シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント。
境界線上の悪魔
剣の墓標
氷の峡谷を進むフランと主人公。
道中、幾度となくモンスターが襲いかかってきたが上手いこと退け、サクサク進む。
「ごめんね、足引っ張っちゃって……」
包帯を巻いた手首を抑えて気弱そうにフランは言うが、利き手が使えないだけで魔法といったものは十分使える。
自分一人で戦うよりはずっとよかっただろう。
「うん……ありがと」
そうしてしばらく歩く。するとフランが急にもじもじしだした。
……どうしたのだろうか。一瞬、雪隠を所望しているのかと思ったが、口に出すと命に関わりそうなので自愛。
「実はね……?」
うん?
「憧れてたんだ。誰かに護って貰えるってこの状況に。
いつもわたし、ひとりで戦う事が多いから、誰かに守られたり、助けられたるするって、あまりなくて……」
だからかな? と呟き、はにかむ。
「なんだか嬉しい、な」
……何だ急にデレてきた。
「で、デレてなんかないよ? 思った事を口に出しただけだし……」
はいはい。
「……むぅ」
むくれていたが、フランはふと何かに気づいたように彼方を見やる。
主人公もその動きに倣う。と、峡谷の氷壁に横穴が覗いていた。
その中に、なにか棒状の様なものが刺さっていた。
「……あれは」
剣……か?
近づいて確認してみると、それは確かに剣だった。剣が墓標のように地面に突き立っている。
相当な時間の経過が立っているのか刀身はボロボロで、その上で霜がこびりつき、カチカチに凍りついていた。
「なんでこんなところに? 」
もう少し近づいて、調べてみる。よく見ると剣には、何かの文字が刻み込まれていた。
刻まれた文字は剣の銘か、それとも所有者の名前か。
えーと、Ra…g…im… ラ…グ…イム ……
読みとろうと試みるが、文字の溝が凍りつき、削ぎ落されていて上手く読めない。
「え……」
しかし、文字を見ていて何かに気づいたようにフランが絶句した。
どうしたのかと尋ねてみたが、
「……な、なんでもない。それよりも、先に進みましょう!」
そういって、先に行ってしまった。不自然な動きに思わず困惑が生じる。一体どうしたのか……。
あかいあくま
歩き続けてどれほど経ったのか。
やがて向こうに光が漏れてきた。この長い境界線の出口が見えてきた。
……ようやくゴールが見えてきた。安堵して先へ進もうとした。
「……そこまでだ」
……進もうとした矢先に声が阻み、黒い影が出口の横から現れた。
黒い影は血を浴びた様な深紅の皮膚を持ったデーモン。手には同様に真っ赤な片刃の剣が握られている。
その背後には、同様に深紅に染まったドラゴンが何体も並んでいる。その並びは軍隊の様な整然とした規律ある形。
デーモン同様、白い大地に立つその真紅の姿は強烈な印象を抱かせる。
その姿を見、フランが眉尻を持ち上げた。
「……引き連れているのは……ダハク。……とすればあいつの飼い犬部隊?」
フランが低い声で呟く。その呟きに深紅のデーモンが答えた。
「……いかにも」
そして恭しく一礼。
「親衛隊が一角、闇魂軍団の団長を務めるシャドウソウルと申す」
……すっげえ厨二臭がすると感心するがどこもおかしくないな。
その独り言を聞かれたのか、シャドウソウルと名乗ったデーモンは静かに頭を垂れた。
「ああ……よく言われる」
言われるのかよ。
「……デーモンの顔なんてみんな似たようなものだし。名前だけでも個性が欲しいんじゃないかな? 厨二属性でもいいから」
フランは早口に吐き捨てる。シャドウ某が顔を苦く歪ませ、グッグッグと笑う。
「……手厳しいものだな」
「当然、真名は別のところにあるが……王の麾下に付いたゆえ、敢えて名を隠している。真の名を明かせぬ無礼はお許し願いたい」
「どうでもいいです。いいからさっさとどいてください。早くしないと指を一本一本ペンに加工して店に叩き売るよ?」
……さっきからフランさんが怖いでうs
「……話には聞いていたが想像以上に破天荒だなフラン嬢。
しかし、父君に刃を向けるのは些かおいたが過ぎるのでないか?」
……父君?
