イベント/勘違いの破滅

Last-modified: 2012-02-03 (金) 23:56:38

シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント。


勘違いの破滅

渡る世間の何某

ゲッショー殿から麟の 完 全 復 活の報を受け、慌てて駆けつける。
「む、休まれてしまったか」
当の麟は目の前の布団に寝かされて、穏やかな寝息を立てていた。
顔色は血色もよく、死相とはまるで無縁だ。

 

「廊下をドタドタしない。患者を起こしたいの?」
呆れた、しかしはにかんだ表情の永淋が部屋に入ってきた。
軽く欠伸を噛み殺しているところを見ると、先程まで寝ていたのか。
「近くでも音が聞こえたわ。今日は他に患者さんがいなかったからいいけど……」
すいまうsん;;

 

「ふう、少し急ぎ過ぎよ」
そして主人公の隣から、輝夜姫の声が聞こえた。
首を向ける。

 

そこには、あの町娘さんがいた。

 
 

町娘さんがいた。

 
 

……。

 
 

でええええっ!?
「「「静かに!」」」
……。

 
 

「ぬぅ、姫!」
「ひ、姫様……! なぜここに!?」
「今回の事で迷惑を掛けたのは紛れもない私だもの。お見舞いに行くに決まっているわ」

 

な、な、な、な……
「主人公殿、気を確かにするでござる!」
「私の昔話聞いた時よりも驚くってどういう事なのかしら……」

 
 

閑話休題

 
 

取り敢えず、話を聞いて、あの時の女性が輝夜姫本人と言う事に改めて戦慄する。
豪奢な木の枝や名刀持っていたり、いつか前にセーガがニヤニヤしたり思わせぶりな態度を取っていたのは、これだからか……!
「そう。ああやってたまに外を出歩くの。市井の声を聞くのも、大事な仕事だからね」
「…………姫様は、もう少し自分の立場を理解していただきたいのですが。
以前に近所の子供と遊んで泥だらけになって帰ってきたり、野良猫を抱きあげて引っ掛かれた時は卒倒するかと……」
「一度外に出たら、誰とも同じ目線で関わらなきゃ。立場立場言っていると、頭でっかちに思われるわよ?」
そういえばアトルガンの聖皇をしてる彼女も、最初に遭った時はあちらこちらに出かけてたっけ。
もしや、この世界の偉い人はみんなこんなに奔放なのだろうか。

 

ぼんやりしていると、輝夜姫が此方を見ていた。
顔を向けると身を小さくして、
「……ごめんね。今まで隠していて」
んにゃ。ほんちょっとばかり驚いたけど、気にする事はない。
「そっか。この通り御姫様なんて役に付いてるけど、外で見かけた時と同じように接してくれると嬉しいな」
それくらいお安いご用である。
「ふふ、ありがとう」

 

そうやって和やかに談笑していると、

 

途端に、部屋の外に不快な気配を感じた。
「……!」
何かがいる。

 

そう気配に気が付いた直後に、扉が破られ、外からモンスターが沸いて出た。

騒乱の気付き

突如乱入してきた魔物の群れを前に、最初に動いたのは輝夜姫だった。
一歩踏み、飛びこむ。

 

危ない、とそう思うよりも前に、

 

輝夜姫の蹴り飛ばしが魑魅魍魎を蹴散らした。
ずどん、と、どがしゃんという快音が入り混じった様な音が響き渡り、魔物がいっそ気持ちのいいくらい派手に吹き飛ぶ。

 

……へ?

