SS/妄想SS レイセンルート十四章

Last-modified: 2013-11-12 (火) 09:26:13

妄想SS レイセンルート十四章
倫理
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早朝、博麗神社。

博麗霊夢の朝は早い。大抵6時には目を覚まし、身支度を始めるのが常だ。
しかしこの日は5時には目を覚ましていた。
この早起きは偶然がもたらしたものではない。

「今年もこの時期が来たのね」

腋巫女服と称される、実際巫女服なのかなんなのか傍目には良く分からない衣装に袖を通す。
顔は洗ったし食事も済ませた。それに歯も磨いた。支度らしい支度などこの程度だ。
化粧など碌にしたこともないし、髪も手櫛を通しただけで即座に整ってしまう。世の女性が聞いたらさぞや歯噛みすることだろう。
さて――と、霊夢が呟く。

「自分も当事者となると、感慨深いような、そうでもないような」

今頃はせっせと石段を登っているであろう集団を想像する。
今日は学園祭2日目、一般客への開放初日である。
多くの生徒が安全を願い、神社へと詣りに来るのだ。日頃は見向きもしないこの博麗神社にも、である。
そんなにご利益が欲しければもう少しマメに来てくれてもいいのに。素敵な賽銭箱はいつでもここにあるのだから。

「ぼやいても仕方ないけど」

しかし、神頼みしたくなる気持ちも分かる。
昔は神社に来る学生を不思議に思いながら見つめた少女も、今や高校生。学園祭のメイン柱である。
何事も無く、楽しく、そんな学園祭であってほしい。霊夢だってそう思っている。
だからと言って、一緒になって二礼二拍手一礼、というのも何か違う気がするので……

「せめて境内の掃除くらいは、ね」

今日は学園祭2日目。
きっと、慌ただしい日になる。

レイセンルート14章 ~続・学園祭の喧騒~

もうボクには何も分からない。世界はぐるぐるのバターになってしまったに違いないのだ。
そうでなければ、なにゆえにレイセンがこっちに来るとか言い出すのか。
あんまり混乱してたせいでメールにも返信していないし、正直今でも混乱している。マジどうしよう。
いつ来るのか? 本当に来るのか? どうすればいいのか?
誰かタスケテ!!!

そして、PCが飛んだ。

何かの衝撃音と同時に、前のめりに吹っ飛んだのだ。
あまりにも奇っ怪、あまりにもホラー。恐怖のあまり錯乱しそうだ。自分が正気を失わないのは、何より叩かれた本人だからだ。
痛みに呻きながら背中を押さえ(叩かれた?)、勢い良く振り向いて――そのまま止まった。

「こんにちわ」

……こんにちわ。つーか痛ぇんですけど。
おかげでどっかで書いた文の焼き直しまでしてしまったんですけど。

「そうですか紅葉すごいですね」

背中に真っ赤に咲いた、って何言わせるの。
あー……レイセンさん。

「何か用ですか?」

劇は上手くいきましたか。

「それほどでも……ううん」

どうかしたのか?

「いえ……その、劇そのものは大盛況だったんですが。計画の方が……」

なんと。仕方がない今から頭下げに行ってくる。
計画犯がのうのうとしている訳にはいかない。

「待って! 問題が起きたんじゃないんです。
 つまり……えっと、劇に集中しすぎて、忘れてしまった……みたいな? てへっ☆」

…………マジか。
そうか、それならしょうがない。いつも上手くいくものでもないからな。
あんまり気を落とすな。

「……ツッコんでくださいよ」

嫌でございます。
等と軽口を叩きつつ、レイセンを観察する。
ここでボケられる余裕があるなら後を引くこともないだろう。失敗を重く捉えてなくて良かった。
これなら余計な慰めはいらないだろう。

「あ、そうだ」

hai?

「昨日はありがとうございます。おかげでがんばれました!」

……妙に気恥ずかしい。
自分の中では昨日の行動は完全な空回りだったのに、それに礼を言われるとは。
どうしよう、いっその事シラを切ってしまおうか。向こうから自分の姿は見えていなかった筈なので、ひょっとしたら誤魔化せるかもしれない。

→[それほどでもない]
 [何のことかな?]

まあ……うん、それほどでもない……ですよ?

「良かった! やっぱりあなただったんですね!」

e? 待って、確信があって言ってたんじゃないの?

「姿形が見えないのにどう確信しろと。でも自信はありました!」

うぐぅ、その通りです……(シラを切れば本当に誤魔化せたかも知れなかったのか)
し、心霊現象じゃなくて良かったじゃん!?

「本当ですよ。一緒にいた友達なんかはポルターガイストだ! って騒ぎ始めちゃって」

うぅ……申し訳ないのです。
そ、そう言えば! そう言えばどうしてこっちに来たのさ!
向こうの学園祭ぶっちぎって良かったのか?

「はい、今日は手が空いてまして。お礼は直接言いたくって。
 それと、前々から他所の出し物には興味があったから、丁度いいかなと」

……実はメインとサブが逆で、自分をダシにして学園祭に来る口実を作ったんじゃ。

「怒りますよ」

ごめんなさい。
いや、礼くらいメールか電話で十分だし……

「あなたがどう思おうと、私にとっては大事なことなんです!」

はいィ! 出過ぎた発言でしあ! 勘弁してください!

「許します」

ありがたや。

「でもちょっと許せないので、しっかり案内してくださいね」

アイアイっサー! 私めにお任せください! なんてな。
出来る範囲でだけ、どうにかやってみよう。
……あんまり期待しないでね?

「採点は辛口で行くので安心してください!」

何も安心出来ないよ!

