Toward_the_Sky
夢餓狂一
飛び出せ青春!的なもの
※caution※注意※caution※
このSSは、独自設定が多分に混じった妄想の産物です。そして、別に恋愛要素もございません。苦手な方、不快に思った方は自己責任で戻るようお願いします。
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四月。暖かい陽気に春先特有の強い風が吹く。その風に大気は循環し、空は何処までも抜けるような青色と、くっきりとした白を見せている。
ネ実市が抱える系統無差別マンモス校、陰陽鉄学園に存在する広大なグラウンド。その一角で、彼は一人立っていた。全身を軽鎧で包み、右手に槍を携えた彼は、ビル街という額縁を外された広大な空を、何処までも続くその先を見つめている。その双眸は身に付けた兜に阻まれて見えないのだが、彼の纏う雰囲気からは真剣である様子が窺えた。
時間にして10秒ほど経ったところで、彼は視線を地上に向ける。そこにあるのは二本の支柱とその間に架けられたバー。高さは6 mほどか。
彼は右手だけで持っていた槍を両手で持ち直してしっかりと構え、一息に飛び出した。地を滑るように突進した後、槍を地面に向けて斜めに突き入れる。その反動を利用して跳び上がり、槍を支えに空中で倒立するような挙動。すぐさま槍に力を込め、地面から弾く。ちょうど一回転するような形で一度目の跳躍から着地し、その時の力を全て足腰のバネに利用して、彼は二度目の跳躍を、空への飛翔を開始した。
風を切る。横風をものともせず、彼は空を目指す。設置したバーの存在など遥か下に置き忘れ、ひたすらに空へ肉薄する。今いる高さでもまだ足りず、更なる空を求めてただ上に突き進む。
だが、やがては限界に到達する。当然だ。彼には空を飛ぶための翼も、飛ぶ事を可能とする能力もない。
最高度に達した時点で、彼は空に向かって挑戦する姿勢を見せつけるように、大きく身体を伸ばす。そしてすぐさま身体を丸めて一回転し、槍を構えて急降下した。
――――
「お疲れ様です、リューサン」
本日一回目の練習を終えて一息吐く彼――リューサンにタオルを渡しながら永江衣玖は成果を言う。
「試しに6 mで置いてみましたけど、簡単過ぎましたね。次回は10 mにしてしまってもいいと思いますよ」
「いや、これでもある程度抑えているからね。限界まで力を出すのだとしたら15 mくらいにしたほうが気が引き締まるよ」
朗らかに笑いながらリューサンが返す。竜騎士AF――のレプリカに身を包んだリューサンは先日陰陽鉄学園に入学したばかり。陸上部の新部員、更にはここ数年陰陽鉄学園にはいなかった棒高跳の選手として練習を開始していた。
「あら、そうですか?でも無理は禁物ですよ。怪我をしてしまえば元も子もないのですから」
「わかっているさ。だがまだ練習初日なんだ。自分の限界を知っておくのも必要だと思うよ」
年の割に大人びたリューサンに負けず劣らず、物腰柔らかに対応する衣玖もまた、今年度の陰陽鉄学園新入生であり、陸上部のマネージャーに付いた女性だ。広大なグラウンドで汗を流す陸上部の面々を以って清涼剤となる彼女の存在は、本人の控えめな印象も相まって部員達の評判も上々であった。
「それもそうですね。ではセッティングをしましょうか」
言って、彼女は支柱の長さを変え、バーの高さの調整に移る。ごく自然に足を地面から離し、空に浮きあがる衣玖。緩やかな速度で行われる彼女の移動は、浮遊と表現するのが的確のようで、彼女の清楚な佇まいに相応しい。
「それにしても」
衣玖は、何の気はなしにぽつりと呟く。
「人の身で、何がしかの能力に頼るわけでもなく、これ程の跳躍を見せるというのは凄まじいですね。どうしてそこまでしようと思うのか、ちょっと疑問です」
ふと漏れた、それ故に本音とわかる言葉を聞き、リューサンは苦笑で返す。
「フ…まあ、そう思うのも無理はないよな」
その疑問も当然であると理解した風にごちる。
「あ…いえ、別にリューサンがおかしいというわけでは」
「いや、実際おかしいんだろう。人が空を飛ぶなんて、そう珍しくもないし」
咄嗟にフォローを入れた衣玖であったが、リューサンはある種諦観している面持ちで応えた。
今日日、人が空を飛ぶ事など珍事でも怪異でも何でもない。生まれつき備わった能力を用いる事で空を飛ぶ人間や妖怪、それ用の魔法を習得する事で飛翔を可能とした魔法使いは大勢いる。交通やら、景観保護やら、果てはプライバシー問題によって人の安易な飛行は規制されるようになったが、「人が空を飛ぶ」という事実は、至極当然の事として現代人に受け入れられていた。
近代より前の時代ではそうではなかったという。人間と妖怪の交流は無く、人類は時たま出くわす怪異を前に、恐怖または畏怖し、その侵攻を前にしては伝承されてきた知識をもとに反抗した。竜騎士というジョブは、こうした世の中に於いて、人と怪異とが邂逅した結果偶然編み出された産物なのだという。
もとより数が少なかったという竜騎士は、昨今の風潮もあってその価値を大きく損ない、今では非常に稀有な存在となっていた。
「でもまあ、自分が好きでやっていることだからな。それをどうこう言ったって仕方ないさ」
一転して朗らかに笑いながらリューサンは軽く跳ねる。練習二回目に向けて、身体のバネが上手く機能するよう、全身の緊張を解いていく。
「ふふ、そうですね」
リューサンの特に気にした感じの無い様子に衣玖は安心し、バーの調整を終える。
「さて、準備完了です。これで高さは15 mになりますけど、出来そうですか?」
そびえ立つ支柱とそこに架けられたバーを見上げ、一度頷いてからリューサンは果敢に挑む調子で述べる。
「ああ。初めから出来ないなんて思ってたら、ずっと出来ないだろしね」
落ち着いた態度は崩していないが、やはり高揚している雰囲気が多分に感じ取られ、効果の程は期待できなくても、衣玖は注意の言葉を投げかけた。
「あまり無理をしてはいけませんよ」
そして、跳躍の全体像が見えるよう距離を取り、合図を掛けた。
「それでは、練習二回目。始めてください」
――――
走り出す前、呼吸を整えながらリューサンは思う。
(そうさ)
強く…
(あの空を翔ける龍への憧れは、それに挑む自分の想いは、誰にどう言われようと変わらない)
そしてまた、彼は空を目指して跳んだ。
ここに書くのは初めてですが、SSを久しぶりに書いてみました。
こう、リューサンが竜騎士やり続けてるところを求道的に捉えて表現してみようと思って書いた次第です。
……ええ、既に棒高跳ではありません。リアル世界では世界記録が 6 m台なので普通にぶっちぎってます。ここら辺はファンタジー補正という事でお願いします。
後、竜騎士が元々不遇だったり、原作設定的に数が少ないという事を加味して色々設定を捏造しています。
ここからただひたすら竜騎士道を究めるも良し、何かがきっかけで別の目的を見つけたり彼女を攻略したりするも良し。まあ物語なんでね、好きなように歩ませられますよ(今後の展開を考えてないとも言う)。
では、また機会がありましたら。
夢餓狂一
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まさか今一度学園モノSSを見る日がこようとは…感謝感激。投稿乙です
リューイクいいよねリューイクいい…そうだよね子竜じゃなくてもいくらでも連れ歩ける相手いそうだものね。ゲーム的な優位はともかく
しかしこの世界の陸上競技がどうなってるのか気になって昼も眠れないよ…