疑問の声を上げると、シャドウ某が首を傾げていた。
「知らずに付いていたのか。人の子よ。否、知らないから付いているのか?」
勿体ぶんな。気分が悪い。
「……機嫌を損ねたか。なら正直に話すべきだろうか。
ならば知っておくといい。ヴァルハラの土産には十分だろう……」
その途端、フランの顔色が蒼白に染まった。
「我が主君である王には二人の娘がいた。父である闇の王の魔力を受け継ぎ、魔族の中でも特に強い力を秘めた双子の姉妹だ。
しかし……十年以上前になるか。
王の思想に異議を唱えた彼女らは袂を分かち、我らの下から姿を消した。
……彼女達を呼び戻そうと試みる者はいたが……その者達の末路は一様にして躯を晒すか行方をくらますか。……どちらにせよ好ましいものではない。結果的に双子は半ば敵対勢力とみなされている。
……その姉妹は吸血鬼の属性を持ち、姉方は蝙蝠の巨翼を、妹方は七色の羽根を持っていた」
!
「……やめて」
フランが消え入りそうな声で訴える。
「……理解したか、人の子。貴様の隣にいる者が何者なのか」
「……やめてったら」
フランがもう一度弱弱しく呟いた。
シャドウ某は訴えを無視して、声のトーンを上げる。
「……そうだ。貴様の横にいる者こそ――」
「……やめてよ!」
「我が主、闇の王の娘君が片割れ……フランドール・スカーレットその人である……」
「……う、ぁあ……」
知られてしまった。自分が闇の王の娘だと。
一番自分と近しかった人間でさえ……サクヤだって知らなかったことを。
厭だ、とフランは思った。
嫌われてしまう。
鎧を脱いだこのわたしの姿を見ても、嫌わなかった目の前の人物に、嫌われてしまう。
わたしは吸血鬼の生まれで、人間と敵対する獣人の中で育った。
なのに、わたしは人間に悪感情を抱いていない、姉も似たようなものだけど、わたしはもっとひどかった。
姉は喧嘩を売られれば人間悪魔神様容赦なく殺しにかかるけど、わたしにはどこまでいっても人間を嫌う事が出来ない。
理由はわたし自身が自覚している。
昔見た絵本の中で見た「わるいまものをやっつけておひめさまをたすけるはくばのきしさま」
その一枚絵を見た時に、ふと思ってしまった。
純粋に、かっこいいなと。わたしもあんな人に助けられたいと。
人間は弱っちくて愚かな生き物だと散々言われた。悪魔やドラゴンは人間よりもずっと強くて賢い。
でも、強い筈の彼らがあの絵本のおうじさまになったとしてあれほどに輝けるのだろうか?
弱っちい筈の人間がどうしてあんなに輝けるんだろう。
色々考えて、たくさん絵本を読んで、やがて一つの夢を抱くようになった。
「このおひめさまになりたい。にんげんのおよめさんになりたい」
そう姉と両親の前で言ったら、顔面に迫撃砲を喰らっても平然としそうな父親が仰向けに卒倒して、それを見た姉と母は窒息寸前まで笑い転げてしまった。
らんしんだーいもうとさまがらんしんあそばれたーと騒ぐ父親の部下を見て、何がおかしいんだろうと首を傾げたものだった。
子供の夢。それでも、この淡い夢は自分にとっては大事なものだった。……今になっても。
でも、自分の姿を見た人間の反応は両極端なものだった。好奇か嫌悪か。少なくとも自分をまっとうに見る者はほとんどいなかった。
だから、鎧を纏った。誰にも正体がわからないように。
鎧の姿を見て怖がる人もいるけど、それでも人外の姿よりはずっとマシな反応だった。
いつのまにかその状態に甘んじていた。
人間ってそういう生き物なんだなーと思ってもそれ以上は嫌えなくて、そして人間を嬲っている同族の姿がすごい嫌で。気付けば剣を振っていた。
多分自分は狂っている。狂気に囚われている。
狂気が鎧を着て歩いている様ないきものなのだ。そう考えて生き続けていた。
それでも、主人公の反応を見て一瞬、考えてしまった。
こんな風に見てくれる人がいるのなら、もう鎧を纏わなくてもいいんじゃないか、と。
でも、また嫌われてしまう。こうして、正体どころか、素情すら知ってしまった以上は。
嫌われてしまう。
……で?