 

そして、輝夜姫が一つの物体をどこからか取り出した。

 

それは、板だった。
輝夜姫よりも大きい、一枚の平面。
巨大な天井板だ。

 

それが、力一杯に、迷わずぶちこまれた。
破砕音と絶叫が響き渡る。

 

唖然とする間も無く、永淋が弓矢を魔物どもにぶち込み、
それに続き、主を先に矢面に立たせるは武士の恥と言うばかりにゲッショーが斬り込む。

 

つ、つええ……!
「これでも長生きしてるからね。少しは護身も身に付く」
護身ってレベルですかアレ。というか麟、よく起きないな!
「医者としては余計な気負いをさせるわけにはいかないから、その方がありがたいわね」
「しかし、あの魑魅魍魎は一体なんでござろうか?」

 

「見たところ、黄泉の住人でしょう。禁呪か何かの手段で呼び起こされたってところかしら。
……今のところ、こんな真似をする者は……ドウマンくらいしか思い当たらないわね」
カチコミのつもりか、嫌がらせか。どちらにせよ面白い真似をしてくれる。
「オロチを制御するのが目的なら、アレの行く先も想像がつくわ」
一息つくと、
「永淋、麟をお願い」

 

「……姫様が直々に出向かれるのですか?」
「元々永遠亭は、私達の場所よ。其処を荒らされた。
如何に気儘と言えど、礼を欠いたモノの暴挙を許す訳ではない」
普段通りの暢気な声音。しかしその声には底冷えする様な何かが秘められていた。
「それに、今は貴方にしかできない事がある。まだ麟は動けないからね。医者として、彼女の護りをお願い」

 

暫し険しい表情を浮かべていた永淋だったが、疲れた様に息を吐いた。
「……わかりました。でも無理だけは絶対にしないでくださいね。お願いですから」
それは従者としての心からの願いだった。輝夜姫は頷き、
「大丈夫。傍には主人公や月照がいる。少し、あの男を伏してくるわ」

 

「このゲッショー、全身全霊を掛けて御守り通す所存にござる」
ここで管巻いても仕方ない。さっさと面倒を片付けよう。

 

「ね?」

 

「……では、何かあれば此方に御戻りください。治療器具は持ってきましたので回復程度なら済ませられます」
「ありがとう。……じゃあ、少しいってくるね」
「御幸運を」

 
 
 
 

ところでドウマンの行き先とやらはどこに?
「オロチを制御するために作られた剣……『十握剣』は、永遠亭の宝物庫に保管されているわ」
言った矢先に、魑魅魍魎が立ちはだかった。
ゲッショーは出会い頭に袈裟斬りで斬り伏せ、
「では、目指す先は其方にござるか!」
輝夜姫は七色の弾幕を飛ばしながら、
「そういうことね!」
それらを薙ぎ倒しながら、一行は先へ先へと突き進む。

 
  • 大規模戦闘
    Burning My Soul
    勝利条件:目標ポイントへの到達
    敗北条件:いずれかのキャラの戦闘不能
     
    マップを移動中、特定の場所に到達するたびに発生する。全部で3回。
    戦力は主人公、ゲッショー、輝夜の三名の1ユニット。
    対する敵はドゥーム族、ゴースト族、スケルトン族、エレメンタル(火)。
    3ターンごとにその中からランダムに1~3ユニット出現する。
    幾ら倒してもキリがないので敵と積極的に戦うよりは、勝利条件の達成に拘った方がいい。

邪の突き詰め

宝物庫の前。
湧いた魑魅魍魎を蹴散らし、その扉へと至る。
目の前に、巨大なナラカが扉を守護するかのように立ちはだかっていたが、
「かっ飛ばせ蓬莱山!」
ナラカ目がけ、輝夜姫が何かを蹴り飛ばす。

 

きゅるりきゅるりと、殺人的な回転速度を加えられ、ナラカに迫るそれは、赤い風船に鬼のような顔が貼りついたような姿をしていた。

 

それは道中にて一行を阻んでいたモンスターの一体だった。

 

内部に可燃性のガスを溜め込み、衝撃なとで破裂する生きた爆弾。

 

ボムである。

 
 

必殺シュートと化したボムは、ナラカの頭部にハードヒット。
激突のインパクトにボムが膨れ上がり、
直後に、扉ごとナラカの上半身が爆風に吹き飛ばされた。

 

ナラカくん ふっとんだー!

