シナリオ/ヴォヤージュ1999-未来の白黒編

Last-modified: 2015-08-26 (水) 22:10:01
本来の項目名は陰陽鉄学園モノ/シナリオ/ヴォヤージュ1⑨⑨⑨です。
文字化けの恐れあり。「」を入力したい方は、そのまま書かずに「⑨」とお書きください。

イベント名

  • ヴォヤージュ1⑨⑨⑨誰が為の神兵(仮)

概要

シナリオ傾向:シリアス[高] コミカル[中] ほのぼの[有] 恋愛[有] 欝、人死に[有] 百合、大統領ネタ[有]

登場人物関係:登場人物の制限[本シナリオ及びヴォヤージュ1999登場キャラ] キーキャラクター[ケット・シー、リリゼット] 敵対キャラクター[レディ・リリス]

攻略関係:イベント発生時期[過去] 総所要日数[] 他シナリオとの平行[可能] 戦闘難易度[中~有頂天] 攻略中ヒロインの関与[無(過去なので)]


未来の世界を知る者。
未来の世界を改変しようとする者。
未来の世界を守りたい者。
誰のために君は時間の渦に飛び込むのか?

発生条件

このシナリオに挑むのに特別な条件は要らない。
本来のヴォヤージュ1999でも裏で行われている事件を体験するものである。
初めて過去に来たときに出る選択肢で「追ってみる」を選ぶと開始。

イベント内容

タイム天狗パトロールの様子が騒がしい。
もしや、自分が何か取り返しの付かないことを?
そう思ったが、彼らはこっちには目もくれずに西へ東へ飛び回っている。
そんな時、ふと視界に映る白黒の…猫っぽい生物。曰く、
「これから沢山の人が流す涙を減らせるのだとしたら、君はキョーリョクしてくれるカい?」
君はまだ知らない。
この出会いが、後に未来の存亡を掛けた戦いになることを…。

主要人物

  • ケット・シー
    過去の世界で出会った、二足歩行する猫のような謎の生物。
    何か明確な目的があって、PCに協力を仰いでいるようなのだが…。
  • リリゼット
    この時代にネ実市を訪れている「マヤコフ舞踏団」の新人。ヒュームとエルヴァーンのハーフで、身長はヒューム基準だが耳が長い。
    気が強く、踊りにも戦闘にも一目置かれている。
    何故か、これから起こることを知っているような節があるのだが…。
  • レディ・リリス
    このシナリオ中に何らかの目的を持って暗躍している、正体不明の女性。本シナリオのボス。
    リリゼットに対して複雑な感情を抱いているよう?
    • ネタバレ注意彼女の正体と目的
      彼女は未来から来た、リリゼットの同一人物。ただしリリゼットの来た未来とはまた別の世界のようだ。
      リリゼットの来た『白い未来』と対を成す『黒い未来』からの刺客。
      『黒い未来』はある『ツケ』の清算のために消滅する危機に直面しており、彼女は消滅しようとする未来の改変を行い、本来訪れるはずの『白い未来』にツケを押し付け消滅させることで自分の世界を救いに来たのだ。
      リリスは『黒い未来』においては人々を導く救世の聖女として扱われている人物で、その世界の技術者たちがなけなしの資材を投げ打って作ったタイムマシンに乗って来ている。その際、『黒い未来』での彼女の仲間を数人連れてきている。
       
      なお、周回したプレイヤーなら『黒い未来』というのが、どうやら倫理崩壊編の世界らしいことに気付くかもしれない。
      辿ってきた歴史が異なるため、プレイヤーが訪れることの出来る世界とは正確にはまた別なのだが、倫理の崩壊した世界であるという点は変わらない。
      その世界ではロールシャッハのようなヒーローとも親交があったらしく、一部の言動に彼の影響が垣間見える。「私はあの最低の世界をこそ望む!!」
      ちなみに、大抵のヒーローは過激なので、慎重さが求められる今回の作戦には連れてきていない。
  • 冥護四衆
    レディ・リリスを護衛する四人組。彼女の忠実な部下。
    レディ・リリスの…そして『黒い未来』のメイン盾である。
    • 博麗霊夢
    • 射命丸文
    • スターサファイア
    • ブロントさん

攻略

始まりの血

現代から10年前。1999年。
PCは時代を超えたという事実に何とも言えない不思議な感動を抱いていた。
そんな時、ふと視界を何かが横切る。
黒い毛に、王冠らしき物を被った、猫に似た生物が駆けて行ったのだ。

