【人物録】/暁の時代の神人

Last-modified: 2021-01-11 (月) 02:43:31

世界に「死」が満ちてから、神々は穢れなき天上の世界に移った。
現世にはその毒に耐えられる穢れた神々が残り、またその末裔たちが満ちた。
その中で、穢れた神々は凋落する力に苦悩しつつも、
使命を果たすため、多くの弱き輩を励まし、率いた。
その姿に人というか弱き生き物となった者たちは支えられ、
いつしか天上の太祖たちと同等に信仰をもって迎えた。


すでに彼らのほとんどは現世にいないか、真っ当な形を失っている。
だが、それでも今を生きる人の中で彼らは語り継がれている。
偉大な英雄として、誉れある賢者として、恐るべき力の持ち主として。
身体も魂も最早地上天上にはないが、それでも彼らの功績は輝き続けている。


 

“眩き王冠”のルーヴィン

地上に残された穢れた神々の統率者。人の王の太祖。
同胞たちを止めようとし、止めきれなかったとされる非業の王。
一節ではアルヴィンの血を引く、猛き神々の王子の一人であったとも伝わっている。
かつての戦いでは神々で最初に鋼の剣を手に取り、“太陽”と肩を並べて戦い抜いたという。


地上に降り立った後は輩を束ね挙げ、世界を救う手立てを求めて各地を旅したという。
その後、安寧の地としてルヴァニアと後に呼ばれる平地に都を作り、聖地とした。
以降、彼自身はルヴァニアを治めながら、優秀な部下たちに使命を遂行させ続けた。
時折の大きな戦を除き、彼は名君たらんと努力を重ねていた。


彼は清廉と誠実、実直と正義を愛した。また、そうあらんと努めた。
かつての悲劇から情に流されぬようにと己を律し、過ちを犯さず最善を手に出来る道を探し続けた。
無論、そのすべてが成功したわけではなかったが、
失望に負けず歩み続けたその姿は愚かしくも美しく、力強い。
故に、彼は多くの人々の希望足り得たのだ。


彼は父親と比べると好奇心旺盛で子供のように純粋だった。
そうした点は美徳であるとともにある種の騒乱の原因ともなっていたという。
例えば、彼の愛した妻カーラーンは知恵に富み思慮も優れた女であった。
その理知に彼は惹かれ家族となったというが、彼の王国崩壊はその妻の好奇心故である。


彼の治世で長きにわたりルヴァニアは数百年にわたり繁栄を極めたが、
長き時の中で人は移ろい、また同胞たる神人たちも堕落を始めていき、それにより終焉を迎える。
“昏き炎”のカーラーン、“灰色の衣”ウーム、“色なき鱗”のイリエ……それらを筆頭としたかつての戦友の裏切りに逢い、
地上初めてにして最上の王国は崩壊を迎える。
仲間だったものたちをその手に掛けながら、苦難を乗り切るものも、
彼に残された世界は天から取り残されたあの日のように、荒れ果てた世界だった。
だが、それでも彼は諦めきれずに、荒れ果てた王国を百年掛けて立て直した。
そして、王冠を戴く次代担うものを選んだ後、少数の部下と共にいずこかへと旅立ったという……


一般には、彼は偉大なる王であり、また地上における“太陽”の代行者とされる。
その手に払った“太陽”の輝き宿す眩き剣『聖剣アレトルヴルッフ』は文字通り世を照らし、悪逆を葬った。
故に、日の輝きと共に、正義を司る法の守護神とされる。
彼は王にその姿勢を示し、人々には希望の光をもたらすと神官たちは語る。
玉座を退いたことについても、「地上に“光”を自ら届けるためである」という説があるが、真相は定かではない。

ルーヴィンの四騎士

“眩き王冠”ルーヴィンと共に、「死」の満ちた下界に人の世を作ったとされる神人の英雄たち。
“光の槍”アール、“鱗断ち”サールヴィーン、“空を射抜く”エリウス、“人城塞”ガルドール。
この四名を以て、そのように総称した。
彼らはルーヴィンに忠誠を誓い、生涯を彼の偉業の助けに捧げた。


様々な困難を切り開き王都ルヴァニア建立に尽力したほか、様々な冒険譚が残された。
後の王国転覆の際にも活躍したとされるが、王国の末路より後については諸説あり、伝説が多数語り継がれている。
その功績と、偉大なる騎獣を従えたことから、「騎士」の称号を世に生み出した存在でもある。