「……え」
「何…?」
そう言うと、シャドウ某はおろか、フランもポケーッとした表情でこっちを見つめてきた。
今の勿体ぶった台詞とそれとこれと今とどう関係があるのか。
知り合い自慢ですか。馬鹿ですか。それとも内輪ウケかなにかですか貴様。10秒以内に二百文字以上述べる様に。
さん、はい、10・・・9・・・
「な……!?」
8・・・7・・・ ヒャア がまんできねぇ0だ!
そんなことこっちが知るか! そんなことこっちと関係あるかぁ!
赤鬼の真っ赤な顔面目掛け、顔面真っ赤にして思いきり怒鳴りつける。当の赤鬼は予想もつかぬ反応に面喰う。
「……意外だ。掌を返すと思ったのだが」
お前が思うならそうなんだろう。お前ンの中では。
正直、闇の王の娘だとか言われてもピンとこない。フランにあのごついバケモンの遺伝子が入っているとか全く想像もつかない。
……しかし、フランの反応から、それは本当の事なんだろう。
それでも、敵の親玉の娘だとしても、フランは少なくとも自分の味方だ。
力を貸してほしいと、あの時フランはそう言って頭を下げた。
あの時の声音と態度に一切の悪意はなかった。
誰かに助けられたり、護られたりすることがなんだか嬉しい。そう言った。
あの時の表情に嘘偽りはなかった。
自分はフランの心根が本当のことだと信じる。
だからはっきり言う。
今この時点ではフランはPTメンバーの一人なんだと。
というか、
『人間なんて馬鹿だから事実を言えばすぐに掌返して同士討ちするだろw』って感じに確信しきった、
こいつの言い草と性格が心底、心底気に入らない。
だからぶっ飛ばす。右ストレートで殴っ血Kill!
あんまり人間舐めんな……!
「……」
フランは主人公の言葉を聞いて、暫し呆然としていた。
自分を仲間だと言ってくれた、その一言に頭が真っ白になって。
ぽつんと胸の奥底が暖かくなったような気がした。
それは暖炉に放り込まれた種火だ。
そこへ、『仲間と言って貰えたことへの歓喜』という薪が放り込まれる。
ありのままの自分を受け入れてもらえた。
その事実がフランの心中を熱く滾らせる。喜びで燃やしつくす。
「あはっ」
仲間だと、そう言われた。
ありふれた言葉かもしれない。言った本人にとっては何気ない一言なのかもしれない。
それ以上の特別な意味なんて持っていないかもしれない。
それでも、それでも、だ。
そう言われることの、なんと嬉しいことか!
「あははははは、ははは……!」
だったら自分も、わたしも応えよう。仲間として、PTメンバーとして、何をすべきか。
その役割を。
(楽しいな)
仲間の力になれる。そう思うと、自然とそう感じられる。
こんな楽しい気分になったのはいつの日以来だろう?
だから、
「頑張ろう」
主人公に仲間だと誇ってもらえるように、主人公の仲間だと誇れるように。
「頑張ろう……!」
利き手に巻いていた包帯を掴み、毟り取る。まだ治り切っていない傷が冷たい空気の下に晒された。
その状態の利き手で両手剣を、愛用の剣を振う。痛い。傷が激しく痛む。だけれど、
いける、問題なく使える。そう思った。
もう足手まといにはならない。
フランが剣を構えた。
しかし二名だけでは今の状況を切り抜けるのは少し難しいかもしれない。
敵を見れば、ダハクが6体程度。そしてその戦闘には深紅のデーモン。……おそらくは相当な手練だろう。
追撃とばかりに、此処は狭い峡谷の一本道だ。
……一本道?
