SS/【祭作品】三角形にはまだ早い?

Last-modified: 2013-08-31 (土) 09:03:56

【祭作品】三角形にはまだ早い?
倫理
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陰陽鉄学園モノSS祭り お題“トライアングラー”

 『三角形にはまだ早い?』

陰陽鉄学園では戦闘行為は珍しいものではない。
そもそもジョブだなんだと戦闘に関わることも授業で教えているためか、むしろ推奨しているフシさえある。
余程一方的な組み合わせだったり、大損害をもたらすような戦いでも無い限り、教師も見て見ぬふりをするのが通例であった。
そのように見慣れたものであったのだが……

「そいつから離れなさい!」

この日の昼休みは、少し具合が違った。

向かい合うは博麗霊夢と霧雨魔理沙、よく見る対戦カードであった。勝敗比は6:4で霊夢有利。
しかし、常であれば向かっていくのは魔理沙であったが、今日は様子が違う。
既に牙抜いているのは霊夢の方であり、それを泰然と受け止める魔理沙、という形。
いつもなら魔理沙が挑み、霊夢がそれを迎え撃つというのに。これは見逃せない違いである。

「おいおい、落ち着けよ霊夢。らしくないぜ?」

「らしいらしくないは私が決めるわ。いいからそいつから離れなさいよ」

そしてもうひとつ。魔理沙が抱きついているものの存在である。
その姿を見たとき、ある者は驚き、ある者はしたり顔で頷き、ある者はあきれが鬼なった。
何物にも囚われないと巷で評判な博麗霊夢であったが、やはり人の子であったか、と。
最近では『五欲の巫女』などと呼ばれることもあるとかないとか。

「それは出来ない相談だな。何せこいつは私のものだ」

「いつあんたのものになったワケ? 許可した覚えはないんだけど」

「お前の許可がいるとは初耳だな。公布前のルールはノーカンだ」

火花を散らす乙女たち。交差する視線に並々ならぬ力が篭る。
正に一触即発。ギャラリーも最早激突は避けられぬと見て、固唾を飲んで見守っている。
一部では賭けも始まっていた。比率は五分、いつもより霊夢が熱くなっていると見て、魔理沙に張る者が少し増えていた(賭けるのは食券です!)。
秋と冬の境目、季節柄冷えてきた空気が、じわりと熱気を孕んだ。

「そう……どうしても言う事を聞いてくれないのね」

「聞いてやる理由がないからな。あーあったけー」

余裕の態度を崩さず、抱きついたまま大胆にも頬をこすりつける魔理沙。
それが霊夢の逆鱗に触れた!

刹那、予備動作なしで霊夢が針を放つ。その射撃は多くの者の目には鮮明でなかった。
魔理沙は毛程も動かなかった。その頬を掠めるか否かの距離を飛ぶ針。見えなかったのではない、威嚇と理解していた。

「決闘よ!」

「OK……こっちも撃たれっぱなしで黙ってはいられないな!」

「合意と見てよろしいですね!」

突如宙空の一点が裂け、そこから妙齢の美女が顔を覗かせた。
誰あろう、陰陽鉄学園の理事長、八雲紫であった。

「うわっ! 何だ紫か、脅かすなよ」

「悪いけど今忙しいの。邪魔しないでくれる?」

さらりと魔理沙に呼び捨てにされているが、珍しいことではない。むしろ理事長は生徒から名前で呼ばれることを好んでいた。
そして羽虫にするがごとく手で払う霊夢。しかし理事長にも退かない理由がある。
陰陽鉄学園を愛してやまない理事長には、見て見ぬふりを出来ないことがひとつ。

