初歩の物理学で自動車工学

Last-modified: 2019-12-17 (火) 11:19:22
初出 2019-11-21
 
 

簡単に言うと私は“物理屋”です。自動車工学については、学んだことがありません。自動車工学の本を手にとったことすらありません。しかし、自動車雑誌については(立ち読みが主ですが)、ある程度の量を過去に読んでいます。

 

“物理屋”の目で見ると、今まで読んだ自動車雑誌の中の様々な“技術解説”には、不満を抱くことがよくありました。

 

本ページでは、今まで私が自動車雑誌の“技術解説”を読んだ後に、典型的に訂正したい、とか、付け加えたい、と思った内容を書き連ねます。項目選びも理論の構築も私が空でおこなったものです。

 

多分、ここに私が書くようなことは、自動車工学の教科書的なものには基本のキとして必ず載っていると推察します。でも、自動車工学の勉強なんかしなくても、初歩の物理(高校の物理の範囲)さえ“しっかり”(←これが大事ですが)身につけていれば、これだけのことがわかるんだ、ということを示したいと思います。

 

※本ページの記述に要した資料と呼ぶべきものは、タイヤのコーナリングフォース-スリップアングルの関係を表したグラフだけです。他に、記述に必要なものは大学入試程度の物理の知識・能力ぐらいです。

 

大学入試レベルの物理をよく理解してさえいれば、(定常円旋回で特性が把握できる)アンダーステアやオーバーステアの理論とは一体どういうものなのか?、自力で気づき、理解することができます。

 

さらに、カジュアルな自動車雑誌なんかの「ハンドリング特性は弱アンダーステアがベスト! ニュートラルステアから少しだけ安定指向に振った弱アンダーステアが、安定性と操縦性のバランスが最もとれているから」みたいな記述にも「この説明、違うよ。弱アンダーステアとニュートラルステアは物理的に明確に違うんだから」などと考えられるようになるでしょう。

 

そこまで理解できれば、スマート フォーフォー/トゥインゴが100馬力以下なのに前後異サイズのタイヤを履く理由、古いポルシェ911の運転が難しい理由等も自力で導き出すことができるでしょう。

 

また同じく大学入試レベルの物理の知識で、ホイールベースとトレッドの比率(W/T比)が、直進性と曲がり易さにどう影響するのかを自力で理解することもできるでしょう。

 
 

目次

 

何故、弱アンダーステアが良いとされるのか?

正解をチコちゃん風に表現すると、以下のようになるでしょう。

 

「弱アンダーステアは自動操縦だから」

 

チコちゃん風な、超・意訳なので、ここでの「自動操縦」の意味は、もちろん何かのフォースがハンドルを自動で操作してくれる、みたいな意味ではありません。

 

本当の意味は、弱アンダーステアだと、ドライバーがハンドルを操作しなくても、クルマが自律的に、車体のヨー方向のモーメントを“ある程度”適切に作ってくれる、ということです。

 
 

ここで、物理屋としての正解を示しておきます。
「ハンドリング特性は、定常円旋回において弱アンダーステアであることが好ましい。何故なら、弱アンダーステアは、通常の運転において、コーナリング前半および後半、それぞれの場面で好ましい向きのヨーヨーモメントを自動的に発生する性質を持ち、結果としてドライバーが最も操縦し易いと感じるから」

 

この正解は短縮版です。以下にもっと詳しく説明します。

 
  1. クルマが弱アンダーステアの特性を持っていると、ブレーキを残しながらコーナリングをしている際、ドライバーがハンドルを切り足さなくても、曲がる方向に、より向きをかえるようなヨー・モーメント(水平面沿いに向きを変える力)が自動的に発生します。
  2. そして同じく、弱アンダーステアだと、エイペックスを過ぎ、コーナリング後半に加速した際には、クルマが“真っ直ぐ前向き”に向きを戻すようなヨー・モーメントが自動的に発生します。
  3. この、“自動的に発生するヨー・モーメント”の大きさが“適切”な場合、ドライバーがハンドル操作をしなくても、アクセルとブレーキの操作に応じ、クルマ自体が自動的に(自律的に)、ドライバーにとって“都合のいい方向”に、適度に向きを変えようとします。この現象を“違いのわかる”ドライバーは好意的に捉え、“意のままに操れる”という言葉で表現したりします。
  4. これが、クルマのハンドリング特性は適度な弱アンダーステアが最も好ましいとされる正しい理由です。先にも触れましたが、この“好ましい”ヨー・モーメントは“アンダーステア”の場合のみ発生します。つまり、物理学的には、弱アンダーステアとニュートラルステアは似たものではなく、明確に異なるものです。
  5. なので、「操縦性だけを優先すると本当はニュートラルステアが好ましいのだが、多少の安定性も必要なので実際上は弱アンダーステアが妥当」みたいな説明は、はっきりとした間違いです。ただ、さすがにこのようなテキトー説明は素人の記述以外では滅多にないと思いますが…
 

「ニュートラルステアが最も好ましいハンドリング特性だ」と思い込んでいる人は、最良のハンドリング特性のクルマに出会ったとき、「このクルマは俺の思いどおりに走るなあ!これぞニュートラルステアだ!」など思ったりするでしょう。しかし、物理屋の立場から言うと、そんな状態こそが(定常円旋回で把握できるところの)弱アンダー・ステアである可能性が高いと言えます。

 

ただし、主に低速、中低速コーナーでは、ハンドリンング特性以外の要素が車の運動性に関わる割合が高く「オーバーでも何の問題もない」、「オーバーステアのこの状態がベスト」などと感じたり、主張したりする人がいることも事実でしょう。

 

さて、ここまでは雑誌レベルでも(私は目にしたことはありませんが)同程度の説明が存在するかもしれません。

何故、弱アンダーステアだと自動的に“好ましいヨー・モーメント”が発生するのか

ここからは、弱アンダーステアだと何故、自動的に“好ましいヨー・モーメント”が発生するのか、を説明します。

ハンドリング特性を決めるのは「前後タイヤそれぞれのスリップアングルの差異

一般的には、クルマがアンダーなのか、オーバーなのかを決めるのは「クルマの前後重量配分とタイヤのスペック(直径、幅、コンパウンド…等)」だと言われていると思います。しかし物理屋の立場から言うと、ハンドリング特性を決めるのは「前後タイヤそれぞれのスリップアングル※の差異」です

 

※ スリップアングルとはタイヤが向いている方向とタイヤの実際の進行方向のなす角度のことです。

 
 

ここで、この現象を誤解が生じないように一旦、表現を整理しておきます。

 

