【クラウケン】

Last-modified: 2020-07-23 (木) 05:01:37

世界の秘境には竜が棲むとされるが、秘境の主が竜であるとは限らない。
古き生命の中でもこの呪われた世界に息づくものはまだ存在する。
その中でも、竜に続く勢力と、それを超える数を誇るものどもが、クラウケンである。


 

概要

あらゆる生き物は海から生まれた。
そうした生き物の中で、最もおぞましいものがクラウケンである。
彼らは柔らかな身体を角の生えた殼で覆い、あらゆる命に襲いかかる捕食者である。
彼らは生き延びるために如何なる変化も受け入れ、それに応えた姿と強さを獲得する。


これらは海の神秘であり、その恐怖でもある。
彼らは元来海の生き物だったが、世界に「死」が満ちた頃から陸に姿を見せるようになった。
そうしたクラウケンは人々に牙を剥いた。同時に、竜や魔鬼、古き生き物たちにも。
彼らは見境のない、だが狡猾な狩人だった。


クラウケンは魔鬼に近いがまるで異なる生き物である。
両者は多様な姿に至る特性を持つが、魔鬼はその身に蠢く業に由来するのに対し、クラウケンは環境に合わせて変化する。
狂気の殺戮者ではなく、狡猾で強かな狩人なのである。


また、クラウケンは魔鬼にも似て蛇の毒に強い適性を持っている。
彼らは死ぬが、死しても消えるわけではない。
彼らは海があればそこから帰ってくる。潮風が届くならば、どこにでも現れる。
彼らは深い海の深淵の住民であり、同時に陸へと上がる貪欲な種族でもある。


「タコやイカの化け物」と認識されることがあるが、それは正しくない。
彼らは確かに膜を備えた触手状の肢を持つ柔らかな体の生き物だが、その表層は甲殻に覆われ、細かなツノも備える。
さらに、その姿は如何様にも進化する。


 

種別

クラウケンは多彩な進化を遂げる。
その中には、個体としてのみならず主としての発展を遂げた例も数多く知られる。
以下のものたちはそうしたクラウケンの一部である。
 

原初のクラウケン

クラウケンの原種。
一見すると、タコやイカのような生き物を彷彿とさせる、柔らかな肉体を細長い肢を持つ。
だが、その表皮は角を持つ甲殻に覆われ、足の先にはものを掴み、引き裂ける爪がある。
彼らは海の底から浮かび上がり、哀れな船を見つけては襲い掛かり、食い殺してきた。それ故に、船乗りはこの化生を恐れた。

クラウケンの狗

陸上で最も目にしやすい、小振りのクラウケン。
野犬と同程度の大きさを誇り、その肢を強靭な獣の四肢に作り替えた。その形はさながら飢えた猟犬である。
彼らは模倣したけだものと同じく俊足で獲物を追い詰め、捕らえ、鋭く強靭な牙で食い殺す。
加えて、彼らの持つ長い尾──これもまた肢が変異したものだ──には毒針がある。
これにある毒は獲物の自由を一瞬で奪い去る。対峙するのであれば、そのことを夢忘れてはならない。

クラウケン・ワーム

長大なワームに進化したクラウケン。
別名、「大喰らいの長蟲」。
日の当たらぬ地下洞窟などに好んで生息し、地中を掘り進んだり、闇夜に乗じて地上に出現し、人や獣を喰らう。


長大な蛇にも似るが、胴は一定の寸胴体型であり、むしろミミズなどに似ている。
また、多くの場合はその全身を甲殻が多い、上も下もわからぬ形となっている。
頭部は口を閉ざす大きな牙と、その奥に牙が渦巻く口腔を備えるのみで目や耳は見当たらず、
脳があると思われる場所さえわからない。そして、このクラウケンはひたすらに貪食である。


中には海中で類似の進化を遂げたクラウケンもいるというが、定かではない。

月光のクラウケン

時の狭間、“闇”と“光”の隙間に生息するという、幻のクラウケン。
美しい月光に似た淡い光を放つ美しい生き物であるとされるが、これと出会った者は帰ってこないとされる。