“光の槍”アール

主君に最も忠義厚く仕えた、「一番槍」と評される偉大な騎士。
ルーヴィンの四騎士の頭領であり、最も優れた軍人であったという。
常春の神々の血を引くとされ、黄金の髪、緑の眼、透き通るような白い肌の美貌を持っていた。
また、「雷」の加護を宿す武具として、獣を模した黄金の鎧を纏い、輝く槍を携えていたとされる。


主たるルーヴィンへの忠に厚く、勇猛果敢に戦いに臨んだことから誤解されがちであるが、女性である。
彼女は誰よりもルーヴィンに長く仕えたとされ、後年はカーラーンに裏切られたルーヴィンをよく支えたという。
ルーヴィンとは幼き頃よりの知己であり、彼の父たるアルヴィンとも旧知の仲であった。
故にか、彼女はも主君たる彼のことを誰よりも案じ、信じ、守り続けてきた。


彼女の偉業の多くは戦場での武勇にあるが、それは戦技のみならず戦略・戦術にまで及ぶ。
勝利のためならば一時の撤退を選ぶことも辞さず、冴え渡る知恵と機転から、
卑劣と謗られる程の巧みな策を編み出し、幾多の危機と難敵を打ち破った。
一方で、そうした軍略とは真逆にある、正々堂々と武の誇りを掛けた決闘にいくつも打ち勝ってきた。
そうした誇り高き戦士としての姿勢から、現代の騎士の多くに信仰される。
勝利と正義の象徴として、彼女の十字槍は掲げられる。


彼女は実直で勇敢な騎士と語られるが、神話上では豪快な面や繊細な顔を幅広く見せる。
こと、ルーヴィンに関しては彼の前とそれ以外での差異が激しいことは有名である。
忠実な騎士と、秘めたる想いを忍ばせる乙女──
そうした人間味あふれる姿が人気の秘訣でもあるだろう。
特に、都を去るルーヴィンに語らず寄り添う姿は、広く人気のある一場面である。


主だった冒険譚は「百鬼討滅」「バルクライツの森抜け」「カナレ姫の九つの難題」「穢れ竜追い払い」など。

“鱗断ち”サールヴィーン

ルーヴィンの四騎士の中ですら、唯一の「古竜の王殺し」の伝説を持つ、最強の騎士。
優れた剣術と何者も怖れぬ豪胆さ・勇敢さ、そして無謀なことに突き進む危うさを持つ。
そうした気質故に、数多くの問題と共に生涯を過ごした男であり、
四騎士の中一番の問題児でもあった不思議な男である。


彼は猛き神々の末裔であるとも、疾風の神々の血を引くとも語られた。
いずれにしても、彼は背丈に見合わずどんな場所にも素早く駆けつけ、
またどんな物事にも物怖じせずにぶつかっていったとされる。
その性質は戦場で特に輝き、彼を前にしては魔鬼や魔物の類ですら、怖れをなしたという。


彼は恐れ知らずだったが礼儀知らずではない。誇り高く勇敢で騎士に相応わしい正義を知っていた。
ただ、些か思慮に欠け、酒に愛し愛され、気前の良い短気な男であった。
彼はしばしば最愛の蜂蜜酒、麦酒、葡萄酒に誑かされ、諍いの種となった。
その度、彼は償いの難事を与えられ、各地を流れた。


彼は武骨で鋭利な鎧を纏い、「雷」の加護を宿す大剣を振るったとされる。
その威力は主君たるルーヴィンの聖剣、同胞アールの神槍すらも上回る、魔剣であった。
身の丈ほどの刃を備えたそれを振るい、彼は各地で強大なもの、魔物や大悪党を葬ってきた。
「汚れたバルクホーン」「山より高きグルングヒル」「プアザの白き魔鬼」「灰色の森のバルフ」「ルビダンの蜘蛛」「ベルガの獣王」……挙げればその数はきりがない。
 
その中でも、最も著名な逸話が古き竜の王の一匹にして、哀れなる狂える竜“黒き呪い”ロガドゥの討伐である。


狂える竜を討ち取った英雄は幾人もいる。
だが、神人であっても、黒き岩の鱗を打ち砕けた英雄はまず存在しない。
恵まれた体躯だけでも、無敵の武器だけでも、優れた技量だけでも足りない。
彼はそれを成し遂げた。ただ一人。
それ故に、彼は不可能を可能とする挑戦と勇気の象徴となった。


主だった説話では、彼は主の放浪には付き合わなかったと語られる。
王の悲しみを癒すことより、与えられた使命に殉じるために生きたという。
そうして彼は各地で数多の魔物を、外道を葬ることにその生涯を費やした。その中で行方が知れなくなった。