まず、決して「スリップアングルが前後タイヤ間で異なるとヨーモメントが発生する」とは、覚えないで下さい。もっと限定条件が必要です。

 

定常円上を定速で走行時に前後タイヤ間のスリップアングルが異なる車は、コーナリング中に加速もしくは減速した際にヨー・モーメントが発生する」というのが、現象の正確な表現です。

 
 

この現象を理解する時ほど、基礎的な物理の知識が役に立つ時はない、と言えるほど、この現象は初歩の力学(物理の一分野)の知識でズバリ説明できます。私は頭の中だけで考えて理解してしまいましたが、逆に物理が得意でない方は図を用いても理解が難しいかもしれません。でも結論を言うと「前後でスリップアングルの異なる車がコーナリング中に加速・減速すると、車体トータルのコーナリングフォースのベクトルの方向が回転中心向きの方向からずれ(続ける)」ことにより、コーナリングフォースの分力がヨー・モーメントとなります。すなわち「ヨー・モーメントが発生する」ということになるわけです。

 

何故「前後スリップアングルの異なるクルマがコーナリング中に加速・減速すると車体トータルのコーナリングフォースのベクトルの方向が回転中心の方向からずれ(続ける)」のかと言うと、たとえば加速時、Δvに対応する前後のスリップアングルの不足分ΔθFとΔθRは、定速時にθF>θRだったらΔθF>ΔθR、逆にθF<θRだったらΔθF<ΔθRとなる為、前後タイヤを総合したトータルのコーナリングフォースを表す合成ベクトルは、定速時にスリップアングルが大きいタイヤの方に向きがずれるからです。そして同様に減速時は、定速時にスリップアングルが小さいタイヤの方に向きがずれるからです※。
※これは私としては、図を書かなくても頭の中だけで考察を巡らすことができる馴染みやすい表現です。表現方法は他にも数えきれないほどありますが、とりあえず、ここではこの方法を使います。

 

これが先に記した「弱アンダーの特性は、通常の運転において、…好ましい向きのヨー・ヨーモメントを自動的に発生する」現象の、物理的な説明になります。言うまでもなく、オーバーステアの場合は向きが逆になり、「好ましくない向きのヨー・モーメントが自動的に発生する」ということになります。

タックイン現象

ちなみに、昔、FF車の悪癖としてよく言われた(との記述が多い)、コーナリング中に急にアクセルを抜くと発生するタックイン現象も、もうおわかりでしょうが、上記の理屈で説明できるものです。ただし、タックイン自体は全てのアンダーステア車で発生するものです。昔の車のタックインが今の車より激しかった原因は、(1)衝突安全性があまり考慮されていない当時のボディは軽かった為、当時のFF車は現在のFF車より、もっとフロントヘビーで、現在と比較してアンダーステアの度合いが強かったということと、(2)サスペンション等の剛性が前後輪ともに低く、駆動力の大小によってタイヤの向きが大きく変わってしまう状態だったこと、の2点が大きく影響していると思われます。他にもブッシュの異方性制御(グラつきにくいブッシュ)※などが未発達だったことも影響していると思います。
※異方性制御の情報を目にしたことはありません。私ならやりたくなる筈なので記載しました。

古いポルシェ911の悪癖

タックインと前後逆の現象が、「昔のポルシェ911はコーナリング中に急にアクセルを抜くと、タックインと逆の回転を起こしてスピンする」という現象です。もちろんこれも前後スリップアングルの違いに起因するものです。リアオーバーハングに6気筒エンジンを積みながら、前後同一サイズのタイヤを履いた古いナローなポルシェ911は、最悪クラスのハンドリング特性を持つことが物理的に運命(さだ)められています。現代ならとても(新商品としては)販売できない代物と言えるでしょう。個人的な好みから言えば、この頃のポルシェ911は現代のポルシェ911と違ってボディ後半が太っていないので、スタイリング的には魅力を感じます。でも、この後を読めばわかると思いますが、現代のポルシェ911には、そうできない事情があります。

「アンダー、オーバーは前後重量配分とタイヤで決まる」という常識との関係

さて、今まで見てきたように、クルマがアンダーなのか、オーバーなのかを決めるのは「前後タイヤそれぞれのスリップアングルの差異」です。

 

しかし一般的には、クルマのハンドリング特性を決めるのは「クルマの前後重量配分とタイヤスペック(直径、幅、コンパウンド…等)」だと言われています。

 

この両論は別に矛盾はしていません。

 

通常、タイヤのスリップアングルを決める要因となるのは「前後重量配分とタイヤスペック」だからです。

 

「前後重量配分とタイヤスペック」によって「前後ぞれぞれのスリップアングルの差異」が発生します。
そして、それが、先に記したように「ハンドリング特性」に結びつくわけです。

 

つまり「前後重量配分とタイヤスペック」→「前後ぞれぞれのスリップアングルの差異」→「ハンドリング特性」
という関係です。

 

前の段落で述べたように「前後ぞれぞれのスリップアングルの差異」と「ハンドリング特性」の関係については変えることはできません。

 

(定常円旋回において把握できるところの)アンダーステア=「前輪の方が後輪よりスリップアングルが大きい」
との関係が常に成立します。

 

同様に
(定常円旋回において把握できるところの)オーバーステア=「後輪の方が前輪よりスリップアングルが大きい」
との関係が常に成立します。

 

何故かというと、先に記したように、これらは基本的な物理学で結びついているからです。

タイヤで変えられる「前後重量配分とタイヤスペック」と「前後それぞれのスリップアングルの差異」の関係

しかし、「前後重量配分とタイヤスペック」と「前後それぞれのスリップアングルの差異」の関係については、たとえ“前後重量配分”は変えられなくても、“タイヤスペック”の方を変えることで、無理やり関係を変えることができます。

 

この実例が、既に皆さんご存知の、ポルシェ911やミッドシップスーパーカーの前後異径タイヤの採用です。

 

皆さんは、これらのクルマは後輪で大パワーを受け止める為、また、リアヘビーだからその重量を受け止める為にリアに大きなタイヤを装着していると思っているかもしれません。その意味ももちろんあるのですが、それと同じくらい重要な意味を持つのが、前後タイヤのスリップアングルを調整して弱アンダーステア(もしくはニュートラルステア※)を実現することなのです。

 

何しろ、先に記したように、良好なハンドリング特性とは必ず弱アンダーなのです。昔はオーバーステアの車が堂々と販売されていたと思われますが、現代の車が求められる基準ではそんなことは許されません。

