SS/【祭作品】白蓮ルート零章

Last-modified: 2013-11-12 (火) 09:25:35

【祭作品】白蓮ルート零章
倫理

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

4月。桜の花が咲き、新しい息吹が流れこんでくる頃。
日頃から賑やかな陰陽鉄学園であるが、新学期ともなればその騒がしさは更に加速する。
新しい環境に顔を輝かせる新入生。小中高と纏まった学園であるとは言え、やはり学年以上の隔たりがあるエリアは物珍しい。
それを眺め、少し眩しそうにする上級生。慣れてしまえば何のこともないのは何事にも共通するものである。
これから始まる1年に、ある者は期待を胸に、ある者は疲労をにじませ、それぞれ立ち向かうのだった。

……が、今回の焦点はそこではない。
学生達の領域からいくらか外れた場所にある、それは保健室。
生徒同士の戦闘も珍しくないこの学園では、何かと騒がしくなりがちな所であるが、今日は誰も担ぎ込まれることはなく、静かであった。

そう、今までは。

「誠に寂しく、視野狭窄であるッ!」

保健室に咆哮が(思いの外小さな声であったが)響く。
しかしこれで終わったと思ったら大間違いである。ついげきのグランドヴァイパはまだ牙を抜いていない。

「いざ、南無三――!」

奇妙なグラデーションのかかった髪が、胸を強調しているように見えないこともない法衣が、申し訳程度に羽織った感じの白衣が揺れる。
闘気、或いは魔力が空気をかき回しているのだ。
そして昂った感情は――

「南無三……どうすればいいの」

吹き出す場も無く、燃え尽きた。

白蓮ルート0章 ~まだ始まってもいない春~

聖 白蓮(ひじり びゃくれん)。
陰陽鉄学園の保険医を務める。我流ながらカウンセリングを行うこともあり、相談のために保健室を訪れる生徒も少なくない。
学外では孤児院『命蓮寺』を運営、またそこで生活し、同じくそこに住む生徒の村紗水蜜らと親しい。
特技は料理と自己強化の魔法。あとカリスマがある。

ちなみにwikiをよく見ると、保険医の数が多いように思われるかもしれないが、学園の規模に合わせて保険医も増えているだけなので、全く問題ない。

「はあ……」

彼女は今、重い悩みを抱えていた。
それも1日や2日ではない、かなり長期に渡って頭の隅でうずくまっている。
何時まで経っても解決をみない問題に、頭がぐるぐるのバターになりそうであった。

「どうしてみんな、もっと仲良くなれないのかしら……」

巨大すぎるこの学園には、多人種ならぬ多種族が通い、クラス分けは種族お構いなしで行われる。
だからと言って、種族の壁を越えた交流が多いかと言えばそういうものでもなく、大抵は同じ種族で集団を作り、あまり他種族と接点を持とうとはしない。
それでも種族間で大きな対立などが起こらない辺り、他所から見れば大したものであるのだが、聖はそれでは納得出来ないのだ。

しかし、何をどうすべきかは全く分からない。
例えば人間と姿形の近い妖怪でさえ、その交流には薄く、それでいて確かな壁が存在している。
ましてや獣人とであれば、その壁は厚みを増し、生半可な事では越えさせないと主張するのだ……
自分なりに細々とやってはきたものの、問題の難解さが分かっただけで、碌な成果が上がった事はない。

と、その時、ぐぅと音が鳴った。同時に胃が喪失感を訴えてくる。

「あ……もうお昼?」

「ひっじりー!!」

バン! と保健室の扉が勢い良く開かれる。その音を聞いたどこかの教員が「ひっ!」と小さく呻いたのはこの場では関係ない話。
白蓮と同じ孤児院で生活する少女、水着の立ち絵の数が全ヒロインで最も多い(wiki調べ)事で知られる、村紗水蜜のエントリーだ!

「初日だからすぐ終わっちゃった、ご飯食べに行こう!」

「……そうね、そうしましょうか」

丁度お腹がすいてきたところにこの提案。断る理由はない。
しかし、言うまでもない事だが、聖はまだ仕事が残っている。どこに食べに行くか、その選択肢は少ない。
保健室のドアに"退室中"の札をかけ、学食へと向かった……

陰陽鉄学園・学食

早い・安い・美味いを体現し、更にメニューのじゅうじゅつまで図られた学生達の理想郷。
実際学食の不味い学校に未来はにぃので、ここには結構な額の予算が投入されているのだろう。
正午には少し早く、まだ客足は少ない。しかし時計が12時を指す頃には、殆どの席が埋まることも珍しくない。

「何にしよっかなー」

「むぅ……」

軽い仕草で注文を済ませる村紗とは対照的に、メニューをガン見する聖。
彼女は仏門であり、そのため生臭、つまり肉を避けねばならないのだ。
となれば必然選択肢は減る、だからこそ、その内の一番を狙いたい……!
それ故に凝視。穴が開きそうな程の凝視である。

