SS/忍者×Ninja×ニンジャ

Last-modified: 2013-08-31 (土) 08:59:00

忍者×Ninja×ニンジャ
倫理
有頂天で学園モノ短編SS

『忍者×Ninja×ニンジャ』

昼休み。購買部で焼きそばパンを購入し、至高のナイトであるところのブリリアント・アンルリー・ノーブルテザー(略してブロント。謙虚だからさん付けしてブロントさんでいい)は、晴れた日の定番として屋上へと向かった。
屋上で風に吹かれながらの昼食は乙なものである。等と近い未来を想像してわずかに顔を綻ばせる。

その時、一陣の風が吹いた。廊下であるにも関わらず、吹き付けるような勢いのある風に、ブロントさんはわずかに身を縮める。
風はすぐに止んだ。体制を立て直すブロントさん、だが手に違和感を覚える。焼きそばパンが消えているのだ!
いかに風が強くとも、落とす程未熟ではない。盗られたか! すぐさま周囲に視線を送る。
すぐにパンは見つかった。自分の真後ろ、黒髪の女子が握っているではないか。

「おいィ! 窃盗は犯罪だぞ分かってるのか鞘!」
「ま、ま、メンマで面倒起こさずに、私が食べれば」
「ちょ、やめろ馬鹿! ここにはやわらぎもメンマもないんだが!?」
「ちなみに私はごはんですよ派……っと、お返ししますね」

鞘と呼ばれた少女は軽い言葉のジャブの後にパンを返した。
パンを取ったのは目的ではなく手段と言ったところか。とにかく戻ってきたので、強く追求はしない(ここらへんが大人の醍醐味)。何か用事なのだろう、こちらから話を振ってやる。

「それで? 一体何の用なんですかねぇ……」
「これはこれは、そちらから聞いてくれると助かりますね」

この場で火蓋を切らんとする少女を手で制する。
元々移動中であった。急ぎの用でもなさそうな佇まい、向かう先で聞いても構わないだろう。
一応本人に聞いてみる。

「屋上でもいいか? マヤ」
「ええ、構いませんよ……無駄と知っていますし、別に構わないのですが、一応訂正しておきます。
 私の名前は文。射命丸 文(しゃめいまる あや)ですよ。どこかの文明じゃありません」
「そうか。行くぞ蚊帳」

ブロントさんは人の名前をまともに呼ばない。
まともに呼ぶのはシリアスな時だけである。

屋上には既に先客がいたが、別に文は構わないらしい。
周囲に隠す程の話題ではないようだ。緊張のレベルを1段階下げる。
焼きそばパンを咀嚼するブロントさんに、文は要件を切り出した……

「忍者?」
「そうです忍者です。今このネ実市で3体の忍者が夜な夜な暗闘を繰り広げているらしいのです」

ネ実市。
整然とした都市でありながら、その規模と人種の多様さから、魔境と言っても過言ではない一面を持つこの街には、常に真偽定かでない噂が飛び交っている。

やれ市の地下には崖下紳士たちが作った巣があり、毎夜怪しげな妄想儀式を行なっているとか。
やれ街灯届かぬ闇には悪魔が跋扈しており、それを狩るデビルサマナーなる人種もいるとか。
やれ陰陽鉄学園は既にシャントット先生によって支配されており、生徒達はその走狗となるべく教育を受けているとか。

そんな中、忍者が3体。随分とおとなしい噂である。

「おみぃにしてはネタの洗濯が微妙な気がするんだが?」
「とんでもない! この私、射命丸文の記者魂にビビッときたんですよ!」

射命丸文は天狗であり、新聞部であり、幻想郷(?)最速である。
ネタがあれば即座に飛び付くこの天狗が、自分に話を持ちかけるとなると、何か問題があるのだろう。主に荒っぽい方向の。
話を聞く前から軽く頭が痛い。

「それで? 俺にどうして欲しいのか速やかに説明すべき」
「さっすがブロントさん話が早い! いえね、その3体の忍者が相当な手練のようでして……」

嬉々として語りだす文。
どうも忍者達はかなり危険らしく、今まで撮影までこぎつけられた者は誰もいない。
大の大人をもってしても、暗闘の巻き添えを食って撤退を余儀なくされると言うのだ。
……待て。噂ではなく、既に確認された事実なのか?