「まず、あれはなんですか?」

レイセンは屋上に鎮座するものを指指した。
ああ、あれはからくり部の出し物だ。レイセンが気にするのも無理はないだろう。
何せ屋上を丸々占拠する程の大きさ、ざっと100mはあるだろうか。学園に近づく者は嫌でも目にすることになる。
あれをからくりと呼んでいいのかどうか気になるが……作った奴にとってはからくりなんだろう。
名前は確かデンドロビウム……詳しいことは屋上で体験会をするのだとか。

「体験会?」

開発の話が聞けたり、触ったり、動かしてみたり出来るそうな。
現状では中身がほとんどカラらしいので、モニターと電飾くらいしか動かせるものはないようだが。

「へぇー。ちょっと気になりますね」

行くのは後でだがな!
いきなり屋上と言うのはどうにも良くないだろう。
先に校庭や校舎を見て回るべきと考えますがいかがでしょうか。

「いいでしょう。そのようになさい」

えっらそーに。

「振ってきたのはそっちですよーだ」

ふんっ!
冗談はさておき、校庭だ。
昨日は確かたい焼き屋がやっていたが、今日はどうだろうか。
店員が怪しいが美味いんだ。

「たい焼きですか……あれ?」

ん? 誰か近付いてくる。
あれは、どこかで見た顔じゃないか。

「うぐぅ、助けてよ!」

月宮あゆじゃないか。一緒にレイセンの後輩を退治して以来か?
未だに雪国に帰ってない事実に少し悲しくなってしまうよ。

「そんな事より、ボクを助けて!」

ダメです無理ですお断りです。

「どうして!?」

どうしてって、どうして自分が君にたい焼きをおごらなければいけないんです?
それとも盗みを働けと? どっちも嫌に決まってる。
と、あゆをやりこめようとしていたら、レイセンが少し顔をしかめた。

「流石にそれは言い過ぎなんじゃ……」

いいかレイセン。月宮は決して悪いヤツじゃない。
しかし、ことたい焼きに関する場合は違う。たい焼きが絡むとこいつは法や倫理より欲望を優先するんだ。
地元じゃあそこそこ名の知れたたい焼き泥ぼ、

「わーわーストップストップ!」

あゆはこちらの発言を強引に遮った。勝ったな……
大体、ご自分の財布から出せばいい。どうして自分に頼るのか。
この街じゃ強者にはいくらでも稼ぐ手段がある。月宮の腕ならたい焼き代なんてすぐに手に入るだろう。

「うぐぅ……たい焼き買ったらなくなっちゃった」

マジか。いくら使ったんだこいつ。
でもそれは自業自得ですよね? やっぱり自分がお金を出すのは不自然であるな^^

「……ボクの事、放置してたくせに。フレンド登録しておいて放置してたくせに!
 レイセンちゃんの後輩をやっつけた時から全然連絡くれなかったくせに!!」

ウッ!?
そ、それは、ゲームの事情というものがですね……
苦しい弁解、周囲の目線は正直だ。当然レイセンも。

「ちょっと、どうかと思いますよ」

目が冷たい……!
う、うぐぐ、ぐぅ…………ごめんなさい自分が悪かったです。フレンドを放置とか絆ゲーにあるまじき行為。
これはたい焼きで補償せざるを得ない……自分の負けだ。

「わーいっ! たい焼きー♪」

力なく突っ伏す。図にするとorzである。
負けた……一度は勝利を確信したというのに、この逆転ぶり。悔しいです……
涙はない、涙はない。明日に笑顔があるなら。
……たい焼き屋ー! たい焼き屋ぁー!

「へいらっしゃい! 1つ1000ギルになりやす!」

お前いっぺん地獄に落ちろ! 古明地の姿が見えないからって足元見やがって!
ちくしょう3個よこせこんちくしょー!

「3000ギル、まいどあり!」

「おいひーねー」

他人の金で食うたい焼きは格別だろうがよ。味わえ、嫌になるくらい味わえ。

「あの、私の分まで出してくれなくても」

いいんだ。お腹が空いたらスニッカーズ……違う、腹が減っては探索出来ぬと言うだろう。
もう1つ買うのも3つ買うのも大差無いし。無いし! 財布とか全然平気だし!! だから食え。

「……いただきます」

味だけは保証するので、味わって食べるといい。月宮、お前も「もう一個ない?」殴るぞお前。
それとお前、なんでまだネ実市にいるの? 前に雪国に帰れって言ったよね。

「うぐぅ?」

ダメだこいつ欠片もわかっちゃいねえ。もうKANON始まらないんじゃないかな。
全国の冬になるとたい焼きやバニラアイスを用意する方々には申し訳ない……

もういいや。自分が悩む事じゃなかった。
ネ実市では決して見つからないものを永遠に探し続ければいいのさ。たい焼きうめえ。
レイセンはどうだい。

「これ、おいしい……」

――よし、掴みは完璧だな。
食い終わったら次へ行こうか。あと月宮、自然に付いて行く感じの空気出すな帰れ。

「うぐぅ!? どうして!」

始めからイレギュラーなんだよお前は……今日はもう出番無しな。たい焼き食べたでしょー?

「しょうがないなぁ……またね!」

あゆは去っていった……
そしてまたねと言った。まあわかってた事ではあるし、好きにしたらいいと思った。
気を取り直そう。

「ごちそうさまでした」

お粗末さま、は自分の台詞じゃないか。作ってないし。
さあ次だどんどん行こう。今日はたい焼きだけじゃ終わらないっぜ!

人ごみの中を進む。
通りの至る所に人がおり、進みにくくて仕方がない。はぐれるほどではないのだが。

「すごい人の量です」

向こうの特設ステージの方はもっと凄いことになっているだろう。
今年はなんとあの人気バンド『FIRE BOMBER』がライブをやるのだから。
ほら、あっちの方の上空を見てみるといい。

「え、あれって……まさか、雲じゃなくて人が集まってるんですか!?」

日差しを遮るレベルで空が埋まるのはネ実市であっても滅多にないことだ。
地上に割って入るだけのスペースがないため、飛べる奴がどうにか場所を確保しようと空に集まっている。
立ち見ならぬ空見という全く新しいライブスタイル。

「すごいですねぇ……」

それだけFIRE BOMBERの人気がすごいということだが……ステージに入りきらない客がこっちに来るから困る。道が狭い。
はぐれるなよ? 探して回るのはいかにも非効率的だ。

「そんなに心配しなくても大丈夫ですって」

フラグが立った気がするよレイセン。
はぐれてもエリアサーチすればいいとか言わない。話の都合で便利な手段が忘れられることは稀に、いや割とよくある。
(ここでサーチの存在をアッピルすることで万一の時に無駄に探しまわる展開を排除するのがデキルPCスタイル)

「あ、あれなんだろう!」

言ってるそばから走るなよ! はぐれる気マンマンじゃねーの!?
待てってちょっと……ちょっと止まれよ! ああもう!