  • 追いかけない
    シナリオには突入せず過去の探索が継続される。
    なお、PCが介入せずとも、このシナリオの敵は、タイム天狗パトロールによって、目的の達成に必ず失敗する原作より大分不利な状況にしてあるからね、仕方ないね。
  • 追ってみる
    件の生物を追う内、どうやらそいつはPCとは別に、誰かに追われているらしいことに気付く。ちょっとした悪戯心で追いかけたが、もう一人の追手は逃げる生物に対して剥き出しの殺意を隠そうともしていない。
    ちょとこれsYレならんしょ…おい殺人…いや殺猫?は犯罪だぞ!悪いことはやめろ!
    追手を妨害しようと試みた…が。
    「来るわ!」
    えっ!?
    「甘いってのよ!」
    追手の顔…それは、文にそっくりだった。まるで彼女が大人になったような…。
    しかし、そんなことに驚いている暇も無く彼女に迎撃されてしまう。どうやら此方の行動はとっくに感付かれていたらしい。
    痛みに呻きまともに動けないPCは、ただ例の生物が殺される様を見ているしか出来なかった…。
    「よし…まずは一匹」
    ま…待て!
    「ん?何だ生きてたんですか」
    文のそっくりさんはその時になってこっちをしっかり見て…それから少し驚いたようだった。
    「…ふーん。やっぱり、どこの世界でも、貴方はそんな風なのですね」
    ??…ど、どういう意味でうsか?
    「私たちの邪魔はしないで下さいって意味ですよ、――さん」
    彼女は何故かPCの名前を呟いた。
    どうすて俺の名前を知っているんだと驚きが鬼なった。
    「そりゃあ知ってますよ。何たって私は…おっと、禁則事項です」
    説明がまるで無い不具合。
    「まぁ、私は優しいので一つ忠告しとくましょう。死にたくないならそこの…ケット・シーには関わらないことです」
    それだけ言い残し、彼女は飛び去ってしまった…。

ケット・シー

先ほど起きた出来事に胸を痛めながらも、どうすることもできず歩き出すPC。
…だからなのか、気付かなかった。
すぐ目の前に、あの王冠を被った猫のような…ケット・シーがいることに。
「おおーい。…おおーい!!」
…おおう!?
「やあっと気付いタね。ずうっと話しかけてたのに」
お、おもえ…死んだんじゃ!?
「残念だけど、トリックじゃないよ。キョーダイが死んじゃった」
口ぶりから察するに、同じ容姿の別のケット・シーらしい。
お前の仲間はどうして追われてたわけ?話すべき死にたくないなら話すべき。
「そうダね…ねえ。君は、もしもこれから先に涙を流す人がいたとして…そんな涙を減らせるのだとしたら、キョーリョクしてくれるカい?」
メイン盾が守ることで涙を流す必要は高確率でなくなるだろうな泣かす奴はメガトンパンチで泣かす。
「心強いよ、『白い未来』のメイン盾さん」
…【えっ!?】

 

ケット・シーは色々と話してくれた。
PCが来た『白い未来』が『黒い未来』によって消えようとしていること。
『黒い未来』を実現させるために暗躍している者たちがいること。
ケット・シーとそのキョーダイは『白い未来』を守るために行動していること。

 

「にわかには信じられナいかもしれないけど…君も未来から来たんだろう?それなら分かってくれるはず」
う、うむ…俺のリアフレは一級廃発明家だからよ、俺もタイムマシンで過去に来た実績があるのだよ。でも未来改変とか犯罪でしょ?タイム天狗パトロールは仕事しないのかよ?
「うーん…言った方がいいかな。キョーダイたちが何もしなくても『黒い未来』はタイム天狗パトロールが解決してくれると思うよ」
お、おいィ?どういうことだよ?
「タイム天狗パトロールは優秀だカらね。でも、それじゃあ『彼女』に申し訳ない…」
彼女?誰それ?外人?歌?
「『黒い未来』を目指す、『敵』になるヒトのことだよ。未来は自分の手で勝ち取らないと…」
ケット・シーの言うことはよく分からなかったが、とにかく、放っておくことは出来なかった。

リリゼット

ケット・シーが最初に示したのは、協力者を募ることだった。
『黒い未来』の刺客たちは、いずれも強敵だと言うからだ。
しかし、この時代の人物に協力を仰ぐのは難しい。下手な真似をするとこっちがタイム天狗パトロールに目を付けられてしまう。
「ダイジョーブ。君と同じように、『白い未来』から来た子がいる。彼女に会いにいこう」
俺が声を掛けると勝手に家来になる。
「さすがにそれは無いと思うけど…」

 

「…見つけたわよ、白黒猫!!」
えっ
「話をすればなんとやらだね」
突然、後ろからケット・シーを捕まえる、露出度の高い服装の少女。
「この子が協力者だよ~」
「何のはなし?」
「始めまして未来人のリリゼット」

 

少女…リリゼットはPCと同じく『白い未来』からの来訪者。とはいえPCがいた時代よりも少し未来のようだ。病気で死ぬはずの父親を救うのが目的らしい。ケット・シーが過去を変える力があると踏んで探していたのだとか。
ケット・シーは、リリゼットの父親が死亡するのも『黒い未来』の干渉のせいだと言うのだ。
かくして『黒い未来』に対抗するための協力者を得ることが出来た。

涙を流させないために

ケット・シーのキョ-ダイたちにPCやリリゼットが協力者として相応しいか確かめるために、ボランティアをすることに。
ネ実市で困っている人を見つけて、彼らの力になろう。