「邪魔する気はなかったのだけれど……貴方達、ここで始めるつもりじゃないでしょうね?」

廊下であった。

「ここなら文句ないでしょ」

「ええ、後はごゆっくり……」

霊夢と魔理沙が校庭に出るのを見届けると、紫は来た時と同じように空間に裂け目を作り、そこに入っていった。
これで邪魔者はない。残るは眼前の敵のみである。
一方は、自分の手の中にあるべきものを、あるべき場所に戻すために。一方は、邪魔者を排除し、温もりを取り戻すために。

―らうんどわん―

じゃす、と靴が地を噛む。渾身の一歩を踏み出すために。

―ふぁいっ!―

この光景を見つめる一対の瞳。表情には苦みが見える。
戦いを止めるべきであった。自分は二人が争うところなど見たくなかったのだ。
しかし、どうしてそれが出来ようか。あの時、自分はどちらも選ぶことが出来なかった。

―――どちらも好きだなどと、誰も幸せにならない答えを選んでしまった。

戦いを止める術を、自ら放棄したのだ。
最早自分に出来ることは何も無い。選択を他社に委ねた自分には。
あるとすれば、精々勝者に自らを捧げることくらいだろうか。

ああ、この身の無力が憎い。
後悔したところで何も変わりはしないけれど。そっと天を仰ぐと、暗雲が陽光を阻んでいた……

「せっ!」

「ち、ぃ!」

殴り合いを押し付ける霊夢と、距離を離そうとする魔理沙。格闘では霊夢に分があった。
どうにか引き剥がそうとする魔理沙の攻撃を際どく躱し、間合いを開くことを許さない。

「このっ、しつこいな!」

「離れてあげてもいいけど? あいつを諦めるんならねっ!」

「冗談じゃ、ないぜ!」

霊夢の御幣(ごへい)を自慢の箒で必死に捌く魔理沙。しかし、逆境にあってもその目の輝きに陰りは見えない。
諦めるなどという選択肢は無い。そのようなものは戦闘開始と同時に投げ捨てたのだ。
しかし気迫では劣勢を覆すことは出来ず、霊夢の攻勢はとどまるところを知らない。
劣勢、敗北。弱い考えが魔理沙の頭をよぎる。投げ捨てた筈の諦めが飛んで戻ってきたかのようだ。

その時、魔理沙が僅かに体勢を崩した。その隙を霊夢は見逃さない。
例えて言うなら6A的な踏み込み突きを放つ。慈悲はない。魔理沙殺すべし。

「とった!」

だが、それは。

「かかったな……ッ!」

崩れたかに見えた体勢から攻撃を完璧に受け止め、そればかりか弾き返してみせる魔理沙。
状況打破のために仕掛けた罠であった。そしてそうとも知らずに獲物がかかった。
完全に無防備となった霊夢。やるなら今しかない。

「食らえ!」

クロスレンジから鳩尾に突き刺さる魔砲。
霊夢に出来ることと言えば、吹き飛びながらこみ上げてきたすっぱいものをぐっと堪えるくらいであった。

「うあっ!」

大きく距離が開いた。魔理沙が待ちに待った展開である。
いつもなら撃ち合いであっても決して有利とは言い難いのだが、先の罠にかかるような、勝気に逸った霊夢であれば。
ぐっと下腹に力を入れる。勝機を掴めるか否かは自力にかかっていた。自らに激を入れるべく大きく息を吸い、言霊を解き放つ。

「ここからは魔理沙さまのターンだぜ!」

「こっのぉ……!」

少女が二人、埃にまみれ骨をきしませる。
なんという事だろうか。こんな事をすべきではない。傷ついてなど欲しくない。
だが、どうしてそれを口に出せようか。二人が傷を増やすのも自分のせいではないか。
なんたる無様、なんたる愚か。いっそこの身を引き裂いてしまえたら……だが、それは二人への裏切りだ。
己の身を削ったところで、自分の気が少し晴れるだけだ。二人が喜ぶ筈もない。
歯を食いしばり、戦いを見つめる。目を瞑っても背けてもならない。見届けるのは自分の義務なのだ。

