妄想SS レイセンルート十章
倫理
※警告!
このSSには学園モノ独自の設定が使われています。また、SS作者の独自設定、独自解釈、稚拙な文章などの要素が含まれています。
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あれから、ひどく悩んだ。
今までどうしてきたのか、これからどうするのか、自分はどうしたいのか。小一日ほど悩んだ。
ひょっとしたら無遅刻無欠勤記録を棒に振ったかもしれないし、或いは遅刻サボりの常連だったかもしれない。
だがそんな事はどうでもいいんだ、重要じゃない。出席日数より大事な事だと思えた。
姉の方、妹さん、自分……そしてレイセン。
様々な要素が頭の中をぐるりぐるりと駆け回り、それこそ頭が爆発してしまいそうになる。
そもそも、何でこんな損な役回りをしているのだろうか?
―――約束したから
嘘をつけ。そんなはした理由でこんな面倒な事を続けられる訳が無い。
大体十分に手伝いはしたはずだ。嫌ならやめてもいいんじゃよ?
―――あの子に笑顔でいてほしいから
カァーッ!! こいつはくせえっ! ゲロ以下、いや下水の溜まり場の方がマシな臭いだろうぜ!
てめえいつからそんなキザのお人好しになった!? ちったあ考えてからネタ出ししろや!!
もう少しこう、自分を騙せる方向で。
―――友達を助けるのに理由がいるかい?
なんでFFIXのオマージュなのかは分からないが、一番それらしい気がする。
これで行こう。これなら誤魔化せそ、
―――あの子の事×××××『検閲削除』
……心の蓋を開けすぎた。閉めなくては。
それを見てはいけない。聞いてはいけない。知ってはいけない。感じてはいけない。口にしてはいけない。
それはきっと、彼女への裏切りに繋がる……だから。
絶対に許さない! 絶対にだ!
目が覚めた。
最後の最後でネタに逃げるような夢を見た……
レイセンルート10章 ~偽らざる心 あとおまけ~
祭りの日からどれだけ経っただろうか。
曜日の感覚があやふやで定かでないが、それほど日が離れたことはないだろう。
夏の終わりなどと言われたものの、一向に収まる気配のない日差しがその証拠だ。
たまの休みの日曜日。
あれから授業にも部活にも熱が入らず、レベル上げやアイテム探しでも足を引っ張る始末。
これにはPTメンも苦笑い。『羽を伸ばしてこい』と蹴飛ばされた結果、完全なオフの日になってしまった。
予定もなくぶらつくことも学生にとっては珍しくないが、さりとて今の状態ではどこに行こうと大差はないだろう。
太陽に追われるように足を動かす……
歩き続けて、どこまで行くのか。尋ねる風もない。
ふと気付けば路地である。見覚えがない、こともない程度の記憶しかない道。迂闊な行動は迷子に繋がるだろう。
が、足は目的もなく進み続ける。いっそ迷ってみるのもいいと思った。軽度の破滅願望かもしれない。
ぼうとした頭にふと、悲鳴が聞こえたような気がした。いや聞こえていた。
鈍化した頭は確かに耳に届いたそれすら満足に認識しようとしない。しかし足は知らず声の方に向かう。
「やめてください! 離して!」
「まあまあ、そう突っ張らないでさ」
三人ほどの男が、一人の少女を囲んでいる。どうやら男達は少女にコナをかけようとしているようだ。
男達はいつもの崖下ではなく、かといって名前付きのキャラでもなく、いわゆる顔無しのモブであった。
顔のないなりに努力したのか、装備は中々にじゅうじゅつしたものがある。
……ナンパするときに冒険者装備をアッピルする浅はかさは愚かしいと言わざるを得ないが。
着替えもままならぬ時代でもないのだから、やはり女性と接する時はふさわしい格好をしたいものだ。これはプレイヤーがヒロインを攻略するときにも言える話である。
一方の少女はと言えば、これは明らかに男達とは正反対であった。
整った顔立ち、服の上からでも分かる均整の取れたボディライン、立ち絵の数……どれをとってもモブにかける手間ではない。
衣装もまた、ワイシャツにネクタイ、ミニスカートと、街中にいても浮かない装備であった。
奇抜な点と言えば、頭についた長い『耳』だろうか。しかしこれもネ実市ではありふれた特徴である。
「ヒマなんでしょ? 一緒に行こうよ^^」
「いいとこ知ってるんだ。きっと楽しいよ♪」
ナンパの常套句すぎて何も言えない。少女も不快げな顔の下で珍しいものを見たと感じているかもしれない。
しかし不快かつ迷惑なことには変わりはない。少女はどうにか男達の間を抜けようとした。
「用事がありますから! どいてください!」
「ちょっと! 逃げることないんじゃない?」
男の一人に手首を掴まれ、否応なく停止するはめになる少女。
男は軽い気持ちで行った拘束だったが、これが少女のいらだちを有頂天に押し上げた。
その赤い両目が輝きはじめる……!
