【魔鬼】

Last-modified: 2020-07-07 (火) 03:25:02

穢れた神々が犯した罪、それが形となり溢れたものが魔鬼である。
“世界の蛇”が鱗を剥がされたときに覚えた、
苦痛、驚愕、悲哀、憤怒、憎悪、忌避……そういった感情と毒液が混じり、
命となって蠢いたものたちである。

だが、彼らは生命ではない。
彼らの本質は「死」だ。
暖かなもの、眩いもの、そして好奇の心を憎み、嫌悪する。
それ故に魔鬼はあらゆる生命の敵となる。そこに、理由はない。


 

誕生とそれから

魔鬼は穢れた神々が“世界の蛇”の力を求め、鱗を剥いだ際に飛び散った、蛇の毒液である。
それらが蛇の持つ強力な感情と、人が生み出してしまった業を受けて変質し、形を作ったことで生まれた。
その時の毒液は「死」の源である。
当然、彼らもまたその性質を受け継いでおり、彼らはただ振る舞うだけで世界に傷跡を残す。


彼らはその本性のままにあらゆるものに牙を剥いた。
人も神も竜も獣も木々も何もかも。彼らにとってはすべてが憎むべき獲物だった。
彼らは長らく他のすべての抵抗を受け付けなかった。
それ故に、彼らは生まれ出てからしばらく、世界の絶対者として蹂躙し続けた。
空の彼方から、あの忌々しい輝きが降り立つまでは。


清廉なる七つの輝きを前に、彼らは“世界の蛇”が織りなす隙間、「うろ」に逃げ出すしかなかった。
大いなる力を得た神々・新しき竜・人の軍勢を前に、彼らは大敗を喫する。
だが、怨嗟と憎悪を燻らせ続けることは彼らの本質である。
世界から追い出されてなお、彼らは復讐の機会を狙い続けている。
 

性質

魔鬼は人を何より憎んでいる。
自分たちを生み出したためか、それとも最も激しく抵抗したからか、そこは定かではない。
だが、人の存在を見つければ魔鬼は必ず「死」をもたらすために襲い掛かる。
それは、人が生きるために呼吸することに近しい。


魔鬼には基本的に定まった形はない。
彼らは“世界の蛇”の苦痛と、人の業が生み出すものだからである。
彼らはその身に蠢く怒り、悲しみ、苦しみ、嫉み、恨みから、形を作っていく。
そうした姿はあまりに強烈で、悍しく、故に人は彼らを恐れる。
それを自らの業が生み出したとも知らず。


魔鬼の力は蛇の毒と、「死」に酷似している。
それ故に、竜を含むほぼすべての生物に対して致命的な毒素として機能する。
輝ける神々の威光を汚し、溢れる暖かなそよ風から熱を奪った。
だが、それ故に彼らは“光”がもたらしたものに勝てない。
魔鬼を打ち払うには、「雷」「焔」「鋼」が有効である。
 

魔鬼の進化

魔鬼はあり続ける限り、変化を続ける。
内に眠る業が、浴びせられた感情が彼らの性質を書き換えていく。
それは戦いの中で特に強く発揮され、それ故に魔鬼は極めて強大な種族となった。
それ故に、魔鬼の姿かたちは個体により大きく異なる。


一方で、魔鬼には生まれ方によりいくつかの差異が存在する。
混沌としている魔鬼であるが、このくくりだけは例外的に正しく機能している。
その出自によって魔鬼は有する性質に行くばかりかの差異を設けるようになった。
それが彼らの戦略なのか、ただの偶然なのか。
知る者は誰もいない。

原初の魔鬼

最も古き、毒の原液が変質した魔鬼。
彼らは定まった形を持たず、常に蠢き、溢れ、飛び散っていたという。
彼らから飛び散った毒液からいくつもの魔鬼が生まれていったと伝説は記す。


この魔鬼たちは神話の中でもあまり語られることがない。
戦いの中で彼らも変質したのか、身体を分かちすぎて消えてしまったのか、
“光”に敗れ死滅したのか、今もなお生き残っているのか、定かではない。

冥い魔鬼

最もよく知られる魔鬼である。
原初の魔鬼から飛び散った毒液から形と意志を成し、世に溢れた化生。
神話にて神々を追い詰めたものたちと、その末裔を意味している。
彼らはその本能のままに、世界を蹂躙せしめた。


青黒い身体を持つ化け物、とだけ伝説は描写されている。
それ以上は個々で全くの異なる造形を成すが故に、意味をなさない。
それは姿かたちのみではない。
手にした力、振る舞いの様式、知恵の有無……すべてが不揃いだ。
千差万別であるからこそ、その軍勢は強力だった。


強大な個体はそれこそ猛き神々や古き竜と互角の力を持つとされるが、
今ではそうしたものたちは現れなくなった。
時折現世に現れるもののほとんどは、それらの出来損ないである。