真昼の地上に無数の星が広がる。
いずれも魔理沙の弾幕によるものであった。実に派手で見栄えのする弾の数々がギャラリーの目を楽しませている。
もっとも、それを向けられている側にとってはたまったものではないが。

「ええいっ! バカスカ撃ってきてもう!」

「隙間は品切れだぜっ!」

出し惜しみなし、自慢のミニ八卦炉だけでなく、かばん中のマジックアイテム全てをばら撒くような弾の嵐。
魔理沙渾身の攻勢である。精霊魔法も駆使したラッシュはもはや回避不能、被弾を前提とした構成となっている。
四方八方から逃げ場なしの弾幕など、弾幕STGでは許されざる暴挙であるが、ダメージが前提のRPGならよくあること。
最小限の被弾で耐え続ける霊夢であるが、精神の疲弊は徐々にかさんでいった。

「品切れなら、持ってるところから取るっ!」

際どい隙間を身を縮めてくぐっても、次の弾幕がまた次の弾幕が飛んでくる。
心身を削りながら必死の避けを繰り返す。恐らく、向こうは私が強引に抜けてくるのを待っているのだ。
後の先で叩き潰そうという魂胆だろう。ギリギリの状況の中で、霊夢の思考は冴えていった。
次の弾幕が来る。けど、これも避けられる。
耐え続ければ、先に潰れるのは魔理沙の方。避けても避けられない精霊魔法だけを防ぎ、後は気合いで避けるのみ。

「今の私には、執念が足りている!」

私たちを不安そうに見守る目線を感じる。この戦いをあいつは望んでいないのかもしれない。
だとしても、譲れないのだから仕方が無い。
独占しなければ気が済まない。だってあれは私のものの筈なのだから。
金銭の価値すら分からないなんて言われたりもするが、紛れも無く人間なのだ。湧き上がる欲望に突き動かされることだってある。

胸を焦がす情熱が力に変わる。
負けて失うのは耐えられないのだ。ひとりでいるには、あまりにも寒いから。

「上手くいかないもんだな……」

スペルカードを隠し持ちながら、魔理沙は焦れていた。
この弾幕はあまり長く持たせられない。直撃してくれればいいものを、未だ霊夢は耐え続けている。
弾幕に潰されるなり、スペルカードで強引に突破するなりしてくれれば、そこで終わっていたのだが。
散発的な反撃を躱しつつ、次なる魔法の詠唱を開始する。敵をピンポイントで狙い撃てる精霊魔法は弾幕STG出身のキャラの天敵だ。
しかし、それさえも霊夢は最小限のダメージで凌いでいる。博麗の結界術によるものだろうか。

(どうする……どうする)

恐らく幾分冷静さを取り戻したのだろう、避けに徹した霊夢を落とすのは生半可なことではない。
このまま避け続けられれば息切れした自分が叩かれる。しかし、こちらから攻めてどうにかなるものだろうか。
後の先を取られれば落ちるのは自分……負けるのはいい、それは次の勝利の礎になる。だが、負けるだけでは済まない。
失いたくない。やっと掴んだ温もりを奪われるのが怖い。あいつなしの冬なんて耐えられっこない。
だが、だからこそ、戦わなければ。

霊夢には負けたくない。だがそれ以上に、あいつは私のものだ。
誰にだって渡せるものか。

「そうさ、撃つと動く!」

「来た!」

ああ、ああ!
戦いは激しさを増し、少女たちは更に傷を増やしていく。そのなんと悲しいことか!
こんな事続けてはいけない。見ていられない。
我慢するのが自分の義務だと思っていた。しかしそれは間違いだったのだ。
本当に大切に思うなら、二人に何を言われようとどう思われようと止めなければならなかった。
いや今からだって遅くはない筈だ。成すべきを成さねば!