走りを楽しくする為のニュートラルステア

※中高速コーナーで最速なのは弱(弱々)アンダーステアですが、市販車の場合、低速での“楽しさ”を狙って、意図的にニュートラルステアにされていることもあります。ロードスターはその典型例でしょう。

 

また、“スピンしにくい”のはニュートラルステアです。これは、アクセル操作を楽しむ場合にも好ましい特性です。

ゴムタイヤの性質

前段では、タイヤを変えることによってスリップアングルを調整することについて触れましたが、タイヤの変更によってスリップアングルが変化するしくみについては、初歩の物理の範疇ではなく、ゴムタイヤの性質の問題となります。

 
 

ゴムタイヤの性質については、荷重ースリップアングルとグリップ力の関係を表すグラフが様々公開されています。
(模式的なグラフを作成しましたが、とりあえず今は結論だけを書いておきます)

 

これらを参照すると、どうやら、どのメーカーのタイヤであっても、以下の基本的な性質は同じです。

 

●同じタイヤ同士なら、スリップアングルが同じままだと、荷重を増やしてもグリップはあまり増加しない。スリップアングルを大きくしないとグリップは増えない(初歩の物理で学ぶ摩擦力の式μmgとはまるで異なる

 

●荷重を増加させても、同一スリップアングルで比較した場合のグリップはあまり増加しない。しかし、荷重が増えるとスリップアングルの限界は大きくなり、最大のグリップ力も大きくなる

 

●ハイグリップタイヤは、ノーマルなタイヤと比べて、同じグリップを発生する際のスリップアングルが小さい

 

●直径が大きいとか幅が広くて、接地面積が大きいタイヤは、相対的に、小さなタイヤと比べて、同じグリップ力を発生する際のスリップアングルが小さい

 

タイヤの専門家じゃないので理由は説明できませんが、以上のようなことが言えるようです。

 

ここから、以下のようなことが言えます。

 

前後同じタイヤを履いていると、重い側、つまり車のフロントが重いならフロント側、リアが重いならリア側の、スリップアングルが大きくなる。

 
 

先にスリップアングルの前後の差異がアンダーステア、オーバーステアを決定づけることは説明しました。これと前段とを合わせると、以下のことが言えます。

 

前後同じタイヤを履いている場合、フロントヘビーならアンダーステア、リアヘビーならオーバーステアになる。

 

これはほぼ、多くの人が受け入れている“常識”だと思います。ただし、ここでは「前後同じタイヤを履いている場合、」という条件が付いています。

 
 

グラフからは、前後に異なるタイヤを履かせた場合の効果についても読み取ることができます。リアタイヤの幅を広くする、直径を大きくする、ハイグリップタイヤにする、このどれもがリアタイヤのスリップアングルを小さくする効果を生むことが読み取れます。まさしくリアヘビーのRR車やMR車がおこなっていることです。これらの車はリアのスリップアングルを小さくして、リアヘビーなのに弱アンダーステア(もしくはニュートラルステア)を実現しているのです。

今の時代は決してオーバーステアが許されない…その証拠

先に、現代の車に求められる基準では、オーバーステアは許されないと書きましたが、これについてのわかりやすい傍証が、RRの為、リアヘビーなスマート フォーフォーとトゥインゴです。この両車(兄弟車)はごく非力な車です。なので駆動力確保の為に駆動輪を大きなタイヤにする必要性はありません。またこの両車の前後重量比は45:55程度で僅かなリアヘビーに留まります。これが前後重量比55:45の非力なフロントヘビー車であれば、FRであろうとAWDであろうと、タイヤローテーションができなくなることを考慮すると、前後のタイヤサイズを変えることなど、“絶対に絶対に考えられません”。たとえ60:40であったとしても考えられません。

 

なのに、実際には、この両車種は、後輪のサイズ(幅)が前輪より大きいのです。僅かにリアヘビーなだけで、しかも非力なのに、前後のタイヤサイズを変える理由は、一つしかありません。“オーバーステアは絶対に許されない”からです。現代の車にとって、それほどまでにオーバーステアは絶対に許されないものなのです。理由は先に記したとおりです。今後リアモーターのEV車が次々と発表されるかもしれません。60年代ならリアモーターの為にリアヘビーとなったとしても、前後輪同一タイヤを履かせ、オーバーステアの状態のままで販売されたかもしれません。しかし、現在および将来はそんなことは許されず、タイヤを変えるか、バッテリー等の搭載位置で重量配分を調整し、弱アンダーステアに仕立ててから発表されることになるでしょう。そして今後、スマート フォーフォー/トゥインゴ的なキャラクターのEVでリアヘビーで販売されるものはないでしょう。それらは全てバッテリー配置で重量配分を調整されるでしょう。

大パワー・4シーターFRとトランスアクスルは不可分

オーバーステアほど毛嫌いされるわけではありませんが、強いアンダーステアも、現代の車に対する要求基準ではアウトです。昔、フロントオーバーハングに縦置き5気筒エンジンを積んだアウディ200(クアトロのFF版)というFF車がありましたが、現在ではあり得ないレイアウトでしょう。多分、強烈なアンダーステアだったことでしょう。

 

アウディ200ほど極端ではない、前後重量配分が60:40前後の車でも、スーパーカー級の大パワーFRの場合、かつて、その設計者達は、あちらをたてればこちらが立たず的な矛盾に悩まされていたと思います。大パワーを受け止める為に後輪を大きくしたいのですが、そうすればリアのスリップアングルが小さくなってしまって元々のアンダーステアがますます強くなってしまう、じゃあ、それを防ごう、ということで一緒に前輪を大きくすると、ステアフィール、直進性、乗り心地、最小回転半径、視界、空気抵抗、重量等が悪化するので、それはできない。仕方がないから前後同サイズのままにしておこうか、という感じの、不本意な設計を余儀なくされていたと思います。

 

フェラーリのV12の4シーターFRも、412まではこのような理由で前後のタイヤは同一サイズだったのだと思います。320馬力を当時の240/55/16インチ・2輪で受け止めるのは厳しかったと思います。

 

シーター車ではエンジン搭載位置を下げることで重量配分を改善することは十分におこなえません。この問題を解決したのは、そう、トランスアクスルです。

 

フェラーリでも、V12の4シーターFRの後輪が大きくなったのは、トランスアクスルが初採用された456からの筈です。トランスアクスルが一般化するまでは、大パワーFR車でトラクションとハンドリングの両方を得ようとすれば、事実上、デイトナやシェルビー・コブラやモーガンのように、エンジンを後ろに下げ、シート数や居住性を犠牲にする他はありませんでした。それを回避できるし、走行性能面で優れているのはわかっているのにトランスアクスルがなかなか一般化しなかった理由は、大衆車には必要ないので、なかなかメガサプライヤーが投資しなかったからでしょう。※