業を背負う刃

困っている人を見つけようと、リリゼットと共に商店街に探索に出かける。
体躯の良いおっさんが大声で商品を売り込み、買い物籠を片手に道行く主婦たいが談笑し、子供たちが駆け回る、その平和な場所で、事件は起きた。

 

「ど、泥棒ー!」
甲高い悲鳴が聞こえると同時に、みすぼらしい身なりの男が自転車でPCの脇を駆け抜けた。
「白昼堂々盗みとはね…」
リリゼットが道端で拾った石を構えて、投擲する。投げ放たれた石は自転車の車輪に絡みバランスを崩させた。
リリゼットの活躍に周囲がにわかに沸き立つ。
「ま、こんなものね」
「ち、ちくしょう!」
すると、自暴自棄になった男が、たまたま傍にいた子供を引き込み、懐からナイフを取り出した。周囲は先ほどとは逆の意味で沸き立つ。どうやら元々は強盗をやるつもりで、怖気づいてコソ泥に成り下がったらしい。
「う、動くな!ガキがどうなってもいいのか!?」
「恥知らず!」
「全くだな」
えっ…という間も無く男の脳天に黒い剣が叩き込まれ、気絶した。その後ろには黒い鎧の大男…ザイドだ。
「ウェポンバッシュだ、いい薬だろう」
再三、周囲が沸き立ち、一斉にリリゼットとザイドを褒め称えた。
リリゼット自身はザイドに手柄を取られたように感じて若干不機嫌だったが、皆に褒められてすぐに気を良くした。

  • 気付けない泣き声
    PCやリリゼットには分からなかったが…ザイドには見えていいた。
    この人ごみの中に、ぽっかりと開いた穴。小さな空虚。
    その穴の中で、男の子が泣いていた。
    でも誰も男の子には目もくれない。
    否…『見えていない』のだ。
    何でとか、どうしてとか、そんなことは分からないが、とにかく目の前の光景がそうなのだ。誰にも少年が見えていない、分からない。
    そして…それを無視するほど、ザイドは無情にはなれなかった。

正体不明

次に困っている人を探そうとすると、口々に騒ぐ人たちが。何事かと近寄ると…。

 

「あれはなんだ?」
「鳥だ!」
「飛空艇だ!」
「我々のコリブリだいやらしい」「それって鳥じゃあ?」
「うおおおおっ!」「うるせえぞ、ふはー!」
「もしや伝説のラストドラグーン!?」

 

彼らの見る空には、一りの妖怪が腹を抱えて笑っているのが見えるだけだ。妖怪…封獣ぬえの術にかかって、人によって見えるものが違っているのだ。
「こらー!そこな妖怪!悪戯もそこまでよ!」
「げっ!」
ぬえはリリゼットの声に驚き逃げ出す。同時に人々の術も解ける。
「またやられた!」
「くそー、妖怪め…」
「困ってる人発見よ!さぁ、さっきの妖怪を追いかけて懲らしめましょう!」
やれやれだな。十年前でもあの悪戯好きは全く変わらないらしい。
そういえば、ぬえの封印が解かれたのはこの頃らしいと前に本人から聞いたな。現代に帰ったらもう少し詳しく聞いてみるか。

謙虚な獣帝

みょんなことでPCとリリゼットが出会った10年前のブロント少年。
「ナイトはちからパワーもさいきょうなのでベヒんモスもざこ」
とか何とか言ってベヒーモスを倒すためネ実市の外へ!?ブロント少年を追いかけて急いでネ実市の外へ。
そこではなんと、ベヒーモスに狙われているブロント少年が!?

  • ベヒーモス
    PCもリリゼットも腕には自信があるが、さすがに2りで、それもブロント少年を守りながらというのは非常に辛い戦いだった。
    ベヒーモスが飛び跳ねるように迫り、もう駄目かと覚悟を決め目を閉じた――。

閉ざされた視界の代わりに、耳で、身体に吹き付ける風圧で理解していた。

 

ベヒーモスに別の巨体がぶつかったのを。

 

目を開けると、目の前にはよろよろと立ち上がるベヒーモスと、もう一匹、別の傷だらけのベヒーモスが仁王立ちしていた。

 

『カイザー!?な、なにを…』
『戯けが!我らベヒーモス族は人間との共存の道を選んだはずよ』
『貴様の時代はとうに終わっているのだ、カイザー!誇り高きベヒーモス族が人間と手を取り合うなどと!』
『牙持たぬ小僧を襲うのが、誇り高き種族だと!?』
『…ぬぅ』

 