 

残りの下半身がくたりと膝を着き、そのまま地面に崩れる。
うんうん、と輝夜姫は扉に開いた風穴を見て、
「……弁償モノね、これは」
こうなってしまったのも、全部ドウマンって奴の仕業なんだ……!
「なんと、それは真にござるか! ドウマンとやら、最早許して置けぬ……!」

 

「貴様らの仕業だあ――!」
風穴からドウマンが血相を変えて飛び出した。
その手には両刃の刀が握られている。成程、あれが十握剣か。

 

「……ねぇ、今の言葉聞こえた?」
聞いてない。
「何か言ったでござろうか」
「うんうん。……私のログには何もないわね」
「きィさまらァあ――ッ!!」
ドウマンの血圧が上がった。

 

「……あの時もそうだった。どこまでおちょくれば気が済む、輝夜姫よ……!」
ドウマンが吼えた。
「我が、力を求め、この様な姿に、魔道に堕ちたのは……!」
「……私のせいなのでしょうね」
その言葉に、一瞬空気は揺れたように思えた。
「一目、その御身に触れたいとただそれだけを願い、それに相応しい立場となるように、力と名声を得た!
しかし貴女はそれに対して、何を与えた? ……【追放の命】だ! その為に犠牲を払った、血に染めたと、ただそれだけでだ!
なんのために、人の姿を失ったと……!」
怒りに震えたドウマンが、主人公達に指を突き付けた。
「……貴様達は知っているか! この娘が過去の犯した大罪を!
我は聞いた! 過去に発生したオロチの暴走の原因が、この女の気紛れだということに!
そうとも、貴様こそ、貴様に関わった遍くモノを破滅へと陥らせる! まさに罪人よ……!」

 

輝夜姫は糾弾を前に、何も語らない。悪意を真っ向から受け止める。
そして、
「……それがどうしたでござろう」
ゲッショーが静かな怒りを以て返した。
「なるほど。姫が否定を述べぬという事はオロチとやらの暴走に関わっていたという事にござるか。
しかし拙者、姫の苦悩を知った上で姫に剣と魂を捧げ忠誠を誓い申した。他のやぐうども同様でござる。姫への忠誠は心根を知った上での事!」
「き、さま……! 知って尚も、その罪人に加担していたというのか……!」

 

「くどいっ!」

 

「こうなった事情に姫に原因がある?
そこに至るまでに、姫が関わっていたとしても、魔道に堕ちたのは紛れもなくお主自身の意思にござろう。
己を恥じるならともかく、憎しみの矛先をすり替えるとは、一体どういった御了見か。
――お主が犯した悪行の責任までを姫に求めるな! 先程から見苦しいにも程がござるぞ……!」

 

同じく。愛されない馬鹿が、馬鹿な事をしただけだろう。
棚上げもほどほどにしてくださいますか? ストレスが溜まるんで。

 

「私の事は別にいい。憎まれ口を叩かれるのも、憎しみを向けられるのも。そうされるだけの理由はある。
でも、貴方は面識の無い筈の麟を巻き込んだ。ただ、封印した者の曾孫……冴月という理由だけで。
……大怪我の一つでも負って貰わないと、割に合わないわ」

 

「ぎいぃ……さまあァアァ……!」

 

「冴月、冴月か! 滅んだ一族に延々と現を抜かすとは滑稽の極みよ!
……よかろう! オロチ服従の前に、貴様らを血祭りに上げてくれるわ……! あの冴月の小娘と同様にな!」

 
  • 大規模戦闘
    ハートブレイクコロリン
    勝利条件:敵の全滅
    敗北条件:主人公の戦闘不能
    備考:5ターンごとにドウマンが怨霊を1ユニット召喚する
     
    敵はデーモン族のドウマンが一体。その周りをエレメンタル(火)NM「怨霊」が単体で2ユニット配置。
    その前にはゴースト族とドゥーム族がそれぞれ単体で3ユニット。計9ユニットとなる。
    全体的に強くはないが、ドウマンがNMを呼んでくるので地味にうっとおしい。
    早めに敵の壁を潜り抜けて、ドウマンを倒しておきたいところ。
 

