Patche,The GoodLack -剛運のパッチ様-

Last-modified: 2013-02-10 (日) 04:35:43
 

俺がエイトフィートアンブレラなんて小娘と出くわしたのは、いつだったかなぁ……
ああ、そうだ、数ヶ月前に企業からの依頼を済ませて、その帰路に就いた時のことだった。
反企業派の過激武装組織を叩き潰すだけの簡単な仕事だったよ。
…簡単な割に収支が悲惨? うっせえ、生きてりゃいいんだよ、生きてりゃあ。

 

で、その最中のコトだ。
疲れ果てたおかげで開きっぱなしだった通信回線が、SOS信号を受け取ったんだ。
無視すりゃよかったんだが、仕事ならともかくよ、オフの時に救命信号を無視するってのもアレだろ?
後味の悪ぃことすっと、飯が不味くなっちまうしな。
で、興味が湧いたって言うのもあってホイホイついてちまったんだよ、こいつが。

 

救命信号を辿って見つけたのは、荒野にポツンと鎮座したヘンチクリンなアセンブルのネクスト。
そのネクストにしがみ付いて、えんえん泣いている年若い娘の姿だった。
勘が良くなくても、察しが付きそうなもんだろ?
そいつが、エイトフィートアンブレラ……もとい「コガサ」だ。

 

ネクスト越しから事情を聴いても「怖い所から逃げ出してきた」の一点張りだ。
仕方ねえから、ネクストから降りてそいつに近寄ったのが運のツキだった。

 

病院の患者が着てそうな白衣に首筋のAMSプラグを見て、そいつがヤバい所から逃げ出して来たっつーのは理解できた。
ついげきに、白衣の端っこにアスピナ機関のシンボルがプリントされてたんだよ。で、確信した。
コイツが逃げ出したところっていうのは、人間様が持っていて然るべき最低限の良心やモラリティを、カーチャンの腹の中に忘れちまった鬼畜共が跳梁跋扈するあのアスピナ機関だってな。
その時点で見捨てるつもりだったよ。ネクストの研究機関なんざ、人を人と思わねえ人でなしの集まりだろ?
脳ミソにキ印が付いたマッドサイエンティスト共と関わりなんて俺は持ちたくはないね。

 

……そのつもりだったんだがな、すっげえつらそうに泣くんだよ、そいつ。
しかも片足を大怪我してやがった。
良く見りゃ、相当な別嬪だった。
片方の目が赤で、もう片方が蒼い。オッドアイっていうのか?
まあ、どことなく人間離れした容姿だ。もしかすると妖怪だったのかもなあ。
その時は脚の怪我のせいで、気にしちゃいられなかったが。
思うに、そこでつい躊躇ったのがいけなかった。ファンブルだ。
そいつは俺に飛びついたが否や、パイロットスーツを掴んで離さそうともしねえ。
…子泣き爺かよ。

 

あとはなし崩しだ。
結局、俺はしがみ付いてぶるぶる震えるコイツがいたたまれなくなって、一度アジトまで連れていくことにした。
……それにコイツが乗ってたらしいネクストは新品同然の状態だった。
あわよくば馴染みのガレージ屋かミグラント辺りに売っ払っちまえば、相当懐も潤う。
そんな邪なことを考えてたら……ああ、頭がいてえ。
誰が予測できるかね、この剛運のパッチ様がこいつのリンクスデビューの尻拭いをするなんて。

 

…とにかく、ついてねえ、本当についてねえよ。

 

世界移動シナリオ-ARMORED CORE Paradise of Stain編のイベント

Patche,The GoodLack -剛運のパッチ様-

 
 

ミッション解放条件
なし

THE GOODLACK? -剛運?-

 

「やったー! パッチさーん! 借金返済し終わったよ!! これで自由! ウィー・アー・フリーダム!」
「うるせえ、その間にこっちは素寒貧の一文なしだぁ…!」

 

ガレージ屋でこさえちまった借金を完遂するや否やハイテンションに騒ぐ馬鹿をどやす。
…そうだ、こうなっちまったのも全てあの依頼が悪い。

 

その元凶を依頼したのはとあるミグラント組織だった。
俺の耳にも入った事がある程度には大きな組織だ。
依頼主と対立する組織と喧嘩するっつー簡単な筈の依頼だった。
なんせ、相手は大抵、御粗末なミグラント製ACかMTだろ? ネクストなら楽勝の筈だった。

 

敵の方もネクストを、しかも相当な凄腕を雇わなけりゃなあ…

 
 
 
 

「ネクストだと!? 畜生! 簡単な仕事だって聞いてたのに話が全然違うじゃねえか!」

 

突然のネクスト登場っつー、想定外の事態に毒づいている間の事だ。
そいつらが依頼主の方をさっさと片付けちまってな、俺達は慌てて降参することにした。
みっともない? 知るもんか。
もう依頼主はいない、報酬も払われない。なんで戦う必要があるんだ。
俺は死ぬのは死んでも御免なんだ。

