イベント/夜闇の目覚め

Last-modified: 2012-01-30 (月) 09:15:01

シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント。


夜闇の目覚め

「蓬莱の国、不死の軍団」をクリアしている。

闇に蠢くもの

ひんがしの国のとある場所に、一つの祠がある。
時の流れに古ぼけ、苔むした小さな祠だ。その周りには草木が覆いの様に祠を隠す。
場所も人の流通から遠く離れた山地の奥。

 

そして、その祠の中はどこまでも暗かった。
時刻は時既に夜。それを踏まえてもあまりにも暗い。

 

闇。
黒一色の闇だ。

 

その闇の中に音が響く。

 

「……刻、きたれり」

 

声だ。
皺枯れ、擦れ、呻くように響く不快な声。その声は一つではなく、幾つも在る。
声は呪いを込め、闇の中に鬱々しく響き渡る。

 

「愈々、忌々しき奴の封印も消え失せる……」
「……幾千の夜をあの狭き暗い闇の中で数えたことか……」
「人の子の一生は短きものよ……憎き奴も年老いてもはや生きてはいまい」

 

そう。

 

「「「……我らに抗う者なし」」」

 

声が重なり、

 

直後、閃光と共に祠に稲妻が降り注いだ。

異変の前兆

幻想郷在住の半妖・冴月麟に一つの手紙が舞い込んできたのは、主人公が幻想郷を訪れ、彼女の家を訪問していた矢先のことだった。

 

「ひんがしの国……輝夜姫様から、ですね」
お茶会の案内でしょうかなどと暢気に口ずさんでいた麟だったが、その文に目を通すにつれ、表情が暗くなる。

 

手紙を読み終えた麟は、辛さを吐きだす様に息を吐き、
「……ひんがしの国で、良くない出来事が起こっているようです」

 

堕落した麒麟の一件以降、麟の下にたまに依頼が来るようになっていた。
その内容は悪霊退治のようなものが大半だった筈だが。

 

「過去に封じられた悪鬼が蘇ったと、そう文には書かれていました」

 

過去に封じられた……?

 

「はい、数百年以上前に悪事を働いていたという三体の魔人です。
様々な悪事を働き、多くの人を苦しめてきたそうですが、姫の命によって動いた退魔師によって追い詰められ、
しかし、滅ぼすことはできず、そのまま封印されたそうです。
……そして、その封印を司ったのが、冴月の一族……私の曽祖父です」

 

待てい。数百年前の曾祖父って……そうなると麟の年齢は……
三桁からは数えてません。半妖なので、ある年齢からは外見がほとんど老化しないんです」

 

どっかの人外ロリはのじゃのじゃと言ってるというのに……この違いはどうしたことか……!

 

内心、呆然としていた主人公を見つつ、麟は俯いて小さく、しかしはっきりと呟く。
「どうにも、一族の過去の清算を行う時が来たようです」

冴月揺蕩う

ひんがしの国の夜は月が美しい。
されど、今夜の月には厚い雲が幾層にもかかり、月を隠さんとする。
さらに言えば今宵は新月だった。

 
 

そして、その暗い夜の闇を走る影が幾つか。

 
 

影は、鬼のカタチをしていた。

 

影の一つが皺枯れた声で叫ぶ。
「……矢張りだ。現世の空気ほど芳醇なものはない」

 

それを受け、別の影が擦れた声で、
「素晴らしいモノだ、素晴らしい」

 

そしてまた違う影が呻くような声で、
「……後にはニンゲンの血臭があれば、だ……」

 

「……無いか」「無い」「……無いのか……」

 

影の視界に、明かりが見えた。
町だ。ニンゲンの気配がする。ニンゲンのニオイがする。あれはニンゲンの町だ。

 

「……為らば、作ろう」「血を、肉を」「……我らの諸手で……」

 

「……生もう、血の海を」「血祭りにあげよう、ヒトを」「……そうしよう……」

 

そして、頷きの気配を以て
「「「そうしよう」」」

 

影が更に夜の闇を加速した。

 
 

明かりが近づいてくる。どんどん近づいてくる。
もうすぐ、もうすぐ。

 

そして、

 

影の動きがぴたりと止まった。

 

「……?」「?」「……ナンダ……?」

 

「……おかしい」「これは」「……何かおかしい……」
影はきょろきょろと首を振り、怪しむ。
「……嫌な気配がする」「もういない筈の気配だ」「……死んだ筈のモノの気配だ……」

 

冴月の人間の気配だ」
途端、影の足元に巨大な太極図の陣が描かれ、
「「「!」」」
飛びのいたのを同じく、太極図の陣が猛烈な光を起こした。
影は放たれた光に体を焼かれながらも、抜け出て体勢を取る。

 

「……今の結界……冴月の人間か!」「冴月の家系は、絶えたのではなかったのか!」「……聞いていた話と、違う……」

 

「何の話です」
三つの影の背後に、冷やかな声が響いた。影が勢いよく地面を跳ね、飛びのく。

 

影に攻撃を仕掛けた、声の主・冴月麟は三体の影、封印されていた筈の魔人の姿を見て、表情を引き締める。
「……貴方達は、自ら封印を解いたのですか?」

 

「……言う必要があるのか」「無い」「……どこにも無いな……」

 

「……そうですか」
麟が剣を抜いた。
「先程の通り、私は貴方達に結界を脱出されてしまう程度に未熟ですので、簡単に封印とはいきませんね」

 

「ですから、少しだけ荒っぽくいきます」
その言葉を聞いて魔人達が笑った。
「……見るところ、我らを封印したあの者よりも劣る貴様がか」「これは滑稽」「……羅刹、餓鬼よ。なれば……」
「……応、思い知らせてやろうぞ」「おうとも、後悔させてやろうぞ」

 

そして、目の前の小娘をバラバラに引き裂こうと疾走する。

 

勝負は一瞬だった。

 

「……封印ができない以上、滅ぼすしかない。剣の腕に自信があったのが幸いでしょうか」
在る者は胴を絶たれ、在る者は心臓を突き抜かれ、在る者は五体を裂かれ。
形の在りようは異なれど、結果的に魔人達はあっけなく地に伏していた。

 

「滅んでいたと聞いていた冴月……そして、この有様は……」
「若しや我らは……謀られたと……いう……のか……」
「……おのれ……ドウ……マン…………」

 

「……え」
麟が声を上げる。
しかし魔人達はそのまま青白い炎を上げ、やがて夜の闇に溶けていった。

 
 

「ドウ、マン……?」

 

困惑する麟の背後の空気が揺れた。
「っ!」

 

振り向き、絶句する。
視界の先、闇の奥。闇を溶かし、這い出てくるようにそこから何かが姿を現した。

 

「これ、は……!?」

 

それは巨大な影の塊だった。視界に収まりきらないほど大きな、まるで山の様な影。
塊から八つの紐の様なものが突き出てうねうねとうねり、喘ぐ。

 

「……っ!」
抗いがたい怖気を感じ、麟が反射的に剣を構える。

 
 

そして――

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

翌日、主人公の下に血相を変えたゲッショーが姿を現した。
どうしたのかと眼を白黒させる主人公に、ゲッショーが口を開いた。

 

ひんがしの国へ魔人の退治に赴いた麟が重症の状態で見つかり、今現在危篤の状態にあると。