「ええ、複数人のアプローチにより、既に存在は確認されています。
 その危険度もまた事実。そのためブロントさんに話を持ってきたのですよ」

何せブロントさんは至高のナイトですから。とヨイショを欠かさない文。
ブロントさんとしても、お世辞と分かってはいるが、言われて嬉しくない訳ではない。何より荒事に対し、メイン盾として自分を指名した事に気を良くした。

「なるほどな。つまり俺はメイン盾の役割って事だろ?」
「そういう事です。私が撮影中、流れ弾等から守っていただけないかと」

ブロントさんは半分ほど残った焼きそばパンを一口で丸呑みにすると、高速で咀嚼し飲み込んだ。
景気づけだ。答えはとうに決まっている。

「中々わかっているな。黄金の鉄の塊でできたナイトが、皮装備のジョブに遅れを取るはずがない。
 お前全力で頼っていいぞ」
「助かります! それじゃあ、今日の放課後にここへ来て下さい」

そう言うと文はメモを一枚渡し、直後姿を消した。
催眠術や時間を止めたなどといった代物ではなく、超スピードで移動したのだろう。
メモには簡略化された地図と、集合地点が書かれていた。
それにしても……

「今日早速とは、聞いてないんですがねぇ……汚いなさすが天狗きたない」

放課後。
空は既に暗く、向かう先は更に暗い。街灯すら立たない路地の裏の裏だ。
なるほど忍者の一匹や二匹潜んでてもおかしくない。

「おいおい(苦笑)、忍者以外も相手にするとは、話が違うんだが?」
「振りかかる火の粉は払わなければ。狙われているのは私だけではないようですし」

闇の中には後ろ暗いモノが潜むのが定番であり、ネ実市もまた例外ではない。
道中、怪しげな人間や妖怪、モンスターが襲いかかってきたため、これを撃退している。
レベルが低いのか楽に倒せるが、大した経験値もドロップアイテムもなく、面倒である。
少しうんざりしてきたところで、文が足を止める。

「この辺りです」
「俺は不良だからよ、夜更かしもするし危険な所にも平気で入る……
 けど、これはちょとわずかにヤバイんでにぃか?」
「やっぱり、ブロントさんもそう思います?」

濃密な闘気が行先を満たしている……
景色は陽炎のごとく揺らめき、まるで侵入者を拒むかのようだ。
暑くもないのに汗が流れる。死の予感に体が警報を鳴らしているのだ。

「……行くのか?」

そう文に問うた。
ブロントさんは盾である。盾が守るべき者を残し逃げるなどあってはならない。
この先に行くと言うのなら、何があっても守る。そう決めていた。

「……行きましょう」

そうブロントさんに答えた。
文は新聞記者である。何も見ず、聞かず、自分の五体で確かめず帰る事など出来ない。
記事にすると決めた以上、何が何でも踏み込む。そう決めていた。

二人はほぼ確実なデス帰宅の予感に心を冷やしつつ、先に進んだ……

暗闇が、重い。まるで全身にまとわりつくようだ。
一歩踏み出す度に気配が強くなる。間違いなくこの先に、忍者がいるはずだ。
ブロントさんが盾を構えながら先に進む。もう何があってもおかしくない、即応状態を維持しつつ歩く。
その影に隠れるようにして文も進む。目標を発見するまでは狙われる訳にはいかない。