「大人しくしてれば……付け上がって!」
「ちょ、何? そんな怒るこ、」
男が続きを話すことは叶わなかった。しかしそれは少女が何かをしたからではなく、
「ガッ!? ぐげ、ぇ……」
「え……何?」
男の後ろから現れた少年の不意打ちによるものだった。
頭も重ければ身体も重い。しかしキックは出る、いや出た。
見知らぬ男達に囲まれている、どっかで見たことがあるようなないような、そんな少女。
ランダムイベントと言うか偶然出くわしてしまったと言うか。しかし冒険者的思考に基づけば、
この少女を……
助ける→報酬が充実→心が豊かなので性格も良い→彼女ができる
助けない→報酬なし→心が狭く顔にまででてくる→いくえ不明
となる。つまり考え無しに声の方に向かったのも、おもむろにキックが飛び出したのも、報酬目当ての条件反射である。未来の冒険者は格が違った。
半ば無意識だというのに、いや無意識だからこそ完璧な蹴りであった。喰らった相手がいつもなら絶対に飛ばない距離を飛んでいる。
仮に本調子で全力の攻撃だったとしても、こうはいかないだろう。時に脱力こそが破壊力につながるものだ。
そして目の前の光景に呆然としている残り二人に、やはり攻め気のない攻撃が飛ぶ……
勝利!
○○の経験値と××ギルを得た!
少女は目を二度三度瞬かせた。
暴れて抜け出そうとした矢先に男達が倒された。何が何だかさっぱり分からない。
突然すぎて何が起きたのかまるで把握出来ておらず、呆然と目の前の少年を眺めるばかり。
少女の危機に颯爽と駆け付け悪漢を退治する。字面だけ見ればさながらお伽話かマンガの世界である。
……その力の抜けきった表情さえなければ。
涎どころか鼻水まで垂らしそうな顔面は例えるなら死人の如し。眺めていた少女も最初はゾンビか何かかと疑った程である。
その顔を装備したままで職質とかされないのだろうか、と少女は思った。言うまでもないが、顔面は装備品ではない。
未だ意識が定まらず、顔面を見つめ続けていた少女。
少年が背を向け、歩き出したところでようやく機能復帰を果たした。まだ助けてもらった礼も言っていない。
「ちょ、ちょっと、待って!」
とっさに袖を掴み、止まってもらおうとする。しかし……
「ちょっと、待っ、ちょっと! 止まってっ!!」
あろうことか少年は少女に袖を掴まれたまま止まることなく歩き続けた。
当然少女はバランスを崩し引っ張られる。止まらない、引っ張られる。
必死にバランスを保とうとする少女。転んだら痛いのは間違いないし、それでも止まってくれなかったら更に痛い。なんとしても倒れるわけにはいかなかった。
「わっ、わっ、ほんと、あぶない、あぶないから! 転ぶ転ぶ!!」
少年が止まらない理由が待っても特に報酬とかなさそうだったから、等という理由と気付けるはずもなく、少女は引っ張られ続ける。
今まさにイベントと言うべき事態になってる気もするが、時既に時間切れであった。
とその時、少年の懐からメロディが流れ出す。携帯の着信である。
少年が曲の開始と同時に停止したため、少女は鼻っ柱を少年の背中に強打した。
「いったぁ……」
背中に追突したものがあるなどまるで気付いていない様子で電話に出る少年。ここまで徹底してると、もう何も言えない。文句を言う気力も萎えた。
もういい、礼を言うだけ言って帰ろう。そう思った矢先。
レイセン?