 

とにかく、俺は一旦、武装を解除して必死に訴えかけた。一世一代の大立ち回りのつもりでだ。
敵対する意義はない。お互いにメリットなんざない、ノーカウントってな。

 

相手の方は呆れかえっている様だったが、概ね俺の主張を理解はしている様だった。
―いけるか?
そう思った途端だよ。

 

「……わ、わちき許された?」

 

…こいつが余計なことを言いやがった。

 

いいえ、許しません
赦されるとでも?
まあ、そんなわけないよねー
許さない

 

……女って怖いよな、別れた女房のビンタを思い出したぜ。

 

『……まあ、ぶっちゃけると依頼人がうるさいし。ちょっと痛い目を見た方がいいと思うわ。うん』

 

…結論だけを言えば、あいつらの中でも無口な奴のオペレーターの言通り、命だけは助かった。
ネクストは完膚なきまでボコボコにされたがね。

 

それで馴染みのガレージまで修理しに出かけたら、大金吹っ掛けられた。マジでついてねえ。
一応料金を捻出はしたんだが、それでも不足してな。
結局、暫くは借金を払う為にガレージで働くことになったって話だ。
そして、ついさっき済ますべき借りを済まし終えた。

 

…自由だー、なんて喜んでいる余裕なんてないがな。
何せ、一文ナシからのスタートなんだからよ。早いところ依頼を捜さねえと悲惨な事になっちまう。

 

「どーしたの? 脂汗がひどいよ、パッチさん」
「……気楽でいいよなぁ、お前は。時々羨ましくなるよ」
「わーい、褒められたー」
「……」

 

……今すぐこいつを張っ倒さない俺は、このサツバツとした御時世とは違うもっと幸せな時代に生まれるべきだったと思うんだ。
なあ、そう思わないかあんたも。

 

「ねえ、みとりさん。パッチさんが壁に向かってブツブツ話してるんだけど…」
「え、え!? あ、ああ… た、た、たまにありますよね……」

 
 
 

 
 
 

…まあ、色々あったが、小規模の依頼をぼちぼち引き受けて、その報酬を基にちったあ立て直せた。
それで引き払ったアジトの代わりの、新しい拠点を構えて、数週間が経過したって時だ。

 

どうみても胡散臭い、学者風切ったような連中が俺のアジトにやってきやがった。
そいつらはアスピナ機関を名乗った。

 

「端的に仰いましょう。彼女、【被験体K-GS05】を引き取らせてもらいたい」

 

【被験体K-GS05】というのは、アスピナ(あっち)でのコガサの事だろう。
コガサがアスピナの出ということは周知だったが、
どうもこの小娘、こいつらが研究しているリンクス候補の中でも特に高いAMS適性を有している、らしい。
オーメルがだいぶ前に飼っていた「天才」に追い付けるかもしれない唯一の逸材とか、なんとか。
そういやあいつのネクスト、挙動が矢鱈と滑らかだったなあ。
何にせよ、他の被験体のように斬り捨てるには、単体の価値が少々高すぎるんだと。

 

「勿論タダとは言いません。代わりに、そちらが提示する額を好きなだけ支払いましょう。
 そちらにとっても決して悪い話ではないと思いますよ」

 
 

何だかねぇ。
お金はすきかい? 俺は大好きだ。しかし、傭兵にも好き嫌いってものがある。
企業側からの依頼の比率が個人によって偏る様にな。
こいつらはどうも気にくわねぇ。人ン家にズカズカ入り込んで、何言ってんだこの連中。

 

なんで俺に向かって、神経逆なでするような言い方で話を通しているんだ?
俺は面倒は御免だって常日頃から言ってんだろうが。
それに本来はコガサに言うべき事柄だろう。コイツもいっぱしのリンクスなんだ。
元はお前らの悪趣味な実験の素材でも、今は独立傭兵やってんだぞ。
引き抜きみたいな交渉事は本人に向けて言えばいい。俺に通すな、面倒臭ぇ。

 

(表面上は御首も出さなかったが)コガサの奴がアスピナ機関から逃げ出したってことは拾った時に承知している。
それを理解したうえで、俺は困惑したように大仰なジェスチャーをして見せた。

 

「お…おぃ、待ってくれよ。それを何で俺に持ちかけるんだ?」

 

…いつかはこうなると思ってたんだがなあ、思ったよりも早えもんだ。

 

「俺はコイツの保護者じゃないんだぜ? ただ、渋々宿を貸してやってるだけだ」
「では、異存はないのですね?」

 

…なるほど、そんなにコイツが欲しいみたいだな。

 

「科学者サマってのはどうも性急過ぎる癖があるみてぇだな。まあ、異論はないさ。
 …こいつがアスピナに行く気だってんならな。…で、どうなんだよ」

 