「うざってぇ……空気が張り付くんですわ? お?」
「その癖この闘気ときたら、芯から冷たくなるような錯覚に陥りますよ」

愚痴でも吐かなければやってられない。忍者はまだか。
ブロントさんが流れる冷や汗を拭った時、音が耳に届いた。小さいが、誰かの声だ!
ようやくそれらしい反応に遭遇したが、謙虚なナイトは急がない。ゆっくりと歩を進める。
記者もそれを咎めない。更に重さを増す世界の中、歩くのがやっとで、走り出したら追いつけそうにない。
ジリジリと間合いを詰め、ようやく現場を一望出来る位置に到着する。そして、二人は見た。

「……………」
「×××××」
「イヤーッ!」

激しい激突! 高速で刃を交える3つの影、噂通りの忍者……忍者? だ!
ぎゃり、ぎゃり、と影が硬質な音を立てぶつかり合い、散った火花が僅かに三者を照らす。
文が全神経を目に集中、闇の中の姿を朧気ながら捉える。

「……………」

ひとつの影は白。
三者の中で最も速く、十分な距離を保っている筈なのに視界に収める事が出来ない。
カタナを振るう様は紛れもなく忍者であろう。
その正体に気付き、文は絶望した。

「×××××」

ひとつの影は青。
三者の中で最も怪しい動きを取り、次にどこに行くのかまるで予想がつかない。
怪しげな術を使う様はきっと忍者であろう。
その正体に気付き、再び文は絶望した。

「イヤーッ!」

ひとつの影は黒。
三者の中で最も殺意に溢れ、放つ流れ弾めいた手裏剣のせいで姿を追う余裕を奪われる。
武具とか術とか以前に、もう見た目が正統派忍者すぎる。
その正体に気付き、三度文は絶望した。

「こりゃダメだわ……死ぬわ」
「何か分かったのなら説明すべきそうすべき。情報がないと手の打ちようがないんですわ、お?」
「白いのが飛影、青いのがXAN、黒いのがニンジャスレイヤー……三者共HNMですよ」

HNM(ハイレベルノートリアスモンスター)。
NM(ノートリアスモンスター。計り知れない力を持った敵の総称)の中でも一際強いものを指す言葉、全員それだと言うのか。
ブロントさんはちょとわずかに冷や汗をかいた。

「簡単に説明します。白いのが飛影、巷で噂の経験値泥棒です」
「死なないのに経験値ロストとかマジぶっころしょ? はやくあやまっテ!」

飛影(とびかげ)……経験値泥棒の異名に恥じぬ、汚い忍者である。
呼んでもいないのに突然現れ、勝手に敵を倒して帰る。そして飛影が倒した敵の経験値、資金、アイテムはこちらの手に入らないのだ。
その迷惑ぶりに名うての冒険者パーティが退治に乗り出した事もあったが、かすり傷さえ負わせる事が出来なかったという。
圧倒的な素早さと技量で空蝉も無しに全ての攻撃を躱す、超回避型忍者だ。

「青いのがXAN。さる特撮ヒーローのモデルとしてネ実市では特に有名ですね」
「ナイトを差し置いてヒーローとかちょとsyれならんしょ……」

XAN(ざん)……機械とも生体ともつかないスキンに覆われた、謎多き忍者である。
中の人がいるとも、全身機械とも言われているが、それを確かめた者は一人もいない。ネ実市のはるか東の方に伝わるとされる、”ヤーパンニンポー”なる怪しげな術を使うところから、外国産という事になっている。
高い機動力、攻撃力もさることながら、アタッカーの一撃すら止めるバリアを常時展開しているのが最も恐ろしい。
生半可な火力では戦いにすらならない、超防御型Ninjaだ。
ネ実市のご当地ヒーローのモデルとして選ばれたのは、地元民の記憶に新しい。