 

トランンスアクスルにすれば、前後重量配ほぼ50:50前後を実現でき、大パワーFR車の後輪を大きくすることができます。50:50の車の後輪にだけ大きいタイヤを履かせれば弱アンダーになり、ハンドリング特性的にもちょうど都合がいいわけです。ただし、MR車やRR車のように極端に後輪を大きくすることはできませんし、その効果もありません。トラクションを稼ぎたいならAWDにする必要があります。

 

ちなみにトランスアクスル化は、通常、前車軸よりずっと後ろに位置しているトランスミッションを、後車軸と一体化させるわけですから、慣性モーメントは僅かに増えます。しかし、トランスアクスル化によって、強アンダーが弱アンダーになって、無駄なヨー・ヨーメントの発生が抑えられたり、弱アンダーのまま駆動輪を大型化できるメリットと比べれば、遥かにデメリットは小さいと言えます。

 

※調べてませんので、事実は異なる可能性があります。

ホイールベースとトレッドの比(W/T比)と曲がりにくさとの関係

ホイールベースとトレッドの比率は略してW/T比と呼ばれたりして、自動車の直進性と運動性を決める要素だと認識されています。W/T比が大きい(車が縦に細長い)と直進性が優れている、W/T比が小さいと直進性は劣るが運動性が優れているとされます。このあたりのからくりについて、どうもほとんど知られていないようなので、“初歩の物理”の知識を用いて解説しておきます。詳しくは書きませんが、それでも複雑です。

大元の、ヨーレートを変化させる“源泉”は、W/T比ではなく、実はホイールベースの絶対値

ホイールベースを長くしたり短くしたりできる実験用の車があると考えてみて下さい。直進状態からハンドルを切り始めた直後の瞬間のことを考えてみます。たとえホイールベースが異なっても、同じ速度で同じようにハンドルを切れば、前輪タイヤは同じ切れ角、同じ垂直荷重です。そして、仮想的に後述の“曲がりにくさ”がない場合を考えてみます。その場合はスリップアングルも、だいたい、ほぼ、同じになる筈です。スリップアングルまで同じなら、ここまでの微細な時間までの前輪の微小な横方向の移動距離はホイールベースの長さに依らず同じです。そしてここでの「前輪の微小な横方向の移動距離/ホイールベース」が、微小なヨーレートの変化の源泉となります。

 

つまり、“曲がりにくさ”を無視すれば、速度とホイールベースの絶対値が、ヨーレートの変化における重要なパラメータとなります。速度というパラメータがあるということは、“本来”、車にはそれぞれ最適なコーナーがあることを示しています。といっても、ホイールベースの絶対値が車に最適なコーナーを決めるか?というと、そういうことでもありません。今から記述する“曲がりにくさ”がヨーレートの変化を邪魔する力として大きく働いているからです。そちらにはW/T比が大いに関係します。なので結局、W/T比はかなり重要です。また、ここに速度のパラメータが含まれることは、ハンドルの重さが可変式になっていることが多い理由にもなっています。ハンドルの重さが可変になっているのは「高速ではコーナリング半径が大きいから」ではなく「高速では自然とハンドルが鋭敏になり過ぎるから」が最大の理由です。

曲がりにくさを表す式

四輪自動車が曲率を変える際、四輪それぞれは、それまでの進行方向から予想される位置から、刻一刻と微妙に横にずれようとします。しかし、四輪お互いの位置関係が固定されているので、自由に動けません。これが“曲がりにくさ”の根本原因です。

 

ここでは“曲がりにくさ”を“曲がる際の抵抗”と言い換えてみましょう。その“曲がる際の抵抗”が、W/T比によって、どうように変化するのかを考察してみましょう。曲がりにくさ”の概念を掴めると思います。

 

とりあえず簡単に考えてみて下さい。W/T比が無限大の場合は前後の右の車輪と左の車輪の位置が一致します。この場合、最大の直進性を持ちます。そして今度は、W/T比を小さくしてみて下さい。W/T比が0の場合に左右の前輪と後輪の位置が一致します。この場合、直進性が最低となります。この時に車輪が自由に回る状態だと、“曲がる際の抵抗”は0になります。実際の車のW/T比は0と無限大の間にあります。これをまとめると、車の“曲がる際の抵抗”は車の前後方向の中心線と対角線がなす角度をθとすると、cosθに相関すると考えることができ、それをW/T比で表すと「1/√(1+(W/T比)^2」だとわかると思います。曲がりにくさがこの式の値に比例するわけではありませんが、比較の目安にはなる数値です。文字数の都合もあって説明は省略しますが、曲がりにくさは、もっと多くのパラメータや式を用いて机上で計算することにはあまり意味がなく、試験車両を用いて実際の値を計測する方が遥かに有用な分野です。

デファレンシャル、電子制御デフ、SH-AWD、AYC

「車輪が自由に回る状態だと」というフレーズを用いたことに着目して下さい。これは曲がり易さ、曲がりにくさには「デフ(ディファレンシャルギア)」が大きく関係するということを示しています。

 

話を短くする為にここでは後輪についてだけ述べますが、デフがない状態だと“曲がる際の大きな抵抗”となる駆動輪に、つけることでその“抵抗”を減らすのが、“普通の”パッシブなデフです。そして抵抗を減らすどころか、逆に積極的に“曲げる力”を発揮させようというのが電子制御デフとか、SH-AWD、あるいは駆動輪のブレーキ・左右独立制御※です。そしてEVでも、SH-AWDの電動側と同様、1駆動軸につき2モーターを使うことで積極的に曲げようとするテスラ・新型ロードスターが現れています。ちなみに、ポルシェ・タイカンは巡航電費を稼ぐ為に変速機を使いたかったらしく1モーター/1駆動軸となっています。アウトバーンでの走行を重視するなら、そうせざるを得ないですね。ちなみにタイカンのペダル・レイアウトを見ましたが、左足ブレーキ運転専用となっています。

 

※駆動中にこの機能を使うことは制御が回りくどくて正確性の確保が困難なのでエンジニアはあまり好きではない筈です。前二者が付けられない場合の次善の策という位置づけです。

応用編

星野一義についての考察(推察)