「へっ?」
その言葉を口にした瞬間、少年は生き返った。
実際に死んでいた訳ではないが、正に適当な例えである。一瞬にして背筋が伸び、膝に力が入り、目には光が宿った。涎でも垂れてそうだった口は(キリッ)と閉じている。
枯れ木が突如満開の花を咲かせるような、或いは壊れた筈のおもちゃが前触れ無く動き出すような、劇的な変化であった。
はい……はい……え? 後ろの? ……覗き見とか趣味悪いですよ。
覗きじゃなくて千里眼の腕輪? やってる事は同じじゃないですか……はい……
協力の打ち切り? そりゃあ、穏やかじゃないですねえ。
はい、急ぎますとも。それを盾にされてはやらない訳にもいきませんし。
何者かと通話中の少年。何を言ってもすべりそうなので黙る他ない少女。
そして少年が少女の方を向く。初めてまともに視線が交差した。
「あ……」
ちょっと失礼。
「え? きゃっ! な、何するのよ!?」
少年は俗に言う俵担ぎの形に少女を担ぎ上げた。なんたる暴挙。
当然少女は暴れるが、少年は降ろすことも離すこともしない。淡々と運ぶのみである。
「離せ! 離しなさいよこのっ!!」
八意先生があんたをご指名だ。いいから黙って運ばれろ! 急ぐんだ!
「はーなー、せ……え? 八意、先生?」
分かったら口を塞いで大人しくしてろ! 舌噛んでも知らないかんな! 謝罪と賠償は絶対にしないかんな!
「はぎっ! ……ひははんは(舌噛んだ)」
いわん こっちゃ ない
担がれながら舌の痛みと戦い、更に俵担ぎによる強烈な揺さぶりが生む酔いにも耐えるハメになった少女。
必死な本能とは切り離された頭の片隅、冷静な部分は疑問を解き明かすべく脳内の過去ログを辿っていた。
果たして自分は彼に名乗ったことがあっただろうか。
少女の名は鈴仙(れいせん)と言った。
陰陽鉄学園・休日
平日程の賑わいはないが、グラウンドや体育館などでは運動部が活動していたりする。
特に野球部は今年の夏の雪辱を晴らすべく、熱の入った練習を行なっている。この勢いが続くなら来年は期待出来るだろう。
しかし呼び出されたのは保険室であるためスルー。野球部編は誰かが書くのを待つべきそうすべき。
「うぷっ……きもちわるい……」
正直すまんかった。許してくれなくてもいいが、こっちにも事情があることは分かって欲しい。
謝罪と賠償には一切応じないから安心して欲しい。
「少しも安心出来ないわよそんなの……うぅ」
そこで息でも整えているといい。
別々に入るくらいは構わんだろう……knock,knock,knock.
「どうぞ」
中にいるのはまあわかってた。
余談だが、ノック二回はトイレ用のノックだそうで、入室時に使うと失礼にあたるらしいぞ?
「え……そっちに、誰か、いるの?」
カメラなんていませんよ?
それと無理にツッコむ必要もない。動悸、息切れを治してからでいいのよ。
「このザマにしてくれた、張本人に言われてもね……」
サーセン。まあ賠償はともかく謝罪は後でしないこともないこともないなんてことはない、ので置いておく。
失礼しまーす。
ガラリと開かれたドアの向こうから消毒液の匂い。
呼び出し人の八意永琳がいつもの白衣でいつもの椅子に座り待ち受けていた。いや、白衣の下はいつものキカイダーカラーではない。
教師としての枠を外れない程度に洒落た格好であった。女はいくつになってもおしゃれしたがると言うのは本当らしい。
「今、凄く失礼なことを考えなかった?」
読まれていた! しかし動揺を顔に出しはしない。命に関わるので。
さりげなく視線を逸らすと目に入るウサミミ。運んできたウサギの耳はやや尖っていたが、視界の中のウサミミは丸く柔らかそうである。
そう、レイセンだ。その手には芳醇な香り漂うコーヒー。こいつくつろいでやがる……
「あっ、こんにちわ」
ドーモ、こんにちわ。休日出勤すごいですね。
もう当たり前のように陰陽鉄学園にいて何を言えばいいのかわからないよ。
「八意先生が案内してくれて、普通にしてれば大丈夫だと」
そりゃ休日の上に私服だものなあ。月女の制服はウチじゃ悪目立ちするもの。
その上八意先生の手引きとあっては、怪しまれる方が怖い。いつかの自分のようなヘマはするまいよ。
「そうですねぇ……あの日からどれくらい経ちましたっけ」
えーっと……違う! 何が違うって話し相手が違う!
そう、自分が話すべき相手はレイセンじゃない。そこの白衣だ!