「黒いのがニンジャスレイヤー。最近話題のネオサイタマの死神です」
「あいつの殺気が強すぎてストレスがマッハ。周りの迷惑を考えられない奴は駄目だと思った(溜息)」

ニンジャスレイヤー……読んで字の如く忍者を殺すニンジャである。
ネ実市から近くも遠くもない都市、ネオサイタマの一大ニンジャ組織を滅ぼした事で一気に有名になった。
何よりも敵対ニンジャの殺害を重点したその攻撃は、激しく、重く、そして恐ろしい。
圧倒的なカラテに支えられた突破力を持つ、超攻撃型ニンジャだ。

「私達は戦う訳ではありませんが……流れ弾に当たればタダでは済まないでしょう。特に私が」
「汚いな流石忍者きたない。ナイトでも耐えられない攻撃ぽこじゃか使うとかあもりにも卑劣すぎるでしょう?
 運営に掛けあってくるわ忍者の大 弱 体をな」
「無事に帰れたら私も付き合いますよ」

軽口を叩くのは少しでも平常心に近づけるため。
これからカメラの有効射程まで近寄り、撮影する。確実に無事では済まない。
命懸けのワンショット、二射が許されるだけの余裕はない。緊張を身体に出してる余裕はないのだ。

「死して一筆拾う者あり……前進を!」
「下段ガードを固めつつ進むナイトに隙はなかった!」

ゆるやかに、摺り足で接近する。駆け寄って敵とでも認識されれば撮影は即放棄だ。
焦れる。撮影可能距離まで、少しずつ少しずつ……文も辛いが、殺気を矢面で受け止めるブロントさんはそれ以上に辛い。
特にニンジャスレイヤーの放つ殺気は、自分達に向けられたものではないにも関わらず、心臓を握られてるような錯覚を感じる。

「…………っ」
「もう少し……もう少し前へお願いします」

突然ブロントさんが腰を落とし、盾を両手で構えた。流れ弾だ!
文はとっさにブロントさんの背に張り付くように隠れる。
直後、ぼじゅ、と水でも叩きつけられたような音が盾越しに聞こえた。

「つぁっ!」

盾を使い、強引にぶつかったものの進路を逸らす。矛先を逸らされた流れ弾は、彼方へと消えていった……

「今のはビーム……? 飛影のビーム弓銃でしょうか」
「ふうっ、ふうっ、ふぅー……」

ビーム弓銃とは、飛影が用いる矢の代わりにビームを撃ち出すスゴイ兵器である。
放たれた熱線は非常に貫通力が高く、凶悪。それを逸らしてみせたブロントさんも、若くして只者ではない。
彼はゆっくりと上がった呼吸を整え、改めて盾を構えた。盾は表面の装飾がごっそりと削られている。

「俺の怒りが有頂天になった……お前次会ったらハイスラでボコるは」
「自重してもらえて何よりです」

ビームを放った飛影は既に硬直を脱し、隙を狙ったニンジャスレイヤーのスリケンを回避している。
残像すら見える回避行動、ことごとく空を切るスリケン。追撃を狙うニンジャスレイヤーをXANが追う。

「×××××」
「イヤーッ!」

XANのカタナはブレーサーによって受け止められた。飛び散る火花が闇を照らす。
ぎし、と互いの力が拮抗し、鍔迫り合いめいた硬直を生む。迂闊に力を抜けば追撃を許し、しかしこのまま力比べをする余裕もない。
動きの止まった二者に対し、速やかに上空へ移動した飛影が牙を剥く。凄まじい勢いでマキビシを投下! マキビシランチャーだ!
マキビシの雨が地面を、壁を抉る!
無差別破壊攻撃に、二者は同時に飛び退き、続けての回避運動によって余波を逃れる。全くの無傷だ。

「……………」
「×××××」

反転攻勢に出るXAN。身の丈ほどもあろうかというカタナが高速で振るわれる。
一閃、二閃、三閃! 紙一重で躱す飛影の身のこなしと、紙一重まで追い詰めるXANの技前が交差する!
美しくさえある死の舞にニンジャスレイヤーがインターセプトを図る。その上半身には縄めいた筋肉が浮かび、恐ろしいまでの力が篭っている。
最大の力みから放たれるのは、強烈な死の流星。ツヨイ・スリケンだ!