“空を射抜く”エリウス

天上までその矢を届けた伝説を持つ、四騎士一の美丈夫。
彼は疾風の神々と陰間の神々の末裔であると語られ、知恵と好奇心にあふれた男だった。
最も忠義からほど遠く、最も無礼な男であったと伝わるが、
その一方でルーヴィンとは互いを無二の親友と認め合う、不思議な関係を築いていた。


彼は「雷」の速さを矢に与える弓を扱い、如何なる獲物も射抜いてきた。
その腕は百発百中であり、まともに撃てば一度としてその狙いを外したことはなかったという。
己の技に絶対の自信を持つエリウスは常にその腕を誇り、喧伝してきた。
だがそれは過信などではない事実なのである。


彼は一般に、恋多き男であり、彼の逸話には必ずと言っていいほど見染められる女が出て来る。
村娘、一国の王女、女王、まじない師、妖精……彼の相手は常に事欠かず、彼もまたそれを楽しんだ。
だが、一人として妻にめとることはなかったという。
その一方で、彼は同じ四騎士の“光の槍”アールには、そのようなそぶりを見せることはなかった。
ただし、彼が贈り物に渡した女は、語られる限り彼女のみである。


彼は頭の回るまじない師でもあった。
まじないの王たる王妃は及ばぬまでも、それに続くほどに巧みに蛇の加護を操り、時には偉大な魔女さえも出し抜いた。
彼は魔女の天敵だった。
 
それは、王国の落日の中でも変わらなかった。
王妃の不義と裏切りを見抜き、それの罪状を明らかにしたのは彼の手柄である。


栄華の果て、友の絶望と失望の度に彼は途中まで同行したというが、
その道程で、彼は旅の一行から外れたとされることが多い。
場所や時期には差異があるも、いずれにしてもその理由を語る逸話は残っていない。


彼は正しきまじない師の守護者であり、弓持つ者の英雄である。
だが、それにとどまらず彼は想いを届ける加護を授ける者としても崇められた。
それは転じて、旅の安全の繋がるものとも考えられている。


彼の伝説と言えば、天に矢を放った「黒雲招きの一矢」が有名であるが、
それ以外にも「星鷲落とし」や「巨人王ダーカの射討」、「千里越えの恋文」、「霧谷封じ」「七晩八日のまじない勝負」などが存在する。

“人城塞”ガルドール

鋼鉄の身体を持っていたという、四騎士の盾。
屈強な肉体と強面を強調する記述が多く、大抵の場合、彼は怪物じみて描写される。
それは彼が猛き神々と岩間の神々の末裔であったからであるという。
だが、そんな描写には必ず彼が寡黙だが誰よりも優しい心があったと続いた。


「雷」の加護を宿るす鎧と盾を纏った彼は、何かを討ち取った、という逸話が少ない。
彼は常に同胞と人々を守るために動き、多くの場合、攻めいる強敵を止め続けることを役目とした。
一方で、彼は単独で赤き鱗の竜と渡り合い、千の魔鬼を追い返し、幾度もの戦を切り抜けた。
忍耐と堅実、そして剛毅。これこそが彼の誉れであり、彼は諦めぬ希望の象徴となった。


人は無論、獣、妖精、そういった存在に分け隔てなく彼は優しかった。
彼は無用な殺生を嫌い、穏やかに日々を過ごすことを好んだとされる。
書に触れ、知を深めることを求めた彼は、ルーヴィンが抱えた賢者大臣らと
互角の議論を行なうほどの知恵を持っていたとされる。
そのため、四騎士の中では最も思慮深く、いざという時の要として機能した。


彼はルーヴィンより年上の神であったというが、そのようなことを気にせず友として接した。
だからこそ、彼は王国滅亡の戦いでも友の理想のために戦い、息を引き取った。
彼は四騎士で唯一、その死が確認された存在であり、その武具を後世に引き継いだ男である。
故に、神話の実在を証明するものとして、彼はその死さえも仲間を語り継ぐための礎とした。

“昏き炎”のカーラーン

まじないの始祖、呪術の女王とされる神人であり、ルーヴィンの妻。
恐るべきほどの知恵と機転を持ち、また誰よりも深く物事を見抜く眼を持っていた。
故に、彼女は神人の知恵袋として、数多の場面でその力を存分振るったという。
陰間の神々の血を引いていたとされ、強力な呪力を備えていた。そして、それ故に呪力の高みを目指していた。


