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初出
Lady Phanca's pet furrier*1
レディ・ハンサのフワフワペット
惑星RadonisはAmarr帝国の丁度中心辺りに位置しており,Amarr五皇家の一つ,Ardishapur家が治めています.惑星Radonisには最高裁判院(帝国における最高位の司法機関)が在り,帝国内でも神学研究が盛んな地として知られていて,またArdishapur領の首都でもあります.
現在のArdishapur家の家長(すなわち皇帝相続位を持つ五人の内の一人でもある),Idonis Ardishapurの右手は彼が生まれた時に切り落とされ,銀製の人工生体義手(*1)に付け替えられました.実は,Ardishapur家に生まれた全ての男性の右手は切り落とされることが帝国法によって決まっていて,この儀式はもう700年以上の長きに渡って続いています.この帝国法では義手を付ける事を禁じていないので,今日では(非公式ではあるが)「銀の手」と言えばArdishapur家のことを指す象徴にもなっています.
(*1 cybernetic silver one)
この帝国法が定められた経緯は,法が定める奇妙な内容に負けず劣らず,突飛なものでした.
ことの始まりは,Lady Phanca(当時の皇太后)が,惑星Radonisを訪れ,Ardishapur家の王宮に滞在していた時のことでした.Lady Phancaは極めてカリスマに満ち,野心に溢れ,人に対する態度も厳格にして冷酷非情という,当時の帝国の生ける伝説ともいえる皇太后でした.彼女は,皇帝である彼女の息子に強い影響力を及ぼし続けていました.例え,どんなに社会通念に反したことであったとしても,皇帝が最終的に下す判断は殆どの場合,彼女の望むがままになったのです.
後の世に「Ardishapurの法令」として知られるこの法もその一つです.
Lady Phancaは,フワフワした毛並みの小さなペットを飼っていました.当時,毛皮を持つ小動物の多くは,一般的にペットとしてAmarr貴族の間で持てはやされていました.めったに私情を表さず厳格なことで知られる皇太后でしたが,異常なまでにペットを溺愛していたこともまた有名な話でした.それゆえ,まだ幼かったUri Ardishapur(Ardishapur家の当時の皇太子)が,会食の場で引っ切り無しにさえずり五月蝿いペットを殺してしまった時のこの老婦人の激怒は今までに見たこともない程凄まじく,その場に同席した誰もが煽りを食らうことを恐れ諌められない程のものだったと言います.
彼女は直ぐに皇帝である息子を説き伏せて,件(くだん)の法を成立させました.こうしてUri Ardishapurは,Lady Phancaのペットを殺した右手を失った,最初のArdishapurとなったのです.
Amarr帝国内においては,帝国法はあたかも神が書いたかの如く尊重されており,非常に厳格に守られています.後々になっても修正されたり,取り消されたりする法は殆どありません.Ardishapurs家もかつては法の撤回を望んでいたのかもしれません.しかし,今日では彼等はこの旧い伝統を大いに楽しみ,また先祖代々伝わる大切な家宝のようなものと考えています.