「せめて名前で呼んでくれないかしら」
あ、失礼しました八意先生。
「よろしい。あの子は連れて来てくれたみたいね」
部屋の外でグロッキーになってますが確かに。
しかし一体何のつもりです? ご用件なら平日に伺いたいのですけど。
「言う割には休日を随分持て余していたようだけど。まあいいわ、少しお願いしたい事があるのよ」
断る。
「つれないわね……そこを曲げてもらえないかしら」
断る。
「そこを曲げてもらえないかしら」
断る。
「そこを曲げてもらえないかしら」
……お願いと言うのは?
「話が早くて助かるわ。他でもない、あなたが連れて来た子のことよ。ウドンゲ、入りなさい」
「はいぃ……やっと落ち着いた……ッ!?」
呼ばれて保健室に入ってくるウドンゲ。しかし入った瞬間顔色が白、いや青に変わる。
その視線は一点に釘付けだ……そう、レイセンに向かって。
「なん……なんで、どうして、あなたたちが……!」
明らかに様子がおかしい。表情が苦しげに歪み、腰が引け、ゆっくりと後ずさるウドンゲ。
これはどうしたことか。それと“あなたたち”ってどういう事だ? 今の彼女に自分や先生が見えているとは思えない……
「ひ、ぁ」
陸に打ち上げられた魚のように口を開いては閉じ、視線が踊り始める。これは悠長なことは言ってられないようだ。
明らかに肉体ないし精神に大きな負担がかかっている。放って置くとマズイことになる!
どうにかする方法も思いつかないままウドンゲに向かって駆け出し……
「ウドンゲ!」
すぐ横を風が通り抜けた。
その風の激しさに一瞬目を閉じ、開いたときには既にウドンゲは先生に抱きしめられていた。
速すぎる……認識出来なかった……
「ごめんなさいね……少し急ぎすぎたわ」
「う……うう……っ」
完全に蚊帳の外である。何が何やらさっぱりだ。
レイセンも同様……かと思いきや、何か驚いたような顔をしている。この謎のやりとりに何を見たのだろうか。
で、ですね先生。説明を、
「よしよし……」
「ふぐぅ……ひぐっ……」
自分にも分かるように説明をですね…………聞いてる?
「いい子ね……」
「ぐすっ……ぐずっ……」
……もう帰っていい?
「だ、ダメですよぉ」
レイセン……ダメカナ?
「ダメです!」
結局ウドンゲが落ち着くまで待っていた自分は付き合いのいい方だと思う。
NOと言えない性格と言い換えてもいい。
ウドンゲは泣き疲れて眠ってしまったようだ。まあ彼女の動向は今はどうでもいい。ようやく手の空いた八意先生による説明……が終わったのだった。
つまり、ウドンゲは過去のいじめにより心に傷を負い、今も苦しんでいる。彼女を癒して欲しい、と?
「まとめるとそういうことね。聞いてもらえるかしら」
……その前に、いくつか話が。よろしいですか?
「構わないわ」
では。先ず、ご自身でやったらいいでしょう。
自分に任せるより遥かにいい。
「ダメよ。私ではウドンゲに近すぎる……それに、どうしても最後には甘やかしてしまうもの」
左様で。では、何故自分に任せようと? 先生がダメでも専門家に任せた方がより安全で確実だ。
進路志望にカウンセラーと書いた記憶はないのですが。
「あなたが任せるに足る人物だと判断したからよ。レイセンを通じて、そして私自身の目で確かめた上での判断よ」
それはまた持ち上げてくれる。おだてたところで何も出やせんのですが。
ところで、自分がウドンゲと接触するのを狙っていたので?
突っ込んで言えば、ああやって彼女の症状を見せることで断りにくくする事を狙っていた?
「侮辱と取っていいのかしら」
とんでもない。
「……偶然よ。ウドンゲを無闇に苦しめると知っていたなら、連れてくるようには言わなかったわ。
もう少し症状が落ち着いていると思っていたのだけど」
……そうですか。
ああ、そうそう。どうして自分の口調がこんなに荒くなってるか、敬意に欠ける態度を取っているか、理由に心当たりは?
「見当はついてるわ」
そりゃ話が早い。じゃあこれで最後だ。
自分と先生と、それとウドンゲの問題でしょうに……なんでこいつを、レイセンをダシに使った。
呼び出すなら自分だけでいいでしょう。それこそ断りにくくするための仕込みですか?