「行列が出来てますよ!」

見りゃ分かる。そんな事よりキミはボクにごめんなさいしないといけないことがあるよね?

「何がです?」

は・ぐ・れ・る、つってんでしょうが! この短時間に何回はぐれるって言わせるつもりだ!
もうちょっと危機感を持ちなさい! 他校の祭りに参加して、浮かれる気持ちは分かるけど、お願いしますよ……

「うっ……ごめんなさい」

よろしい。それじゃあこの行列についてだが……関わらなくていいんじゃないかな。

「なんでですか! 並んでる人は皆楽しそうですよ」

いやぁ、皆知らないから楽しそうなんだよ……
これは不思議のダンジョンに続く行列、なんだが。まさか校舎の外まで続く列になるとは。
どいつもこいつもどうかしてる。

「不思議のダンジョン……ああ、聞いたことがあります。
 これが陰陽鉄学園の売りだっていう、噂のダンジョンへの入り口なんですか」

危ないんだよ、長いんだよ、辛いんだよ。経験者から言わせてもらえば何も楽しくないんだよ。
ゲームじゃないんだぞ。毎回毎回、入る度に未探索状態に戻るダンジョンなんてゴメンだ。装備と経験は持ち越せてもダンジョンは持ち越せないんだ。
その上潜っても潜ってもまだ下がある。とにかく疲れるんだ……
見ろよあの完全武装の集団を、あれが全員行列客の護衛だぜ。それだけの事態ってことだ。

「大丈夫ですか? なんだか、急に老け込んだような」

思い出したくないことを思い出したからだよ! 畜生地雷も落とし穴もだいっきらいだ。
そういう訳だ、分かったか。

「わかりません!」

元気のいいお返事をありがとう……

「けど、この行列に並ぶのはちょっと嫌ですね」

! そうだろう、そうだよね!
よし次行こう次自分達とは縁がなかったと言う事で!

「ちょっと、引っ張らないでくださいよぉ!」

「冷やかしなら……あら、行ってしまいましたのね」

行列の後ろでわめく男女を片付けようとしたタルタル魔女がひとり。
レイセン達が去るのとは正に紙一重の差であり、彼女らは運が良かったと言わざるをえないだろう。

「まあ、よござんしょ。私も一般客の護衛で暇ではないですし」

もしも列に並んでいたら、もしも魔女が来るまで喋り続けていたら……ああ恐ろしい。
まして魔女がダンジョンの護衛についた日には……
魔女の名はシャントット。学園内外を問わず名を知られた、恐ろしい魔法使いである。

「さあ、張り切って参りますわよ。何と言ってもか弱いお客様を守るためですもの! オーホッホッホ!」

……確実に自分が暴れたいだけである。

どこからか、消毒液の匂いがする。

「本当だ。でも保健室はこの辺りにはなさそうですが」

しばし周囲を伺う。あのからだろうか。

「あそこだけ体育祭みたいな感じですね」

言われてみれば、体育祭の時は校庭で保険医が支度しているものだ。
なるほど似ている。見落としてただけで昨日からあったのだろうが、危険が集まる2日目には欠かせない。
担当は……八意先生ではないようだ。

「知らない先生です」

あちらは聖白蓮先生。普段は主に中学生を受け持っている保険医でいらっしゃる。
天然系スーパーヴァンダミング僧侶だ。

「ヴァンダミング?」

ヴァンダムは動詞(キリッ)。まあ、アクション男優も顔負けの御仁と理解していだだければ。

「ネタは分からないけど、意味は分かりました」

しかし遠目とはいえジロジロ眺めては失れ、いない!?
先生が消えた! ど、どこに!

「何か御用かしら?」

「ひうっ!?」

バックアタックだ!
聖先生は自身に向けられた視線を察知し、瞬き2つほどの間に自分達の後ろに移動したらしい。
何というハイスペック保険医であることか。心臓が跳ね上がったぞ。

「怪我でもしましたか?」

「いえっ! そういう訳では!」

レイセンも動揺していらっしゃる。不意打ちの形になったことに先生は気付いてないのか?
とにかく、なんとかどうにかしなければ。
こちら他校の子でして、何を見ても珍しいものですから、つい先生を凝視してしまって……つまりどこも悪くはないのです。

「そうだったの。怪我人がいなくてなによりだわ」

そう言って、先生は笑顔を見せた。何事もなくて本当に嬉しいのだろう。

「怪我をしたり、具合が悪くなったら、いつでも声をかけてね」

「は、はい」

聖先生は去っていった……
ふぅー……びっくりした。

「びっくりしました……」

ま、まあ、何かあればあのようにすぐ駆け付けてくれるので、安心できるだろう。
本気出して怪我していいぞ。

「怪我するように薦めないでください。優しそうな人でしたね」

実際優しい。が、優しすぎて問題がある。

「と言うと?」

種族間の対立が我慢ならんらしい。ウチはその辺りかなり甘いんだが……
先生はどうにか多種族の交流を深めてみんな仲良し! したいそうだ。

「へぇー」

まあ、へぇー、だよなあ。立派だとは思うが。

腹ごなしも兼ねて、そろそろ校舎内巡りと行こうか。
そろそろうるさくなるしな。

「何か始まるんです?」

……時間だ。

突然、地面が揺れた。
しかし地震ではない。地面を揺らしているのは、足踏みだ。
それも一人や二人ではない。数百、数千、或いは数万か、熱に浮かされた足音が大地を揺らす!

「っ!? な、なな何ですかコレ!」

FIRE BOMBERのライブが始まったんだ。
当分外は賑やかになる――

『俺の歌を聞けぇ!!』

……おいおい、マイク越しだからってここまでボーカルの声で空気が揺れるもんかい。
ズシリと来たぞズシリと。

「耳に……来ました……」

こういう時耳が良い妖怪は大変だな。
とっとと校舎に入ろう。防音とまでは行かないが、いくらかマシな筈だ。

「は、ぃぃ~……あたま、くらくらするぅ~」

「狭っ!」

陰陽鉄学園広しと言えど、流石に外部からの客を招き入れれば廊下は手狭になるというもの。
渋滞を起こしていないだけ凄いと、廊下の広さを褒めるべきそうすべき。
はぐれるなよ? 絶対にだぞ!