彼女は傲慢だが聡く、恐るべき女ではあったが邪悪な女ではなかった。
その振る舞いに神人の多くが振り回されたが、それと同じくらいに利益ももたらした。
知恵と発想の広さは他の神人の賢者たちから見ても抜きんでたものであり、
地上に住む誰もが彼女を偉大なる賢人として湛えた。
だが、それでも彼女は満たされなかった。


彼女は“太陽”の輝きに魅せられていた。それが生み出す力に。
地上の堕落した世界に落とされ、その願いはさらに強く、深まっていった。
愛した男、ルーヴィンが偉業を成すごとに彼の得た加護はより眩しく彼女の心に刺さり、
故にこそ彼女は自らの手で、その輝きを生み出すことを切望したのだ。


己の知識を満たすために、彼女は友であり、愛した男であるルーヴィンを裏切ったとされる。
彼女の裏切りがルーヴィンの治世に影を作り、その破滅の引き金を引いた。
彼女はその行ないに相応わしい混沌を招き、世界に多大なる傷痕を残し、しかし、最後には己の知恵に溺れる。
彼女は自らが生み出した「命」を燃やす秘術に呑まれ、その中で苦悶の死を遂げた。
とされる。


彼女を崇めるものは限りなく少ない。
確かに夫を愛しながらも好奇心に溺れ、裏切り、罪を重ね、破滅をもたらした。
彼女を崇めるもののほとんどは、一時の感情に呑まれて者でしかない。
長き渡り崇めるには、彼女の振る舞いと性分は、あまりに危うすぎた。
 
しかし、彼女はこの世界に有益なるものも残している。
その中の一つが、「炎」のまじないと呼ばれる力だ。
それ故に、「炎」を探求する者たちは彼女を始祖として奉じているという。

“灰色の衣”ウーム

時を刻む役割を担っていたとされる神人。だが、今では彼をそのように認識するものは少ない。
現在、彼は世界にある「死」を支配しようとする、「うろ」に通じたおぞましき神として知られている。
人ですらなく、魔物に過ぎないと語る声も多い。


「死」に侵され、狂ってしまったとされる。

“深き湖”エールヴィ

神人の中でも群を抜いて知恵深いものを持つ神人。

“波に挑みし者”ガリア

海原を渡るため、船というものを生み出した神人。

“旅する道化”ムーン

己の一も顧みず、己の好奇心を満たすためだけに世界中を歩いた、神人随一の変わり者。
疾風の神々の末裔であり、その血筋に恥じぬ性質を持つが、その中でも群を抜いている。

“朽ちぬ黄金”ラグディ

「死」の恐怖に呑まれ、永遠の命を探し求めた愚昧にして恐れ知らずの神人。

“森の主人”マーナリア

“聖なる七色の森”に居を構え、森の人たちを束ねた美しき神人。
ルーヴィンと同様に輩を止めきれなかったことに責任を感じ、下界した女神であり、
森の人にとって太祖となった者の一人であった。
常春の神々の中でも特に優しく穏やかな神であったが、下界してからもそれは変わらなかった。


彼女は広く豊穣の神として崇められている。
“母なる”マルリアーの次女故に、天上の母よりも身近に恵みを授ける者として。
だが、彼女は人よりも木々と自然を愛する神である。故に、必ずしも人の勝手を聞き入れてくれるわけではない。

“迅き雷鳴”ヴィルダーン

マーナリアによく仕えた、常春の神々と疾風の神々の間の子。
その性格は生まれに似ず、猛き神々に近い勇猛さと冷徹さを備えていた。
自在に森を駆け、宙を舞い、木陰に隠れ、確実に獲物を狩り続けた。


彼は愛し、忠義を誓った女王のためにその弓の腕を大いに振るった。
手にした雷の弓を自在に操り、森に踏み入る愚か者や獣を幾匹も討ち取った。
彼は己が血に穢れたことを知る故に、徐々に偉大なる女主人に近づく機会を減らしていった。
しかし、そのことが忠を誓う主人に陰りを与えていることを、彼は知らなかった。


“空を射抜く”エリウスとは好敵手の関係にある。
気まぐれな春風のようなエリウスと真逆に、ヴィルダーンは冬の凍て風のように厳しい。
酒の好みも、女の愛し方も、忠と情のどちらを重んじるかも、二人はまるで違った。
けれども、その弓の腕だけは互いに認め合っていたのだ。

“岩の王”ダーガン 

岩の神々であった神人であり、穴倉の人の太祖・英雄であった偉大な古王。

巨人王ダーカ

世界の救い方を巡りルーヴィンと対立し、巨人族を率い戦った古き王。


長きに戦いを続け、遂にすべての同胞を失い、自身も最後はエリアスの一射にて首を撃ち落とされる。