「星野一義(敬称略)はオーバーステア好み」だと書いてある記事を読んだことがあります。しかし私は、そのような記述をあまり本気にしません。高速コーナーでは回転半径が大きいので、後輪ドリフトで向きを変えるなどの“曲げるテクニック”が出る幕はありません。また極端な急加速もありません。なので誰が運転しようと、速く走る方法は一つです。

 

無駄なヨーモーメントをできる限り発生させず。タイヤが持つ能力を車体の重心を支える為に最大限使い切ることが高速コーナーで最速で走る方法です。オーバーステアでは加減速に伴い自動的に発生してしまう不都合な逆方向のヨー・モーメントを打ち消す為の修正舵が多くなることが避けられず、その修正舵のためのグリップの余裕を確保する為、どうしても走行速度を下げる必要が生じます。たとえ神が運転しても、オーバーステアでは遅くなってしまいます。後輪操舵や駆動力左右独立制御で“修正舵”が必要ないような運転感覚を醸し出すことはできますが、無駄なヨー・モーメントが発生してしまうという根本は変わらないので、高速コーナーで弱(弱々)アンダーステア車ほど速く走ることはできません。

 

ちなみに、たとえ弱アンダーステアであってもドライバーはどのコーナーでも常に修正舵を入れている筈です。しかしその量・頻度がオーバーステアの場合と比べて桁違いに少ないと思われます。

 

もし、星野が現役時代、本当にオーバーステアの車で走っていたとしたら、実態は以下のようなものだったでしょう。

 

低速コーナーでは、わりとまっすぐに大きく減速し、その後、後輪をドリフトさせて小さい回転半径で一気に向きを変えてしまい、あとは出来るだけ直線状に加速したでしょう。これはオーバーステアの欠点を隠せる走り方ですし、曲率のきついコーナーで、たとえハンドルの切れ角が足りなくても、あるいはホイールベースが長すぎても“何とかできる”運転スタイルです。また、この走り方は加速力を必要としますが、国内トップカテゴリーのレーシングカーなら、パワーウェイトレシオが優れているので問題なかったでしょう。

 

中高速コーナーでは、リアのダウンフォースが強めに出るセッティングをおこなうことによって、空力によってハンドリング特性そのものを弱アンダーステアに変更していたでしょう。

 

常人なら、速度域によってハンドリング特性が変わると運転しづらいので、そうならないように空力をセットします。しかし、星野一義がセッティングした車は、低速コーナーではオーバーステア、中低速コーナーではニュートラルステア、中高速コーナーでは弱アンダーステア、高速コーナーでは強アンダーステアという感じの変態セッティングだった可能性があります。おそらく高速コーナーは弱々アンダーステアが本来最速ですが、強い加速はないので、減速時さえ“まっすぐ”を心がければ何とかなったのかもしれません。ちなみにリアをスライドさせるとハンドリング特性がオーバー側に寄りますが、さすがに星野でも高速コーナーで他のドライバーよりドリフト量を増やすことはできないでしょう。

 

レーシングカーは中高速、高速コーナーを速く走れることが何よりも大事なので、低速域では曲がりにくいケースも多いかもしれません。それが実はタイムロスになっている場合もよくあることでしょう。星野一義の車は、そこ(低速域)をオーバーステアにセッティングすることによって曲がりやすくし、他車よりアドバンテージを得る。そして速度域によって変化するハンドリング特性をものともせず、平気で乗りこなす。この2つの特徴によって“日本一速い男”の称号を得ていたのかもしれません。

 

以上、「星野一義はオーバーステア好み」との“通説”を元に、初歩の物理を用いて推察(妄想)してみました。

D1車両(ドリ車)のハンドリング特性

D1車両のドリフトについて考えてみます。通常の、速く走る際にわずかに発生するドリフトとは程度・時間・用途が全く異なるので、特別に考えてみることにします。

 

まず、ドリフト中のタイヤは、見た目からわかるとおり、極端に大きなスリップアングルなのに大したグリップを発生していません。スリップアングルとグリップとの関係グラフ(後述)の傾きが、非常にゆるやかです。まるで別のタイヤを付けたようです。たとえ後輪だけのドリフトであっても、グリップ走行とドリフト走行では、車の特性は大きく異なり、大きく異なる運転方法を要求されることになります。

 

両者の違いが大きすぎるために、その両者が切り替わる時間帯は車の特性が予測できないものになります。出来る限りその時間帯を短くしないと、意図しないスピン等が発生しかねません。つまり、グリップ走行→ドリフト走行、ドリフト走行→グリップ走行の“転換”は最大限、素早くおこなわなければなりません。したがってフィードバック制御をする時間的余裕がほぼないでしょう。ということで、“転換”は、アクセルとハンドルの連動した操作のセットを“(空手のような)形(かた)”として実施するもの、というものだと言えるでしょう。サイドブレーキを使ったりするのも、その一貫でしょう。もちろん、“形”の実施後は素早くフィードバック、フィードフォーワード制御に移る筈です。

 

といっても、私はドリ車を運転したことがないので推察で書いています。

 

ドリフト中のアクセル操作については、上述のようにグラフの傾きが非常にゆるやかなので、グリップ走行時のようにじわりと踏むと、人間のセンシング能力ではフィードバック制御がおこなえないでしょう。その為、たとえば全体のストロークを10段階等に分割して、「次は6」「次は8」みたいに速くて粗いステップ制御になるでしょう。

 

車のヨー軸の制御は、ハンドル操作だけでなく、かなりの部分をアクセル操作でおこなうことになるでしょう。というのは、ハンドルは切れ角の制限で切り足すことが殆どできないと思われ、あまり頼りにならない筈です。もうひとつは、グリップ走行とドリフト走行の境界付近ではなく、明確なドリフト走行ならではの運転手法があると思われるからです。ドリ車はドリフト時、アクセルを一瞬、大胆に戻しても、その直後はタイヤのスリップアングルがグリップ走行の最大スリップアングルを大幅に超えている為、ドリフト走行が続きます。そのままアクセルを戻したまますると、次第にグリップが回復すると同時に車体の向きが変わり続けます。その状態でグリップ走行の最大スリップアングルに達する(戻る)までには、物理的な姿勢の変化が必要で、必ずある程度の時間が確保できます。グリップ走行に戻る前に再びアクセルを踏みこめば、結果的にハンドルの代わりにアクセル操作を車体の方向の制御に使える、ということになるわけです。

 

ということで、アクセルをある一定の範囲で加えたり、戻したりして、車の向きを制御しているのでしょう。ハンドル操作と比べて反応時間が大幅に遅い筈だし、速度の制御も兼ねているし、おまけにハンドルとの協調も必要な筈なのでかなりの熟練を要することは推察できます。

