SS/妄想SS レイセンルート九章

Last-modified: 2013-11-12 (火) 09:25:01

妄想SS レイセンルート九章
倫理
※警告!
このSSには学園モノ独自の設定が使われています。また、SS作者の独自設定、独自解釈、稚拙な文章などの要素が含まれています。
上記の文に不快感や嫌悪感を感じた方、有頂天で学園モノに興味のない方は“戻る”ボタンを押して引き返してください。
また、読み進める内に不快感や吐き気、眩暈などを感じた場合も同様に“戻る”ボタンを押して引き返してください。

以上の警告を無視して読み続けた結果、心身に異常をきたしても作者は責任を負いません。
警告を読んだ上で本文を読むと決めた方は、画面を下にスクロールしてください。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

おかしい……これは何かの間違いだ……
いる筈のない自分がいて、会う筈のない人と会い、混ざる筈のない祭りに混ざっている。何故?
わけがわからないよ。

「豊姫お姉さまがどうしても、と言うものですから……あなたが来ないなら私も行かないと主張して」

そんな事は分かっているんだ、聞き直した回数も二度や三度では足りないし……何度も同じことを聞いて正直すまないと思っている。

「これくらい、どうってことありませんよ」

そうか……すまない、いや、ありがとう。
しかし姉の方の真意が見えぬ。自分を呼んで何とするつもりなのだろうか、不可解だ。
こちらの邪魔にならない思惑であればいいのだが。なるべく早く心中を看破してしまいたいところ。
例え姉であろうとも、こちらの足を引っ張るなら容赦はしない……速やかに撃滅してくれる!

「いや、お姉さまを撃滅したらダメじゃないですか」

ダメか、そうか。ダメだな。
そもそも撃滅しようにも勝てないのだけれども。
ならば……速やかに陥落させてくれる! レイセンに対して!

「そう速やかにいくものでしょうか……」

為せば成るとは限らないが、為さねば成らぬのは間違いない。
暗い暗いと嘆くより、

「進んで明かりを点けましょう、ですね!」

出来ているのう……
その角を曲がればもうすぐか。いよいよだな。

「はい……行きましょう!」

決戦、はまだ先として、勝負の日だ。
成り行きとはいえ、付いて来たからには役に立ちたいが……どうなるか。
しかし、それはともかくだ。楽しみだよなあ……浴衣。

「楽しみですよねえ……お姉さま…………うふふ、うふふふふ」

……すごい目だ。見てはいけないものを見てる気がする。
しかし、これでレイセンの小宇宙が高まるならいいんじゃないかな、きっと。

「そろそろね」

待ち合わせの時刻まであと8分。5分前行動を心がけるレイセンならば、もうじき着く頃だろう。
そう、この場にレイセンはいない。道案内させる、という口実で、彼の元へ派遣したのだ。
目前に迫ったイベントを前に、心臓の鼓動が早まるのを感じる。
綿月豊姫は思いの外緊張していた。

「ああ、どうしようもう二人が来ちゃうわ!」

「お姉様……昨日までの浮かれようはどうしたんですか」

「だってぇ、色々考えてみたけど、実際に上手くいくかどうかって思うと……」

妹の依姫に態度を突っ込まれるも、こればかりは仕方ない。
いつだってイメージと現実はずれていて、どんなに企んでみても、やっぱり噛み合わないことが多い。
それでなくても今回は緻密な策があるわけでも無いのだから。

「そんなに不安なら、もう少し案を煮詰めれば良かったのに」

「そんなにガチガチにしたら、私たちがお祭りを楽しめなくなってしまうわ」

レイセンの幸せを願う一方、自分達だって祭りを楽しみたい。
両方やってこそ“お姉さま”というもの。と豊姫は勝手に考えている。
単純に祭りを楽しみたいだけとも言う。

そのとき、豊姫に電流走る。
“マチビトキタル”
それは本能的に姉タイプ故の直感か、或いは受信してはいけない電波でも受信してしまったのか。

「来たわ」

「えっ」

「レイセンが来た」

・・・・風が、・・・・くる!・・・・
確かに、依姫の神的なサーチにも引っかかっている。事実のようだ。
豊姫がどうやって感知したかは、あえて考えないことにした。本当に電波だったら怖いし……

「私たちのお祭りはこれから……!」

「依姫ちゃん、それじゃあ打ち切りになっちゃうわ!」

折よく太鼓の音が響き始める。
まるでここからが祭りの本番だと言わんばかりに……緊張やら何やらで周りの音が聞こえていなかっただけな可能性もなくはない。

そして、二人が来る。

レイセンルート9章 ~彼女の想い、彼の思い~

「うふふふふ……はっ!」

いつまでトリップしてるつもりだろう、と起こそうとした矢先に目を覚ますレイセン。
お姉さまにヤバイ表情を見せないあたり流石の一言である。

「危ない所でした、色んな意味で」

いや、まだ危ないから。ヨダレ拭いてからにしましょうね。
そう指摘されたレイセンは顔を真っ赤にし、口元を高速で拭くのだった。

「ま、ままま、まだどこかおかしいところありますか!?」

ないんじゃないんすかね。
遠目で既に綿月姉妹が見えているけど、きっと問題ないよ!