コガサに話を振った。
いつものホエホエっぷりはなりを潜めて、生まれたての小鹿か何かのようにガタガタ震えていやがる。
小突いて、こっちに無理にでも注目させる。

 

「……あいつらと一緒に行きてぇか?」

 

横に激しく首を振った。まあ、当然だな。

 

「……らしいなぁ。悪いね、無理そうだ」
「教唆は感心しませんね」
「…おいおい」

 

お前らが言うな、としかいいようがない。

 

「いいから帰ってくれよ。こいつ、こんなに怯えてんじゃねえか。
 …空気読めねぇのかねえ、科学者って人種は」

 

やべえ、調子に乗って大口を叩きすぎたかもしれねえ。

 

「…………わかりました、ここは大人しく退く事にしましょう。
 ですが…後で後悔しても知りませんよ」

 

……あー、やべぇ。
こりゃアスピナ敵に回したかもしれねー。
変態軌道の空戦ネクストに襲われなきゃいいがなあ。

 
 
 

「ったく。またアジト引き払わなきゃいけねえじゃねえか。
 ……おい、あいつら帰ったぞ。いつまで怯えてんだよ」
「あ、…う…」
「……ハァ」

 

…どんな酷い目に遭わされてきたんだかねえ。
踏み外しちゃいけねえ道を大きく外した連中なのは知ってたが。
取り敢えず、頭をポンポン叩いて、その場を離れることにした。

 

あ? 別に逃げる訳じゃねえよ。…向かう先はキッチンだ。

 
 
 

「うみゃああああああああああい!!」
「モノを口に入れたまま喋んじゃねぇ! 中身が飛ぶだろうが!」

 

しかし、カレーを作って食べさせてみたらこの変わりようだ。
流石に物欲というか食欲には勝てんと見える。

 

「っていうか、パッチさん料理できたんだね、いがーい!」
「……その言い方じゃ、逆説的に言えば、料理とは無縁ってことだよな。
 そりゃまあ、一人暮らしを続けてるとなあ。レーションだけじゃ舌が腐っちまうだろ」

 

実は、このカレーに使っているジャガイモ、リッチランド産の作物だったりする。
…まあ、大丈夫だろう。例の襲撃されたエリアとは別のプラントらしいしな。

 

そうやってもっきゅもっきゅ無我夢中にカレーを食ってると、コガサが何かに気付いた様に俺の後ろを見た。
壁にかかった写真立てだ。
俺と元家内が映っている。

 

「その人、パッチさんの奥さん?」
「ああ、そうだよ。別れちまったけどな」
「え…」
「勘違いすんな、円満離婚だ」

 

……なんつーか、コイツに言うのは初めてだったよなぁ。

 

「コジマ汚染の悪影響で、俺とあいつとの間には子供ができなくてな。
 あいつは子供が欲しがっていたが、こればっかりはどうにもならねえ」
「…今でも奥さんの事。好きなの?」
「あぁ、うん、別に嫌いじゃねえよ。別れちまったが付き合い自体は切れちゃいねえしな」

 

未練があるといえば、タラタラだがな…。
うん、まあ、どうでもいいだろ。

 

「じゃあ、私がパッチさんの子供になろうか?」
「はああ?」

 

思わず、アホみたいな声を上げてしまった。
冗談と思ったんだが…コガサの顔は真剣だった。

 

「私が子供になれば、奥さんとよりを戻せるでしょ? 私が縁結びになってあげる!」
「…馬鹿野郎。意味も分からずに言うもんじゃねえよ」
「わ、わかってるもん!」
「ああ、もういいから、飯食ったら寝ろ!」
「その前に風呂に入るっ!」
「だったら、ここで服を脱ぐんじゃねえ…!」

 
 

……やべえ、アスピナを突っぱねたことに後悔しそうだ。
あー、マジでついてねえ…。

 
 
 

 
 
 

とまあ、そんな感じに不穏な出来事があった訳だが、追い打ちをかける様に面倒な事態が発生しやがった。

 

第二次リンクス戦争だ。

 

要はアルゼブラ側の内部抗争を理由に、オーメル側とGA側がドンパチしたってハナシさ。
戦争なら傭兵にとっちゃ絶好の稼ぎ時……って言えば聞こえはいいが、俺から見てもかなり馬鹿馬鹿しい戦争だ。

 

移住作業に従事すりゃあいいのに、どうして利権だのに拘って戦争なんてやらかすのかねえ。
死んでしまえばおしまいだっていうのによぉ。二の次でいいじゃねえか。
おかげで俺は死地に赴かなきゃいけねぇ。

 

とまあ、文句を言いながら、俺は依頼を果たす為に作戦エリアへ急行している。
コガサは敢えてアジトに残す事にしていた。
アスピナの件もあるが、大規模なドンパチに身を投じるにゃ、あいつにはリンクスとしての経験値が足りねえ。