「この状況でフラグ立てるのはやめてくださいよ!」

ここで露骨にフラグを立てる事で逆に事故を防止するんだ。
そんな事より見てくれよこの展示物のベストショットを!

「水木しげるの妖怪写真館なんて、今時誰も知りませんよ」

知ってるお前は何なんだ女子高生。ファミ通読者か、ドッキンばぐばぐアニマルが愛読書なのか。
スルーして展示物見に行かないでよ。

「んー、意外と普通?」

あくまで展示物だからそんなもんだ。
クラス単位だと形の残るものはあんまり期待できないイメージがある。
つまり部室棟に行くと言うことだ。

「部室棟……なんだかワクワクしてきました!」

道すがら他の面白そうな出し物も冷やかして行こう。
二日目は一般客の目を引くため、部活の出し物に人が多く割かれているが、だからと言って教室の出し物を無視して通る理由はない。
ひやかすぞひやかすぞ!

「なんていやらしい態度なんでしょう」

いいんだよ楽しんだもの勝ちなんだよ。
さあ付いて来い。くれぐれも、く・れ・ぐ・れ・も、はぐれるなよ!

「そんなに念押ししなくても、大丈夫ですってばぁ」

……何ではぐれなかったん?

「いや、はぐれるなって言ったのはあなたですよね」

おっとこりゃ失礼、あっはっは!

「あっはっは! 何か言う事は?」

自然な動作でこめかみに銃剣を突き付けられた。洒落が通じないって怖いわ。
ごめんなさい許してください。

「許します」

助かった。
部室棟はまだなので、人ごみもこれからが本番なのだが。
止まった理由はこれだ。

「お化け屋敷……教室で……判断ミスなのでは?」

期待度ゼロの目線ありがとうございます。
しかし、お寒い出来ならそれはそれで話の種になるだろう。
わざわざ“三教室ぶち抜き!”と書いてある程の力の入れようだし、ここは断然チェックでしょう!

「言いたいことは分かりました。やめましょう」

むぅ……さては、怖いんだな。

「……なんですって」

怖いんだろ。

「訂正してください」

怖いのか。

「侮辱は許しませんよ!」

じゃあ行くか? お化け屋敷。

「いいですよ! 全然怖くなんかないですもん!」

簡単に釣れてしまった。将来悪い人にだまされないか心配になった。
だが遠い未来の事より、手の届く今が大事なのは誰の目にも明白な訳で。
つまり目前の扉を開ける事こそ我々の果たすべき義務ということ。二名様ごあんなーい♪

「抜いて、撃つ。抜いて、撃つ。当たれば死ぬ、当てて仕留める……」

ああ、武器装備禁止な。

「そんなっ!?」

………………

暗い……狭い……そしてお化けが出ない……一体どうなって、今の音は何だ?

…………

誰かが自分の肩を掴んでいる……レイセンではない……掴まれている筈の肩に何も見えない……っ!

……

確かに机が倒れたのに、何故音がしなっひぃ! 後ろ!?

「……っ、……っ! …………っ!!」

あわわ……あわわ……ヤバイ、ちょうこわかった……
あえてお化けを出さず、聴覚と触覚に訴える方向で来るとは。
今落ち着いて考えれば、インビジやスニークで誤魔化していたのだろうが……心臓が止まるかと思った。
レイセン、生きてるか。

「かろうじて……腰が抜けるかと思いました」

お互い無事で良かったよ……とにかくここを離れよう。ここは恐ろしい。

「そうしましょう……」

途中TRPGサークルがひっそりと活動していたが華麗にスルー。
部室棟、の前の渡り廊下までやってきたのだ。
しかしどうやらここからが難関の様子……

「人が多すぎます……」

人ごみが道を塞いでいる。ギリギリ通れるかどうかと言った具合だ。
これは生半可な事では、人波に呑まれて遭難してしまうだろう。
とてもじゃないがレイセン一人を行かせる訳にはいかない。確実に見失う。

「迂回路はないんですか?」

ないことはないが、ここからだと遠い。外周を反対周りにぐるっと歩き尽くすか、一度外に出るかしないとならないだろう。
手間を考えてもその方が安全か。やむを得まい。

「……いいえ、行きましょう。天井辺りを飛べば!」

そうしたいのは他の連中も同じだ。そこの壁を見ろ。
廊下に立てかけられた標識を指差し、レイセンに見せてやる。

「飛行禁止……? 何ですかこれ」

見ての通りだ。廊下では跳躍は出来ても飛行は出来ない。
試しに飛んでみたらいい。しかし赤河童め、やってくれた……廊下の安全のためには仕方がないか。
天井辺りまで埋まったとあっては、事故率は通常の倍では済まないだろう。

「えいっ! えいっ!! ……本当に、飛べない……」

おわかりいただけただろうか。
改めて選んで欲しい。この混雑を突っ切るか、遠いが迂回路へ向かうか。
俺個人論では後者がいいんじゃね?

「ならば突っ切ります!」

お止めなさいよ、そんな所で意地張るの。疲れるだけだぞ。
困難な方を選んだからってボーナスは出ないのよ。

「そんな事より部室棟が見たいんですよ!」

ふんす! と鼻息荒くレイセンは言い放った。マジか。
どうしてもか、本当にこっちがいいのか、ダメかダメなのか。
……どーしてもダメ?

「何か、こっちを選んじゃいけない理由でもあるんですか?」

痛い所を突かれた。
そう、問題がひとつ。レイセンとはぐれないようにここを突破する方法。
それが1つしか思いつかないこと。そしてそれをやってしまうのは色々とまずい気がすること。
気にしすぎなのだろうか……いや。

行くというのなら、引き止めはしないさ。引き止めはしないさ。

「なんで二回言いましたか」

気にしなくていい。突っ切るのは分かったので、これを使う。
トアッ!