灰の魔鬼

魔鬼でありながら、「炎」の性質を手に入れた、異端の存在。
毒を振りまくのではなく、その「炎」ですべてを焼き尽くし、無に帰そうとする性質を持つ。
彼らは我が身を薪としながら、呪いの輝きを灯し、相対するすべてを破滅に導く。


長い年月の中でどうやって獲得したのか、彼らはその身におぞましき「炎」を宿すようになった。
それは“太陽”からもたらされた「火」でも「焔」でもない。
これはまじないが生み出す炎と同質のものである。
いつわりの“光”であるが、同時に強烈な破壊の力であることには偽りがない。
彼らの暴力は、これによって加速する。


灰の魔鬼はその名の通り、見た目は明暗多用な灰色をしている。
湿り気やねばついたものはなくなり、代わりに燃え尽きた灰のようにざらついている。
彼らは暗くまとわりつく情念を背負わない。
その身に宿るのはどこまでも空虚で粗暴で、原始的な衝動である。

混じりの魔鬼

生けるものを取り込み、それと一体になったとされる魔鬼。
その姿は現世の生き物に限りなく近いが、様々なものを取り込んで生まれる故にその姿は異質である。
それはまるで、たちの悪い粘土細工のようにちぐはぐでつぎはぎだ。


この怪物の特徴は、今もなお世界をさすらっている者がいる、という点である。
彼らは取り込んだ生き物の性質があることにより、“光”の影響が比較的薄くなる。
そのために、形を成したままこの世界を徘徊し続けることが出来るという。


この魔鬼の心は複雑だ。
取り込まれた生き物たちの感情と思念がある一方で、それらは魔鬼の性質を土台に持つ。
自らが魔鬼なのか、生き物なのか、それすらも曖昧である。
彼らはもはや己が何なのか、何が出来るのかも忘れながら、世界をさまよう。


世界に居座りやすいという点で他の魔鬼よりも有力に見えるが、ここの力は大きく見劣りする。
余程強大な個体は僅かであり、そのほとんどは冥い魔鬼や灰の魔鬼に及ばない。
故に、神々と争った際は雑兵として次々と打ち倒されたという。
ただし、それが人間相手にも通じる理屈かどうかは、怪しいものである。

業変わり

「人」が業を深めすぎると何が起こるか。
世界にある蛇の毒気に当てられやすくなり、長くそれに浸るようになってしまう。
そうなるとどうなるのか。
魔鬼になるのである。


人から生まれた魔鬼は、みな人の特徴を残す。
ただし、いびつな形で。
彼らは己の業を真っ直ぐに、婉曲に表現した姿へと変貌する。
目を向けるもおぞましい出来損ないの造形物のような姿は、内に秘めた醜さの証明である。


こうなった人はもはや人ではなく化生の類である。
それを哀れと思う者もいるだろう。だが、考えてみても欲しい。
人は人殺しの大罪を追った程度では、異形の化け物になどなれないのだ。
我が身を毒が蝕み、それでもなお生き、あり続けるほどの歪み方を許す業。
このような姿になってしまうものたちは、人の心を失いながら、人のように怨嗟を唱え続ける。

蒼ざめた白き魔鬼

魔鬼の中でも際立って怖れられる怪物たち。
無数のうねる角、瞳なき見開かれた眼、牙立ち並ぶ裂けた口、硬質だが柔軟な青ざめた鱗肌、
屈強な肉体から伸びる四肢の先には鋭い爪が揃い、太く柔軟な尾の先には鋼を貫く鏃がある。
その威容に違わぬ力を持った彼らは、巨人たちさえ見下ろす巨躯で人と神を追い詰めた。


彼らはそろった形を持つが、その理由は知られていない。
ただ、彼らは強大なる軍勢として古き戦いで跋扈し、その後も「死」に招かれるように、
地下世界から時折人々を苦しめに現れる。
現世に姿を見せる者達はその末裔なのか、かつての巨人ほどの体躯はない。
だが、たったの一匹で村一つを平然と滅ぼすその暴威は、人の身に余る怪異である。

冠戴く魔鬼

聖なる七つの輝きや、“並ぶものなき”アルヴィンと戦ったとされる、魔鬼の中の大王たち。
その力は外の魔鬼と比べ物にならぬほど強大であり、文字通り天地を揺るがす戦いを行なった。


彼らは共通して、ウネリ狂う角を持っていた。
それはまるで偉大な神々が戴く冠のように威光を見せた故に、この名を与えられた。
実際、その角は偉大な意味を持っていたようである。


彼らは千差万別の姿・力を備え、神々と激しく争った。
その際に様々な形で現世で痛打を受けたとされる。
だが、それで終わったわけではない。

美しき輝ける魔鬼

神々によく似た優美な姿と高い知性を誇りながら、おぞましい残虐さを見せる存在。
「魔族」とも呼ばれた恐るべき種族。