 

情けない話だが、どうも情が移ってしまったらしい。
ババを引いちまったなあ、と愚痴りながら黙々と稼ごうとしているのが現状だ。

 

「……リンクスなんて、辞めさせちまった方が、あいつの為になるんじゃねえかなぁ」

 

それこそクレイドルか地下に住ませてやるとかな。
いい服着て、うめえもの食って、快適な家ですやすや寝れりゃあ、人生は万事太平だ。
俺もそんな暮らしにあり付きたい。
…でもそうなると、金が要るよなぁ。

 

「結局金かよ、あーあー…面倒臭ぇ!」

 

 
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作戦エリアパンプキンヒル
作戦目標不明
 

 
 

[Lumber Jack]
良く来てくれたな。
残念だが、依頼など最初からない……

 

「……オイオイ、マジかよ。
 俺なんざ騙し討ちにして何の得があるってんだ…畜生!」

 

[Lumber Jack]
残念だが、現実だ。
騙して悪いが、仕事なんでな…死んでもらう。

 

「チッ、とことんついてねえ…!」

 
 

敵対対象は武器腕ミサイルとコンテナミサイルを装備した逆関節AC「ビルニーズ」
そしてオーメル製のノーマルが13体。ノーマルとはいえ、流石に数が多い。
装備はスナイパーライフルやレーザーライフルと言った後衛仕様なので、突撃には向いていない。
少し離れた位置に高台があるので、そこから高空に飛び、遠距離でチクチク潰そう。
逃げ回る形で敵を掃討する形になる。パッチらしいといえばらしい。

 
 

 
 

[Lumber Jack]
ち、ちくしょう…!

 

俺を騙し討ちしたレイヴンは苦々しく吐き捨て、ハイエンドACと命運を共にした。
ノーマル部隊も粗方迎撃したが、こっちには何の旨味もねえ。

 

「騙し打ちを喰らった挙句に報酬もなしか…クソッ。不幸にも程があるだろうよォ…」

 

カラードに申請すりゃ、残虐行為手当とか出るかなァ…
……出ねえだろうなあ。保険にも入っていねえし。
いっそ、オーダーマッチで誰かブッ倒して小遣いひり出すか?
…いや、無理だ。倒せそうな連中がほとんどいねえ。

 

「コガサにまた文句言われるなぁ、こりゃ」

 

頭の中で、不貞腐れるあの小娘の顔が容易に思い浮かぶ。
絶対『ほら、パッチさんは私がいなきゃ駄目じゃない!』とか説教するぞ、アイツ。
そう思うとゲンナリする。
…いや、待っている相手がいるってことは、まだ運がいい方なのかねえ。

 

無理に楽観的な方に持って行こうと考えて、そう思った瞬間、背筋がひんやりした。

 

「……」

 

正直な話、俺には騙し討ちをされる程の戦力ではない。
不服だが、今日までの戦いの日々を悪運と勘の良さでなんとかやってきた。
なるべく死なねえように、できるだけ他人を敵を回すような行為も避けてきた。
死なねえ為の小細工は嫌というほどやってきた。

 

何年も前に評判になっていたリンクス殺しのイレギュラーネクストも、現ランク7に叩き潰された。
10年以上前に比べ、相対的な価値が下がったとはいえ、仮にもリンクスだ。
……俺をわざわざ狙う奴なんて、滅多にいない筈だ。

 

心当たりがあるとすれば……コガサ絡みでいざこざがあったアスピナ機関。
襲いかかってきたノーマルも、アスピナが尻尾を振っているオーメルの連中のモノだった。

 

……なんつーか、嫌な予感がした。全身から気持ち悪ぃ汗がじんわり滲みでてやがる。
そして、大急ぎでアジトに戻って、予感は的中した。

 
 
 
 
 
 
 
 
 

アジトの中はもぬけの空だった。
コガサの姿はなく、代わりに少量の血液が床に零れていた。

NO COUNT -無意味-

カラード側から不自然な入金があった。
騙し討ちに遭ってからほとんど時間が経ってねえってのにだ。
その瞬間気が付いたよ。これはアスピナ側からの「慰謝料」のつもりなんだとな。

 

ふざけてやがる。どこまで人を虚仮にすりゃあ気が済むんだ、あの連中は。

 

そう思っても、俺には何もできなかった。
下手人は分かっても、あいつがどこへ連れ去られたのか、それすらも分からなかったんだ。
アスピナの研究施設に殴りこみに行こうが、あいつがいる確証もねえ。
とにかく、俺は無力だった。

 

酒に溺れて、悲観に沈んで、奴らから受けた所業を愚痴のように喚くしか、その時の俺にはできなかったのさ。

 

 

