霊夢とミスティアが企業を離反するまでは。
A FORLORN -儚い-(シュラインメイデン追撃)
「国家解体戦争が起こる前のことだけどさ、私ね。
アナトリアの傭兵……レイヴン時代の彼に助けられた事があるのよ」
レイレナードとアクアビットが崩壊し、リンクス戦争が終結するより少し前。
霊夢さんはそんな事を私に語った。
AMS適性が劣悪にも拘らず、レイレナード陣営の企業が誇る戦力を次々と葬り去る「アナトリアの傭兵」というリンクス側から見てもイレギュラーと映る存在。
アクアビットの切り札「ソルディオス」、そしてレイレナードの精鋭リンクス部隊が悉く屠られ、その脅威にインテリオル社内がざわついている時のことだった。
「反政府テロリストの活動に巻き込まれて、親の遺した神社ごと危うく死ぬところだった。
そんなところにあのレイヴンがやってきてさ、彼がテロリストを返り討ちにして何とか生き残れたってワケ。
……結局、神社騙し取られたりで、色々後ろ暗い方に転落して、インテリオルに流れ着いたんだけど」
ま、あっちは多分覚えちゃいないわ。そう言って苦笑いを浮かべた。
「アルドラのシェリングも、あの厭味ったらしいマウロスクも死んでしまった。
……トドメにメガリスもバラバラに引き裂かれて、私達インテリオルはこのリンクス戦争から早々脱落した」
サー・マウロスクの存在は、上層部にとっても相当頭痛の種だった。
BFFの最高戦力、「女帝」メアリー・シェリーのように、社内の経営方針にも口を出していたそうだから。
最高戦力という戦力は失ったが、同時に面倒な爆弾が取り除かれたことに、
上層部は少なからず安堵を覚えている様だった。
それについて、私は複雑な感情を覚えていた。
確かにオリジナルであることに鼻をかけたような人物ではあった。
だが、それでも根っから腐りきった人物とは思えなかった。
「……白状する。多分、終わって少しホッとしてる」
初めて、彼女が見せた弱い一面だった。
その時の霊夢さんにはこれまでの暢気な気配は一切なく、憔悴した空気を漂わせていた。
もしかすると、命の恩人と殺し合うところだった。
……私がもしそうなったとしたら、引き金を引けるのだろうか。
内心で首をもたげた不穏な疑問を打ち消したくて、私は誤魔化すように声を上げた。
「それでも、戦争は終わります。人もたくさん死にました。汚染も、無節操に広がったけど…
けど……終わるんです。それで……、いいと思います」
疲れた表情のまま僅かに微笑み、霊夢さんは頷いた。
「そう、ね……」
それから、レイレナードとアクアビットは崩壊し、
戦争が終わり、コロニー・アナトリアは突如壊滅した。
―そして、博麗 霊夢は私の前から姿を消した。
何が彼女を衝き動かしたのか。アナトリアの崩壊というニュースが飛び込んで、間もなくだった。
その時の彼女は鬼神の様な表情を浮かべていた。
子供を失った鬼子母神のような、憤怒と悲哀が綯交ぜになったような、壮絶な表情を。
そして企業の利権から発生したリンクス戦争は、戦争が生んだ皺寄せは、
DRAKというアナトリアの傭兵以上の脅威を生みだす。
結局、戦争はまだ終わっていなかった。
[Operater]
ミッションプランを説明します。ミッションターゲットはDRAK本隊の一角、我が社の標準機をベースとした重量二脚の赤いネクスト。
現在、ターゲットは旧アルハンゲリスクのタイガ群を移動中。
……武装や機体特徴から、恐らく我が社の元最高戦力、博麗 霊夢の可能性が極めて高いと思われます。
東風谷様は、彼女を追撃し、撃破してください。……心中を御察ししますが、彼女を倒さない限り、脅威は完全に消滅しません。
メリエスは、貴女に多大な期待を寄せています。
ご期待に添えて下さることを切に願います。
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作戦エリア | 旧アルハンゲリスク州 |
作戦目標 | 敵ネクスト撃破 |
[Hakurei Reimu]
来たか。
…よりによって、あんたが、ね。
「……投降してください、霊夢さん。
ミスティアさんもそうしました。
これ以上戦って、何になるんですか……!」
[Hakurei Reimu]
ミスティアは…折れちゃったのか。
……仕方ないもん、ね。
あいつ……本当は虫も殺せないくらい優しかったし。
[Hakurei Reimu]
歌姫になりたいってずっと言ってたのに……
なんで、よりによって私達の後をついてったんだろ、あいつ。
……
「……」
[Hakurei Reimu]
……覚えてる?
綺麗事でもなんでもいいから、理由みたいなものを見付けておいた方がいいって。ねえ、早苗。……理由は、見付かった?
「……今の霊夢さんは、何のために戦っているんですか」
[Hakurei Reimu]
今はお金、じゃないわよ…?