二人の間の空気が軋む。
果たして呼び出しの電話で何を言われたのか、完全に殺気立っている。もしも質問に対し迂闊に返そうものなら、即座に飛びかかるであろう。
永琳は気を引き締めた。これは正念場である。劇物を取り扱うよりも慎重に言動を選ぶ必要があった。
戦えば勝てる、だがタダでは済むまい。眼前の少年は実力差を勘定に入れていないのだ。捨て身の相手は恐ろしい。
しかし一方で、永琳は強く満足していた。
これだからいいのだ。他人のためにこうも真剣になれる彼だからいい。だからこそウドンゲの事を任せようとも思える。更に言うと、そのやる気の出所がレイセンなのがとてもいい。
ウドンゲの師匠として、また、恋の天秤を見守る立場として、彼は実に好ましい人材だ。
細まった目の奥に浮かぶ喜悦に、自分が計られているという事に、少年が気付くことはない。
「確かに利用したわ」
PCが永琳に殴りかからんと立ち上がる! 同時にレイセンもこの緊迫した空気をとにかくなんとかどうにかしようと立ち上がる!
そして八意先生は……!
「ごめんなさい」
電撃的速度で頭を下げ、謝罪したのだ! 出鼻をくじかれた二人は立ち上がったまま動けない!
八意先生は頭を下げたまま話を続ける。二人は動かない。一動作で完全に場を制してしまった。
「でも誤解しないで欲しいのは、あくまであなたを呼び出すために利用したの」
それを信じろと。
「姫様に誓うわ」
姫様、すなわち蓬莱山輝夜。
その名を出すということは、すなわち八意先生も本気だということ。
これ以上の追求は無意味だろう。姫様の名にかけて嘘はつくまい。嘘はそのまま姫様に泥を塗ることになるのだから。
頭を上げてください……そこまでしなくても、普通に呼び出せばよかったのに。
「でも、」
その時、彼は漠然とした不安を覚えた。
漠然とした、しかし止めなくてはいけないと感じる不安を。
一言で言えば……そう、シリアスが崩れ去るような。
「あなた私の事避けてるでしょう?」
不安が、当たった。
って、そ、そそそんなことねーし! 全然避けてねーし!
「え、どうして先生を……」
その質問はするなレイセン!
「分かっているわ。精神力(MND)が足りないのでしょう」
アバーッ!?
「罠にかかるのが恥ずかしかったのね……若いわね」
(※相手が先生の選択肢の際MNDが低いと、エロい罠選択肢しか選べない)
く、くそう、余計なことを!
「ご、ごめんなさいっ!」
いやレイセンに言ったんじゃなくて、いやいや余計なことは確かに言ったけどそうじゃなくて。
ええいっ! まだお願いは受けるとも言ってないし、さっきのも許すとは言ってないんだかんな!
「あら? そうだったかしら」
そーなの!
「そこを何とかならない?」
あらあらうふふな感じの余裕ヅラで言うなや!
悔しい……すごくくやしいっ!
「仕方がないわね……」
そう言うと八意先生はゆっくりと俯き、然る後奥義を繰り出した!
その破壊力を前に誰もが息を呑んだ!
「先生の……お・ね・が・い☆」
完 全 撃 破
PCも、レイセンも動かない、いや動けない。精神が過熱し機能を停止してしまった。
一方の先生は「やっぱり無理があるわよね……」と後悔の真っ最中である。
本気でやったわけではなく、場の流れに乗りたかっただけであった。先生だって空気を読むことはある。
が、二人が停止しているのはババア無理すんな的なダメージからではない。
似合っていたのだ。恐ろしく。
先生クラスの美人ともなれば、もう媚び媚びの仕草だって似合ってしまう。
ましてそれを至近距離で拝むハメになっては……
「美人って、ずるいです」
だよな。しかしまあ、ここまでされてはなあ。恥をかかせっぱなしとはいかんだろう。
「でも、今のがなくても受けるつもりでしたよね?」
分かった風な口を。合ってるけどさ。
……えーっと、八意先生?