 

スラローム走行で切り返す際は、もっとアクセルを長時間戻し、ほぼグリップ走行に戻してしまうことで急激な方向転換を実現しているのでしょう。もちろんこの場合はハンドル操作も非常に素早くおこない、前輪の向きを逆にする必要があります。これも上述の“形(かた)”的な操作となるでしょう。

 

以上、ドリ車の運転について、初歩の物理を用いて推察してみました。

タイヤのグリップの良し悪しが関係するキビキビ感

当たり前っちゃあ、当たり前なんですが、一応、触れておきます。
小さいスリップアングルで大きなグリップを発生するハイグリップタイヤは、必要なグリップを得るまでの時間が短くなる筈で、車にキビキビ感を増加させる筈です。特に左右に切り返す際に顕著に感じられる筈です。

CVTの採用理由

(2019-11-26追記)
こんな記事があったので、追記しておきます。
デメリットも多数聞くがなぜ? 日本車ばかりがCVTを採用する理由とは(WEB CARTOP) | 自動車情報サイト【新車・中古車】 - carview!
https://carview.yahoo.co.jp/news/market/20191125-10469313-carview/

 

記事本体も、私が以前から「この人に技術解説は無理」と断定している近藤暁史氏のもので、ライトな中身といえど、様々なおかしな箇所があります。でも、私がそれよりも気をとめたのはコメント欄の方々の「わかってなさ」の方です。もちろん、この記事の読者は「理科系の学生」とか「工学部を出た技術者」等と限定されている筈もないので、機械工学あるいは物理あるいは内燃機関の知識がなくて当然です。しかし「コメントするなら、できればこれぐらい、知っておいて欲しい」というレベルの内容をここに書きます。

CVTのメリットは内燃機関の欠点の解消。その代償がラバーバンドフィール

CVTの特徴は今でこそ「多段ATよりコンパクトで安い」と言うこともできますが、CVTが採用され始めた時代はATも4速の時代です。CVTを日本のメーカーがこぞって採用した理由は、コスト面の有利さも確かにありますが、それ以上とも言える理由が、CVTによって「長年の内燃機関の懸案を解消」し、燃費の向上を図ることです。

 

内燃機関ではわかりにくいので、ここではガソリンエンジンと表記することにしましょう。ガソリンエンジンの燃費に関わる2つの大きな欠点は、(1)「過渡状態での燃費が悪い」、(2)「負荷が低いと燃費が悪い」です

 

この欠点の解消には無段変速機が非常に有効です。このことは誰の目にも明らかですから、実用的な無断変速機の登場が長年待たれていた筈です。

 

その無段変速機を実現した一つの例がCVTです。CVT=無段変速機を使うと、車体が加速中でもエンジンは定速で回転することができます。負荷までは一定にならなくても回転数が一定になるだけで大幅に燃費は改善されますし、一定のアクセル位置であれば、負荷もかなり一定になり、ほぼ過渡状態でなくなることで、ガソリンエンジンの燃費にとって相当に有利になります。また、(2)に対しては、CVTであれば、最も負荷が高くなるような(=相対的に損失が最も少なくなるような)最適な変速比を選ぶことができ、これも燃費にとって有利に働きます。

 

つまりCVTはガソリンエンジン用としては、“ある意味”理想的な変速機なのです

ラバーバンドフィールはCVTを無段変速機として活用した場合のみに発生する現象。ステップ変速すれば発生しない

“ある意味”と記述するのは、CVTに欠点もあるからです。工学的な最大の欠点は伝達効率の低さと言えるでしょう。伝達効率が低いので、渋滞が相対的に少なくて一定速度で走る時間が長い、つまり、過渡状態で走る割合が少なくてCVTのメリットが活きない国では採用されません。他の工学的な欠点を挙げるとレシオカバレッジの低さと許容トルクの低さあたりですが、前者は副変速機やD-CVT、後者はチェーン式など、克服する技術はそれぞれ存在しますのでここでは述べません。

 

さて、CVTの欠点は工学的以外の面でも存在します。それはもちろん、自動車評論家達に忌み嫌われている「ラバーバンドフィール」、つまりアクセル操作とエンジン回転数が比例しない為にドライバーが違和感ないしは不快感を感じてしまう、もしくは限界付近のコーナリングに不利、という現象です。これもCVTが他国で採用されないひとつの要因にもなっているでしょう。このラバーバンドフィールはアクセルを踏み込んだ直後にエンジン回転数が急に上がるのに速度がほとんど増加しない現象、エンジンの回転数が一定なのに速度が増してゆく現象、この両方を指しているものと思われます。

 

しかし、ここまで読んでもらえればお気づきだと思いますが、ラバーバンドフィールは、CVTの無段変速機能を活用して、燃費を改善したり、加速を改善するメリットを享受した裏腹の現象です。つまり一部の車種の「CVTなのにCVTの欠点が出ない」という評価は「CVTのメリットを十分活かしていない」ということでもあるのです。「CVTのメリットを十分活かしていない」ということは「CVTのデメリットを多めに被っている」ということで、本来はあまり美点として評価するような話ではありません。

 

CVTを(ステップ変速機ではなく)無断変速機として活用する限りはラバーバンドフィーリングから逃れられません。「エンジン回転数と加速感が合わない」だけなら、アクティブ・サウンドコントロール(遮音+ノイズキャンセリング+人工エンジン音)で誤魔化せますが、「アクセルの踏み込み具合と加速感が合わない」は誤魔化しようがありません。

 

ラバーバンドフィーリングを伴わずに、先ほど述べた内燃機関の欠点を劇的に解消するなら、今ならシリーズハイブリッドのi-MMD※とかe-POWER等があります。シリーズハイブリッドにもパラレルハイブリッドにもなれるトヨタTHSも当然有効です。ただCVTよりだいぶお値段が張ります。そして駆動用モータとエンジンとを切り離す機構を持っていないマイルドハイブリッドは原理的にこの用途には効果がありません。

 

※全く余談ですが、i-MMDの、他方式と比較した場合の相対的な弱点は直結運転の最低速度を僅かに下回る速度で巡航させられることです。これはあまりに当たり前のことで、もし工学部の学生なのにi-MMDの仕様を見聞きした瞬間にこれに気付かなければ技術者としての将来はないと考えるべきでしょう。

(一部のエンジニアにとっては不本意だが)CVTをステップ変速専用で使用するのも一手

ここで、既存のCVTに関する(近藤氏以外の)ウェブページのどこが、本段落の記述内容と一致していないかを指摘しておきます。

 