「きゃっ!? ……プリズムパウダー?」

その通り。自分にもトアッ!
よし……その、何というか……許して欲しい。

「? っ!」

手を、握った。

こうするしか思いつかなかったのだから仕方がない、仕方がないんだ。つまり自分は悪くない。
余計な噂が立っても困るので、姿を消しての強行突入。人の波を掻き分け進む。しっかりと握った手のおかげで離れる事はない。
だが、インビジ状態にした本当の理由はそんな難しいものじゃなく……

どうにか、廊下を突破することが出来た。途中でレイセンが抵抗したりしなくて助かった……
速やかに手を放し、更に自分も離れる。急な事で正直すまなかった。

「……びっくりしました」

すまなかった。

「えと……嫌ってことは……別に、大丈夫です」

表情は伺えない(透明なので)が、そこまで怒ってはいないらしい。良かった。
顔の熱が引いていくのを感じる。この赤面を隠したかったからと言うのがインビジ張った一番の理由だ。
……よし、よしいける。
気持ちを切り替えよう。お楽しみの部室棟だからな、楽しめ!

「強制はごめんです、が、楽しみます!」

レイセンはもう切り替えが済んでいるようで、いつも通りのノリになっている。
これなら大丈夫だ。自分もいつものように話が出来る。
よっしゃこの辺制覇してくれるわ!

「ムム、射的!」

射的の二文字にレイセンは敏感に反応した。
視線は釘付け。身体は硬直、いや、震えている? きり、と奥歯の鳴る音まで聞こえた気がした。

「入りましょう。そしてやりましょう」

夏祭りの射的でお姉さまの前で晒した無様がそんなに悔しかったのか……
いいじゃないか、あの日からどれほど成長したのか、ギャラリーが二人ほど足りないが見せてくれ。

「ええ、ええ。何だか分からないけど、今日は外す気がしません!」

そう言うとレイセンは手を握り、開き、また握った。
ルーチンだろうか?
射撃部の部室に突入した。

「も~っ! どうして当たらないのよこのヘナ鉄砲!」

「姫様……だからライフルの片手撃ちは無理ですってば」

「それじゃカッコがつかないじゃない!」

射撃部の中では、銃を構えた少女が必死になって的を射抜こうとしている。
そしてそれをどうにか止めようとする部員……まあ、鈴仙・優曇華院・イナバであるが。
ぱん、と固く軽い発砲音。どうやらコルク銃ではなくエアガンの類らしい。そして弾は的に当たらなかった。

射的の真っ最中なのは蓬莱山輝夜。みんな大好き蓬莱ニートバイト姫である。
働いているのかいないのか、高貴なのか俗なのか、良く分からない人だ……いや、バイトは間違いなくしているのだが。
くつろぎ喫茶ベヒんもスの看板娘、蓬莱山輝夜です!
あ、銃を置いた。

「ジョン・ウーアタックとかしたかったのに……物事はままならないわ」

「あれはフィクションですから……」

うどんげと姫様は知り合いだったかと思ったが、うどんげは八意先生の弟子らしいので、恐らくそこから繋がりがあるのだろう。
一方レイセンはそれらに見向きもせず、無言でプレイ料を払い無言で銃を構えていた。やだこの子我関せずだわ。
せっかくだし近くで見てみよう。

「……近すぎます」

えっ、大股で一歩くらい開いてるんだけど……いや、離れます離れます。
しかし近すぎとは懐かしい。出会って間もない頃は近づくのを嫌がられたものだ……

「……遠すぎます」

えっ、遠すぎ? 全く予想だにしない言葉が飛んできた。近いじゃなくて遠い?
え、ええ、その……はい、近付きます。この辺りでよろしいでしょうか?

「もうちょっと近付いて」

この辺?

「ちょこっと離れて」

はいはい。

「そうそこ! その位置でお願いします」

……なにこれ。風水か何か?
自分がここに立つと運気が上がるんです?

「ちょっと静かにしててください」

ひどくね? 静かにしますけどー。
……

周囲の空気が張り詰めていく。
うどんげが、姫様が、自分も、レイセンを見ていた。
まるで銃とレイセンは元々ひとつであったかのような、安定した構えだ。銃口が揺らがない。
そうして……人差し指が引き金を引いた。

完全変形DXギョクトちゃんロボに10のダメージ! 完全変形DXギョクトちゃんロボを倒した!

勝利!
完全変形DXギョクトちゃんロボをロット勝ち!

驚くほどの技前。得物は違うが、例えコルク銃であったとしても決して外さなかっただろう。それほどの的中率であった。
一体何が彼女を成長させたのか……レイセンはまた手を握り、開き、握った。あの動作がカギだろうか?
まあ、それよりも。流石じゃないか、レイセン。

「ありがとうございます」

ところでその、完全変形DX……なんとかって、何?

「ご、ご存じないのですか!?」

はい、まったく。

「これこそはギョクトちゃん立体化バリエーションの中でも最も精巧かつ最も高額な代物、完全変形DXギョクトちゃんロボ!
 誰も求めていない方向へ進んだ結果、碌に売れなかった最大の負債のことを知らない!?」

いや知りませんよそんなマイナーな話。
それにしても、やたら詳しい……まるでギョクトちゃん博士だな。

「何故その呼び名を!?」

呼ばれてるんかい!

「はいはい、その辺にしてね」

もう少し会話が続くかと思ったが、うどんげに遮られた。
なんだいたのか……ごめんなさい気付いてましたから銃を向けないで。

「怒るわよ。それと、話の続きなら景品持って出て行ってからか、隅でやってちょうだい。
 あんまり強く言いたくないけど、他のお客様の事もあるから」

それは……すまなかった。
レイセンはまだ発射台の前にいるのだ。邪魔になってしまう。
例え今客が少なかったとしても、一瞬先は分からないしな!