「ハッ!? どうしたの?」
先生が自己嫌悪の世界に潜っていたのは見れば分かるが、真実は黙っておこう。
自覚的に使われたら誰も逆らえなくなってしまうから……色気と可愛さのダブルアタックとかガード不能すぎる。
まあ、やりますよ自分。
自分に何が出来るかは分かりませんけど、一応やるだけのことはやってみます。
「そう……ありがとう。感謝するわ」
しかし、ですよ。そこのウドンゲが乗るかどうか確認してからでないと。
こういうのは本人がその気にならなければ意味がないでしょう。
「そうね、でも大丈夫よ。だってこの子も自分を変えたいと思っているもの」
そうですか……起こすのも忍びないので、このまま帰ります。
あ、他に要件があったりしますか?
「いいえ、大丈夫よ。帰っていいわ。レイセンも、今日はごめんなさいね」
「いえっ、そんなとんでもないです」
「ふふ……それじゃあ二人共、またね」
失礼します。
「失礼しますっ、わぷっ!」
ふと思い出したことがあり足を止めると、レイセンが背中に追突した。
すまないわざとじゃないんだとりあえずどいて。
「まるで済まないと思ってない態度です!」
そういうのいいから。あー、先生?
「忘れ物?」
忘れ物と言うか忘れ事と言うか……その子のお名前なんて言うんです?
「えっ」
「えっ」
先生がウドンゲウドンゲ言うから、それに倣ってウドンゲ呼んでましたけど、実は名前知らないですよね(笑)
教えていただけませんか?
「えーっと……同じ、クラスじゃ、なかった?」
えっ
なにそれこわい。じゃあ多分聞いたけど忘れたんだと思います。少なくとも本人からは聞いてない。
「なんだか、先行きが不安になってきたわ。
……この子の名前は、“鈴仙・優曇華院・イナバ”よ」
レイセン? ……へぇ、あんたもレイセンって言うんだ。
紛らわしいからウドンゲでいいや。いいよね?
「私に聞かれても」
ごもっとも。ああしかし、面倒な事になった。
本当にカウンセラーにでも任せればいいものをなんで生徒にやらせるんだか。
「じゃあ、断ったら良かったじゃないですか」
その全部お見通しだみたいな顔をやめなさい不快で死んでしまいます。
……なんだよ何が言いたいんだよ!
「いえ、いいひとだなあって」
ちっげーし! 先生からの依頼なら報酬も期待できるし!
ウドンゲだってここで恩売っておけば後々役に立つかもしれないし! オラの心は真っ黒だし!!
「へー」
なんたる生返事! これはもう精神的ダメージに対する賠償を要求するしかない。
と言う訳であの目に止まった屋台から大判焼きを買ってくるんだ。
「わかりました。ちょっと待っててくださいね」
待てよ。
「はい?」
いや本気で買いに行かなくていいから。冗談だから。
「知ってました。けど買いに行った方がいい反応するかなって……」
お前はいじりの技能を鍛えてどうするつもりだ。
くそう勝ったと思うなよ……!
「既に勝負はついてます!」
ああ、楽しい。
……分かっている。レイセンがいるだけでこのザマだ。もう答えは明白、誤魔化すことも出来ない。
認めてしまおう。表に出さなければいい。少なくとも自分を騙しながら生きるより余程いい。
レイセンのことが……好きだ。
それでも、この気持ちを表に出すことはないだろう。
自分を助けてくれると信じている相手が、実は自分に欲情していたなどと知れば、酷く軽蔑されるかもしれない。
いや、そうはならないかもしれないが……そうなる可能性が少しでもあるなら、もう口には出せない。
そうだ、自分はレイセンの前では見栄を張っていたい、頼れる男でいたい。嫌われたくない……
墓穴まで持って行こう。このまま全て抱えていれば、何も問題はないんだ。
「どうかしましたか?」
ウェイ!? なんだい顔が近い!
「いえ、ぼーっとしてましたから」
……何でもない。元気が一番よ。
まあ、でも、なんだ。景気づけに大判焼きでもおごっちゃる!
「いいんですか! やったー!」
これでいい。きっと、これでいい……
……本当に?
レイセンルート10章 完
つづくさきっと
おまけ 今日のうどんげ
「ハッ!? ここは一体……」
「あら、やっと起きたの」
「師匠……? あれ、他にも誰かいたような」
「覚えてないの? 二人いて、いえ、無理に思い出さない方がいいのかしら」
「あっ!!」
「急に大声出して、どうしたのよ」
「お礼言うの、忘れてた」
「あら……そうね、だったら丁度いい話があるんだけど……」
あとがき
ようやく二桁。ぼちぼちやっていけそう。
前の投稿がバレンタインデーだった事に投稿してから気付いたので、今回はホワイトデーに。
フラグが たったぞ! プレイヤー側にな!
