イベント/人ならざる王

Last-modified: 2012-01-25 (水) 08:47:47

シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント。


人ならざる王

北方領土

到着したのは、何ともうらびれた小さな村。ここから見える城もこじんまりとした印象だ。
「サンドリアに暮らしてると忘れがちだけど、これが普通なのかなぁ」
「アウトポストの兵士さんも言ってましたけど、やっぱり住み辛いからじゃないですか?」
余所者はやはり珍しいらしく、先ほどから視線を感じる。
多くは鍬を背負った農民だったが……何人か、明らかに武器を担いだ人も見える。城の兵士だろうか?
「……怪しいわ」
「怪しーよねぇ」
「何かある気配です」
「第一印象で決め付けるのは良くない……が、な」

 

無愛想な兵士に案内され、早速件の領主ドラクア伯爵と面会することになった。
こじんまりと城なのだから、内部も然程広くない。せいぜい学園と同じくらいだ。……いや十分広いのか、それは?
ドラクア伯爵は玉座に腰を落として一行を迎えた。
会った印象は、なんと言うか、『いかにもな貴族』だった。
「よく来てくれた、兄妹たちよ。歓迎するぞ」
「いえ、お構いなく」
スコールに交渉事を任せるのはちょっと不安だったので、サナエに代わってもらっていた。
「して、此度は如何用かな?」
「……ここ、アイノンでは未だ悪政を働く領主が居るとの話を聞きましたので」
……サナエさん?ちょっと?
「ほほう?して、その不届きな輩はどこにいるのかな?アイノンの領主は我輩ただ一人だけであるはずだが……?」
判ってて言ってるな、この人……。
「それは今捜している所です。ドラクア伯爵はご存知ありませんかね?」
「ふむ。客人よ、それなら心当たりがあるぞ」
そう言って、ドラクアは玉座から立ち上がり、傍に控えさせてた兵士から斧を受け取った。

 

「目の前にいる、この我輩だ」

 

言い放つと同時に大きな斧を振り下ろしてきた。
って、簡単すぎるでしょう……!
咄嗟にスコールが剣を抜き打ち気味にドラクアを斬り捨てた。瞬く間に部屋に兵士が集まってくる。
「どうするの?今、凄くピンチだと思うんだけど」
「ピンチでしょう、どう見ても!」

 

「くくく……」
兵士に囲まれ逃げ道を失った一行は厭な声を聞いた。
「あ-……噂は本当だったんですね」
スコールが斬り捨てたはずのドラクアは、平気な顔で起き上がっていた。
「我輩の王国で勝手をされては困るのだ、客人」
ドラクアが合図すると、兵士たちの肉が削げ落ちていき、全身骨だけが残った。
「うあ……スケルトンだ……」
「アイノンはとっくに手遅れだったというわけか」
「もう一度訊くけど……どうするの?今、凄くピンチだと思うんだけど」
「ピンチでしょう、どう見たって……」

  • 大規模戦闘
    紅夜
    勝利条件:5ターンの間生き残る
    敗北条件:味方が一人でも戦闘不能になる
     
    テンシ、サナエ、コガサ、スコールと共に5ターン生き残るのが目標の戦い。
    戦闘開始時点で既に囲まれている。このままだと危険なので、一点突破して壁を背にして戦えるようにしよう。
    一応、ボス扱いのドラクアも居るが、その場から動かない上、スコールがタイマンで倒せる程度の相手。しかも無限リレイズなので無視していい。余裕があるなら経験値稼ぎに出来なくもないが。
    主な敵であるスケルトンは対して強い相手でも無いので、孤立して袋叩きにでも会わなければピンチにはならないだろう。

「チッ!数が多すぎる!」
吐き捨てるように言うテンシだが、それで状況が変わるわけでもない。スケルトンの群れは部屋狭しとばかりに続々と集まってくる。
「……不味いですね」
「なんとかならないの!?」
「そうは言うが、これは……」
斬る度に次の相手が湧いてくる。疲労はもちろんだが、あんまり長時間見ていたい敵でも無い。精神的にもかなり消耗する。限界はそう遠くないだろう。
「どうしようもないってのっ!?」
「どうしようもないな。諸君の運は、我が王国に足を踏み入れた時から尽きていたのだからな」

 

「……いいや

 

「!?」
その声は小さくは無かったが、大多数がまともに聞き取れなかった。
轟音を上げつつ城の壁が崩壊したからだ。

 