「わひゃあ!? み見られた! どうしよう!」

どうしようもないと思います。諦めて行きましょう。

「ううう……」

接敵!
傍から見れば両手に余る程の花を抱えた男一人! しかしその実、男に向かって矢印が伸びていないなどと誰が見抜けようか!
まして小柄なウサミミ少女がこの場の主役であろうとは!

「お見苦しいところをお見せして申し訳ありません!」

「いいのよー割と見慣れてるし」

「それほど謝ることでもありません」

レイセンが頭をペコペコ下げる姿は、さながら負け組サラリーマンである。
ぴょこぴょこ揺れるウサミミが愛らしいところがサラリーマンとの大きな違いだろうか。
さりげなく見慣れた~とか言われてるが、もうこの兎ダメなんじゃないかな……

ところで、レイセンが落ち着くまで少し掛かりそうなので、三人の格好の紹介でも。

まずは依姫。
比較的地味目な色合いの浴衣であるが、その生来の美しさをいささかも曇らせるものではない。
むしろ私服(原作の衣装)とは逆位相に属する色を合わせることで、却って輝きを増していると言ってもいい。レイセンはいい仕事をしたと言わざるを得ない。
そしていつものポニーテール、そうポニテと浴衣である。この組み合わせの生み出す力は諸兄もよくご存知だろう。
すなわち、うなじである。後ろからだと眺め放題。これは正に役得と言う他ない。

続いて豊姫。
こちらも私服とは逆の派手な色を合わせている。日常とのギャップが眩しい、きっと普段着を見慣れた者ほど嬉しい、正にレイセン得。実に似合っているので俺得でもある。
依姫以上の胸部装甲ゆえに、いまいち収まりが悪いが、これはこれでそそるものがある。いやむしろ収まりなんていくらでも悪くなっていいんじゃないかな!
そして時々覗く生足が素晴らしい……So sexy……Yagudo Shameimaruは関係ないだろ! いい加減にしろ!
密かに頭の一部なんじゃないかと疑っていたZUN帽だが、今日は珍しく外している。桃をあしらったかんざしがワンポイント。

そしてレイセン。当然外しませんよええ。
姉妹によって選ばれたという浴衣は暗色に花(月の花というらしい)を散りばめたデザイン。
お姉さまを自分色に染めようとしたら、いつの間にか自分が染められていた、とは本人の談。しかし似合っているので何も問題はない。
綿月姉妹もいい働きをしたと言うべきだろう。素晴らしい仕事だすばらしい。
真に可憐なるは添えの花とは誰のセリフだったか。少なくともお姉さまの引き立て役では終わらない美少女ぶりである。
控えめな胸部装甲も浴衣には好都合、着物のラインが美しく整っている。装甲の厚みじゃ女性の魅力は決まりませんよ!

…………ふぅ。以上、乱文失礼しました。
つまり何が言いたいかというと、意に反して来たとはいえ来た甲斐はあったということだ。
これだけの美少女達の艶姿を至近距離で見られるなんて、そうそうある事じゃない。正に特等席。

と、レイセンが正気に戻ったようなので、カメラ(意識)を再び現場に送ります。

「ふう……落ち着きました」

そりゃあ良かった。そろそろエラー覚悟で強制終了させようかと思ってたところだ。

「乱暴にしたら嫌ですよぅ」

実際には何もしてないんだから責められるいわれはない。
妄想が罪になるなら今頃崖下学園と紳士学園はお取り潰しだろう……取り潰された方が世のためのような気がしなくもない。

「ですよねぇ。あのタイツの人達は一度逮捕されればいいと思います」

実は外面だけは整ってる紳士学園のがヤバかったりするのだが。
等といつものフリートークを繰り広げていると、横から茶々が入る。

「仲がいいのねぇ♪」

綿月豊姫……そうだ、自分なぞと話をさせている場合ではない。
行くんだレイセン、攻めろレイセン、ぶつかるんだレイセン!

