そうして戦いは終わり、新しい戦禍が世界に刻まれました。
ですが、傷跡だけが残っただけではありません。
遺されたワンダフルヘヴンの居住区域、人類の新たなフロンティア。
そして難航を極めていた宇宙開発への手がかり。
更には、管理者が残した技術の中には、
これまで不可能とされてきたコジマ粒子を浄化する技術のヒントすらあったそうです。
どこまでが事実で、何処までが虚偽なのかは分かりません。
まだまだ御伽話に過ぎないのかもしれません。
…ですが、私達はもう少しだけ生き長らえることは確かでした。
何れ状況が一段落したら、
両親にあって、今までの事を、これまで経験してきた事を打ち明けようと考えています。
そして、そのことを、ただの自己満足に終わらさず、
私が知ってきたことを、何かに…資料として残せれば。
不都合な事実かもしれません。
でも、顧みない訳にはいかない。
…そう思ったから。
……でも
でも、その前にやりたいことがありました。
「全てを終わらせ、世界を救った」とされるリンクス。
彼/彼女に逢いたかったのです。
「答え」を聞きたくて。
そして、その人物は私の目の前にいます。
―比那名居 天子の回想(現在進行形)―
Last Question
その「リンクス」と顔を合わせるのは、これが初めてでした。
彼/彼女は不思議そうな表情を浮かべ、息を吐く私を見つめています
その人は私が思っていたよりも、ずっと普通で、ずっと真直ぐな人でした。
私と年はあまり変わりません。
でも、その眼には力強い意思がはっきりと宿っていました。
――この人が、世界を変えた英雄の一人。
「私――比名那居 天子と言います」
私は名前を述べると、リンクスは懐かしそうに目を細めます。
まるで、私の事を初めから知っていたみたいに。
この人の後援者である女性は、この人は異世界からやってきたと言いました。
――もしかすると、その異世界にも私がいて、彼/彼女と友人のような間柄を築いていたのだろうか――
ふと思った疑問と感想を押し留め、私はリンクスに問います。
「私自身が思い描いた理由の為に、世界中を、あちこち巡ってます。
その…名前を――聞かせてもらってもいいでしょうか?」
リンクスは間を置き、簡潔に、はっきりと
「――――」
そう名乗りました。
「――――さん。聞きたい事があるんです。
貴方は――これから、どうするつもりですか?
戦いが終わったこの錆び付いた楽園で――貴方は何を望みますか?」
問いに、彼/彼女は少し目を瞑り、
そして、目をゆっくり開き、答えました。
その答えは―――
…過去に何度も、
【例外】が現れては、その度に波乱が起きた
過ぎた野望と野心から不和を起こし
それが荒廃へと何度も続いた
大きすぎる力が全てを壊す
それ自体は事実なのかもしれない
所詮、俺/私は異邦人に過ぎない
…それでも、この戦いの中で
自分が何を求め、何を見つけたのか…
それが、漸く分かった気がする
俺/私の役割は終わった
……帰るべき場所に、帰ろうと思う
【管理者】と名乗ったあの存在が
譲り渡した役割…
残された者の意思が、この世界を変えていけるのか
この世界がどのような行く末を迎えるのか
この荒廃した世界を…どう生きて抜くのか
過ちを繰り返し続けるのかもしれない
何も変わらないのかもしれない
それでも、
自分自身で望み、幕引きを望んだ機械の戦友に、約束した
この世界の行く末を…もう少し、見届ける、と
そうならない為に、意思を貫くと
返された答えを噛み締め、
私は静かに頷きました。
「貴方がこの世界に訪れたのは…その為だったのかもしれません」
「貫いてください。貴方の答えを」
かくして、荒廃した世界を訪れた異邦人の物語は、一先ずの終わりを告げる。
ワンダフルヘヴンの守護者は、与えられた役目を
人類に託し、その機能を停止した。
彼らは人によって生まれ、人の為に思索を続け、
人の為に戦い、そして人によって眠りについた。
守人を失ったワンダフルヘヴンは、
遂に人類の目の前へとその全貌を晒す。
しかし、それらを巡る戦いが完全に根絶したわけではない、
人類内部の問題が完全に終結したわけではない。
汚染の手が届かぬフロンティアを手に入れるまでに、
人類は幾つかの闘争を経る必要があるだろう。
結局、何も変わらないのかもしれない。
過ちを繰り返すだけの、愚かな生き物なのかもしれない。
だが、本当に何も変わらないのだろうか。
アルトリウスと呼ばれた自律回路は、彼らの可能性を示唆した。
彼らの意思に、未来を託した。
人の意思は人によって動かされる。
最後の評決を下すのは、我々の意思にかかっている。
その行く末を決めるのは、人類に他ならない。
異邦人がその結末を見ることはないだろう。
しかし、彼/彼女の意思が、
この世界の行く末に大きな賽を投じたことは疑いようのない事実だ。
歴史に消えた英雄の存在は、誰かの中に今も息づく。
人は人である限り、戦い続ける。
誰もが、生きるために戦っている。
幾つもの愚と過ちを踏み越えて、
人は少しづつ歩み続ける。
いつしか全ての歩みが止める、その時まで。
たとえ、それが愚かしさの証だとしても、
それこそが、私たちにとっての縁なのだから。
かくして、荒廃した世界を訪れた異邦人の物語は、ほんの少しだけ続く。
ワンダフルヘヴンの守護者は、与えられた役目を
人類に託し、その機能を停止した。
彼らは人によって生まれ、人の為に思索を続け、
人の為に戦い、そして人によって眠りについた。
守人を失ったワンダフルヘヴンは、
遂に人類の目の前へとその全貌を晒す。
しかし、それらを巡る戦いが完全に根絶したわけではない、
人類内部の問題が完全に終結したわけではない。
汚染の手が届かぬフロンティアを手に入れるまでに、
人類は幾つかの闘争を経る必要があるだろう。
そして、その戦いの中には彼/彼女の姿がある。
己が得た答えの為に。
そして、異邦人は答えを果たすのだろう。
世界が一応の結末を迎えるその時まで、
錆付いた楽園の物語は、ほんの少しだけ続く。
''ENDING No. 1234/v IX「for You is Answer」''