「なっ……ドラコニス!?」
「くっ……また会ったな、人間ども」
城の壁を突き破って乱入したのは、あの洞窟のドラゴンだった。咄嗟の判断で、全員がドラコニスの背に乗り、彼が開けた壁の穴から脱出した。

 

何故かドラクアとその配下はこちらを負う動きは見せなかった。
「何で追って来ないの?」
「奴は私を殺せない。絶対にな」
「どういうこと……?」
ドラコニスは、どうしてか苦虫を噛み潰したような苦しそうな呻き声をあげた。

ノスフェラトゥの秘密

アイノンから幾ばくか離れた森で、一行は休息をとっていた。
「はあ……ドラクア伯爵の噂は本当だったんだねぇ」
「それどころか、お城の兵士がスケルトンだなんて……」
「あれはびっくりしたよ!道理で愛想悪いなぁと思ったんだ!」
まあ、骨の状態で愛想良くされても気味悪いが。

 

「ドラコニス?どうしてそんなに消耗しているの?」
「ぬっ……気にするな、持病のようなものだ」
ドラコニスはそう言ったが、時折苦しげに呻くので気が気でならない。持病というのはそんなに辛いのだろうか?
スコールとしては、せめてアウトポストまでは戻りたがっていたのだが、ドラコニスが先ほどから尋常でなく痛がるので仕方なく森に隠れることにしたのだ。どうせドラゴン連れたままじゃアウトポストも利用できないだろうしね。

 

「ぐ、ぅ……」
再びドラコニスが呻く。痛々しくて、これでは気にするなという方が無理な話だ。
「……さっき、ドラクアは自分を殺せないって言ったよね。それは、どうして?」
無言の空間に痛みに呻く声だけが響くという状況に耐えられなかったのか、テンシがドラコニスに疑問を投げかける。
「…………」
ドラコニスはようやく痛みが引いたらしく、落ち着き払って考えているようだった。

 

「……数年前」
やがて意を決したように、重々しく口を開く。一同の注目がドラコニスに集まる。
「一人の暴君が死んだ。
 奴の息子……つまりドラクアは明日にも死んでもおかしくないほど衰弱していた。
 ドラクアの乳母や剣の師らは私の元を訪ねた。
 ……竜の心臓を持つ者は永遠の生を得る、という伝説にすがってな」
「!」
永遠の生、という単語に皆が一様に反応を示した。
この時点で、既にドラクアの不死の秘密がほとんど明かされたと気付いたからだ。
「そうだ、私は己の心臓の半分を奴に差し出した。私は、『前王とは違う、善き王になる』と誓ったドラクアの言葉を聞いた」
……それは。
「結果は……言うまでもなかろう。私は甘かったのかも知れぬ……」

 

「……えっと、えっと。ほ、本当にドラクアは不死になったの?手の打ちようはないのかな?」
ドラコニスの話で重くなった空気をわざと振り払うコガサ。
「俺たちの任務はアイノンの視察だ。目的は果たしている。これ以上関わる必要は無い」
スコールはあくまで冷静。でも、これは彼の悪い癖。本当は他人と関わるのが嫌なだけだ。
「で、でもさ!自分の国の王様が骸骨の兵士を使うなんて嫌じゃないっ?」
「コガサさん……」
はたと声を潜め、恐ろしいことに気が付いた。
「スコール……あのスケルトンたち、どこから来たと考えてる?
「……スケルトンが何も無いところから湧いて来る訳があるか」
スケルトンはアンデッドだ。『誰かが死んで』、その後に発生する。
自分たちがアイノンに居た時間は少なかった。その時間ではドラクアが悪政を働いていた証拠は見つけられなかった(いきなり襲ってきた状況証拠ならあるが)。
そもそも、『ドラクアが悪政を働いている』という噂は、どこから流れ出したものだったのか?

 

もしも……アイノンの民が『そのこと』を知っていて……それを知らせるために悪政という表現を使って噂を流したのだとしたら……。
「我輩の王国、とか言ってたわね。碌なことじゃないとは思うけど……」

 

「どちらにせよ、俺たちにはどうしようもない。一端サンドリアに戻って状況を知らせよう」
スコールの提案は全く正論だった。サナエもコガサも賛同したが。
「……私は残るわ」
テンシはそう言った。
「え、テンシさん?」
「ドラコニスと残って、アイノンを監視してるわ。アウトポストに泊めてもらうし……大丈夫よ、一人で乗り込もうなんて考えてない」
テンシは、かたくなにその場を動こうとはしないだろう。そういう娘だ。スコールは溜息を一つ吐いて。
「……援軍を呼んでくる。それまでは絶対に無茶なことはするな。いいな?」
「hai!」