このクラウケンは他のクラウケンとは一線を画した特徴がある。
それは、このクラウケンの身体には触れることが出来ない、というものだ。
人も、獣も、これを傷つけられない。「鋼」の力ですらこれには効果が薄い。
それ故に、このクラウケンに対抗出来る手段は限られる。
 
広く知られるのは朝日、燃え盛る火である。


目撃者に依れば、それは白く輝く蝶のように美しいいびつな生物であったという。

キュクラのクラウケン

大樹よりも大きな体を持つ、巨大な陸棲クラウケン。
辺境の彼方にしか住まないとされるクラウケンであり、その姿は伝説の猛き神々の末裔、巨人を彷彿とさせるものである。
最早柔らかな肉体などどこにもなく、青銅の刃を弾く筋肉と、岩のつぶてを受け止める無数の固いとげを備える。
その剛力は石造りの壁を打ち砕くほどであり、人の手で抗うには、あまりにも強大すぎる。
唯一、その紅く輝く宝玉のような眼だけは刃を防ぐことが出来ないとされ、この怪物を倒すのであればそこを突くしかないとされる。


彼らは人に近い形を持つためか、武器を使う知恵を持つ。
それは稚拙な蛮族のそれでしかないが、粗削りの岩を埋め込んだこん棒の一振りは、人が受け止めるにはあまりに強大である。

ハイドロ・クラウケン

沼地などに生息し、進化した異質なクラウケン。
本体を水の底に隠しながら、進化させた無数の肢だけを水面伸ばし、獲物を捕らえる。
それはまるで無数の頭を持つ大蛇の魔物のようであり、長らくそのような怪物であると信じられてきた。
実際、水面から姿を見せるその足先は、鋭い乱杭歯を誇るいびつな大蛇にしか見えない。


このクラウケンはとにかくしぶとい。
いくら肢を斬り落としたところで本体は死ぬわけではなく、やがて再生した足が新たな獲物を襲うだけである。
おまけに、それらの肢には毒腺が備わっており、噛みついて毒を雪ぎ、時に毒腺から直に吐き出す。
故に、このクラウケンを倒すには入念な準備が求められる。

小人のクラウケン

影の人たちのように、小振りな人型をしたクラウケンの一種。
背蟲に近い姿をした彼らは不気味な鳴き声を零しながら、暗い世界で生きている。
隙間や陰間に潜み、じっと獲物を追いかけ、追い詰め、待ち伏せし、気をゆるため瞬間に襲い掛かる。
彼らは狡猾にして卑劣な、天然の狩人である。


一見した時、彼らは角のあるいびつな鎧を纏った小さな人に見える。
ただし、四肢は細く長いくせに胴は短く腹が出ており、顔は醜く潰れている。
そして、その振る舞いに人らしい姑息や知恵の回り方は感じられない。
あくまでも、人によく似たけものにすぎない。彼らは人の醜いパロディである。

飛竜のクラウケン

竜を模した形を持つ、クラウケン。
その多くは新しき竜たちか、その眷族である飛竜を模したものである。
彼らは真の竜顔負けに空を飛び、その巨体を惜しげもなく見せびらかして、暴悪を振るい続けた。


竜は新旧問わず、彼らにとっての天敵である。だが、だからこそ彼らはその姿を模倣した。
その強さを真似ることで、いつかその強さを我がものとするために。
そのためか、このクラウケンは特に甲殻が固いことで知られている。
鋼であっても余程鍛え上げたものでなければ、弾いてしまうとさえ語られるほどに。


竜のクラウケンは、最もその肢を増やし、複雑な進化を遂げたものである。
翼は惜しげもなく複数の肢を束ね、膜を広げて作り出されている。
その尾も同様に、数本の肢が一本になることで生まれる。
何より、その頭自体が触手による擬態に過ぎない。牙はすべて、爪である。
だが、それが何だというのだろうか。強靭なる肢はもはやクラウケンの域を超えている。
これを打ち破ることは、竜の眷属を相手にすることと何ら遜色ない難関と言えた。

大クラウケン

海原で極稀に目撃される、あまりに巨大なクラウケン。
純粋にクラウケン自体が大きくなったもの……と言われているが、その形状はあまりに凶悪である。
時に島と見間違うほどに巨大なものも存在する。
そうしたクラウケンは、最早人の手の及ぶ存在ではない。