まぁ… どうにかしたかった。
アナトリアのあの惨状を見て、黙ってらなかった。……結局、私達もあいつらとなんら変わってなかったけど、ね。
利益か、理想…いいえ、個人的願望か。
それだけの違い。なんら変わってなかったけど、それでも。
…私は、見過ごすことなんてできなかった。
「……なら、止めます。今は、霊夢さんを止める為に戦います。
戦いなんて止めて、帰りましょう。
まだ私、霊夢さんからツケ返してもらってないんですよ……?」
―私/私は、こんな場所で、そんなこと言いたくなかった。
[Hakurei Reimu]
そうね、これが終わったら…………今度くらい、私から奢ろっかな…
―私/私は、こんな形で、そんな言葉聞きたくなかった。
私/私は……
シュラインメイデンを撃破するミッション。
パルスガン「PG02-DENEB」、ハイレーザーライフル「HLR71-VEGA」、ASミサイル「BM03-MEDUSA」、ハイレーザーキャノン「HLC02-SIRIUS」を装備した「カゼハフリ」を操作する。
ハイレーザーライフルは非常に強力だが、総弾数が低く、6発撃つと弾切れになってしまう。撃ちどきは良く考えよう。
相手は中距離戦が得意だが、こちらは強力なズドン兵器を多数装備している為、距離を取って戦った方が良い。
「責任は追及される、けれど……
けれど、私が全て説き伏せます。だから……!」
[Hakurei Reimu]
……購い、か。
シュラインメイデンが激しいスパークを起こした。
武装も大半が破壊、或いは弾切れを起こしている。
継戦能力は絶望的と見ていい。
[Hakurei Reimu]
……強くなったわね、本当に。
本来なら、一番聞きたかった言葉。明確に師匠に認められた瞬間。
それなのに……嬉しくなかった。
…当り前だった。
銃口を向けようとして、しかし焦点が合わない。
FCSが射程範囲内と告げようが、ネクストの手が細かく震えていた。
[Hakurei Reimu]
……撃ちなさいよ。
「貴女が、リンクス戦争でアナトリアの傭兵と戦うとしたら、追いつめたとしたら。
私と同じ状況だったら、……貴女は躊躇いなく引き金を引けるんですか!?」
[Hakurei Reimu]
……馬鹿。
シュラインメイデンが動きだし、カゼハフリ目掛け、急接近した。
体当たりだ。
決死の突撃。それをまともに食らった。
タイガは焼き払われ、地表が剥き出しになっている。
その下の永久凍土も。
戦闘の熱で凍土は溶け、大地は半ば沼地の様にぬかるんでいた。
そして、私はそれに気がつかなかった。
体当たりをまともに受け、二機のネクストが転倒した。
沼地と化した永久凍土の中に。
「……っ!!」
そして、
「雪崩!?」
山地につもっていた雪が解け、白い奔流が発生していた。
逃げ出そうと必死にもがき、ブースターを全開に、ぬかるみから逃げ出す。
そしてシュラインメイデンは……
「霊夢さん!」
[Hakurei Reimu]
……おめでと、早苗。
「……! 速く! 速く逃げてッ! 雪崩に呑まれます……!」
[Hakurei Reimu]
あんたの完 全 勝 利 よ。
そう言い残して、
シュラインメイデンは雪崩目掛けてオーバードブーストをふかし、
純白の中へと姿を消した。
「私の、勝ち……?
違う、勝利…、勝利じゃな…、…違う……!」
彼女を越えたいという気持ちはあった。
でも、こんなの、こんなものが勝利だなんて。
こんなの……
「霊夢さんの、勝ち逃げじゃないですか……!」
そして博麗 霊夢は私の前から姿を消してしまいました。
次いで、DRAKによる動乱もひとまずの終結を迎えます。
…死んだとは思っていません。
自害なんて殊勝な真似するくらいなら、お金の為にエンヤコラするような人ですから。
何より……
いきなりですけど、最近カラードに新しいリンクスが登録されたんです。
新米ながら、著しい活躍を見せる独立傭兵のリンクス。
そのオペレーターの方がですね……
何処かで聞いた声の人なんですよね。他人の空似にしてはよーく似てるんですよね。
私が聞いた話では、お金にがめついという噂もありますし。
インテリオルの仲介人さんも複雑そうな顔を見せていますし。
まあ、少し前にその人宛てにメールを送っておきました。
オーダーマッチで負けたから、賞賛と褒賞も贈ったんですけどね。
受信タイミング | ランク2 カザハフリ撃破 |
From | 東風谷 早苗 |
Subject | 負けました |
こんにちわ(それともこんばんわでしょうか?) どうも勝者側への餞別が慣わしになっているようなので、私からもひとつ。 背部武装「HLC09-ACRUX」を御贈りしました。 試作タイプですが、十二分に優秀な武装です。大事にして下さい。 貴方ならあのトップランカーも撃ち破れます。陰ながら応援しますね。 貴方の師匠に宜しく言っておいてください。 あと数年越しに呑みに行きませんか、とも。奢り抜きで。 |
返事来るといいなあ。
私もあの人も、お酒を堂々と飲める歳になってしまいましたから。
クリア報酬 | HLC09-ACRUX/GUESTSTAR |
背部兵装 東風谷 早苗機「カゼハフリ」が装備するデュアルハイレーザーキャノン「HLC09-ACRUX」のカスタムタイプ。 弾数増加や機体負荷の改善といった強化が図られている |