「いいのよ……今頃は外のサバゲー部に客を持っていかれてるし、私はアレに関わりたくない」

サバゲー部……ああ、アレか。うどんげも所属してたっけか。じゃあ仕方ない。

「あの、サバゲー部に何か問題があるんですか?」

レイセンからの疑問。当然だ、普通いち部活にそこまで忌避感を持つことはない。
しかし、今サバゲー部には問題児がいる。相良宗介と言うんだが……

「戦争ボケなのよね、アイツ。正直近寄りたくない」

「せ、戦争ボケって……」

今頃サバゲー部の出し物でやりたい放題しているだろう。
そして民衆はより過激なものを好む……同じ銃を撃つなら、立ちっぱで撃つより駆け回りながら撃ちたい気持ちは分かる。

「私は地雷だの有刺鉄線だの教官の罵倒だのを乗り越えてまでしたいとは思わないけどね」

「地雷? 有刺鉄線? 罵倒?」

レイセンは目を白黒させている。普通学校で使うものではないから当然だ。

「で、繰り返すけど、関わりたくないから、射撃部の方についたってワケ。
 こっちは客も少なくて、平和なものよ」

懸命な判断だろう。きっと相良も今頃先生方に絞られてる筈……筈だ。
まさか返り討ちにしているなんて事は……ないと思う。

「そう言えば、二人共科学部は見に行った?
 妙な人形だかロボだかを作ってたから、見てみたらいいんじゃない」

ほほう、面白そうな情報をありがとう。
これは乗るしかない、このウェーブに! 行くか?

「行きましょう。どれほどのものか、気になります!」

「行ったわね……姫様ーいつまで拗ねてるんですかー?」

「やっぱりもう一回! 今度こそ決めるわ!」

「まだやるんですか……師匠に無駄遣いを怒られますよ」

「えーりんなら分かってくれる!」

この科学部がすごい! とうどんげが言っていたので、向かっている最中、新聞部の前を通りかかる。
学園祭初日がもう記事になっている……

「仕事が早いですね……のばら、って何なんです?」

のばら? 暗号か何かじゃないか。
この記事を書き上げるまでにどれほどの部員が犠牲になったのか、恐ろしい事だ。
聞けば日が昇るまで部室の明かりは消えなかったらしい。

「うわ……大丈夫なんですか、それ」

ダメだろう。あれを見れば間違い無く。
指さした先には半死半生の部員達。今日は非番の面子なのだろうが、堂々の寝落ちである。
噂によればエースの射命丸文は徹夜明けのまま今日もネタ探しに飛び回っているそうだ。その内本当に死にそうにしてるな。

「そこまで熱くなれるのは、素敵なことですけど」

生命を削ってまでやりたいかと聞かれれば……そりゃあNOだろう。
しかし、それがレイセンに関わることだとすれば。そう思えば、いくらか共感出来た。

「この新聞はもらっていっていいんでしょうか」

無料だそうだ。

新聞部を後にし、カカッと科学部の前までやってきた。
しかしね、ドアの奥からね、怖い音がするんだよね。何このバチバチゴウンゴウンて。

「アクシデントの予感……!」

おいばかやめろ。
ほらもう音がドカンとかドゴンとか言い始めたー……もうダメだここを離れよう。

『うわあああっ!?』

手遅れか。対ショック、いや、何か出て来る!

ジョインジョイン

『ミニ八卦ロボ(未完成)が粘着してきた!』

………………

ミニ八卦ロボ(未完成)の攻撃!
みうs! ダメージを与えられない!

「な、流れ弾で廊下に穴が!?」

オイオイオイ、こりゃ危険すぎる。急いで倒さないと不味いが攻撃をまともに食らっても不味い!
階下に人がいなければいいんだが、向こうを気にしてる余裕はない!

…………

ミニ八卦ロボ(未完成)は力を溜めている……

何だかわからんが、とにかく止めないとヤバイのは分かる。先手はこっちが取れてるから……

「次のターンが勝負、ですね。私がいきます!」

なら自分は後詰だな。任せた。

「任せてください」

……

ミニ八卦ロボ(未完成)は攻撃態勢!
レイセンはスペルカードを宣言!

「これで決めます!」

“乱射「銃器試射大会」”

スペルカードが発動した直後、上空から大量の銃火器が降り注ぎ、床に突き刺さる! どうやって天井をすり抜けて落ちてきたのかはさっぱりわからない!

「こんのおおーっ!!」

レイセンが手当たり次第に銃を抜き、撃つ! 抜き、撃つ!! 抜き、撃つ!!!
多種多様な弾丸により、ミニ八卦ロボ(未完成)の身体がバラバラに引き裂かれていく! しかしレイセンは止まらない!

「トドメだっ!!」

激しい損傷によって回避行動が不可能になったミニ八卦ロボ(未完成)に向けられる銃口。
引き金を引くと同時に、閃光が廊下を焼く! 大型光学兵器だ!
既に大破寸前のロボ(未完成)に対して、完全なオーバーキル! 動力部に蓄えていたエネルギーごと粉微塵になった!

ミニ八卦ロボ(未完成)を倒した!

勝利!
ヒヒイロカネの欠片をロット勝ち!

ミニ八卦ロボ(未完成)……恐ろしい敵だった。

「攻撃力は危険でしたね。狙いが甘くて助かりました」

完成していたらどれほど恐ろしい代物になっていたか。命拾いしたな。
おう、部室から開発者と思しき人が出てきたぞ。

「いやーごめんごめん。まさか完成前から暴走するとは思わなかった」

霧雨魔理沙か……本当にトラブルメーカーだなあ。
噂のロボを見に来たのに、そのロボに襲われたばかりか破壊するハメになったんだ。謝罪と賠償を要求せずにはいられないな!