「やあ、俺だ。其方は元気にしているか?」
『今からお伝えする電話番号の方にどうぞ。漏れなく紅魔館の苦情課に通じます』
「……いきなりセメントだな」
『ええと、流石に冗談です。
 それで何か御用でしょうか。お嬢様と妹様の浴衣姿を録画するという最重要任務があるのですが』
「……あ、ああ、済まない。ちょっと貴女に頼みたい事があってだな」
『お嬢様ではなく、私にですか?』

 

「そう。元オーメル所属、そして抜群の諜報能力を持つ貴女に、だ」

 

『……。
 ネクストの派遣、ないし依頼の斡旋ではないようですね』
「ああ。アスピナの運送経路とここ最近の内容、特にリンクス研究施設へのルートを調査してほしい」
『アスピナ機関? 人身売買か何かに絡みましたか』
「いや、店のお得意様の相棒が巻き込まれた。被害に遭ったのはつい最近カラードに加入した娘だ。
 相当悪辣な手口をやらかされたらしい」
『そのお得意様は?』
「店を貸し切って騒いでいる。自棄に走れば無理もないが、な」

 

『…必要なのは情報のみですか?』
「ああ。綿密な情報さえあれば、あとは本人が直接取り戻すだろう」
『……いいでしょう。リンクスを動員することに比べれば、時間も費用も遥かに安上がりです』
「貴女には何度も世話になっているが、相変わらず恐ろしい手際だな。……報酬はいつものでいいか?」
『ええ、其方の秘蔵のビンテージ・コレクションの中から』
「了解。早速用意しておこう」

 

 

どうして、あいつが不幸にならなきゃいけねぇ。
俺みたいな草臥れた碌でなしなら分かる。

 

だが、あいつはそうなるべきじゃねえ。理屈じゃなくて勘とか無意識でそう分かるんだよ。
考えてもみろよ、まだ20にもなってねえガキンチョが、『子供になってあげる』だとよ?
邪気のない笑顔で、だ。こんな生きるだけでやっとこさなオッサンに向かってよ。

 

……俺にはもったいない、良くできた娘だ。
だのに、なんであいつが酷い目に遭わなきゃいけねぇんだ?
蛆が湧いたマッド共の玩具にされて、兵器として戦場に駆り出されるんだなんてよ。

 

あいつが何をした?
泣きわめきながら、必死に生きようとしていたあいつを、一体誰がどうしてそうさせた?
何となくだがわかる。俺があいつを見つけた時、あいつは怪我をしていたから泣いていたんじゃない。

 

生きたいから泣いていたんだ。
それこそ、赤ん坊のようによ。

 

 

「旦那。パッチの旦那。もう朝だよ」

 

酒場のマスターに促されて、ようやく起きる。
酒を湯水のようにかっ喰らったせいか、頭がいてえ。

 

「やれやれ……昨日は随分と大荒れだったな」
「世話をかけさせちまったなァ」
「いや、その分こっちの懐は潤ったさ」

 

いつもはその軽口に笑ってたんだろうが、生憎と今はそんな気になれそうもなかった。
負け犬の様に尻尾を巻くしかねえのか、そう思っていた時だ。

 

「それはそうと、旦那。あんたに待ち人がいるみたいだが」
「あぁ、待ち人…?」

 

マスターが酒場の入り口に視線を向けたので俺もそれに倣う。
そこには場違いなメイド服を着た女が立っていた。

 

その女には見覚えがあった。
カラードNo.12、十六夜 咲夜。
過去に俺をぶっ飛ばしたネクスト連中の一人、No.7の部下だ。

 

「パッチ、ザ・グッドラック様ですね?」

 

仏頂面で無感動な物言い。まるで人形か何かの様だ。
冷や水をぶっかけられたようにゾッとしやがる。

 

「……そこの酒場の主人に頼まれて、用意致しました」

 

ぶっきらぼうな面構えのまま、女は俺に寄ると、懐から書類を突き付けた。

 

「貴方の相方の行方です」

 
 
 
 
 

ついてねえ、ついてねえ、そう言いながらこれまでやってきたが、
幸運の女神ってモンは絶妙なタイミングでやってくるもんなんだな。
……その女神がメイドを兼業していたのは意外だったがよ。

 
 
 
 
 

 

「……廃人の様な眼に光が差しましたね」

 

メイドが評した言い草通り、俺の体には活力が戻っていた。
酒の飲み過ぎから生まれた頭痛が吹き飛ぶほど、メイドが持ってきた情報はそれだけの価値があった。

 

誘拐されたコガサがアスピナの研究施設まで運ばれるまでの経路。
メイドによれば、コガサはあの連中の手にまだ落ちていない。運ばれている最中だった。

 

「…マスター。これはあんたの差し金なのかね」
「正直、見ていられなくてな。お節介だったか?」

 

苦笑するマスターににやりと笑ってやる。

 

「決めた。今度からあんたンとこの店以外で呑まねえことにした」
「言っておくが、ツケはできないからな」

 