2りのベヒーモスはしきりに吼えるが、どんな風に会話しているのかはPCたちには分からなかった。ただ、傷ついたベヒーモスが自分たちを守ってくれていることだけは分かった。
やがて若いベヒーモスがすごすごと立ち去ると、ブロント少年は喜々としてベヒーモスに近寄った。
「む…無事か、人間の小僧よ」
「うむ、たすかった、おわったとおもったよ>>キングベヒんモスかんしゃ」
「キング…?い、いや、わしの名はカイザーベヒ…」
「ベヒんモスよりつよい→ベヒんモスのリーダー→ベヒんモスのリーダーといえばキングベヒんモス。かん ぜん ろん ぱぁ」
「いや、だからわしは…」
自分から見れば豆粒みたいな大きさのブロント少年にたじたじのカイザーベヒーモス。
「…どうする?モンスターだけど、助けてくれた相手だし…」
戸惑うカイザーベヒーモスと、無邪気に喜ぶブロント少年。何とも奇妙な光景ではあったが、同時に微笑ましくもあった。

疾風の狩人

献身的な活動の功績により、ようやくケット・シーたちに認めてもらうことが出来た。
「それで…『白い未来』を守るって言ったわよね?具体的にはどうすれば?」
「本来の歴史である『白い未来』は何もしなくても訪れる。具体的な活動としては、『黒い未来』からの刺客たちと戦うことカな」
「単純でいいわねぇ」
何をすればいいかは分かったが、そのためにはどうすれば良いかは分からなかった。
「…囮作戦とか」
「キョーダイたちを危ない目に合わせるわけにはいかナいよ!」
そういえば、ケット・シーたちはこれでぜいいんか?誰か欠けてる奴とか…。
「キョーダイたちは10り。今ここには8り…2りやられタね」
「……」
「『黒い未来』の刺客は『彼女』とその仲間の『冥護四衆』の5人。この内、特に厄介な能力を持っている敵がいるね…」
…射命丸文と、スターサファイア。その二人が、ケット・シーが示した特に危険な相手だった。
「一方は風のように疾く、もう一方は此方の居場所を探る能力を持ってる…この2りのコンビに注意を払って…」

 

「もう遅いですよ」

 

驚く暇も無く、一体のケット・シーが殺られた。
「…ッ!!」
互いの考えが分かっていたように、残りのケット・シーたちがバラバラの方角へ逃げる。
「逃げても無駄よ!こっちには『見えてる』奴が居るんだからね!」
すぐ近くにスターサファイアがいるのだろう、このままでは各個撃破されるのがオチだ。
「貴方の相手は私よ!」
「邪魔をしないでっ!」
リリゼットが腰の双短剣を抜き、文を相手に互角に戦う。加勢しようかと思ったが…。
「ケット・シーを追って、必ず守って!」
力強く頷き、ケット・シーの一体が走り去った方角へ駆け出した。

 

辿りついた路地裏。そこでは幸か不幸か、ちょうどケット・シーがスターに襲われている最中だった。
「援軍が来るまでに仕留められないなんて!」
文とは違い、幼稚園の頃よりは成長しつつ、それでも子供のままの姿のスターを相手に武器を抜くのは強く抵抗があったが…。

  • スターサファイア
    白魔法を使い、プロテスやシェルで防御を固めた後、高威力のホーリーやバニシュを連発してくる。
    とはいえ、魔道士だけにHPが低く、倒すのに苦労は無いはず。

「うあ…っ」
スターが体勢を崩して倒れる。止めを刺すなら今が絶好の機会だ。しかし…頭では分かっていても、どうしても最後の一振りが出来ない。
そうこうしてる内にスターがPCを突き飛ばし立ち上がろうとする。
「何をしているのよ!」
文を単独で退けたリリゼットが加勢し、スターに止めを刺そうとするが…。

 

「俺はとんずらを使って普通では着かない時間できょうきょ参戦すると」
「きた!盾きた!メイン盾きた!早い!もう着いたのか!これで勝つる!」
「と大歓迎状態だった」

 

スターの身体を丸々隠してしまうほど大きな盾が、リリゼットの攻撃を防いだ。
「…新手!?」
「俺のPTメンに手を出すとか覚悟はできてるだろうな?俺は出来てる」
その盾を持った男がリリゼットにメガトンパンチを食らわせようとしたが、それをケット・シーが腕に抱きついて軌道をずらし妨害する。
「しゃらくせぇ!」
男が乱暴に腕を振るとケット・シーは簡単に吹っ飛び、壁に叩きつけられて絶命した。
「また…!ケット・シーが!」

 

「この白黒ネコがどうしたって?」
またも新たな声。それも聞きなれた…。
片手にケット・シー…の死体の長い耳を持つ女性。だが、忘れもしない腋の開いた巫女服。
博麗霊夢

 

「おや、ぜいいん揃ってしまいましたね」
「ケット・シーは分散したのに、私たちが一緒じゃ意味無いじゃない」
「あら、私と文、それにブロントさんも一匹ずつ仕留めたわ。スコアが無いのはあんただけよ、スター」
「仲間割れは止めるべき。みんな大切なPTメンなんだが?」

 

「…冥護四衆」
リリゼットが誰とも無く呟いた。
射命丸文、スターサファイア、博麗霊夢、ブロントさん。
彼女たちが…『白い未来』の敵。『黒い未来』の、メイン盾。
「分かってはいたつもりだけど…実際に4人揃うと迫力が違うわね…」
リリゼットが精一杯の虚勢を張るが、それだけだ。彼我の戦力差は数でも質でも、向こうが上。
ケット・シーは今回だけで3体抹殺され…残りは5体だけ。
もはや、これまでか…!?

