【竜】

Last-modified: 2020-07-02 (木) 02:15:17

“世界の蛇”が作り出した、最も強く古き子供たち。
特別な鱗と聖なる宝玉、そして守りしものとしての矜持を持って生きる、生来の戦士である。
彼らは親譲りの屈強な肉体と、圧倒的な強さを誇った。
 
彼らは常に時代の主役ではなかったが、それを支え続けた。
世界の半分に「死」が満ちてもなお、彼らはその役割を果たし続けた。
だが、長い年月の中で竜たちの数は減じ、今では半ば伝説の中のものとなってしまった。


 

古き竜

古き竜は魔鬼よりも強大であった“大いなる災厄”たちを滅ぼすために生み出された、蛇の子供らである。
父にして母なる蛇に酷似した頑強な鱗と屈強な肉体を持つが、熱い血は持ち得なかった。
彼らの身に流れるのは冷たい毒の血である。
それは冷たく流動する金属、水銀にたとえられた。


彼らはいにしえから“蛇の中庭”の守護者であり、番人である。その性は変わることがない。
神々と彼らは手を取り合い長き刻を生きてきたが、そこには常に一定の距離があった。
群れることなく竜たちは生きる。孤独こそが彼らの誇りだった。


古き竜たちのいくつかは現世を守るため残ったが、それは必ずしも人を守ることを意味しない。
彼らは穢れた神々の末裔である人を疑っている。
人を恐れている。憎んでいる。
そのため、時として人に牙を剥くこともあった。
そうした古き竜は時に人の世を壊し、時に人の手によって討たれた。


長き時を経て、古き竜たちの多くは姿をくらませた。
あるものは地の底へ、あるものは海の深みへ、あるものは山森の影の中へ。
それが何を意味しているのか、知るものは少ない。そして、彼らは伝説のものとなった。

竜の毒

竜は“世界の蛇”が用いた毒と同じものを備えている。
それは、かつて相対した魔生どもを滅ぼすことが出来る、唯一の武器だったためである。


古き竜たちは“太陽”の加護を受けることを拒み、蛇の毒を使い続けた。
戦いの中でさらに洗練され強化されたそれは、やがて毒の化身である魔鬼たちすらも殺すほどに強大となった。
だが、その毒は同時に彼ら自身を蝕むようにもなり、やがて、彼らは理性を毒に焼かれていった。

竜の鱗

竜たちの鱗は親譲りの頑強さを誇り、魔鬼の毒でさえも阻むという。
彼らが最強の戦士たるゆえんの一つが、この鱗にある。彼らの鱗は父にして母なる蛇のそれと同じである。


また、竜たちの鱗は経た年月によってその色味を変える性質がある。
それ故に、その竜がどれほどの時を生きてきたかは鱗を見れば一目で知ることが出来る。


竜の鱗は若い順に、若葉、緑葉、深緑、蓬、黄葉、朱、紅葉、赤土、土、暗土、黒の順に色を深める。
中でも、黒の鱗の色は非常に珍しく、古き竜ではない新しき竜ではほとんど見られない色である。


鋼は蛇の加護を殺すために、古き種族を駆逐するに最も適した素材である。
しかし、それとて万能ではなく、特に竜とは相克の関係にある。
竜の鱗を鋼は貫くというが、古竜の毒は鋼さえも腐らせ、真竜の吐息は鋼さえ焼き溶かす。
そして、赤き鱗を超えた竜たちに、ただの鋼ではまともに通じない。
 

新しき竜

“太陽”の加護を受け入れた竜たちは、古き竜たちと区別され「新しき竜」と呼ばれる。
彼らは古き世代の特徴はそのままに、四肢と翼を得て、その毒を燃える「焔」へと変じた。
そんな彼らを、人は「真竜」と呼んで怖れ敬った。


彼らは古き竜たちよりも優美で洗練され、華やかである。
それは“太陽”の加護を受け入れたことで、“光”の力を得たためだという。
人が物を変えることで力にしたこととは真逆に、己を自在に変えることで力とする性を得た。
真竜は揺らぐ焔のように自在に進化する。故に、蝕まれない。


最初に“太陽”と契約を交えその加護を手にした一匹の古き竜は、その時に“太陽”の“光”で鱗を焦がした。
“太陽”の輝きを鱗に染み込ませたことで、本来長い年月を経なければ辿り着けなった域に若くして辿り着き、
“太陽”と共に世界の平定に尽力したという。
始まりの青き焔を宿したその竜を、仲間たちは“王冠戴く”バハムートと讃えた。