「お、押さないでください!」

いいからいいから、自分を信じて。

「この場合の自分ってどっちの意味なんですか!?」

一人称にツッコミを入れないでくれないか! 正直限界を感じているんだから!
無難に一番使用数が多い“俺”とかにしておけばよかったよ……いいから行け!

「ひゃう! むぎゅっ!?」

背中を押され飛び込んだ先には桃源郷が……と言いたいところだが、素直に喜んでいいものか。
レイセンは見事依姫の胸にダイブする形となった。
思わぬ感触と息苦しさに動かないレイセンと棒立ちの依姫。押し込んだ身としては微妙に沈黙が痛い。妹さんリアクションくださいますか^^;

「本当に、仲がいいのね」

「依姫お姉さま……怒ってます?」

「いいえ……複雑な気分なだけよ」

依姫は表情を緩め、そのままレイセンを抱き締めた。
レイセンの右手(姉妹の死角となる位置)が密かにガッツポーズを作ったのを、自分はきっと忘れないだろう。
一分ほどそのままだっただろうか、至福の私服をひとしきり堪能したらしく、レイセンが自分から離れた。

「行きましょう! 出店と祭囃子が私達を待ってます!」

なんだ急に仕切りだした>兎
姉分を補給したせいだろうか、表情が大変イキイキしている。
そうだその調子だ。お前なら出来る、お前ならやれる。未来は君の手の中よー!

人々が行き交い、出店が立ち並び、祭囃子が鳴り響く。
それは祭。人々の笑顔が生まれる場所、或いはイベントが生まれる場所。
レイセンとお姉さまのイベントを起こすべく、今男が奮起する……!

筈だったのだが。

おい……誰か止めろよ。

「無理です。」

マジか。

「ああなった豊姫お姉さまは決して止まらないのです……」

マジか……あれで正解なのか……

右を向けばたこ焼きの出店に並ぶ豊姫が、左を向けばわたあめを手に持つ豊姫が。
増殖したのではない、高速で移動しているのだ。さながらゼロコンマ1秒の世界に生きるがごとし。
まばたき一つの間に新しい料理を口にしているのだから恐ろしい。

これが実力差というものか……奴の動きを追い切れない……!

「食事の時のお姉様は真面目に戦うときより速いのです……」

妹さん……そんな事実は知りとうなかった。

「この切なさは誰かに少しずつ押し付けなければ、耐えられません」

大変なんだなあ。
それにしても、あんなハイペースで食べて腹はもつのだろうか。
あまり大食いという噂は聞かないが。

「豊姫お姉さまの食はそれほど太くはないのです。
 そろそろこっちに戻ってくると思いますよ」

「ちょっとお腹が辛くなってきたわ~はい、おみやげ」

噂をすれば影。綿月豊姫、たくさんの料理を持っての凱旋(笑)である。
把握しすぎだろうレイセン……いや、把握しすぎるほどに日常茶飯事なのだろうか。

「いつものことですから……それと、お腹いっぱいになってからの回復も早いんです」

それだけ食って、よく太らないものだ。

「私もそれは知りたくて……お姉さまには不思議がいっぱいです」

なに、嫌でも知ることになるだろう。
もっと近くにいけたならば……行けるだろうからな。

「……はいっ!」

いい返事じゃないか。
それじゃあ、お姉さまへのお近づきの第一歩として、姉の方が自分の手の中に置いていった料理を代わりに持って、

「それはいやです」

実際冷たい奴だよお前は!
じゃ、じゃあ……妹さんはいかが?

「お断りします」

このウサミミを誰が育てたかよく分かるなこの野郎!
全くお似合いじゃねーの!

「お、お似合いだなんて、そんなぁ……」

「…………」

デレデレになるレイセンに対し、無言で返す依姫。
だがその頬に朱が指すのを両の目が確かに捉えていた。効いている!
改めて確信を抱くには十分な証拠だ。依姫は落とせる……間違いない。

(ユウジョウ!)

(ユウジョウ!)

反応を引き出すための流れるような? 連携プレーに互いを称え合う二人がいたのだが、その瞬間の立ち位置の絶妙さたるや、依姫からは決して表情が伺えないのだった……

豊姫からは丸見えであったが。
実際には考え無しの行動だったことは言うまでもない。

「俄然やる気が出てきました! 私、やれる子だったんですね!」

今頃気付いたのか。そうとも君は可能性に満ち溢れている。
後ろ向きになってる場合じゃない。前進制圧あるのみだ……そしてその手に勝利を!

「やってやりましょう! あ、じゃがバターもらいますね」

さらりと腰を折る……ひとつづつと言わず、自分の腕の中で積み上がった料理を全て持って行ってもいいんじゃよ?