 

「そこまでよ!」

 

その場に、またしても新たな乱入者の声。
「貴方たち、小動物を殺して楽しいの?」
ツカツカを靴で歩く音が近付いてくる。乱入者の名は。
「そうならもうあんたら死ね!!」
クラエア姉。

 

「この私がいる限り、ネ実市で悪さはさせないよ!!」
ビシィッと冥護四衆を指差し、大声で宣言した。
「か、かっこいい…」
その勇姿に、思わずリリゼットが感嘆を漏らす。
クラエア姉はこちらへクルリと振り返り。

 

「いやーこういうの一度はやってみたかったんだよねぇ!」
あはははは!と豪快に笑った。
「この状況で…よくもまぁ…」
実は暢気だったクラエア姉を見て、呆れるスター。
「…どうしました、黙りこくって?」
文がブロントさんの顔を覗き込んで問う。PC達は知る由も無いのだが、彼の反応は至極当然だった。なにせ、『黒い未来』ではブロントさんの姉であるクラエア姉は…。

 

「ところで、貴方たちは何者かしら?」
クラエア姉のその質問はこちらと冥護四衆、両方にに向けて投げかけたものだった。
「「未来のメイン盾よ!」」
リリゼットと霊夢が同時に答える。クラエア姉にその意味が理解できるはずは無かったのだが、彼女は互いの顔を見比べて、意味深にニヤリと笑った。
「ふ~ん…違うね」
「!?」
バスターソードを…冥護四衆に向けて構える。
「私にはメイン盾がどういうものだか分かんないけど…少なくとも、貴方たちのような、こんな小さな猫を平気で手に掛ける真似は」

 

「私の弟の自称メイン盾は、絶対にそんなことしない」

 

「………ッッ!!!」
瞬間、件の『自称メイン盾の未来』は、苦虫を噛み潰したような…いや、自身の理念を砕けれたほどの苦しい表情を浮かべた。
「…戻るぞ」
「えっ…でもまだケット・シーが…」
「必死で逃げても後ろからとんずらで追い付けばいいだけ。カカッと行くぞ。雑魚に構ってる暇はにい」
そう行って、冥護四衆は立ち去ってしまった。
「…ふぅ。本当に何者だったのかなぁ」
ようやく緊張の糸が切れ、その場を安堵が支配する。
「た、助かったわ…」
「あんまり、こういう不良みたいな行動はしたくないんだけどね…。それ以上に許せなかっただけだって」
壁に叩きつけられ、その下でピクリとも動かない白黒の耳長ネコを見て、彼女は嘆息した。

黒い尾の罠

クラエア姉と別れ、どうにか生き残った5りのケット・シーと合流できたPCとリリゼット。
「囮作戦をやろうと思う」
突然、ケット・シーが切り出した。
「い、いきなり何を言うのよ!」
「リリゼットが言い出したことダよ?」
「う…」
「耳を貸して」

 

…おれたちはその通りにすればいいのか?
「うん、お願い」
「大丈夫なの?」
「へーきへーき」
言うが早いか、5りのケット・シーが光になった。5つの光が混ざり合い1りのケット・シーとなる。
「これなら、君たちにも負けないくらい戦えるカら」
予想外の光景に目を丸めながらも、3りになった『白い未来』を護るための仲間たちが互いに顔を見合い、頷きあう。

 

海沿いの現在使われていない倉庫。
そこへ冥護四衆のスターサファイアが、一人で訪れた。視線の先にはケット・シー。
「…ケット・シー」
「ここがバレチャッタ?」
ケット・シーがわざとらしく言う。
先日、霊夢が言ったこと。「スコアが無いのはあんただけよ、スター」。ただの軽口だったのだが、スターにはそれが気に食わなかった。だから、やっとケット・シーの気配を見つけても、仲間に教えずに一人で来たのだ。
…愚行だった。
「一人カい?」
「貴方みたいなネコぐらい、私一人でだって…!」
スターが一歩踏み出すと。
魔力の檻によって動きを封じ込められた。
「!?…バインド?罠!?」
「この作戦は、キョーダイたちの犠牲なくしては成しえなかった」
動けないスターの目の前で、ケット・シーが悠々と詠唱を始める。
「そして、遠い目的よりも、己の感情だけで動いてしまう、スター。君相手にしか通じなかった」
「ぃや…っ!」
「これは、キョーダイたちへの手向けの炎だ」

 

「フ  レ  ア  !!」

 

スターサファイアの索敵の範囲外。その遠くまで、古代魔法の炎が確認できた。
「ああ、やっぱりスターなんかじゃ駄目だったのよ!こんな子供騙しの罠に引っかかって…!」
空を凄まじい速度で駆ける文。
ふと、視界の隅にPCを見た。だが今は彼に構っている暇など無い。この時代にたった5人しかいない『黒い未来』の仲間を失うわけにはいかないのだ…!