「おのれ、おのれぇえぇ……! かくなる上はぁあぁ……!」
ドウマンが手に持った十握剣を振り上げた。たちまちのうちに、輝夜姫の表情が一変する。
「……!」
ドウマンは輝夜姫をねぶる様に嗤い、
「この永遠亭は、ひんがしの国の中心……そして四方に散った龍穴の内、一つはこの地の真下に位置している……! そして、我が手の内にはオロチの制御装置が……!く、くくくくくっ! これが何を意味するか、わかるなぁ! 輝夜姫ェ!?」
「……また、オロチを安寧から引きずり出すつもり!?」
何だと……!?
「くくくく、お前達の運命は我が決める! オロチの制御の成否に関わらず、滅びへと決まっているのだ……!」

 

「……っ!」
止めようと、ドウマンの下に疾駆するが何もかもが遅かった。
振り上げた剣の切っ先が、床に叩きつけられる。

 

突き立てられた十握剣を中心に、空気が波紋状に震えた。

 

「我の声を聞けェ、オロチィイ! 我に力を与えよ! この愚か者どもを、滅ぼす力を!」

 
 
 

果たして、真下から声が聞こえた。
それは中性的な声音で、

 
 

――わかった。

 
 

直後に、ドウマンの元に答えが届いた。

激情の最果て

『それ』本来の意識はこの地に眠っていた。
ゆえに、目が覚めても何が起きたのかすぐに把握できる。

 

だから『それ』は、それまでのやり取りを見ていた。

 

『冴月、冴月か! 滅んだ一族に延々と現を抜かすとは滑稽の極みよ!
……よかろう! オロチ服従の前に、貴様らを血祭りに上げてくれるわ……! あの冴月の小娘と同様にな!』

 

冴月が死んだと。
あの不快な気配が、この手で血祭りに上げたと。
では、あの時見た冴月が地面に倒れていたのは……。

 

嘘だ、そう思った。
約束した、あの時、約束したではないか。
与えられた冴月の姓に誓って、覚え続けると。

 

その為に死ぬ事を止めたではないか。

 

そんな、
そんな……。

 
 

悲しみが『それ』の意識を塗りつぶした。
虚無が、心に穴をあけていた。

 
 

どれほど呆然としていたのか、
『それ』の感情を無視するかのように声が直接意識に聞こえてきた。

 

『我の声を聞けェ、オロチィイ! 我に力を与えよ! この愚か者どもを、滅ぼす力を!』

 

あの、不快な気配のもの声だ。
冴月を殺したと、得意げに嘯いていたものの声だ。
己と冴月の約束を破らせたものの声だ。

 

心がふつふつと燃え滾った。
穴があいた意識が怒りで埋まった。
霊獣達がおかしくなってから『それ』に溜まっていた黒い澱が、怒りに蠢く。

 

許せなかった。

 

約束が破られた事が許せなかった。
己の支えが、全て失われてしまった事が許せなかった。
何より冴月が、絶えてしまった事が許せなかった。
それなのに、なにも変わらない全てが許せなかった。

 

気配は、『それ』を縛る為に作りだされたモノを通じて、『それ』に声を届かせていた。

 

「従え」と。
だから、『それ』は声に応えた。

 
 

――わかった。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
――殺してやる。
 
 
 
 
 
 

わかった、と。
地面より漏れた声を聞き、ドウマンの顔が喜色に染まり、

 
 

直後、その足元に竜の顎が現れ、ドウマンを丸呑みした。
そのまま咀嚼し、地面に引っ込む。
後には、黒く汚れた十握剣が床に突き刺さっていた。

 
 
 

「……」
余りの事に呆然とする一行。

 

「おい、輝夜……!」

 

響く声がそれらを現実へと引き戻した。
声を掛けたのは、妹紅だった。
血相を変えた妹紅が、永遠亭へと飛び込んできたのだ。

 

「も、」
妹紅と輝夜姫が言うよりも早く、
アレはどういう事だッ!? お前、またやらかしたのか!?
「え……どういうこと?」
それを聞き、妹紅が舌を打つ。

 

「外を見ろ。あの時と同じ……いや、見る限りもっと悪い……!」

 
 
 

「オロチが暴走している!」