「それはいやです」

ふぁっきん。お姉さまからの好感度は稼げても自分からの好感度はだだ下がりだかんな!
月のない夜は気を付けないといかんからな!

「大丈夫ですよ。友達にひどいことする人じゃないって、知ってますもん」

……何その信頼。やめて純粋な目で見ないで。
素で返すとか反則すぎるでしょ……胸が痛いわ。この子に対して自分がいかに穢れてるかと思うと生きてるのがつらい。

「ふふっ」

やめて、やめて見ないで。
その優しげな表情で見つめられると穴という穴から穢れがほどばしって死にそうよ!

「レイセン!」

「依姫お姉さま?」

(待って依姫ちゃん! 今いい雰囲気だからもう少し後で……ああ……ああ……)

ナイスカット妹さん……危うく死ぬところだった。カウント3直前だったのぜ……
しかし只ならぬ剣幕、一体何事だろうか。良からぬことで無ければいいが。
それと姉の方がすごい落ち込んでるように見えるのは気のせいだろうか。

「あれをやりましょう!」

「あれ? ……射的ですか」

どうやら見せ場が来たようだな。今こそユーのこだわりの射撃センスを発揮するとき。
お姉さまもちょっといいとこ見てみたいってよ!

「決めてみせますとも!」

射的。
祭の出店としては定番のひとつである。専用のコルク銃を用い、景品を台から撃ち落とせれば、その景品をもらえるというもの。
1プレイ500ギル。支給される弾は店にもよるが4、5発といったところ。この店は5発のようだ。
コルク銃が支給されるのはここだけなので、図鑑コンプのために一度は来店必須だったりする。

みうs! ダメージを与えられない!
みうs! ダメージを与えられない!
みうs! ダメージを与えられない!

「当たらない……またスランプ!?」

いやいやいや。高度なボケはやめてくれないか。
見ろよあの姉妹の残念そうな表情。

「レイセン……」

「レイセン……」

「あわわわ……依姫お姉さまも豊姫お姉さまも見るからに落胆してる!」

この結果には自分だってガッカリですよ。
大体なぜそんな普通の撃ち方をするのか、全く効率的でないじゃないか。

「そんなこと言われましても、銃の構えってこうでしょう?」

そう言うと両手で銃を構えるレイセン。
……なっちゃいない! なっちゃいないぞ!! 周りをよく見ろ!

「周り…………はうあ!」

レイセンは言われた通りゆっくりと周りを見渡し……綿月姉妹の落胆の視線と目が合い、再びダメージを受けた。
違うもっと近く! 具体的に言うとお前の隣!

「隣…………はうあ!」

レイセンは言われた通りゆっくりと隣を見渡し……その光景にダメージを受けた。

それは奇怪な構えであった。
標的と己を隔てる台に片手をつき、銃を持つ手は思い切り前に伸びている。そればかりか全身を乗り出して銃口と的の距離を少しでも縮めようとしているのだ。
斯様な銃の扱いは見たことも聞いたこともない。レイセンは戦慄した。

「こ、これは何事!?」

「レイセン……射的のいろはも知らないなんて」

この子はこれまで射的屋にどれほどのギルを呑まれてきたのか。
その額を想像して私は内心で悲しみの涙を流した。
今までおかしいと思わなかったのか。誰かコツを教えてあげれば良かったのに。いや今からでも遅くはない筈だ。

「いいレイセン。よく聞きなさい」

「豊姫お姉さま?」

友達に恵まれなかったのだろうか。いや、他の友達は黙っていることで落ち込むレイセンの表情を見たかったのかもしれない。
かわいいは正義である。しかしそれは時に諸刃の剣となるものだ。
かわいい娘のかわいい姿を見るために敢えていじわるしたりだんまりを決め込んだりすることは稀によくある。ほらレイセンかわいいし。
正直私も見たい。けれど妹分が財布の中身を吸われていくのを見ているだけなど、できるわけがないッ!
その証拠にホラ、依姫ちゃんも……

「銃は利き手だけで握り、なるべく的に近づけるのです。それと的はなるべく小さいものを狙いましょう」

「依姫お姉さま……はいっ!」

流石私の妹、考えることは同じだった。
けれど私がするはずだった説明を取っていったのはいただけない。こっそり頬を膨らます。
レイセンの右側に立つ依姫ちゃんの逆に位置取り、アドバイスを飛ばすことにする。

「片手で狙う分銃口がぶれやすいから、じっくり狙うのよ。大丈夫、レイセンなら出来るわ」

「豊姫お姉さま……ありがとうございます!」

必死に身を乗り出して的を狙うレイセン。その姿を見ながら考える……どうしてこうなった。
本当は射的に夢中になってる間に依姫ちゃんを連れて抜け出すつもりだった……既に仲良しに見える男女なのだから、特殊な環境で二人きりにすれば、放って置いても仲が進展するだろうと。
こんなにかわいい後輩のこんなにかわいい浴衣姿を見てどうにかならない男の子なんているわけないし。
しかし、まあ、いいだろう。出店は他にもあるのだし。次のチャンスを待とう。

ギョクトちゃん人形に10のダメージ! ギョクトちゃん人形を倒した!