「イイヤアアアアアーッ!!」
「……………」
「×××××」

直線的に二者を同時に貫く軌道! あわよくばまとめて始末せんとする殺意に満ちた弾丸だ。
弾かれたように回避する二者、しかし一方へと迫る、血のように赤く黒い影!
飛影の移動先に先回りしたニンジャスレイヤーが回し蹴りを放つ。ツヨイ・スリケンが回避されることを見越した二段構えの攻めだ。
飛影がわずかに身をひねり、直後回し蹴りが炸裂する。

「イヤーッ!」
「……………」

手応え……なし、浅い! 蹴りの威力は全てニンジャスレイヤーの間合いから離れるエネルギーへと変換された。
三者の位置は等距離に。一瞬の静寂が訪れる。
状況判断。いかに攻め、いかに守るか。

「×××××」
「……………」

飛影がカタナを抜く。狙いはニンジャスレイヤー!
XANがカタナを抜く。狙いはニンジャスレイヤー!
狙われたニンジャスレイヤーは迎え撃つ構え! 激突は必至!

「Wasshoi!」

ニンジャスレイヤーのシャウトが響き、剣激が火花を散らす。
三つ巴の戦いはまだ終らない……

「ヌウーッ! 早すぎて撮れない!」

圧倒的速度の元行われる激闘を捉えるのは極めて困難だ。文のカメラが右へ左へ振り回される。
なんとしても三者をまとめて、かつブレない程度のスピードの瞬間を撮りたいのだが、そんな美味しい絵がそうそうあるわけがない。あっても視界に捉えられない。
急がなければブロントさんが限界を迎えてしまうのだが……

「ふーっ、ふーっ……盾は9枚でいい……」

盾は半ば砕け、鎧は削れ、剣まで持ち出しての必死の防御。
マキビシランチャーなど諸々の流れ弾を防いだ結果がこれである。満身創痍という言葉がふさわしい有様だ。
しかしまだ倒れはしない。ナイトとして果たすべき仕事が終わっていないのだ。
ブロントさんは、元よりそのつもりではあったが、改めて覚悟を決めた。

「俺が注意を引く。撮れ」
「しかしそれでは……いえ、分かりました」

文は止めようとしたが、両目に灯る意思の光を見て、怪しい口調の消えた言葉を聞いて、その決意を採用した。
彼がプロフェッショナルに徹するのなら、自分もそうするべきだ。仕事を果たす。

「いつでも行けます……こちらで合わせますので」
「分かった」

クラウチングスタートの姿勢を取る。
地を蹴る構えなら、これが文の知る限り最速でスタートを切れる構えだ。
後はブロントさんが仕掛けるのを待つ。いつでもいい、何時でも撮れる。0コンマ1秒の世界へ突入するのだ。

「行くぞ!」
「どうぞ!」

全身の筋肉が躍動し、爆裂的な最初の一歩を生み出す。砕ける地面、流れる景色、切り裂かれる空気。
射命丸文が消えた。いや、目にも留まらぬ速度で飛び出した。
そしてブロントさんが。

「フラッシュ!」

白魔法、フラッシュを発動。本来は敵の命中を下げるための魔法であるが、敵のターゲットをこちらに向けるためにも用いられる。
正に今がその時。暗闇が高光量によって白く染まり、三者の足が止まる。
光は僅かな時間で収まり、闇が戻ってくる。そして三者はブロントさんへと向き直……らない。
凝視するのは暗闇の奥、風をはらむ烏の羽音!

(このシャッターチャンス……逃さない!)

位置を掴まれようが狙われようが関係無い。まだ彼らの足が動かない今が最大のチャンスだ。
この一瞬に巡り会わせてくれたブロントさんの協力に、そして己の幸運に感謝を込めて……
撮るべし! そして死ぬ!