「そう言われてもなあ……あ、そのヒヒイロカネの欠片。それを持って行ってもいい」

これは自分達が勝ち取ったものだぞ。

「だがウチの備品で私の私物でもある。インゴット以下の欠片でもそれなりの価値があるし、道具の素材にもなる代物だ。
 それを譲るから勘弁して欲しい」

むう……レイセン、どう思う。

「ここで粘っても仕方がないでしょう」

だそうだ、命拾いしたな。

「そりゃありがたい。見逃してもらった礼にひとついいことを教えるぜ。
 このミニ八卦ロボは私とにとりの好感度が足りないと完成しないんだ。まだ完成品を見たことがないなら、次周以降は好感度を意識するといい。
 それと……本当にごめん」

そうだったのか……スキルのレベルが関わってると思っていたが。偉いメタな話だが、役に立つ情報だった。
あと、そんなに深く頭を下げなくてもいい。本当に謝ってるのはもう分かってるから。
結果的にここで見るものは無くなってしまった。次へ行こう。

「完成品、見たかったな」

他にも色々と見て回った後、こうして屋上に来たわけですが……まあデカイな!
これがデンドロビウム……よく昨日と今日の間に設置出来たもんだ。

「近くで見るとすごい迫力……」

全長100mオーバーは伊達じゃないな。全高だって相当なものだし、校舎が潰れやしないかと少し不安になる。
現在は見た目だけで中身はほとんど空っぽらしいから、実際の重量はそれほどでもないと聞いてはいるが。

「詳しいですね」

そりゃあもう! こんなの男なら気を引かれない訳が無いんだから!
からくり部も事前に小冊子で宣伝までしてたしな。ホラこれ。

「どうも……完成時の想定スペックまで載ってる」

ばかでっかい箱が4つ、機体全長の半分ほどを占めるコンテナに、それぞれにミサイルだのバズーカだのを突っ込むらしい……
対多数を想定した大型機動兵器が本来の姿のようだが、それにしたって凶悪だ。
最終的にはミノフスキークラフト、要は空を飛ぶための機関を搭載して、空中での運用をしたいのだとか。まあ、こんなデカブツ、飛べないんじゃあ宇宙くらいしか行き場がないしな。
……いくら学園が金持ってても、限度がある。完成させるにはどこかスポンサーを募らねばなるまい。

「想定スペック通りに完成したとすれば、月光女学院、いえ、トゥー・リアも脅威として認識するでしょう」

こんなもんを県内のケンカに使うとは思いたくないけどな。
しかし新型のパワードアーマーを学園間のバリスタにぽこじゃか投入するAC学園の例もあるし……嫌な話だ。
この話はやめよう。何が悲しくて祭りの場で互いの学園の脅威度を話さなければならんのか。

「そうですね。今はこの大物をどう楽しむかを考えるべきです」

ああ、なにせこの大物、光る! 唸る! 排気する! と、どっかのお台場1/1スケール像を元にしたギミックが仕込まれてると言うからな。
かなり楽しみです。
しかもコクピットまであるという……つまり乗れる、乗れるんだ! 言っておくけど先に自分が乗るかんな! 絶対だかんな!

「いえ、私は別にそこまで乗りたくはないので……」

レイセンが引いてる気がするがそんな事はいい。あまり良くないがいい。
それよりもデンドロビウムに乗りたいんだ……ムッ、殺気! それも上の方から!?

それは彼らの上の方から来た。
空気が重く、歪んでいく。何か、いや誰かが高速で近付いてくる!
淀んだ気配はまっすぐレイセンに向けられ……ああもう誰か分かったわ。

「お、ねえ、さま?」

ざ、と着地する二人。丁度自分とレイセンの間に立ったのは、そう。綿月豊姫と綿月依姫の姉妹に他ならない。
ただならぬ空気を纏ってはいるが、殺気と感じたのは誤認だったようだ。
二人はじっとこちらを睨んだかと思うと、すぐさまレイセンの方に向き直り……そのまま抱きついた。

「足りないっ! 足りないわ!!」

「レイセン分が足りないのよっ!!!」

「きゃうっ!? ちょっと、お姉さま、くるしっ」

……酷い絵面であった。
月光女学院のトップツーが、揃って表情を崩し後輩をモフモフクンカクンカする光景……
いや、レイセン不足になるよう仕向けたのは自分なのだが、それにしたって。
でもおんなのこどうしならはながあっていいよね!

「はぁ……」

「ふぅ……」

ひとしきり愛でて満足したのか、姉妹は気の抜けた声を上げた。
いいのか、お前らいいのか。他校でここまで緩んだ顔していいのか。むしろここまでキャラを崩してしまってこのSSは大丈夫なのか。
そして色々と乱れてしまった部分を直しているレイセンの事はスルー。事後っぽい格好すぎて直視したら性的に耐えられません。
自分と姉妹が現在丁度視線からカバーする位置にいるため、他人に見られる心配はない事を一応記述しておく。

「――さて」

依姫、失礼妹さんがこちらを向く。いつものキリッとした表情だ……さっきの今では全く気圧されないが。
何か用かな?

「レイセンは連れて帰ります」

いきなりな話だ。
しかし二人の精神安定のためにも、レイセンの望みのためにも、乗るところだろう……本来は。
待てと言ったら?
その問には姉が答えた。

「力づくでも」

穏やかじゃない。つまりそれだけレイセンの価値が上がってると言うことだ。いいことだが、だけど。
なおさら待て。
今日ばかりはウチのお客さんなのだ。ご要望をすんなり通す訳にはいかない。
後でならば構わないが、直ちにと言うなら抵抗くらいするだろうな。

「貴様……」

妹さんに貴様言われた。すごい敵意ぶつけられてる。
少なく見積もってもレベル75帯のHNM×2、勝算は皆無だ。しかしここで下がれば男のなんかが廃る!

以前であれば。
綿月姉妹は即座にレイセンを連れて行こうとはしなかっただろう。そもそも陰陽鉄学園まで来なかっただろう。
PCも素直にレイセンを引き渡していたであろう。三人の進展を喜んでいただろう。
想いは変わっていく。望む望まざるに関わらず。
以前はすんなり行った事が、今では争いの種になることも、稀によくある。

「あの……」

姉妹に左右から抱きかかえられているレイセンが挙手した。発言を求めているらしい。

「私、行きますね」

!! ……気を使わせてしまった、ようだ。
何という無様。自分の意地を通すことより気にすべきことはあったろう……
言わせてしまったものは仕方ない。
と、レイセンは姉妹の間から抜け出し、こちらに近付いてきた。

「今日はありがとうございます」

言いつつ、手を差し出す。これは……握手しろと?
こんな事を求めてくるとは珍しい。断る理由もないので、手を握る。かなり気恥ずかしいのは気合でカバーだ。
あと姉妹からの視線が痛いがそれも気合でカバー。
しかしレイセンときたら、

「これでおあいこですね」

などと言いながらはにかむのだからたまらない。
そして彼女は離した手を握り、開き、また握った。ああ……あの手を繋いだの、意識されてたのか……
赤面しそうになるのを必死にこらえ、釣り上がりそうになる唇を表情筋を総動員して抑えこむ。この子は……!
なんだよ握手の回数とかよー! 唇が漫画的な波打つ形になってるのが自分でわかるぞー!