勝利!
ギョクトちゃん人形をロット勝ち!

「やりました! 金星です!」

あれからもう500ギル突っ込んだ結果だけどな!
そこは一回目の残弾で決めるところなんじゃねーの? と思ったのはきっと自分だけじゃない。
しかも取ったのは微妙にかわいくない人形だし。

「えっ。ギョクトちゃんかわいいじゃないですか」

どこが? デフォルメに失敗したミッ○ィーみたいなツラしてるやん。
しかもその人形相手にまごまごやってる内に自分景品落としてるし。

「いつの間に!?」

注意力散漫すなぁ……まあいい、次に行こう。
出店はまだ山ほどあるのだ、飯食ってる場合じゃぬえ!

「そうね、他の出店も見て回りましょうか」

「はい! 行きましょう豊姫お姉さま!」

ハイテンション月兎。
無理もない。さっきまで両隣からお姉さまのボイスが耳を撫でていたのだ。自分が同じ立場なら、と想像するだけでもご飯3杯はいける。
次もあわよくば、そう考えるのは人間のSaGaではなかろうか。彼女は兎だが。
ぶっちゃけおいしいイベントが連発していて、自分にとってもレイセンにとっても正直予想外だし。
予想外なりに起きたからにはプラスコミュニケーションとなるよう誘導するつもりではあるが……

それからいくつかの出店を攻略し、輪投げに挑もうとしたときに事は起こった。

「景品がないって……」

店主によれば、奇妙な帽子をかぶった金髪幼女がことごとく景品をかっさらっていったのだと言う。
ご丁寧に鉄製のMy投げ輪まで用意していたらしい。その輪は投げれば百発百中、必ず狙ったところへ飛んだとか……
ああ、私はその説明に合致する人物を知っている! けれど、今はそんな事はどうでもいい。重要じゃない。

(依姫ちゃん、依姫ちゃん!)

(お姉様)

そっと隣の妹に話しかける。時は今。このまま流され続ければレイセンを愛でる会になってしまう。
いや愛でること自体はいい。だがそれは後輩としてで可愛がりたいのであって、恋人としてではないのだ。
このままでは、心を持っていかれてしまわないとは言い切れない……自分の想いが揺らいでしまうのが怖い。

「レイセン」

「はい?」

「ちょっとトイレに行ってくるから。依姫ちゃんも一緒に」

「わかりました」

レイセンにそう言い残してトイレに向かい……レイセンから見えなくなった辺りで駆け出す。
足を進め、ちょっとやそっと探したくらいでは見つからない距離を確保してから停止。
この日のためにリストアップしていたポイントだ。誰にも見られる心配がない。

「それじゃあ、依姫ちゃんお願いね」

「……始めます」

おのれあのロリ蛙先生め……My輪投げとか完全に詐欺じゃないか。
スペカ用の道具なんだから自由に操れるに決まってる。汚いな流石大人きたない。
……ん? 綿月姉妹いなくね?

「お姉さま達なら……その、お花摘みに」

ああ、トイレね。

「ぼかしたのに言い直すことないじゃないですか!」

一々トイレなんかで恥ずかしがってんなや! 誰でも行くわいそんなもの!

「むぅー……」

~10分後~

遅くね?

「遅いですね……」

むぅ……仕方ないね。妄想上のヒロインじゃあるまいし、汗もかけばトイレにも行くってな。
それにしても、そろそろ戻ってきてよさそうなものだけれど。

「そうですよねぇ」

~30分後~

いくらなんでも遅すぎる! 移動したら姉妹が戻ってきたときに困るだろうと悠長に構えすぎた、探しに行こう。

「トイレはこっちです。お姉さま、どうしたんだろう」

良くないことにならなければいいんだが、どうにも嫌な予感が。
何か首筋がムズムズするような……

「やめてくださいよ……私まで不安になってきました」

それはすまんかった。とにかく行けば分かるだろうか。
まさかまだトイレに篭ってるとは考えにくいけど、一応確かめないわけにはいくまい。
内部調査は任せたぞ!

「あ、でも、もし……もしですよ? お姉さまがまだ中にいて、その、用を、足してる最中だったら」

知らん。いいから行け。

「ひどい!?」

ひどくない! そら行く!