 

次の瞬間、文の左脚が消し飛んだ。
「…えっ!?」
それは、なんてことはない、ただの石だった。
だが、石と侮ることなかれ、文は疾風と例えられる速度で飛行していた。その速度のまま石とぶつかれば、その石の威力はその速度のままの自分自身と正面衝突したに等しい
視界に、どうにか石を投げた相手を捕らえることが出来た。
「リ、リ…ゼットォ…!」
あまりの激痛に意識が遠退き、高度を保てず墜落していく。この高さから堕ちれば無事では済まないだろう。
文の脳裏に、幻覚が浮かぶ。
『黒い未来』での思い出。
碌な思い出なんてない。どれもこれも忘れてしまいたい、でも忘れられるほどショックの軽いものもない。
思えば、文が冥護四衆なんて似合わないものになったのも、恨みを買った連中の報復から逃れるためだったのだ。

 

…もう少し、上品な女だったら、こんな事にはならなかったのかなぁ…。

 

そんな事を考えながら、文は……PCに抱きかかえられ、一命を取り留めた。

二つの世界

次に文が目覚めたのは、どことも知れぬ部屋だった。
「む。起きたのね。おはよう」
そして最初に挨拶してきたのは、敵であるはずのリリゼットだった。
文は自分が生きているという感動と共に、ああ、また思い出したくない経験が増えるのかと心の底から溜息を吐いた。
「せっかく助かったのに、あんまり嬉しそうじゃなさそうね」
「私を捕らえたのは、情報を訊き出すためなんでしょ?拷問で」
「別に拷問なんてしないわよ。…まぁ鼻っ柱圧し折ったり、顎を外してやったりはしてやりたいかったけど…」
リリゼットは一歩下がり、椅子と縄に全身を縛られた上、無くなった左脚から先を見て、痛々しく思った。
「…気が乗らないでしょ、今の貴方を殴ったって」
「こんな状態にしたのは貴方だけどね」

 

「さて、私に訊きたいことはなにかしら」
リリゼットの他、PCとケット・シーの3りが集まったところで早速文が口を開いた。
「随分と簡単に教えてくれるのね。敵なのに」
「訊くために捕虜にしたんでしょーが。それに、私の持ってる情報は、そこの黒白ネコだって知ってるわよ」
文がケット・シーを指して言う。
「なにせ、そいつは『黒い未来』の生まれだからね」
【えっ!?】
「どういうこと?」
「うーん…まぁ、そういうこと?」

 

「『黒い未来』。既存の倫理が崩壊した、アウトローの楽園。
力が…暴力が、知力が、財力が、権力が支配する世界。
『黒い未来』にはね、2種類の人間しかいないのよ。すなわち、搾取する者とされる者。
強く汚い者が甘い汁を啜り、弱く清い者が死ぬ。そんな世界を私たちは守ろうとしているのよ。
私も…言って聞かせるだけでトラウマにさせられような経験を、何度もしてきた。
救いなんて無いわ、あそこには」
「ケット・シーは、そんな世界の人々の悲しみから生まれた存在。だからキョーダイたちは、『黒い未来』を絶対に阻止しなくちゃいけないんだ」
「そんな場所で私が生きるためにどんなことしてきたか…女のあんたなら分かるでしょ?」
文は嫌味と、それ以上の自虐を込めた笑みをリリゼットに向けた。
「『こっち』に来てから、何年ぶりにお風呂に入ったと思う?正解はね、自分でも覚えてない」
「……哀れね」
「そうでしょうね。でも、それでも私の、私たちの世界なのよ。消えるよって言われて、はいそうですか、なんて受けいられるほど良い育ちはしてないもの。
そこの黒白ネコに焼き殺されたスターサファイアだって、友達も、自分も酷い目にあって、それでも『黒い未来』を護るために戦った。
あんたたちに、それだけの意志がある!?」
最初は静かに…しかし次第に、文は声を荒げていく。
必死で、無様で、悲痛で……虚しい。
「…同じよ」
「…なに?」
「私も…ううん、みんな同じ目的で戦っている。意志の強さの差なんて、無いわよ」
「何を…ッ!恵まれた環境で育てられたあんたに、私の何が分かるってのよ!!私が、どれだけのことを背負ってここまで来たと思ってんの!?」
「…スリプル」
「わ…た、しは…」
ケット・シーの唱えた睡眠の魔法により、文は意識をまどろみに支配されていく。紡ぎかけた言葉が、ただただ痛ましかった。
「…終わらせましょう」
リリゼットが静かに、だが確かな強さで言う。
「こんな悲しい戦いは…早く終わらせないと…」

敵の姿

ケット・シーの作戦によって、スターサファイアを討ち取り、文を捕虜にすることが出来た。冥護四衆の半分を倒すことに成功したのだ。
「これで頭数は互角になったわね」
数は同等でも、質ではどうか分からないのに、リリゼットはいつだって強気だった。
「こら、黒白ネコ。知ってること、洗いざらい教えなさいよぅ」
「…そうだね。隠すつもりは、無かったんだけどね」