30COAMばかりかをカウンターに投げ込み、酒場を抜け出る。
その直前にメイドが俺の背に言葉を投げかけた。

 

「一つだけ言いたいのですが」
「あ?」
「貴方の仲間を運送するルートにはネクストの護衛が付属しています。
 内容は未確認のイレギュラーとNo.17。
 …率直に言いますが、No.27の貴方一人でどうにかなるとは思えません。
 ……死にに逝くつもりですか?」

 

なんだ、たったネクスト二機じゃねえか。

 

「死にに逝く? …間が抜けた事言ってんじゃねぇよ」

 
 
 
 

「……攫われた子供をとっ返すのは、親の役目だろうが」

 
 
 
 

「……」
「俺は死ぬのは死んでも御免だ。命を賭けるつもりなんてないね。
 …その前に取り返してやる」

 

別にネクストを倒すのが目的じゃねえ。コガサを取り返して、逃げりゃあそれで俺の勝ちだ。
…それほど分の悪い勝負じゃねえな。
あとはシゴロ賽投げても、どうにかして勝ちを取りにいきゃあいい。

 

そう嘯きながら、酒場の外に出ると、メイドがふと笑った様な気がした。

 

「成程、ね。…良い気慨ですわ、サマ師様」

 
 
 

そんなに褒めても何も出ねぇよ。

 

 
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作戦エリアキタサキジャンクション
作戦目標コガサの奪還
 

 

廃棄された交通機関、キタサキジャンクション。
メイドの情報によれば、ここを通過しつつゼクステクス世界空港に移動する流れになるらしい。
移動ルートの中では、ここが最も通過に時間がかかる。
更に情報を見ると、コガサは青いトレーラーに運送されているようだ。
……本当にどこから仕入れたんだ、あのメイド。

 

「まぁ、いいさ。出張るらしいのは間違いねえんだ。
 ……待ってろよ、コガサ」

 
 

鋼鉄の孤狼

 
 

キタサキジャンクションを通過中のトレーラー部隊を後ろから追走する形で急襲する。
ノーマルといった護衛戦力だ出現するが、相手にするだけ無駄。
ネクスト「フラジール」と「AZ」が阻んでくるので、この対処に集中したい。
ノーカウントか敵ネクストのAPが50%以下になるか、時間経過でイベントが挿入。
が、ノーカウントの総火力でネクスト二機は無謀。善戦したとしても必然的に後者になるだろう。

 
 

 
 

[CUBE]
報告通りの相手ですか。フラジールの相手ではありませんね。

 
 

…ああ、くそったれ。ついてねえ。
護衛戦力が付いてるとは聞いたが、思っていたよりも、厄介な相手だ。
コガサのところに向かうのも、あの紙ティッシュみたいなネクストが邪魔で通れねえ。

 
 

「くそっ。見栄張るってのも大変だなぁ…」

 

[Michael Franziska]
…全くだ。だが、戦争に持ちこむものじゃない。

 
 

青いネクストのリンクスの言葉には、若干の同情と共感が含まれていた。
結局、戦争で一番苦労するのは下々の連中ってこった。

 
 

「…生憎と俺は戦争しに来たんじゃねえ。返してもらいに来たんだよ。
 それが戦争に見えるならそれまでだがな」

 

[Michael Franziska]
返してもらいに、か。
…滑稽な舞台劇に参加している気分だ。

 

[CUBE]
させませんよ。ここで排除します。

 

その時、横から凄まじいスピードで接近する機影があった。

 

[CUBE]

 

飛来した機影は一機のネクストだ。紙ティッシュを狙い、マシンガンを速射する。
それを見た紙ティッシュは、ドヒャアドヒャアブースタ音を立てながら避け、チェインガンを連射。
乱入者はチェインガンの弾を難なく回避する。
それ捌いたネクストは、青みがかった軽量二脚だった。

 

[Izayoi Sakuya]
啖呵を切った割に、随分と手古摺っているご様子ですが、
……様子を見に来て正解でしたわね。

 

そして、その声は俺に情報を提供したあのメイドのものだ。
……つまり、俺を助けたこのネクストはランク11 サウザンドバレッツということになる。

 

「あ、あんた……」

 

[Izayoi Sakuya]
アフターサービスです。必要ですか?