「あぅぅ……いってきます……」

行ったか。全く何をもたもた……いや、分からないこともないかも。
それより自分の仕事をしないことには。考えてみれば、サーチのひとつもすれば引っかかる筈なんだ。
すっっっかり忘れていたのは言わないほうがいいだろう。

「トイレには誰もいませんでした」

そうか……参った。こっちもサーチを試してみたが引っかからない。
一体どこに行ってしまったんだ。

「うう……まさか、私が何か失礼なことをして、怒って帰ってしまったんじゃあ……
 ごめんなさいお姉さまぁ……」

妄想が飛躍しすぎだろう。自傷行為はおやめなさい。
しかし、確かに何故姿を消したのか分からないな…………

まさか、いや、いやしかし、だけど……ありえないとは言い切れないのか?

「何か分かったんですか?」

証拠もないし、あくまで妄想レベルに過ぎない話なのだが……ひょっとしたら二人は、拉致、とかされてしまったのでは。
自分にはともかくレイセンに連絡もなく消えるとは思えないし。

「そんな!? で、でも、お姉さま達をどうにかできる人なんて」

いない。と言うことは自分には出来ない。
いや繰り返すが妄想でしかない。最悪有り得る、と言う程度の話だ。

「そんなの聞かされて妄想だから気にするなーなんて出来るわけないですよ!!」

だよねぇ……言ってて自分も凄く不安になってきた。急いで探そう。
二手に別れよう。レイセンは祭の運営とかそういうのに話を持って行ってくれ。自分はこの場に行方を見た人がいないか聞いてみる。
いけるか?

「はい! 急ぎましょう!」

prrr……prrr……

何事!

「私のケータイです……豊姫お姉さまからです!」

何……だと……
探しに行こうとした矢先にこれとは、タイミングが良すぎやしないか?
やはり……陰謀!?

「い、陰謀!?」

自分達は……監視されている……ッ!!

「かっ、かか、監っ、」

しーっ! 気付かれてはマズイ。
それとまだ万に一つレベルの妄想が千に一つレベルに昇格しただけなので、騒ぐのは程々にしなくてはならない。

「まだ推論だけですもんね……」

だが慎重にいかなくては。メールか?

「はい。えーっと……『私達は平気だから気にせずお祭りをたのしんでいってね!』……だそうです」

そんな情報が今更何になると言うんだ!
却って余計怪しくなったと言わざるを得ない。この測ったようなタイミングで心配いらないなんて内容のメールが来るとか助けを求めてるように深読みしてしまう……
レイセンはどう思うよ。

「私も不自然だと思います。やっぱり何かあったのかも……お姉さま!!」

例え結果的に妄想乙と言われることになろうとも、転ばぬ先の杖というものだ。
……一応電話をかけてみよう。メールの返事が電話でもどこもおかしくはないからな。
頼むぞ、頼むぞ、レイセン。

「何とかやってみます…………繋がった!」

よし! これでとっかかりが出来れば!

『ちっがーう!!』

通話口から突然の絶叫。レイセンの耳がダウン! 不意打ちでレイセンの思考もダウン! ついでにPCの思考もダウン!
機能不全に陥った二人。だが追撃のグランドヴァイパは容赦なく牙を抜く……

『そこは二人っきりなんだから、“仕方ない、二人でちょっと祭を見て回ろうか”とか言うところじゃない!
 どうして陰謀論に繋がるのよ!?』

大音量がレイセンの耳を揺さぶり続けるが、声のテンションはとどまるところを知らない。
むしろドラゴンインストール……更なるヒートアップは必至であった。

『大体彼の立ち位置が分からないのよ! 噂になるほどレイセンと仲良くしてるくせに、まるでそれらしいそぶりを見せない!
 男女間の友情だとでも言うつもりなの! そんなのあるわけないでしょう!』

ドラゴンインストールと言うよりはドラッグ・オン・インストール。滅多に見せない荒れっぷりであった。
それもレイセンのことを思えばこそであり、常の自分、すなわち立場を弁えていればこのような失態は見せなかっただろう。
つまり簡潔に言えば、祭で浮かれていたのが悪かった。

「まったくもう! まったくもう! もうちょっとしたら花火が上がるのに!
 二人で花火を見ながら“君のほうが綺麗だよ”とか言えばいいのに! 空気を読むべきだわ!」

気付けば携帯とは別方向からも声が聞こえていた。二方向からの大音量でレイセンの耳がダウン! しかし思考はガード!

