Backstory/Chronicles/Kyonoke_Pit

Last-modified: 2009-01-04 (日) 15:04:05

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初出

 
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Kyonoke Pit.
Kyonokeの大穴

 

Taisy星系の最縁部に「Kyonokeの大穴」と呼ばれる棄て置かれた採鉱ステーションがある.この採鉱ステーションは,40年前にCaldariの探鉱会社の一つであるHyasyoda社によって建設された.このステーションは建設当時,星間通信デバイスの中核部品であるTASC(*1 双曲原子超伝導結晶)を採鉱・精製する全宇宙でも最大規模のステーションだった.
(*1 twin atomic superconductor crystal)

 

建設されてから数年間,採掘作業は非常に順調であった.Kyonokeの採鉱ステーションは,すぐにHyasyoda社にとってなくてはならない有益な拠点の一つとなった.採鉱ステーションは巨大なアステロイドの上に建設されていたが,採掘作業が進むにつれ,次第にアステロイドの中核部へと深く深く縦坑が伸ばされていった.

 

5年前,惑星Taisy Prime衛星軌道上の管制タワーがKyonokeの採鉱ステーションからの緊急信号を受け取った.何か疫病のようなものがステーション内で蔓延し始め,作業員が次々に死んでいるという.この緊急通信を受けたわずか数分後,Kyonokeの採鉱ステーションとの通信は途絶し,その後はいくら管制タワーが通信を試みても沈黙するばかりだった.

 

すぐさま何が起こったのかを調べるための調査船が派遣された.調査船がステーションがあるはずのアステロイドの周回軌道に入っても,地上には一つの明かりも見えず,またいかなる生命兆候も検知できなかった.
厳重な防護スーツで装備した緊急対策チームが降下した採鉱ステーションで見たものは,ぞっとする様な光景だった.採掘作業員たちはステーション内の至る所でそのまま息絶えており,その屍骸は腐り堕ちていたのである.屍骸はどれも赤黒い斑点に覆われていて浮腫(むく)んで膨れ上がり,恐ろしい苦悶の表情を浮かべていた.彼等が,激しい苦痛を伴う何らかの中毒,あるいは疫病に冒されて死んでいったことは明らかだった.どこからか沸き上がったこの恐るべき災厄は,あっという間にステーション中を席巻し,作業員達をわずか数分で皆殺ししてしまったのである.

 

緊急対策チームは調査船に彼等が発見した状況を詳細に報告しながらステーション内の探索を続けた.しかしチームが地上に降下してから約2時間後,彼等は次々に体調の不調を訴え始めた.調査船の艦長はすぐさま帰投命令を出したが,チームのメンバは帰還作業中に赤黒い浮腫みを発症し,苦痛にのた打ち回ることになった.
・・・すなわち,最新鋭の防護スーツを着用していたにも関わらず,彼等もまた恐るべき死病に襲われたことは明らかだった.調査船の艦長は残りの乗務員の(そして自分の)安全性を懸念し,ステーション内で死に逝く緊急対策チームを残したまま,この大穴を離脱したのだった.

 

これが,人類が宇宙で遭遇した中でも最も不可解かつ致命的な悪性疫病の一つ「Kyonokeの伝染病」の最初の顛末である.

 

Caldari国家当局はこの出来事から数時間後,Kyonokeの大穴の封鎖を決定した.
当局は封鎖の後,細心の注意を払って原因の究明に勤めたが,その結果は実はあまり芳しくない.生物学的には,タンパク質に非常に似通った「バイオ粒子」がこの疫病の原因であることが判明している.この微粒子は大気中から呼吸器を介して体内に侵入し,血液循環を通じて脳に至る.そして人類の脳内で「発芽」する.脳内に感染した後,この微粒子は急速に神経細胞を侵食し,延髄を侵す.この段階に達すると感染者は全ての身体制御機能を失い,また非常な苦痛を伴う.最終的には心臓及び肺に帰着し,数分以内に心肺を機能停止に陥らせる.このバイオ粒子は活動状態を保ったまま大気中で数日間生存可能なので,屍骸の周囲に近づいた生物にも容易に空気感染する.この場合,新しい感染者も数時間の内に死に至る.

 

これ以外にも,このバイオ粒子は休眠状態のものも発見されている.休眠状態の微粒子は,苛酷な条件の環境下でも何年もの間生存することが確認されている.これらの休眠微粒子は一度生物内に進入すると活動状態に変性しはじめるが,必ずしも直ぐに変性するとは限らない.生物内に進入しても長期間に渡って休眠状態のまま留まっていることもある.また,上記で述べた通り,活動状態の微粒子は脳内で発芽しタンパク質を侵食するのだが,この侵食速度が個々ばらばらで一定でない.長いときには数ヶ月もの時間を掛けて徐々に,しかし確実に感染者の脳を侵す.
「死のタンパク質」とも言えるバイオ粒子のこういった性質は,人類にとって非常に不可解なだけでなく,非常に危険でもある.

 

このバイオ粒子がKyonokeの大穴の奥から「偶然にも」発掘されたというのは至極真っ当な推測と言える.しかし,この微粒子がKyonokeの大穴の奥で果たして本当に「偶然にも」生まれたのかどうかという点に関しては非常に疑わしい.この微粒子は人類が持つ正常なタンパク質とあまりにも高度に似通い過ぎており,体内に侵入してしまったこの微粒子を検出することは実質不可能と言ってよい.このことは,このバイオ粒子がかつて大昔に人類の体内で進化したか,若しくはずっと以前に人造されたものだという推測を生んでいる.しかしこれらの推測が正しいかどうかは依然として立証されていない.
ともあれ,検出や感染経路の追跡が非常に難しく,また100%の致死率を誇るこのバイオ粒子は当然,軍事研究者やテロリストなどから渇望されることとなった.

 

かつてKyonokeからの最後の通信を受けたTaisy Prime衛星軌道上の管制タワーは,今や巨大な研究施設になっている.この研究施設で,Caldari国家当局はバイオ粒子の全てを手中にしようと熱心に研究を繰り返している.「Kyonokeの大穴」自身は当局によって厳密に封鎖されており,今後も永久に隔離されることになるだろう.この採鉱ステーションの廃墟を監視するCaldari国家警察は,正規の許可の無い何人たりともこの宙域に近寄ることを許していない.およそ二年前に,どうしたことか厳しい監視の目をかい潜って,所属不明の二隻の船が採鉱ステーションの廃墟に侵入したことがあった.彼等はバイオ粒子のサンプルを奪取したことに加え,ステーションの貨物庫に残されていた価値あるTASCを大量に盗み出した.しかし逃走を試みている最中に彼等にもまた「死のタンパク質」の感染兆候が現れたのだった.ただ,二隻のうち一隻は逃走前に大穴に墜落して全壊したが,もう一隻はCaldari国家警察の追撃を交わすために付近のアステロイド帯に逃げ込んだ後に痕跡が途絶え,以来その消息は不明のままである.

 

今日では,大穴から流出した大小の残骸や屍骸が周囲に浮遊しており,この廃墟に安全に船が近づくことは難しい.このことに加え,Caldari政府が監視体制を更に厳重にしたことにより,今では大穴に侵入することは大変困難になっている.

 

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