「写ゲキ(シューティング)!!」

確かな手応え。間違いなく撮れたという確信。
充実感を胸に文は死んだ。

夜の中に生者は三人、死者二名。烏は死んだ、ほぼ同時に騎士も死んだ。
程なくして死体が消える。ホームポイントへ帰還したのだろう。
ネ実市、いやこの世界では、ただ殺しただけでは死なない。これは常識レベルである。
夜風が空気を冷やしていく……

「……………」
「×××××」

飛影とXANがカタナを収めた。
ニンジャスレイヤーはカタナを持っていなかったが、戦意を収めた。

「……今宵はここまでとしよう」
「×××××」
「……………」

果たして文は何を撮ったのか。
確かに決定的瞬間、しかしその戦いの意味は? この闘争のもたらすものとは?
知る術はない。全ては闇の中へ……消えていく。

そうしてまた、朝が来る。

「見て、見て、見て見て見て見て!」
「俺は昼飯の真っ最中なんだが? 新聞が食えないのは確定的に明らか」

ブロントさんの視界は文が叩きつけた新聞で完全に覆われていた。
記者モードではなく学生としての砕けた口調の文が真正面から新聞をフルスイングしたのだ。
学食でカレーうどん(第二級衣服汚染食)を楽しんでいた最中にこの仕打ち、許せるものではない。
のだが、新聞を除けた先にあった喜色満面を見てしまい、つい口が止まってしまう。

「どーよこれこの購買部数! 先週してやられた案山子念報を押し退けて堂・々・一・位!
 トキさえいなけりゃこんなもんよ!」
「今の話のどこにトキの存在があったのか理解不能状態。ヒットした頭を落ち着かせてくだしあ」

正直うざい。うざいが、この顔を曇らせる気にはなれなかった。
直近一ヶ月分の売り上げ推移をこれでもかと見せつけてくる文。確かに先週に比べて文の文々。新聞が大きく伸びておりトップに躍り出ている。
ざまあ、はたてざまあと笑顔で毒を吐く文。余程案山子念報を抜き返したのが嬉しいようだ。
ちなみにはたてとは案山子念報の執筆者、姫海棠はたての事である。文とは熾烈な部数争いをしているらしい。

「……ふぅ」
「白昼堂々賢者モードとか天狗さすがすぐる……ナイトが席を立つのも無理は無い」
「待って離席待って。まだ用が残ってるから」
「hai?」

言うだけ言って帰るかと思ったがまだ何かあるらしい。
カレーうどんを食べるのを再開しつつ様子を伺うブロントさん。
撥ねる、汁が撥ねる!

「俺はズルズルーッ、食事をズルズルーッ、楽しみたいズルズルーッ、んだが?」
「ちょ、汁が飛んでる、飛んでるから! シミになるからやめて!」

気にせず食べ続けるブロントさん。彼は服にシミが出来るのが怖くないのか?
否、よく見よその胸元を。食事のメイン盾、エプロンの存在を!
カレーうどんに挑む者として相応しい装備と言えよう。ブロントさんに抜かりはなかった。
備えのない文はひたすら避けるしかない……一度席を立って離れれば済む話ではあるのだが。

「ふぅ、ごちそうさまでした」
「くっ、何たる卑劣な仕打ち……危うくクリーニング屋に寄るハメになる所だったわ」
「知ってるか? シミは汚れの象徴なんだぜ」
「言われなくても知ってるっての!」

プリプリ怒りながら文はかばんに手を突っ込んだ。
テーブル砕けよとばかりにブツを叩きつける。周囲の目線が集中するが、両者意に介さない。
並べられたのは、鎧と盾と篭手と脛当……つまり騎士用装備が一式揃っていた。かばんの容量は気にしてはいけない。