【絶滅か!? 進化か!?】ニッポンのガラパゴス変速機「CVT」の行方 | 自動車情報誌「ベストカー」
https://bestcarweb.jp/news/42641

テクノロジーに強いモータージャーナリスト・高根英幸氏が解説します。
伝達効率が低い変速機なのに、なぜ燃費が良いのか。それは幅広い減速比が実現できるため、最終的に巡航時にはエンジン回転を低く抑えることができるのと、変速時に駆動力が途切れないためにMTや多段ATと比べ、実質的な伝達損失は意外と少ないのである

今日、高根英幸という名前を初めて記憶に残しました。近藤暁史と並んで、酷いライターだと認識しました(そもそも活動の場が、その程度のメディアだ、とも言えます)。補足しておきますが、おかしな部分はあくまで太線部であり、「巡航時にはエンジン回転を低く抑えることができる」は事実だし、それが燃費に貢献するのも事実です。(2019-11-28日)ついでに見つけたので書いてしまいます。(【徹底研究】48V電気システムを搭載したISGとBSGは何がどう違うのか? - CARSMEET WEB | 自動車情報サイト『LE VOLANT CARSMEET WEB(ル・ボラン カーズミート・ウェブ)』 https://carsmeet.jp/2019/07/10/113596/)というサイトで渡辺慎太郎という名のライターが「せっかくエンジンで100psを創出しても駆動輪を回す力はわずか30~40psしかない」と書いています。これは当該ライターと編集長の双方の学力が低いことを示していると思います。他にも、こういう記事(辿り着ける? それともガス欠の危険あり? メーターに表示される航続可能距離の信憑性とは https://www.webcartop.jp/2019/10/436472/)の内容とそのヤフーヘッドライン時のコメント欄がありました。自動車雑誌業界とその読者の平均像はマイルドヤンキーなんじゃないか?との感を抱いてしまいます。これを補強する話としては他にもあり、この記事(https://carview.yahoo.co.jp/news/detail/33a6ec7cf88d99f9c09d0fd60668f9fe6fb0d1c7/)もヤフーヘッドライン時に多数のコメントが付いていたんですが、その中には意訳すると「ステップ変速より無段変速の方が加速が速いという面白い現象があります」という積分の概念を一切理解していないと思われる、誤解も甚だしいものがありました。その上、このコメントに対する肯定が否定を倍以上、上回っていました。この状況からは「今の時代、自動車ファンの平均知性は日本人の平均知性より上か?下か?」という疑問が自然と湧いてきてしまいます。

 

ちなみに燃料警告灯は実際のところは心理学(行動経済学、仕掛け学)を利用して(危機感を煽って)ガス欠を防ぐように設計されています。

 

【ガラパゴスCVTの憂鬱】なぜCVTはATに代えられないのか? | 自動車情報誌「ベストカー」
https://bestcarweb.jp/news/entame/100580

自動車テクノロジーライターの高根英幸氏が解説する。
CVTの問題点は大きく分けて2つある、1つは加速フィールの悪さだ。CVTの利点は無段変速機というだけあって、変速に段付き間やショックがないこと。しかし、その反面加速フィールにメリハリが出しにくい。

この記述自体は問題ではないのですが、このデメリットと裏腹にどんなメリットを得ているかを何も書いていないので、テクノロジーライターを名乗る人の文章としてはアウトだと思います。上の前年の記事も考慮すると“書いていない”と言うより、“理解していない”、“書けない”が実態だと思われます。この後の記述も総合すると高根氏は、CVTの燃費に関するメリットは多段ATと同様の“高い変速比が選べることが殆ど”だと思い込んでいる模様です。

 

もし、この著者が、CVTを無段変速機として活用した場合のメリット・デメリットを理解した上で「CVTは常にステップ変速機として使用すべきであり、CVTの燃費に関するメリットは、多段ATと同様の“高い変速比が選べることのみ”」と主張するのなら、テクノロジーライターとして筋が通っていると思います

 

もっと長いサンプルで示すと「CVTは、無断変速機として使用すると加速フィールが悪いので、常にステップ変速をおこなうべきである。そうすれば無段変速による燃費面のメリットは得られなくなるが、ATと比べてそれほど遜色のない加速フィールを得られる。実質的に安価な多段ATとして使用することになるが、巡航時に燃費に最も有利な変速比を選べることで、依然として一定程度の燃費面のメリットも得ることができる」といった主張になります。記述のように既に実際にこれを(常に、もしくはデフォルトで)実践している車種が販売されていると思われます。その他の車種でも一定以上の横Gがかかっている場合は変速比を固定する等の制御は一般的になっているものと推察されます。

 

常にステップ変速をおこなえば、変速時間はかなり長めですが、ラバーバンドフィール自体はほぼ皆無にすることができます。その場合のCVTは、伝達効率が低いという注釈はつきますが、巡航時に最も燃費の良いギヤ比を選ぶことのできる(安価で、変速レスポンスの悪い)多段ATと同等とみなすことができます。でもそのようなCVTの使い方は開発時に求めたせっかくの能力が発揮できていないわけで、内燃機関やCVTの専門家にとっては不本意でしょう。彼らはその後ここまでラバーバンドフィールが批判されるとは考えていなかったかもしれません。

“初歩の物理”と強調する理由

本ページではここまで何度も“初歩の物理”という言葉を繰り返し使っています。その言葉の定義は、“中学・高校の授業で習うレベル”、“またの言い方として“大学入試までのレベル”あたりだと勝手に定めています。ほんとうに本ページは、そこまでのレベルの知識だけで書いています。

 

そして“初歩の物理”だと繰り返す理由は、私が常日頃、ニュースなどで、税制などの政策に“初歩の物理”とか“初歩の数学”の知識を無視したものが感じることが多いからです。“正しい数学的思考力”が発揮されずに政策が決定されている、と言うこともできると思います。

行政や政治が“正しい数学的思考力”を無視していると思える例

外れ馬券代が訴訟を起こして勝訴しないと経費として認められない件

“正しい数学的思考力”さえあれば「外れ馬券は経費として認めない」という論理は、矛盾していて破綻することは明らかに気づきます。なのに、その昔にこんなおかしな課税基準が原則化してしまったのは、関与した官僚や政治家が「おかしいのはわかっているけど、税収が余計にとれるから黙っておこう!どうせマスメディアや民衆はバカだから追求されることはない」と考えていたからではないしょうか。

