28人目の悲劇

Last-modified: 2024-02-07 (水) 14:50:36

元埼玉西武ライオンズ・西口文也が現役時代に経験した3つの悲劇の総称。


概要

西口は1994年のドラフト会議で3位指名を受け西武に入団。以降2015年の引退まで西武一筋21年、沢村賞を始め様々なタイトル・表彰に輝いた実績を持つ一流の投手である彼だが、実はノーヒットノーランないし完全試合目前まで3度もこぎつけながら悉く達成阻止された過去がある*1。そしてこれらの試合全てで28人目のバッターに記録を阻止されたため、これら3つの試合を纏めて「28人目の悲劇」と呼ばれる。


その1:2002年8月26日 対千葉ロッテマリーンズ戦(西武ドーム)

この日の西口はロッテ打線を福浦和也の四球1つのみに抑え9回2アウトまで到達、打席には1番・小坂誠。ここまで小坂は対西口通算打率が.000であり西口が完全有利だった為、西口のノーヒットノーラン達成はほぼ確定と見られていた。
だが、小坂が打ち上げた打球はセカンドの頭上を越え、捕球に駆けつけたセンターとライトの手前に落ち、まさかのポテンヒット。これには西口もマウンドで苦笑。その後何とか後続は断ったものの、ただの完封勝利に終わったのだった。


その2:2005年5月13日 対読売ジャイアンツ戦(インボイスSEIBUドーム)

この年始まった交流戦での一幕。この試合で西口はタフィ・ローズ清原和博を擁する最強巨人打線と対決。流石の西口でも苦戦必至とみられていたが、何と西口は清原に死球をぶつけた以外はパーフェクトピッチングのまま9回2アウトまで到達。ここで打席には清水隆行*2。西口は渾身のスライダーで清水を打ち取りにかかる。
だが、清水のスイングは西口のスライダーを完璧に捉え、打球はそのまま右翼席に飛び込むホームランに。西口2回目のノーヒットノーラン失敗とともに完封すら消えるという悔しい試合となったのだった。


その3:2005年8月27日 対東北楽天ゴールデンイーグルス戦(インボイスSEIBUドーム)

同年創設された楽天との試合。ここまでダントツ最下位の楽天打線は沢村賞投手を打ち崩せず9回までノーヒットの惨状。しかもこの試合で、楽天は四死球や失策によるランナーすら出せず、西口3度目の正直にしてついに完全試合に手が届きかけていた。そして9回、ここまで打たれていた「2アウトの壁」も乗り越え見事三者凡退、完全試合の条件である「9イニングノーヒット、無四死球、無失策、無走者」を達成した。

……が、よりにもよって楽天の先発・一場靖弘*3も快投を披露*4。こんな日に限って西武打線を単発4安打で零封するという予想外の事態が併発してしまう。
結局9回では決着がつかず、かと言って降板する訳にもいかない延長10回表、続投した西口は先頭の沖原佳典にあっさり安打を許してしまう。さらに2アウトになってから山﨑武司に対しても四球を与えてしまう。完全試合はおろかノーヒットノーランも消滅した西口は、その裏石井義人が決めたサヨナラツーベースに対しても苦笑いを浮かべるほかなかった。

完全試合達成者は16人いるが、9回終了時点で完全試合の資格を有しながら延長で逃したのは長いNPBの歴史の中でも西口が初めてであった。その後、2022年に大野雄大が9回まで完全投球を披露しながらも延長で安打を許し、西口の再来となっている(後述)。


類例

おまけ1:1996年9月23日 対近鉄バファローズ戦(西武球場)

この試合で西口は初回に先頭の水口栄二にヒットを許すも後続を抑えて無失点。2回以降も三者凡退を繰り返し、終わってみればまさかの27人連続凡退で「逆28人目の悲劇」となった。


おまけ2:2020年9月8日 対オリックス・バファローズ戦(メットライフドーム)

西口の引退後、背番号13番は2019年から髙橋光成が継承。そしてこの日は髙橋が先発しオリックス打線を吉田正尚への四球一つに抑える快投を見せ、8回終了時点でノーヒットノーランを継続。誰もが西武の背番号13によるノーヒットノーランを期待していた。
ところが9回表、先頭打者の代打・西野真弘にセンター前ヒットを打たれ、ノーヒットノーランならず。西口の状況とは違い9回ノーアウトからのノーノー失敗(25人目の打者)となったが、その直後にマウンドに駆けつけたのは引退後一軍投手コーチになっていた西口本人だったため当時を思い出したファンが続出した。

ちなみに試合後お立ち台に上がった髙橋曰く、西口からは「2アウトまではいけよ」と言われたとのこと。また辻発彦監督は「背番号13が駄目なんだよ」と冗談混じりに語った模様。


おまけ3:2022年5月6日 中日ドラゴンズ対阪神タイガース(バンテリンドームナゴヤ

30人目の悲劇」とも。
この日の中日の先発・大野雄大は打たせて取るピッチングが冴え、9回までランナーを1人も許さない完全投球を披露。しかし阪神の先発・青柳晃洋もまた会心の投球で9回2安打1四球で抑えてしまい*5、0-0のまま延長に突入してしまう。
大野は10回も続投するも、30人目の打者・佐藤輝明にツーベースヒットを打たれてしまい、17年振りに延長で完全試合を逃してしまった。奇しくも完全試合を逃したイニングの裏の攻撃でサヨナラ勝ちを決めた(1死満塁から石川昂弥がサヨナラヒット)という展開も一致していた。

但し、大野は2019年に同じ対阪神戦において、ノーヒットノーランを実際に達成している。

なお、翌年も中日は柳裕也を援護できずにノーノー達成を未遂で終えている。*6


余談

  • 西口は引退会見で「心に残っている試合は?」との記者の問いに上記その②の巨人戦を挙げた。
  • これらの3つの悲劇は2012年5月16日OA『マツコ&有吉の怒り新党』内で「新・三大 西武西口投手の哀しい勝利」として取り上げられた。また2022年12月25日OA『球辞苑』「完全試合」では、西武二軍監督となっていた西口本人がスタジオ出演し、自身の未遂記録を振り返った。
  • 大野が完全試合を逃した直後に、西武球団は当の西口(当時二軍監督)にマスコミ各社向けのコメントを出させた。西口曰く、「無失点に抑えるべく打たれた後のほうがギアが入っていた」とのこと。
    • ちなみに試合とは無関係だが、西口と大野は誕生日(9月26日)も一致している。


関連項目


*1 それも全て本拠地での試合で、である。
*2 のちに金銭トレードで西武へ移籍、西口のチームメイトとなる。
*3 一場もまた、明治大学時代に全日本大学野球選手権で完全試合を決めた経験を持つ。とはいえシーズンでは7連敗で未勝利、防御率6点台であった。
*4 しばしば「一場の野球人生で最高の試合」と揶揄される。ちなみに同年の一場の最終成績は2勝9敗・防御率5.56。
*5 青柳は前年に最多勝利、最高勝率の2冠を獲得しており、本シーズンもこの試合までの3先発で3勝、2完投、1完封、防御率0.69と非常に好調であったことが上述の一場との対比になっている。
*6 2023年8月13日、バンテリンドームナゴヤで行われた広島戦。この試合では、これまで防御率0.00を維持していた守護神R・マルティネスが延長10回表に登板しホームランを打たれてしまう。しかしその裏に広島の守護神矢崎拓也から先頭打者から二者連続ホームランで逆転サヨナラ勝ちをした。