【精・妖】

Last-modified: 2020-07-03 (金) 02:27:50

世界には様々なものたちが生きている。
竜、神、獣、人。
だが、それだけではない。
世界にはそれらに含まれない、不可思議なものたちがいる。
 
彼らは神々ではなく、古き獣ではなく、偉大なる竜ではなく、
穢れた人でも疎まれる魔鬼でもなかった。
彼らは偉大な緑の木々たちとそよぐ蛇の吐息から生まれた。
それらは「精」あるいは「妖」と呼ばれた。


 

精霊

“世界の蛇”の吐息を受けた、始まりの木々たちのざわめきから生まれたとされる存在。
これらは世界中に遍在し万物にその影響を及ぼすとされる。
通常人には見えず、また自身が関わるというところも少ない。
これらは命にさして興味を持たず、ただ、どこにでも揺蕩い続ける。


しかし、それは何も干渉しないことを意味しない。
精霊とは、普遍的な力である。それ故にその働きは常に万物を取り囲んでいる。
小さな風の動き、水の流れ、土の移ろい、物が育ち朽ちるまで……
すべての物事には、精霊が関わっている。これはいわば蛇の加護の化身だった。


勘違いされがちだが、精霊は神々のしもべではない。
蛇の奴隷でもない。むしろ竜に近い。
必要な役割をこなすために生み出された。その使命を果たすことが精霊の喜びである。
ただし、こえらには心など存在しない。
心あるように振る舞えど、その中身はどこまでも無機であり、また純粋であった。


精霊に形はないが、それは形を成さないことを意味しない。
必要とあれば、これらは世界にあるものを手本に形を作る。
それは見せかけだけのものでしかないが、姿を得た精霊は往々にしてその姿に性質を引きずられる。


なお、精霊は「死」によって消滅しない。
代わりに、しばしの間その機能を停止させるのみである。


そんな精霊たちが、高度なまじない師は彼らを使役する術を見出した。
そうしたまじないは蛇の加護を操るものとは全く別種の技能として扱われる。
祈りでもなく、古き言葉でもなく、その性質を知識と経験で以て束ね扱う。
人はそれを「賢者の術」あるいは「魔法」などと呼んだ。
 

始まりの木々に蛇の毒気が触れ、腐り落ちた葉の重なりの下から生まれたものたち。
醜き蛆の末裔、あるいは美しき蟲の王族とも呼ばれる。
これらはまるで命のように語られるが、生き物ではない。
妖は生き物となるよりも前の、命未満の存在であった。


これらは精霊に近いが、はるかに程遠い存在である。
役割を持たぬ代わりに不確かな体を持ち、魂を備えぬが心を持つ。
邪悪ではないが有害であり、有用ではあるが危険である。
彼らは定まらぬ形を自ら自在に作り変え、様々な姿となって生き続ける。
それはまるで、不要な出来損ないであった。


妖の多くは影を好む。
これらはあまりにも古いものである故に、聖なる七つの輝きに耐えきれないためである。
だからこれらは「うろ」に住み着いてたが、それ故に「死」の毒に侵されずに済んだ。
だが、後に魔鬼が押し寄せるとその住処を追い出され、苦界をさまようことを余儀なくされた。


苦界に放り出された妖たちは眩い力に耐えきれず、それを遮れる居場所を求めた。
森の陰間、山々の谷、川の底、海の深み、そして、村街の暗がり……
そうしたところで、妖たちは自分たち異なるものどもを知ることとなる。


本来の妖は好奇心こそあれど、狂暴なものたちではなかった。
しかし、長らく「死」に触れて恐怖と苦しみを覚えてしまったこれらは、
最早かつての純朴なる存在であることを保てなかった。
今に残る妖のほとんどは、恐ろしきけだものになり果てている。
 

妖精

妖と精霊の性質を持って生まれる、「生き物」のことである。
彼らは魂を備えながらも定まらぬ肉体を持ち、世界にたゆたう精霊と会話する力を持つ。
神々や古き人ほどの力は持たず、今を生きる人より脆弱だが、
不可思議な力を操ることで彼らは獰猛なるものたちの脅威から逃れ続けてきた。


妖精の多くは、住まう場所に手関わる生き物をまねることを好む。
そのため、多くの場合、人里近くに住む精霊は人をいびつに模した形を成し、
時にその噂話を取り込んで自らに形を与える。
彼らは好奇心旺盛であり、また我が身をかざすことを好んだ。
やがて、ほとんどの妖精は何かしらの形と性質を子孫に引き継ぐこととなった。


彼らは精霊や妖に近いが、「死」にはひどく敏感だった。
寿命はないが、強い「死」の気配を受けると委縮してしまう。
脆弱故にその力の大きさに妖精は敏感なのだ。
そのため、彼らは自らの技を対価に強き守護者を求める。
その役割を果たすものの多くは、古き獣や竜である。


妖精は精霊と語り合う力を持つ。
それはつまり、人よりも巧みに彼らを操ることが出来ることを意味する。
そして、妖精は何事も試したがる悪しき性癖を備えていた。
悪童の如き好奇心を昂らせた妖精たちは、坂を転がる大岩に似ている。