ふるさと納税の返礼品の率に当初、制限が設けられていなかった件

これも“正しい数学的思考力”さえあれば、制限を設けておかないと制度が破綻するのは、はじめからわかる話です。これについては外れ馬券のケースと異なり、破綻することがわかっているのに放置したら、関与した官僚や政治家にとってマイナスになります。なので、少なくとも、“決定権者は正しい数学的思考力を持っていなかった”と推察できます。

 

他にも、税制については「“国民の数学レベル”が高ければ絶対こんな風になっていないだろう!」と思われるものが数えきれないほどあります。

 

そして、最近の例を挙げれば、

台風19号の後、政治家たちが「ダム賞賛」を繰り返している件

こちらは別のページにしました。
スーパー台風が来襲する時代のダム操作手順を考える

 

さて、段落頭の話に戻ります。

 


私は「官僚や政治家は、もっと“初歩の数学”や“初歩の物理”を勉強して“正しい数学的思考力”を身につけて欲しい」と言いたいのではありません。国民の多くがそれらの知識を持ち、政策等を監視する目を持つことで、官僚や政治家が上記例のような“おかしな意見”を言わない、“おかしな判断”を下せない世の中になって欲しい、と言いたいのです。

 

政治家はよくわかりませんが、官僚の方は多分、“正しい数学的思考力”を本当は持っているでしょう。でも「国民は馬鹿で騙せる」と思っているから、おかしな決定に加担するのでしょう。

 

なので私は、国の政策を良くする力の源泉は「“正しい数学的思考力”を身につけた国民がもっと増えること」だと思っています。よく、テレビやラジオでタレントの人が「今までの人生で数学が役に立ったことなんか一度もない」みたいな、“数学は不要”発言を時々しますが、こうした人は政治家にとって、最も好都合な部類の発言でしょう。。

 

ということで、本音を言えば、入学試験に数学のない大学は出来るだけ少なくして欲しいと思っています。もしくはたとえ入試に数学がなくても、卒業する為には数学を修了する必要がある大学や学部がもっと増えた方がいいと思います。別に私は大学生全員が数学を勉強せよと言いたいわけではなく、数学と全く無縁の学部や学科があってもいいと思っています。しかし、マスメディアで従事する人や、政治家(および官僚、法律家)は、今よりもっと数学や物理が得意であって欲しいと思います。

 


ここまで本ページを読んで「これが“初歩の物理”ってのはウソだろー、高度すぎる」との意見を持つ人も多いでしょう。でも私から言わせてもらえば「本当に大学入試までのレベル」です。ただし、そこまで、ほんとうにほぼ完全にマスターしていないと、本ページを書くのは当然無理としても、理解することすら難しい可能性が高いと思います。私については“その頃”、ほんとうにかなりマスターしていたと思います。Sラン大入試の二次試験の物理は自己採点ですが満点でした。

 

当時、模試とかでも物理は全国上位に載ってたりしたので実際に満点だった可能性も高いと思います。アンガールズの田中も広大入試の二次試験の物理は(当然、自己採点で)満点だったそうです。大学入試の科目毎のレベルに関しては、物理は数学と比べると相対的に極めてレベルが低くて簡単※なので、同様に満点だった経験を持つ人は多いと思います。

 

※簡単なのは人間にとっての話であって、NIIの新井紀子氏によると、AIにとって東大入試科目のうち、最大の関門となるのは実は物理だそうです。私はこの話をプラス・マイナス両方の面で捉えていますが、このページのテーマではないので触れません。

余談:レーシングカーのタイヤはなぜ太いか?

皆さんは物理を学び始めた一番最初の頃、摩擦力を表す式はμmgと習ったと思います。しかし、ゴムタイヤのグリップはμmgではありません。μmgではないからこそレーシングカーのタイヤは太いのです。私は最初からこのことに気づいていたので、誰でも簡単に理解できることだろうと思っていて、大学入学直後、このことをサークルの仲間たち数人(全員、物理学科以外)に説明しましたが、理解してくれなくて、がっかりしました。この経験からすると、いくら“初歩の物理”だと銘打っていても、現実には本ページの内容を高校生(もしくは社会人!)がしっかり理解することは困難か?とも思います。

このページを書いた直接のきっかけ

ちなみ今回、このページを書く直接のきっかけとなったのは下記のページです。

 

【不便! 高い!! でも必要??】前後異サイズタイヤで「やってはいけないこと」(ベストカーWeb)
https://carview.yahoo.co.jp/news/market/20190827-10440211-carview/

 

はっきり言って「何だこれ?(本当の)説明しとれへんやないかい!」と思いました。「説明する前の予備的な説明」を「説明」と称していると思いました。

 

このページにはたとえば「CFf×Lf<CFr×Lrの場合は、…(当方が省略)…、オーバーステアとなります。」との説明文があるのですが、これはほとんど意味のない説明です。これはオーバーステアの原因やその影響についての説明ではなく、オーバーステアの定義を、無理やり数式を使って説明しているだけです。このような説明をありがたく読むようなレベルの人は、本当の説明はその先にあるということに気付かないでしょうから、結果的にその人たちを騙すことなります。そしてそうでない人には、このような説明は無駄です。

 

「ここでは、オーバーステア、アンダーステアの定義と、関連用語を説明しておきます。興味のある人は詳しい本等で自分で勉強して下さい」などの説明が添えられていれば、文面の実体と釣り合ったことでしょう。

このページを書くにあたって、心がけたこと

それは、スリップアングルとグリップの関係を表すグラフを検索すると、検索結果の上位に表示されてしまう、「貴島ゼミナール | AutoExe」というウェブページを一切読まないこと、です。

 

雑誌やテレビで見かけたりすることがあるので、この検索ワードで引っかかる、貴島というお名前が、2・3代目ロードスター開発責任者の貴島孝雄氏であることは、容易に気づきます。

 

「そんな、氏の講義が、この検索ワードに引っかかるページに載っていたら」、その中身は、私が今から書こうとしていることと重複しているかもしれません。それを私が読んでしまったら、せっかく本ページは“初歩の物理”の知識だけで記述、としているのに、“初歩の物理”以外の知識が混ざってしまうことになってしまいます。

 

AutoExeだけでなく他のページについても、今回、自動車工学の解説的な文章は一切、読んでいません。自分が書きたいことと同じことが既に書いてあったら、書けなくなっちゃいますから。

 

もちろん、あくまで私の頭の中だけの話であって、読んでいる人にとっては、どうでもいい話だと思いますが。

 

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(でもここより、掲示板書き込みフォームのページに書いて頂いた方が気づき易いと思います。)