 

「…報酬は必要になるか?」

 

[Izayoi Sakuya]
……まず言う事がそれですか。
アフターサービスといいましたよ、少なくとも私は。

 
 

すまんね、貧乏性なんだよ。
そんな感じに締まらない気分になったところで、
紙ティッシュのリンクスが回線に割り込んできやがった。

 
 

[CUBE]
…独立勢力は不干渉を貫く筈ではなかったのですか。

 

[Izayoi Sakuya]
最初はそのつもりでしたが、調べる内に気が変わりました。

 

「アームズフォート・アンサラー」専用生体コアユニットK-GS05…でしたか?
貴方達が今運送しているリンクスの実態は。

 

[CUBE]
……なぜ、貴方がそれを知っている。

 

[Izayoi Sakuya]
さあ? どうでもいいでしょう。
重要なのは、それを導入された日には、
私達にとって害悪になりかねないという事。
毒花の芽は根から潰すに限る。

 

……何より、彼女の境遇は私の主人達にとって無視できないものでしてね。

 

[Michael Franziska]
……やれやれ。
想像以上に面倒なものの護衛をしていたらしいな、俺は。

 
 

その言葉と同じく、路面を真っ赤な閃光が貫いた。
閃光は地面ごと道路を溶かし、その先に逃げようとしていた輸送トレーラーを阻む。
着弾点から新鮮な血潮の様なドス赤い光が"しぶき"のように噴き上がり、直後に爆発が巻き上がった。

 

その爆炎の彼方から悠々と舞いあがる機影がひとつ。
翼の様な背部兵装を装備したその姿は、「破壊天使」と呼ばれるネクストだった。
しかし、爆炎に照らされ、赤と黒に染まった機体色を浮かび上がらせるその姿は、悪魔以外の何物でもなかった。

 
 

[Frandre Scarlet]
AMS適性のテスト対象の次は、ツマラナイ玩具の操縦者。
…10年近く時間をかけても学習しないのか。

 
 

だが、
あのメイドが幸運の女神サマなら、
あの悪魔は、俺にとっての救いの天使だった。

 
 

「…ハ、ハハッ マジかよ。ランク3の天使サマが援護に来たってか?」

 

[Frandre Scarlet]
気紛れに過ぎませんけどね。
悪魔に魂を売ってでも、勝負に勝ちたいのであれば、
イカサマの御手伝いくらいはできますが。

 

「…決まってンだろ」

 

[Frandre Scarlet]
でしたら、言う事はありません。
BETをどうぞ。

 
 

それこそ、言われなくてもだ。
破壊天使の攻撃で動きを止めたトレーラーに接近を試みる。

 
 

[CUBE]
…させないといった筈です!

 

[Izayoi Sakuya]
それは此方の台詞ですわ、アスピナ。

 
 

アスピナの奇怪なネクストが俺に迫り、メイドがそれをチェスのキャスリングのように妨害した。
ジェットエンジンを積んだ紙飛行機みてえなあのネクストの動きに、よくあっさり追い付けるもんだ。
俺には未知の世界だな、ありゃ。

 
 

[Michael Franziska]
久しいな、フレデリカ卿。
こうして貴女と対峙することになるとは、
…これだからこの巷は面白い。

 

[Frandre Scarlet]
……そうですか、ミヒャエル卿。

 
 

向こうじゃ破壊天使が雑魚ノーマルを一蹴しながら青いイレギュラーとドンパチしてやがる。
あっちもあっちで化物染みてやがるな。ああ、凡夫には世界が違うね。

 
 

トレーラー群に接近した途端、トレーラーに設置された機関砲が火を噴きやがった。

 
 

「おおおおおおおぉぉぉっ!?」

 
 

おい、トレーラーの自衛に積むにゃ、明らかに過剰火力じゃねえのか。
威力も衝撃力もダントツにおかしいぞ、あれ。
プライマルアーマーが霧を払うみてえに減衰するが、俺は構わずトレーラーに突っ込む。
天才アーキテクト、キューカンパー・ニトリが俺の意見をくみ取って忠実に組み上げただけあって、
バイタルパートの耐久性は逆関節とは思えねえくらい頑丈だ。
豆鉄砲くらいじゃあ、簡単にやられはしねえだろう。

 
 

「……うおおおおおおおおっ!!」

 
 

……おぃ、見てるかコガサ。
お前を助ける為に、変人共がいろいろと便宜を図ってくれたみてえだ。
さっさとアジトに帰るぞ。
アンサラだかアンバサだかウンバサだかの生体ユニットだか知らねえけどよ…
こんな気色悪い学者サマの相手なんぞ、いつまでもしている必要なんてねえだろう…!

 
 

「…ノーカウントだ。てめえらのやってること、考え、全部がノーカウントだ!

 
 

 
 

立ち往生しているトレーラー群のうち、青いトレーラーに接近する。
武装されているので迎撃してくるが、接近する青トレーラー以外は破壊してOK。

 
 

 
 

スナイパーキャノンとレーザーライフルを機関砲にぶち込む。
目的はコガサがいる青いトレーラーだ。
そのまま接近して、操縦席部分を破壊する。
トレーラーの貨物部分はネクストでも持ち運びできるであろうサイズだ。

 
 

[Kogasa]
パッチ、さん……?

 
 

荷から、か細いあいつの声が聞こえた。

 

「帰るぞ、コガサ。またカレー作ってやっから、元気出せ」

 

さて、目的の跳ねっ返り娘も保護できた。あとは領域外に離脱するだけだ。

 
 

[CUBE]
…くっ!