「……豊姫お姉さま?」

「あ」

あ。ではない。声はすれども姿は見えず、しかしレイセンの勘はその姿を確かに視ているのだ。
不思議と声の方向さえ分からないが、それは素人の話なのであろう。綿月姉妹の玄人(?)には障害となりえない。
そしてレイセンは躊躇なく誰もいないようにしか見えない空間に飛びついた!

「おねえさまあああああ~!!」

「きゃっ!? ちょ、ちょっとレイセン?」

「心配したんですよ! おかしなことになってしまったんじゃないかって!」

外から見るとなんとも微妙な光景である。
何もない空間にしがみつくレイセンと、どこからともなく響く労りの声。
事ここに至ってもサーチに引っかからない辺り、検索避けでは済まない隠遁の術を用いているのだろうか。

「私なんかが心配なんておこがましいかもしれないけど……あっ! 依姫お姉さまもご無事で!」

レイセンが左を向く。こちらからは全く見えないが、やはりと言うべきか姉の方の隣にいるようだ。
と、ゆっくりと何もなかった場所にシルエットが表れ……

「やっぱりおねえさま! よかった、本当によかった……」

「ふぅ……ごめんなさいね、心配かけて」

ようやく姿を表した豊姫と抱き合うレイセン。それだけならば美しい光景である。
しかし、こちらとしては確かめねばならないことがある。妹さんには少しレイセンとのふれあい時間を待ってもらおう。

「……」

どういうつもりで姿を消していたのか。

「……」

何が目的でこんな騒ぎを引き起こした。

「……」

何のためにレイセンにいらぬ不安を与えるような真似をした……!

「それは……いえ、答えることなどありません。これはお姉様も同じでしょう」

それで済むとっ!

「不安を与えたのはあなたも同じことでしょう」

…………そうか。どうあってもか。
じゃあ、あと一点。どうやって隠れていたのか。

「……神隠しです」

神が隠すから神隠し、という訳……オマエノシワザダタノカ。
分かった。時間を取らせて申し訳ない。あちらで二人がお待ちですしおすし。

依姫はレイセンの元へと向かっていった。
しかし依姫が去った後も、両の目は彼女が立っていた虚空をじっと見ていた。
レイセンが呼ぶまで、じっと見ていた。

さて本日やってまいりましたのは、祭に賑わう神社です!
見てくださいこの盛り上がり! もうすぐ花火が上がるということで、皆様興奮しているようですね!
それでは現場に送りたいと思います。中継のレイセンさーん!

「はーい! こちら現場のレイセンです!
 私の周りも人がいっぱいで……殆ど人いないじゃないですか!」

ヘーイ!

「へーい!」

いいノリツッコミだった。
ちなみに人が少ない理由は、ここがいわゆる花火見学における穴場だからだ。

「地元の人でもないのに、どこでそんな情報を?」

答えはコレさっ!

「アドレス帳? あ! 私の後輩の名前が!」

そうよぉ……その通りよ! いつぞや面倒をかけられた君の後輩達(7章)の力を借りたのさ!
いや、あれで話せば意外と分かる連中だったもので、いくらか頼らせてもらったと。

「いつの間にそんな繋がりを……」

男は行動力!
……さて、色々あったが、予定時刻だ。用意はよろしいですか?

「正に恐悦至極! ……でしたっけ」

はて、自分は弾幕STGの話などしたことがあっただろうか。いや今はいい。
ま、ファンブルさえ出なければ勝ちのようなものなので、気楽にいってくださいな。
……幸運を。

「ありがとうございます」

どういたしまして。
ワシは後ろ、いや花火の方を向いておるよ……

レイセンの右隣に立つ。左隣には依姫ちゃんが立ち、ちょうど挟み撃ちの形となった。
結局レイセンと彼を上手くくっつけることは叶わなかった。こんなことならもう少し念入りに計画を練っておけば……
ああ、祭の誘惑に負けた自分が憎い。

見上げる空にまたひとつ花火が咲く。大輪の向日葵のような鮮やかな光が夜を照らした……

綺麗……素直に感嘆する。
本当ならレイセンと並んで花火を眺めているのは彼の筈なのだけれど、その彼は一歩引いた位置に立っている。
姿を消した件であまり強く出れないのが困りものだ。やっぱり念入りに(ry

地上から花火が打ち上がり、遠目にはゆるやかに見える速度で上昇する。

「―――。」

ぼっ、とまた新しい花が咲いた。

それはささやくような声だった。
花火の爆ぜる音にほとんどかき消されていたけれど、かすかな残滓を耳は拾ってしまった。

―――好きです、と。

それは告白なのか。レイセンに問いたかったが、本当にそう言ったのか自信が持てない。
何か別の言葉の聞き違いだったら……と思うと、追求は却って墓穴を掘る結果になるのではないかと。
不意打ちすぎて体温が上がり、迂闊に聞き返せないため感情がぐるぐるする。顔が赤くなってるのが自分でわかってしまう。
横を向いて依姫ちゃんを見る……やっぱり依姫ちゃんも顔が赤い。