 

「『黒い未来』の指導者、レディ・リリスについては、もう話したっけ?」
誰それ?外人?歌?ほらこんなもん。
「リリスは冥護四衆を率いて過去に来て、『白い未来』を消滅させようとしている、敵だ。でも、彼女の正体について話しておく必要がある」
「正体…?」

 

「リリゼットとリリスは、同一の存在なんだ」

 

…hai?
「…どういうこと?」
「『白い未来』で生まれたか、『黒い未来』で生まれたかの違い。リリゼット、君が過去の時代に来たのは偶然なんかじゃないんだ」
「……」
リリゼット、未だ見ぬレディ・リリス。
『敵』の正体、と言われても、いまいちピンと来ない。それはきっとリリゼットも同じなのだろう、複雑そうな表情をしていた。
「戦う相手のことなんか知らないわ。私は私の未来を護る、それだけよ」
「…そうだね。それでいいんだ」
ケット・シーは少し寂しそうな表情を浮かべたが、すぐに気を持ち直して宣言する。
「冥護四衆の2り、手駒を失い、戦力の半減した今がチャンスだ。行こう、決戦の場へ!」
その勇ましい声に、PCとリリゼットは力強く頷いた。

立ちはだかる盾

「人使いの荒い連中だこと」
車椅子の文を連れ、ネ実市を往く一行。
「とてもじゃないけど、これから決戦って雰囲気じゃ無いわね」
「文に案内されないとどこにいるか分からないカら、仕方ないよ」

 

案内されて辿りついた場所は、これもまた決戦の場とは思えない、蔦が巻き付くような廃屋だった。
「そこの地下に皆さんいますよ」
今更なんだが罠とかにいだろうなあったらメガトンデコピンお見舞いするぞ。
「罠でもそうでなくてもいいわ。ここにいるのは間違い無いんだから」
言いつつ短剣を抜き放つリリゼットの視線の先に、大きな盾を構えた騎士と巫女。
「…来たわね。文、あんたはやっぱりそうなるのね」
「貴方ともあろう御人なら、これくらいの逆境は跳ね除けてくれるんでしょう?」
「何いきなり当たり前のこと言って来てるわけ?至高のナイトは本能的に主人公タイプなのでどんな困難も乗り越える(約束)」
ブロントさんと霊夢。
まさか、こんな形で殺し合いをする羽目ぬなるとは夢にも思わなかったが…眼前の現実から目を背けることは出来ない。
「さぁ――どっちの未来が正しいか、決着を付けましょう!」

  • 冥護四衆ブロントさん&博麗霊夢との戦闘
    リリゼットとケット・シーとPT組んでの戦闘。リリゼットは踊り子タイプの前衛、ケット・シーは黒魔道士タイプの後衛だが、どちらも滅法強い。
    ブロントさんは物理でも魔法でも生半可じゃなく硬く、リリゼットの攻撃は通り辛い。霊夢は魔法防御こそ高いが、HP自体は低いのでこちらにリリゼットをぶつけよう。
    PCはケット・シーと組んでブロントさんと戦おう。生半な攻撃はケアルで直されてしまうので無意味な上、二人ともレイズを使うので始末におえない。霊夢はリリゼットに押さえてもらいつつ、硬いブロントさんをどうにか削りきるしかない。
    防御無視攻撃でもあれば楽になるのだが、そうでなければ泥試合になりかねないので覚悟するべき。

長い…無限とも思えるような時間が過ぎた。
気付けば日が暮れようとしていた。それほどの時間、戦い続けたのだ。
最初に倒れたのは…他でもない、冥護四衆の、ブロントさん。
ケアルで傷は癒せても、疲れまでは癒せない。どうあっても、重い鎧と盾で猛攻を受け続けたことによる体力の減少は誤魔化せなかった。
「…ブ、ロ…」
霊夢が倒れたその人に歩み寄ろうとして、足がもつれて転ぶ。それでも、必死に、無様に、見てる方の心が締め付けられるように苦しくとも、彼に這いよった。
「…ブロントさん…私は、貴方のことを…」

 

「…二人とも退いて」
息も絶え絶えの霊夢が言い切る前に、ケット・シーが詠唱を始める。
「汚れ役は一人で良い」
爆発と熱波が渦巻き、廃屋に巻き付いた蔦を焼き払った―…。

翼持つ女神

文の案内通り、廃屋には地下があり、そちらは上とは違ってきちんと整理された空間だった。
そして…そこに、『黒い未来』があった。
『黒い未来』のために、『白い未来』の抹消を目論む存在。
レディ・リリス。
「…貴方が、リリス?」
「名乗らずとも分かるはずよ。特に…リリゼット。貴方はねぇ」
リリゼットとリリス。
別の未来で生まれた、同一の存在。
実際に会うのは初めてになるが…リリゼットは、無意識よりも深い感覚で、対峙している相手が自分にとってどういう存在か理解していた。
…鏡なんだ。きっと、生まれた世界が違えばリリスはリリゼットであったし、リリゼットはリリスだったろう。
「未来を掛けた戦いも、遂に終幕の時を迎えたわ。リリゼット…これが最後になるわ」
「上等よ…私は、私の力で未来を勝ち取ってみせる!」
「…そうだ!未来を選ぶのは人だ!魔性の怪物でも神などという存在でもコズミック・ビーイングでもない…!」