 
 

…サウザンドバレッツを振り払って、紙ティッシュが接近する。

 
 

[Kogasa]
パッチさんっ!

 
 

わかってる、わかってるよ。
まったく、面倒事が次から次へとやってきやがる。
背部兵装のミサイルを目一杯展開するが、かく乱にもなりゃしねえ。
だが、プライマルアーマーには多少当たっている。少しでも守りが崩れればそれで結構だ。

 

あんな速さで横の動きばかりされちゃ、とても目が追い付けねえが、今のヤツは直進する形で接近している。
護衛対象をブン捕られて、相当焦っているとみた。

 

FCSの射程範囲内に入るが否や、スナイパーライフルの引き金を引く。

 

あのネクストに向かってじゃなく、その間近に放置されていたトレーラーに向かってだ。
エンジン近くに狙いを引き絞って撃ったら、上手い事命中して爆散した。
丁度、あいつの目の前で吹っ飛ぶみたいな形でな。

 

奴の動きが一瞬、止まった。
その途端、追い付いたサウザンドバレッツがレーザーブレードを袈裟斬りに叩き込んだ。

 

[CUBE]
…!?

 

[Izayoi Sakuya]
今です、早く…!

 

「へっ…言われなくたってスタコラサッサだ!
 逃げるぞ、コガサ! 舌噛むんじゃねえぞ!」

 

[Kogasa]
うん! ……パッチさん!

 

「あ?」

 

[Kogasa]
ありがとう、……大好…ふぎゅ、しひゃかんらぁ~…(舌噛んだ~…)

 
 

生返事すると同じく、ブーストをかけちまったようで、荷の中のコガサが舌を噛んでひんひん泣いていた。
思わず苦笑して、ボソリと呟く。

 
 

「……ああ、俺もだよ。ガキンチョ」

 
 
 

……散々なことばかりの最悪な一日だったが、まあ、最後の最後に珍しくいい気分にはなれた。

 
 
 

 
 
 

自他共に剛運と言われるだけあって、俺は周りよりもツキがいい方だと自負はしている。
だがな、俺の剛運は運は運でも、幸運の方じゃなくて悪運の方なんだよな。
だからな、これが終わって軟化どんでん返しがあるんじゃねえのかと実は無意識では思っていたんだよ、うん。
そう思っていた方がいざという時に、ショックも少しは軽くなるだろ?

 

……で、正直なところ今回だけは何ともなかった。
ランク11やランク3の協同費用とか、押しつけられるんじゃねえかと思ったんだが、音沙汰もない。
まあ、あっちから勝手にやってきたんだけどな。
コガサが乗る筈だったっていう、アンサラなんとかってアームズフォートが結局投入され、
それが企業の混同戦力に早期破壊されたところを見ると、俺の行動はGA側にとってプラスの出来事だったらしい。
あの後、メイドからメールで聞いたが、もし俺がコガサを救出しなかった場合、
コガサはネクスト以上の汚染を撒き散らすモンスターマシーンを自在に操作する役割を果たしていたんだと。
……色々と寒気がする話だぜ。

 

そして、悪運と不運がごっちゃになったような人生だったから、久々に思ったよ。

 

……「俺はついてる」ってな。

 
 
 

 
 
 

「えへへー、お酒ーお酒ー」
「まだ手前には早いっつーの。ジュースでも飲んでろ」

 

「…大団円で済んで何よりだったな。
 で、旦那。こんな酒場にその子を連れてどうするつもりだ?」
「ああ、それか。…別れたカミサンと久々と会うからよぉ。ちょっと紹介するつもりでな」
「……成程な。成功を祈ろうか」
「祈るまでもないと思うぜ、マスター。
 ……お、きたきた。おい、こっちだこっち」

 
 
 

 
 
 

俺の話はここでおしまいだ。
コガサを拾ってから、気のせいかしなびた俺の人生が好転しているように思えるんだ。
もしかすると、あいつ、幸運の女神サマかもしれねえなあ。
招き猫ならぬ、招き妖怪ってヤツか? ま、未だについてねえ時もあるが、今の俺はそこそこ幸せだよ。

 
 

「パッチさーん! 領収書貰ったよー! 赤字ー!」

 

……あ、いや……ほんのちょびっとだけ幸せだ。

 

「……なんか、COAMがすっごいマイナスになってるけど……大丈夫?」

 

……し、しあわ……

 

「ね、ねえパッチさん……私のネクスト新調しなくてよかったんじゃ……」
「い、いや。そんなことねえだろ! BFFの前衛向け新標準機だぞ! 高性能だぞ!?
 買えるときに買っておいて正解じゃねえか!」
「……でも、それのおかげで今払えるお金ないよ。……またアルバイトする?」
「……」

 
 
 

……ああ、くそっ! やっぱりついてねえ、ついてねぇよ!