……フランさん、フランさんや。
(いきなり小声で、どうしたの?)
ちょっと気が付いた事があるのですが。
(?)
此処は狭い峡谷の一本道なんだが……あの山斬って雪崩起こした馬鹿長いの、使えるかい?
(使えるけど…… あ)
気付いたようだ。
「……我が背後には闇魂軍団の貪龍達が控えている。そして目の前にはこの私、闇魂軍団長のシャドウソウルが。
……主との戦いで傷ついた貴女一人にどこまでできるのか?」
「違うよ」
「……何が違うと?」
「わたし一人だけじゃない、主人公もいる。一人じゃなくて二人」
シャドウ某が失笑した。
「……馬鹿馬鹿しい。たった一人の違いではないか!」
侮蔑の嘲笑を受けても、フランの笑みは崩れない。むしろ……
「ねぇ、シャドウ某」
笑みが深まっている。
フランは愉悦の笑みを顔いっぱいに浮かべて、
「闇の王の娘、わたしの事をそう言ったのは貴方だよ? それがどういう意味なのかわかっているんだよね?」
フランがシャドウ某に向けて剣を突き付けた。そしてその刃に灼熱が宿る。闇の王から受け継いだ魔力が生み出す火炎が。
その瞬間、シャドウ某の顔色が一変する。
「主人公、後ろへ!」
その言葉を受けた主人公が反射的に飛びのき、
「禁忌――――」
「『レーヴァテイン』!」
フランが宣言と共に煉獄を解き放った。
今宵火の遊びを!
ほぼ一本道の峡谷を炎熱が駆け抜け、シャドウ某と、その背後のダハク達を呑みこみ、焼き尽くす。
「……ぐぅうがあぁあっ……!」
全身を焼き焦がされ、激痛にシャドウ某が吼えた。その深紅の皮膚は熱に焼かれ炭化し、黒く爛れている。
6体以上は居たダハクの群れも、先程の一撃で壊滅状態……いや、残り一匹になっていた。
それに耐えたシャドウ某は大したものだと褒めるべきなのだろうか。
「き、貴様ぁぁああぁ……!」
まぁ、思うに●<多対二とか卑怯じゃね? だからこれでイーブンなのは確定的に明らか。
それ聞いて嬉しそうにフランが羽根をピコピコ動かしてぴょんぴょこ跳ねる。
「さぁ、楽しく遊びましょう主人公! 肩を並べて! 一緒に! 今宵火の遊びを! もっと、もっと、もっと!」
- VS.闇魂軍団
♪Grip & Break down !!
勝利条件:敵の全滅
敗北条件:ユニットの戦闘不能
こちらが操作可能なユニットは主人公とフランのみ。
シャドウソウルは言わずもがな、ダハクはかなり強敵の部類。
しかし、戦闘前のレーヴァティンで敵のHPが5割から7割程度持ってかれており、更にステータスが大分弱体化している。
ただしシャドウソウルはデスを使い、即死を狙ってくるので油断はできない。
闇属性に耐性を持ち、アンデッドゆえに即死を無効化出来るフランをぶつけ、主人公はダハクを相手にしよう。
弱体化しているため相手がNM級とはいえ決して勝てない戦闘ではない。むしろ戦い方さえわかっていれば勝つのは簡単。
「…………馬鹿、な……」
その言葉を最後にシャドウ某は崩れ落ち、息絶えた。
「ね、主人公」
無茶をしてまた痛めたのか、利き手側の手首に手を当てながらフランが話しかけてきた。
一息を吸って。
「……あの時『信じる』って言ってくれて、ありがとう」
絶対に忘れないから、そう言葉を続け、微笑んで見せた。
鮮やかなチューリップの様なとびきりの笑顔だった。
「……それだけ。さ、行こ。もうすぐ出口だよ」