「決める! マスター……ッ!?」

「ならば! 夢想……ッ!?」

スペル発動の直前、両者の間に影が割って入る。
高ぶった力は最早とどまることを知らず、強引に進路を逸らすしか無い。

「こっ、んのぉ!」

「よいっしょおっ!」

荒ぶるスペカパワーはあらぬ方向へと放たれ、いずこかへと消えていった……
無理に力をねじ曲げた反動で、霊夢と魔理沙は身動きが取れない。
表情には怒りや困惑がありありと浮かんでいる。当然だろう、当たっていればどうなっていたことか。

「何考えてるんだ! もうちょっとで大惨事だったんだぞ!」

「いきなり割って入るなんて……どういうつもり?」

魔理沙の怒声も霊夢の訝しみももっともだ、けれど。
二人を止めるにはこれしかなかった。
二人が傷つくのを見たくはなかった。
自分を賭けた争いなどやめてほしかった。
そんな、百の思いを乗せた一言が喉からほどばしった。

「う……」

「う?」

「う~~っ!!」

奇妙な鳴き声をあげながら二人をポコポコと叩く様はどうしようもなく情けない。
だがもうどうすればいいのか分からない。
思いよ届けと念じながら、どんかつと叩き続けるしか出来ないのだ。

「ちょ、こら! やめなさ、痛っ! 地味に痛い!」

「…………はぁ。なあ、霊夢」

「何よ?」

「もうやめにしないか」

「む……確かにやる気は削がれたけど、それじゃこいつはどうなるのよ」

「それは私も考えた。だから、半分こにしようぜ!」

驚愕の提案。まさかの二人でひとつ宣言である。
これには霊夢も鳩が豆鉄砲食らったような表情を見せる。

「え、いいの? てか出来るのそんなこと」

「無理じゃないだろ。なんせ饅頭だし?」

「う~☆」

……おわかりいただけただろうか。
そう、二人が争い、奪い合っていたものとは、他でもない“ゆっくりれみりゃ”(肉まん。実は生き物?)であった。
触るととても暖かく、かじりつけばジューシーな肉汁が口いっぱいに広がることでお馴染みの饅頭である。
これはひどい。

「ホントは独り占めしたかったけど、仕方ないわね。この子に免じて二人で美味しく食べましょ」

「私だって一人で全部食べたかったさ。でもこいつが自分を賭けた戦いを止めるんだから仕方ない」

「う~っ!」

言いつつれみりゃを撫でる霊夢と魔理沙。これから食べる相手を褒める様は中々にシュールである。
肉まんの本懐は食べられることにこそあるのだから、どこもおかしくはないと言えばおかしくはないのだが。
れみりゃの方も楽しげにふりふり踊ってるので、きっとおかしいと思う方がおかしいのだろう。

「それじゃ、いただきま~、っとその前に」

「なんだ? どうかしたのか」

「どうもこうも……文!」

あやや、霊夢さんどうかしましたか?

「ずっとれみりゃの後ろでブツブツ言ってたのはなんなのよ」

いえいえ、ちょっとした演出ですよ。えんしゅつ。
ミスリード狙いと言いますか。楽しんでいただけましたかね?
二人共まだ浮いた話とかないんですから、もうね。ここは私が盛り上げるしかないと舌を振るった次第ですよ。

「誰に話しかけてるのよ?」

いえいえいえ、こちらの話ですので。
それでは皆様方。又の機会を、ごきげんよう~!

「だから、そっちに誰かいるの?」

三角形にはまだ早い? 完
あとがき
大幅に遅れてしまって申し訳ありません。自分で選んでおいて三角関係とか書けなかった結果がこの内容だよ!
楽しんでいただければ幸いです。

理事長:ゆかりんはきっとフレンドリー。
執念:足りていると追い詰められても心が折れないし、1ミスをモノにしやすくなる。
れみりゃ:そのうーうー言うのをやめなさい!
文:思わせぶりな文章は大体ブン屋のせい。
倫理