「それじゃ!」

ああ、それじゃ。
レイセンは綿月姉妹に連れられて去っていった……姉妹にはこんな出番しかなくて若干申し訳ない。
きっと次回登場時には欠乏症も治ってマシな扱いになってるだろう。

二日目のキャンプファイヤーを眺める。日程表には無かったが、有志が材木やらを集めて勝手に始めたらしい。そんなにキャンプファイヤーが好きか。
紅白巫女のエントリーだ! 負けじと白黒魔女も参戦! 踊る火炎! 飛び交う弾幕!! はやしたてるギャラリー!!!
ファイヤーで済むのか怪しくなってきたな……

しっかし、負けたわ。完敗。いや、最初から勝ち目なんてなかった。
握手ひとつでここまで幸せな気分になってしまうとは……アイドルの握手会に参加するファンの気持ちが初めて分かった気がする。
いかんなあ……とても良くない。
手の中の感触を思い出しつつ、危惧する。限界が近いのかもしれない。

我慢がきかなくなってきている感。レイセンを欲しいと思う気持ちが強くなっている。
あの握手に対する反応を見るに、少しは異性として意識されているのかも。そう感じた瞬間の幸福感。
いつか、このままいけば、いつかはレイセンを奪いたくなるに違いない。

……距離を置くべきなのだろう。だが、そんな事は出来っこない。
だって好きだから。
じゃあ彼女の気持ちを踏みにじって自分の感情のまま振る舞うことをよしとするのか。それもしたくないのだが……

ああ、ジレンマだ……

レイセンルート14章 完
今日のうどんげは延期になりました

次回予告

風雲急を告げる烈帝城に、號斗丸と鋼丸が挑む!

「あらっあらっあら~っ!?」

「いい加減にしなさい!」

SDガンダムBB戦士!

「輝夜……そのネタは古いわ」

「嘘っ!? まだ20年かそこらしか経ってないでしょ?」

「その20年が致命的なのよ。武者ガンダムブームも去って久しいもの。もう当時のCMなんて通じないの」

「そんな……かなりショック……もういいや、普通に予告しよう」

文化祭3日目はカット! 見て、秋姉妹が息してないの!
気の抜けたPCの前に迫り来る圧倒的な威圧感……!
そこで後輩を頼るのは上級生としてどうなんだ!?

次回 テスト前(仮)!
巨大な壁を、乗り越えろガンダム!

※本編は予告なく変更される場合があります。

つづく
あとがき
長くなった。いやなりすぎた。他所ではこれくらいが普通かも知れませんが……
あんまり長いと思ったので、今日のうどんげには犠牲になってもらいました。

前回のコメント返信
>きた!倫理さんキタ!堕落の道へようこそ!歓迎しよう、盛大にな!
コメントありがとうございます。ハッハー! まだまだいけるぜ!
>このSSでもメールが盛んですね。物語が切り替わる切っ掛けな感じですかね。
>ギャグな内容に笑ったり、意外な内容に驚いたりで面白いですww
いけない……メール記事が盛んだったから、急遽盛り込んだ事を知られたら……!
>学園祭は色々なキャラが出てますね。祭りはやはりこうではなくては!にぎやかなのは良いことだ!
増えました。いやもっと増やした方が良かった、けど力尽きた。
>レイセンは少しずつ脈?と言うかフラグが成立していってる感じなのだろうか。
>何にせよ気になるラストでしたな。
>リーチ…もとい期待せずにはいられないな
ウフフーッ! このSS次回はどうなるんだろーッ! 俺が聞きたーいッ!

>このSSに今まで気がつかなかった自分の浅はかさが愚かしい。
>私は古代からいるレイセンファンで一押し者の一人。
コメントありがとうございます。同好の士がいるところにはいるものですね。
>有頂天系でというか東方二次界隈全体見ても
>レイセンメインのストーリーは希少種ですので
>倫理様には最大級の敬意と感謝の気持ちを。
>ありがとうございます。
そこまで言われると、その、なんか、ねえ? 恥ずかしいのだわ。
>レイセンの同級生ってベリショとかなのかな。かわいい。
同級生はモブだから容姿は自由に想像していってね!!!しかしモブがかわいいと言われるとは思わなんだ……
>ベリショとかは鈴仙の同級生だろうから鈴仙と同じクラスのPCとは同学年で…
>あれ、そういえばレイセンとPC って同い年でよかったっけ…?
PCはレイセンの一個上です。の割に先輩後輩な感じが薄い……今更そう思う倫理であった。
>次回は一緒に学園祭まわるのかな。絶賛禁断少女な姉妹も着いてきそうだw
回って、出会って。楽しんでいただけたら幸いです。
倫理
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1.100点2012/08/19 21:34:39削除

   レイセン「ふんす!」
   他人の金で買うたい焼きの味は、甘い。
   この二人、中々に学園祭をエンジョイしてますな。まぁ、これだけ面白そうなイベントが沢山あれば納得ですが。
   そして楽しそうにしていただけに、最後の別れは辛いぜ…。
   しかし、人間の知恵はそんな辛い体験も乗り越えられると信じてますぜ。
   攻略を急ぎ過ぎもしなければ、その難易度に絶望もしちゃいない!
   頑張ッテ!!

2.100点2012/08/21 23:09:00削除

   学園祭、というか夏と冬にあるお祭りを想起してしまったw
   PC側はもちろん、レイセン側の好感度も相当高くなってるわけだけれど
   姉妹への告白イベントまで耐えきれるのだろうか。二人共。
   次回はテスト前の勉強会?二人で一つ屋根の下?
   ギョクトちゃんロボはウサギ型から人型に変形するのだろうか。
   完全変形でDXだと稼動域は狭そう。
   でもダイキャスト製でズッシリ重量感あるロボ玩具は大好きさ!