「むむむ……」

「どう? 決まりそう?」

「…………ど・れ・に・し・よ・う・か・な・」

「あー始まった」

迷いに迷ったあげく、聖は選択をランダムセレクトに委ねることにした。
優柔不断なのではない、メニューがどれも魅力的なのがいけないのだ……いっそハズレがあれば選びやすかったのに!
恐るべし学食、恐るべし陰陽鉄学園、おそるべし!
ちなみにこの光景、学生達の間で一種の名物となっている。

「て・ん・の・か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り」

「おいカメラ止めろ」

思わず口走ったセリフを村紗が停止する。仮にも尼君だろテメー。
あらあらうふふ。つい子供の頃の癖で。

「ほ・と・け・さ・ま・の・い・う・と・お・り……これね!」

「もー危ない所だったよ聖、色んな意味で」

「ありがとう村紗」

ようやく決まった聖を横目に、注文を受け取った村紗が席取りに移動する。
ちなみに彼女達が苗字で呼び合うのは、それが慣習となっているからであり、微妙な距離感を表すものではない。
他所でもあまり"水蜜""白蓮"と書かれるのは見かけないように感じる……作者が知らないだけの可能性も大いにあるが。

「きつねうど、」

「お悩みのようね」

とにかく、ようやくメニューを決め、告げようとしたところで、何者かに言葉を遮られた。
その名も西行寺幽々子。俗に言う学食のおばちゃんである。見た目はとても若いが、慣例と言うものだ。
なお、妖夢ルートをNORMAL以上でクリアしていれば、PCの一学年上の学生として登場する。

「西行寺さん。いえ、メニューは決まりました」

「そっちじゃないわ」

「えっ」

「なんとなくね、わかっちゃうのよ。悩みを抱えてる人って」

「そんな事……」

「おねーさんに話してみない? 誰かに話せば少しは楽になるものよ」

実際は聖の方が年上であるが(若返っているため)、こういう時どちらが上かは精神によって決定するものである。
図星を突かれた聖は動揺し、頼もうとしていたメニューまで頭から飛び出してしまった。これでは注文で誤魔化すことも出来ない。

「……いえ、遠慮しておきます」

「そう? 私で良ければ、いつでも話し相手になるわ。そうそう、ご注文は?」

「あ……ええと…………そう、きつねうどんを」

「わかったわ。少し待っててね」

これでいい。無闇に話してどうなるものでもないし、何より楽になりたい訳ではないのだ。
……私は困難に挑む自分に酔っているのではないか、或いは自らを罰したいのだろうか。
分からない。けれど、自分のためにしているのではない。その筈だ。

「はい、きつねうどん。熱いから気をつけて」

「ありがとうございます」

今はこの、うどんの暖かさに身を委ねよう……

「遅かったね聖、何かあった?」

「いいえ、何でもないわ」

ああ、つゆの世界に唐辛子が満ちる……!

「ちょっ、唐辛子入れすぎなんじゃ」

「あら、失敗したわ……でも、これくらいなら大丈夫ね」

「ええー……」

おいしゅうございました。

「なんだか聖元気ないね。またいつもの考え事?」

「ええ……」

「手伝える事があったら何でも言ってね? 私も皆もいつでも聖の力になるから!」

「ありがとう、村紗」

手伝ってもらおうにも何から手を付ければいいのか分からないのが問題なのだが。
ああ、この子の『聖なら大丈夫!』と言わんばかりの視線が痛い。
ガンガンいく僧侶などと呼ばれても、事に至っては自力では踏み出すことも出来ないのだ。

……誰に望まれた訳でもない、自分のための行い。
依頼のひとつもあったなら、どれほど楽だったろう。それこそガンガンいっていた筈だ。
どうすればいいのか。いっそ誰か手を引いてくれたら……そんな願望さえ浮かんでしまう。
いもしない誰かを当てにするなどと、なんたることか。

「大丈夫だよ聖」

「えっ」

「聖のやることはきっと正しいから!」

「……ありがとう」

こうして励まされるのも初めてではない。
全く、情けない話だ……いつか、この優しさに何か返してあげられたらとも思う。
それこそこの問題を解決するのが恩返しになるのだろうけど……ああもう! 私ったらどうしたら!

悩みが解決されないまま、それでも一日は過ぎていく。
望んでも、願っても、叶えられないまま。

これはまだ始まらない物語。
一人の少年がドアを叩く時、動き出す物語……

トントン シツレイシマース

「どうぞ」

白蓮ルート0章 完

つづかない
大変遅くなって申し訳なく思います……こちらは一周年記念祭りのSSとなっております。
遅まきながら管理人さんに感謝を。ありがとうございます。この程度の代物でもよろしければ……

無用かと思いますが念のため書いておくと、あくまでも一発ネタであり、続くことはありません。
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1.無評価2012/05/06 00:04:00削除

   おいカメラ止めろってww
   確かに仏教徒がそれは不味いけど、キャラ的にもっと不味いだろうww
   悩みを抱えてしまうのはお姉さんキャラ故なのだろうかと、そう思う部分も感じたり感じなかったり。

2.100点2012/05/06 00:38:01削除

   自然と入るメタが小気味良いというか、独特の雰囲気を出してると思うww
   白蓮はかわいい