 

「始めよう…そう、終わりではない、私の…『黒い未来』の闘争は、ここから始まる!!」

  • レディ・リリス
    高威力の魔法を使い、一定ターンごとに状態異常を引き起こす魔方陣を展開する。魔方陣は攻撃によって破壊可能なので、範囲攻撃で積極的に狙っていこう。
    HPはそれほど高く無く、ここまで来れたPCであれば負けはしないはずだ。
 

負けぬ

 

魔性の怪物…神…コズミック・ビーイング…

 

そんな存在に…人の未来は決めさせぬ

 

そんなものは全て、我の…我らの世界と民の贄にしてくれる

 

勝って

 

勝って…みんなの未来を

 
  • 翼持つ女神
    『黒い未来』にて、あらゆる手段で『力』を手に入れたレディ・リリスが至った異形の姿。そのシルエットは、まるで天空から舞い降りた女神のようにも見えた。
    「…『黒い未来』の人々を導く存在、レディ・リリス。そうね、今なら分かる。貴方は…それほどまでに自分の世界と、その民のことを…。
    …武器を構えなさい。今度こそ…『黒い未来』に終止符を打つ!!」
    レディ・リリスの攻撃に加え、新たに「ダーク」と冠する技を使うようになる。また、HP減少に応じて魔法の詠唱時間が短くなり、魔法が発動したと思ったら次の瞬間には別の魔法が飛んできて、さらに…ということに成り得る。魔方陣の数も増える。
    この一戦が、未来を掛けた戦いの終止符となる。
    全力を尽くしてリリスを打ち倒し、『白い未来』を勝ち取るのだ!

終わった。
リリスの翼が折れ、地に堕ちる。
それはレディ・リリスの敗北であり…同時に、『黒い未来』の敗北でもあった。
「…負けた、わね」
「リリ…」
倒れたリリスに、文が車椅子を近づける。
「文…貴方にお願いがあるの」
「い、嫌ですよ私は!どうせ、『黒い未来』に帰れって言うんでしょう!?このまま帰ったら、今度こそ生きてはいられない!」
「文…。貴方は自分を汚い女だと言うけれど。私は知っているわ。貴方が本当は優しい人だって」
「…リリ…」
「お願いよ、文。みんなの為に…貴方の力が必要なの」
「…分かった。分かりましたよ!帰りますよ!」
文はそっぽを向いて答えた。きっと、この場にいる中で彼女ほど複雑な心境の人物はいないだろう。
「…リリゼット。わたくしの大っ嫌いなリリゼット」
「何よ、私の大っ嫌いなリリス」
「今回は慎重さを重視して冥護四衆を選出したけれど…『黒い未来』には、私なんて及びも付かない実力者たちがいるわ。私が死んだだけでは『黒い未来』の干渉は止まらない」
「……」
「『黒い未来』の干渉を止めるためには、誰かが『黒い未来』へ戻って『扉』を閉めなくてはいけない」
その役目は、恐らく文の担当だろう。では、リリゼットは…。
「…リリゼット。貴方には、わたくしの代わりに、『黒い未来』のみんなを…導いて欲しい」
リリゼットとリリスは同一の存在。
自分の代わりは、自分にしか勤まらない。だから、その頼みを申し込んだのだ。
『大っ嫌いなリリゼット』に。
「最初で最後のお願い、よ…」
「…ええ」
リリゼット!?
「私が…私が行かなくちゃいけないの。それが未来を奪った相手へのせめてもの償いで…何よりも、『私自身のお願い』だもの。断れるわけないでしょ」
リリゼットは躊躇いも後悔も無い、真っ直ぐで、綺麗な笑みを見せた。
「…お別れだね」
ケット・シーが前へ踏み出し、リリゼットと文に並び立つ。
「ありがとう。君のおかげで、『白い未来』と…リリスは救われた」
ケット・シーは、『黒い未来』の人々が生んだ存在。
リリスは、『黒い未来』の人々を導く存在。
ここに来てやっと、ケット・シーがリリスを気にかけていた理由が分かった気がする。
「ここではないどこかで、きっとまた会いましょう。だから、今は」
リリゼットはその言葉と共に、常に耳に付けていたイヤリングを投げ渡す。

 

「またね」

忘らるる君へ

タイムマシンで現代へ帰ろうとしていた時のこと。
近場の教会から鐘の鳴る音が聞こえていた。誰かの結婚式だ。
エルヴァーンの夫と、ヒュームの妻。
仲睦まじそうに参列者の祝福を受けるその夫婦に。
どこか、懐かしいものを感じた。