「忍者連中のせいで防具がボロボロになったでしょ? 流石にブロントさんの使ってたAFとは行かないけど」
「ちょ、流石にここまでしてもらう訳にはいかないんですがねぇ……」
「手伝ってもらったお礼よお礼。いいから受け取って」

予期せぬ謝意に動揺を隠せない。一言詫びがあるかないかと思っていたブロントさんは対処に困ってしまう。
受け取れとブツを押し込む文の手をつい押し返してしまう。

「……なんで受け取らないんですか」
「いや……そう、ナイトとして当然の働きをしただけなので報酬とは無関係。完 全 論 破。以後レスひ不要です」
「全然論破出来てないっての」

押し合いへし合い、装備がテーブルの上を行き来する。
テーブルにいらん傷がついているので、後で怒られるのは間違いないだろう。
校内放送が次の曲をかける。今週は洋ゲー特集らしく、アップテンポだが何を言ってるのか良く分からない曲だ。
二曲目がかかると言うことはそろそろ教室に戻らなければならない。文は素早く決断した。

「じゃあ、こうしましょう。次の依頼の前払いも含めたものと言うことで」
「むぅ」
「これでも受け取らないなら放課後まで粘るわよ」
「……仕方ねぇな」

渋々と装備を受け取るブロントさん。頑固な男だと、文はこっそり溜息をついた。
しかしここまでの流れは彼女にとって完全に予測の範囲内であり、実に都合のいい展開であった。
文の舌が唇をなぞる。唇は唾液で怪しげに輝いた……

「それじゃあ今日の放課後部室に来てね」
「なぬ? 急展開すぎて頭がヒットしそうなんだが、あyはもう少し説明に力を入れるべき」
「次の依頼よ? 前払い分、しっかりお願いしますね♪」
「……・えちょ 恥知らずな天狗がいた!!」
「丸聞こえだから。誤爆は別キャラの持ちネタだから」

ハメられた!? と言わんばかりの表情で硬直したブロントさんをそのままに、文は「ちゃんと来なさいよ!」と言い残し去っていった。
フリーズから復帰したとき、既に学食には誰もいなかった。
せめて口撃してやろうと思っていたのに、出鼻をくじかれてしまった。がーんだな……
少し肩を落としながらお盆を戻しに行く。

今日は完全にしてやられてしまった……だが、まあ。
本気で不愉快なら約束なんて無視してしまって構わないのだ。ブロントさんは不良だから自分の都合で約束だってぶっちぎるし、不味い飯を出すレストランにカネを払わず出るなんてしょっちゅうよ……(※誇張表現が大いに含まれます!)
それでも、やっぱり放課後になったら、新聞部へ行くのだろう。

「悪くねぇな」

ブロントさんはこういうのも嫌いではなかった。

その後、今までと趣きの違う鎧を装備したノッポと、一人でも姦しい記者が、次々と事件をファインダーに収めていった……
かどうかは定かで無い。
ちょっと短編でも書こうかと思ったら一ヶ月も経っていた。かなり申し訳ない。
レイセンルートを期待してた方には更に申し訳ない……いるかどうかは置いておいて。

このSSは拙い文章と、僅かな文ブロと、忍者とNinjaとニンジャで出来ています。
ニンジャスレイヤーに出番を作るためのSSと言ってもいいです。

ブロント語難しすぎワロタwww再現無理wwww まあ文も大概アレな感じですが……
XANのヒーロー云々はwikiにあるシナリオ/子供達の希望のカタチ -救世主、参上-とXANのキャラ設定の項から引っ張ったものです。
倫理


  • 旧コメント
     
    1.
    盾と鎧に身を包んだナイトもいいけど、ヒュンヒュンとび回る忍者もカッコいいねえ!
    最高レベルの忍者3人のガチバトルとかまじ胸熱!戦闘描写がなかなかのなかなかでしたぜ。

ネオサイタマはどこにあるんだろう。
2.
アイエエエ!?ナンデ!?ニンジャナンデ!?