そして、レイセンと目が合った。
華の咲くような可憐な笑みが返ってきた。

ッ!!
……まずいかもしれない。このままだと本当に。
或いはレイセンのことを舐めていたのかもしれない。なんとでもなる相手だなどと。
急がないと、本当に。私の心まで持って行ってしまうかも……

空にはいくつもの花火が打ち上がり、夜を照らしていた……
彼女達の夜は更けていく……彼の心に楔を打ったことなど、気付かないまま。

上手くいったようだ。
好意を意識させることで強引にフラグを立てる作戦だったのだが……更に言えば、告白の練習でもある。
あくまで小声で、かつ花火に紛れさせることで、追求されても脱出は容易。完璧な作戦だッ!

……

このままでいいのだろうか。
意図も目的も分からないが、あの二人はレイセンから一度逃げた。
あんなにいい子なのに、受け止めるのを拒否しようとしたのだ。

そんな奴らに、あの子を任せられるのか。
……俺は、それでいいのか?

レイセンルート9章 完

つづきますとも
あとがき
難産。
チャットの方で投稿予告を見ていた方には大変失礼を致しました。

小宇宙:聖闘士に同じ攻撃は二度と通用しない。これは最早常識!
・・・・風が、・・・・くる!・・・・:ロマサガ3
接敵!:アカツキ電光戦記。地味だけどいいゲームだったよ……今どこに置いてあるのかな。
浴衣:書きたいように書いた。後悔はしていない。
ゼロコンマ1秒:ゲッターの恐ろしさを見せてやるぜ!
奇怪な構え:至近弾以外信用できない。
ギョクトちゃん:月光女学院のマスコットキャラクター。という風にwikiの方に仕込んでおいた捏造……
SaGa:かみは ばらばらに なった! の元ネタと言えば知らない人でもピンとくるだろう。或いは鉄学園の校歌。
プラスコミュニケーション:曲芸商法は関係ないだろ! いい加減にしろ!
サーチ:同ワールドにログインしている冒険者を探す機能。
ドラゴンインストール:グランドヴァイパの人のゲージ技。短時間自機強化。
ドラッグ・オン・インストール:ドラゴンインストールのパロ技。(薬物による)短時間自機強化。
正に恐悦至極:選択肢までCAVE語である。

前回のコメント返信
>レイセンのリアクションやテンポ良いネタに終始ニヤニヤしっぱなしでした。
コメントありがとうございます。ニヤニヤ……していただけた。良かった……

>オペ子いいよね!ね!
ねー。

>面白くなってまいりましたなぁ!
>良いですねぇこういうの!主人公もレイセンも綿月姉妹も永琳も良い空気吸ってるなぁ!!
コメントありがとうございます。長く間が開いたせいで熱が冷めてるかもしれませんが、良かったらどうぞ。

>俺のテンションも熱風!疾風!状態ですよww
さいばす~ぅたぁ~。

>次回は浴衣であの一部(?)カオスな夏祭りなのだろうか?あれも楽しみです。
あまりカオスにはならなかったのでした。

>そして祭りで踊るってのは上手いですねぇ、座布団1枚。
君は……偶然の一致というものを、知っているかな?
倫理
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

0.100点簡易評価
1.100点2012/02/14 21:49:58削除

   ところどころ挟み込小ネタがいい味出してますなぁ
   むむむ、お互いのすれ違い感が浮き彫りになってきたな
   続きが気になるのである

2.100点2012/02/15 01:02:18削除

   君は可能性に満ちたレイセン…可能性という名の神を持っているのですね分かります。
   そして綿月姉妹、やっぱりトイレは嘘だったじゃないですか…中に誰もいませんよ?
   何だかんだで言うときはちゃんと言ってくれる主人公もグッドです。
   だからこそまぁ、主人公も主人公と仲が良いレイセンも幸せになって欲しいなあ。
   [恐悦至極]な状態のレイセンと[それなくね?]な主人公がどうなるか目が離せません。次も期待しています。

3.100点2012/02/16 02:53:43削除

   相変わらずの主人公のジェントルマン具合www
   お人よしすぐるwww
   美女三人とか、どんだけshitto団作る氣ですかっ!!
   パルパルパル…。
   この居心地のいい関係からどうやってwikiのような関係になっていくのか非常に楽しみです。