ゲロ以下:の匂いがプンプンするぜぇーっ!
理由がいるかい:FFIXのジダンのセリフ。実際は「仲間を助けるのに~」である。
冒険者装備:デート用装備の存在はwikiにも少し載っている(装備の記述はないが、アイテム/スクロール・書物の項で存在は匂わされている。メンナクとか)。
耳:ヤグだのオークだのクゥダフだのいるのに耳が生えてるくらいでなんだってんだ。
陰陽鉄学園・休日:OG向けのデートスポットとしてアリなんじゃなかろうか。
野球部:当SSでは野球部は善戦したけど甲子園予選で敗退。
ノック:作者も最近知った。
ダメカナ?:4コマ漫画『ぱにぽに』より。本来の返しは「ダメダヨ」……アニメの方だったかな。
アバーッ!?:ナンデ? エーリンナンデ!?
エロい罠選択肢:wikiにそう書いてあるし。
似合っていたのだ:二次美人なら大体いける。
今日のうどんげ:思いつきで書いた。後悔はしていない。
前回のコメント返信
>ところどころ挟み込小ネタがいい味出してますなぁ
コメントありがとうございます。いい味が出るよう苦心する日々です。
>むむむ、お互いのすれ違い感が浮き彫りになってきたな
PC→レイセン→お姉さま→先生→PC(期待的な意味で)
グルグル回ってバターになる日も近い。
>続きが気になるのである
こんな感じになりました。よろしければどうぞ。
>君は可能性に満ちたレイセン…可能性という名の神を持っているのですね分かります。
コメントありがとうございます。ヒトの持つ可能性とやら、見せてもらおうか! とどっかの格ゲーのボスも仰っています。
>そして綿月姉妹、やっぱりトイレは嘘だったじゃないですか…中に誰もいませんよ?
>何だかんだで言うときはちゃんと言ってくれる主人公もグッドです。
>だからこそまぁ、主人公も主人公と仲が良いレイセンも幸せになって欲しいなあ。
幸せに……なるんじゃないかなあ? 正直書いてる本人にも分からんね。
>[恐悦至極]な状態のレイセンと[それなくね?]な主人公がどうなるか目が離せません。次も期待しています。
いよいよもって読むがよい。そして(次回まで)さようなら
>相変わらずの主人公のジェントルマン具合www
>お人よしすぐるwww
コメントありがとうございます。今までで一番驚いた感想かもしれない……そうか、ジェントルか。
>美女三人とか、どんだけshitto団作る氣ですかっ!!
>パルパルパル…。
これからは常時ヒットマンならぬシットマンが派遣され襲われるに違いない。
>この居心地のいい関係からどうやってwikiのような関係になっていくのか非常に楽しみです。
初二桁回だからという訳でもありませんが、半歩踏み込んだ感じになったかと思います。
倫理
簡易評価
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0.50点簡易評価
1.100点2012/03/14 22:07:40削除
主人公ツンデレ乙w 可愛いなさすが永琳先生かわいいこれで俺は永琳好きになったなあまりにも可愛すぎるでしょう? しかし…いよいよ物語も転換期ってところですかね。これから一体どうなるのか…
2.100点2012/03/18 03:13:28削除
ほわいとでー? 諸君、そんな日が存在していたかねwww
頭の中で主人公がうすた絵で再現されてしまう不具合www そして、そんな状態の主人公にヤラレてしまうモブ×3、あなた達は鳴いていい……
感動の師弟会話かと思いきやwww まぁ、主人公は部外者ですしおすしー そして、自己嫌悪中の先生も可愛いwww。これで先生のランクも……
主人公ツンデレ化!! ジョジョに余裕をなくしていく姿を、我々は2828しながら読めばいいんですねwww
旦那ぁ、にくすぎるぜぇ……。
3.100点2012/03/20 09:06:56削除
思考をすると共に反射的に攻撃を行う…これぞ反射と思考の融合!ああ素晴らしきGNキック!
次からは優曇華編(?)ですかね。しかし、同じクラスの、それも意中の人と同じ名前を忘れるのは結構ひどいぞww 自分の気持ち気がついた主人公がそれとどう向き合っていくか、目が離せませんね。 やはり青春ものはこうでなければ…!打ち出せ青春!