新しき竜たちは古き竜と異なり、よく人にかかわった。
時にそれは人の行ないを糺すものであり、時にそれは人の在り方を見かねての横暴であった。
それ故に人は新しき竜たちを恐れ、愛した。
長らく竜からの干渉が減った鋼の時代においても、彼らは広く人々に親しまれている。
偉大な力の象徴として、絶対の守護の証として、恐るべき大自然の災厄として。

“王冠戴く”バハムート

伝説に語られる竜は幾匹もいるが、その中で最も著名な個体こそが、このバハムートである。
彼こそは古き竜の中で真っ先に“太陽”の加護を受けたものであり、新しき竜たちの始祖である。
始まりの“火”を受け取ったが故に、彼に宿る「焔」は特別なものである。
赤ではなく青の色味にまで高めることが出来るその「焔」は“青焔大火”と呼ばれ、
あらゆる脅威を打ち破ることが出来る、最強の“竜の息吹”として語り継がれている。


彼は“太陽”の盟友として戦場を駆け抜け、今もなお空を巡り世界を見守っているとされる。


古き竜ほど蛇に近いために四肢や翼を備えないが、“王冠戴く”バハムートだけは例外だったとされる。
それが“太陽”の加護を得たためなのか、そうなる前からそうだったのかは知られていない。
だが、彼に続いた竜たちは今では翼と四肢を備えている。


図画に起こされた彼の姿は、大抵、長大な一対の黄金の角、鋭く大きな爪を持つ巨大な翼を備える。
実際にそのような姿であったかは、諸説ある。

竜の「焔」

新しき竜たちはその毒を“太陽”の「焔」へと昇華した。
“太陽”の持つ清廉にして強靭な“光”の熱を受けて、彼らは生来の守護者の相を高めることに成功したのだ。
それは「焔」が「毒を払う」淨化の質を持つ故である。
ただし、それはすべてを焼いて清める性質故に、彼らは氷より冷酷でもある。


竜が放つ「焔」の吐息は、鋼さえも溶かす。
そのため、鋼は竜を殺す武器になれど、絶対の守りにはなりえなかった。
 

彼方の竜

非常にまれな伝承にのみ残る、分断された後の神々の世界で生まれた竜。
彼らはさらに独自の進化を遂げ、神々が振るった「雷」をその身に宿すとされる。
それは新しき竜ともまた異なるものであり、それ故に「神竜」とも記される。


彼らに関する細かな情報はない。
ただ、神々の世界を守るものがほとんどで極稀にしか現世には現れず、
その口からは毒でも「焔」でもなく「雷」が解き放たれるとのことである。
また、彼らは四肢を備えるが翼を持たず、代わりに大きく複雑な角を持つとされる。
 

狂える竜

本来の在り方である、守護者という性質を失ってしまった竜の総称。
古き竜、新しき竜を問わずそう呼称されている。


毒に狂ったもの、役割を見失ったもの、誇りを風化させてしまったもの……
その成り立ちは様々であるが、いずれにしてもこうなった竜たちは皆災厄と化す。
狂える竜は守護者ではなくその力は我欲か、衝動のままに振るう。
そうなった時、その猛毒は無差別に命を蝕み、その焔は例外なく命を滅ぼす。
それ故に、こうなった竜は人や同族の手によって討伐されてきた。


語り継がれる竜殺しの英雄の半数は、こうした狂える竜を倒した逸話であるという。
 

竜の眷属

古き竜、新しき竜の裔として生まれたのが竜の眷属である。
竜の眷属の多くは紛い物の鱗と翼を備えたことから、「飛竜」などとも呼ばれた。
だが、それら以外にも竜の眷属は数多存在した。
時にはそれら眷属を模したけだものたちも姿を見せ、学なき人々はそれらをしばしば混同した。


彼らは古き竜や新しき竜と異なり、知性なき野獣に過ぎない。
だが、野山を駆ける獣たちの中では最強の生き物であり、クラウケンや魔鬼と並び、人々に恐れられた。
よほど古き獣でもない限り、彼らに敵う獣はいなかった。


竜の眷属は竜そのものではなかったが、幾ばかりかの使命は引き継いでいた。
彼らは魔鬼など邪悪が現れた際には、我先にと押し寄せてそれらを打ち倒す。
これは種に刻まれた使命であり、半ば本能的な行動である。


竜の眷属には真の竜たちのように、苛烈な猛毒も、灼熱の淨火も持ち合わせてはいなかった。
ただ、形ばかりのそれらを模した武器を持つ。
多くの竜の眷属は、紛い物の炎を吐き散らし、出来損ないの病毒を流し込む。


暗き時代を過ぎてから、人の住む世では古き時代の生き物たちを見ることは少なくなった。
里に彼らは姿を見せず、辺境の地でさえもその姿は稀なものとなった。
その中で、比較的姿を見せたものたちが竜の眷属である。