イベント/太陽の騎士

Last-modified: 2013-07-14 (日) 14:50:40

シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント。


太陽の騎士

朝のサンドリア王国。
この時刻には王都中を朝靄が漂う。
顔を見せた陽に照らされた朝靄は宝石の粒のように輝き、王都を神秘的な雰囲気に彩る。
早起きは三文の得――東方の諺でそう評される程度には良い景色である。
国を守る騎士ならばともかく、市井の身で早起きをするものがそう多くないのも事実であるが。

 

そんなサンドリア王都の城壁と外部をつなぐ門。
その付近で何やらざわめきが波紋のように広がっている。
数人程度が集まって、何事かと騒いでいるのだが、朝靄漂うこの時間には十分すぎるほど目立つ。
ざわめきに気が付いた主人公がこれは何事かと尋ねると、集まりの一人が「それが…」と眉を顰めて、道を譲る。
促されるがままに集まりの最前線へと進むと、主人公は道を開けた人物に近しい表情を浮かべた。
進んだ先には、一人の男が五体投地の体勢で道端に身をさらけ出し、倒れていた。

 

奇妙な風体の…盾と直剣を握ったまま倒れていることから、騎士といってよいだろう男だ。
羽根飾りが付いたバケツのような形の兜を被り、身に纏った鎧には珍妙なタッチで太陽が描かれている。
立派な武具さえ身につけなければ道化師と見まごう風体に数秒ほど目を奪われていると、
ビクン、と騎士の身が急にエビのように跳ねた。

 

力尽きた冒険者だろうかと訝しみ、神殿騎士団辺りを呼ぼうかと相談していた数人が、ぎょっと退く。

 

「……た」

 

バケツ頭からか細い声が聞こえた。どうやら死体ではなかったらしい。
生きているならば話は別である。まんじりとしてはいられない。
主人公が近づき、屈んで声をかけると、騎士は主人公に力なくしがみ付いた。
震える手からは今にも力が抜けそうだ。

 

どうした!  しっかりしろ!

 

再び、声をかけるが、騎士は声を漏らすばかり。
何を言っているのか聞きとるために、主人公は騎士の間近まで耳元を寄せることにした。
そうしてようやく聞えた言葉は、

 

「……腹が、減った…」

 
 

騎士は行き倒れであった。

 
 
 

「上手い! 斯様な珍味を味わうのは初めてだ!」

 

豪放磊落に笑いながら、男が慣れない手つきで箸を繰り、懐石料理を胃の中へと放り込んでゆく。
呵々大笑ともいえる豪快な笑いに負けぬ食べっぷりに、板前や亭主も呆れかえる様だ。
あまりにも詰め込むと腹を壊す、そう忠告しようとしたが止めた。
愛嬌がある顔つきの偉丈夫――行き倒れていた男は相当空複に苛まれていたのだろう、出される料理を乱雑ではないが豪快に食べる。

 

結局、自ら首を突っ込んだ上で助けを求められた以上、無碍に扱う訳にも行かず、
主人公は騎士を白玉楼へと連れていくこととなった。
駆けこむが早いか店主の幽々子に事情を話し、簡単なおつまみを頂いたのだが、ここまで気持ちよく食べる様を見ると、いっそ笑みも浮かぶというモノだろう。実際に幽々子も微笑みを嬉しそうに湛えている。

 

「いや、久々に食べたもので歯止めが効かなくなったようだ。
 見苦しい姿を見せてしまい、失礼した」

 

アイデンティティといえる代物なのか、珍妙な兜を被りなおした男は自身をソラールと名乗った。
「太陽」を探し求めて旅を続け、今はネ・ジツ大陸を放浪しているのだという。

 

「太陽…?」

 

幽々子と妖夢が不思議そうに首を傾げた。主人公が思わず空を仰ぐが、天井しかない。
それを見たソラールは快活に笑った。

 

「そう、『太陽』だとも。
 空の上の太陽が、俺たちをあまねく照らすように、
 俺は俺自身にとっての『太陽』を探しているのさ」

 

太陽。
曖昧な表現だが、彼にとって探さなくてはいけないものなのだろう。
彼のヘンテコな格好も、太陽を好むあまりに行きついた結果か。
それは荒唐無稽な印象を助長させるが、不快な印象は抱かせない。
むしろその子供のような無垢な瞳は、童心を忘れない夢追い人を思わせる。

 

「そうだ、太陽も大事だが貴公には世話になった。何か礼をしなくては…」

 

主人公が言うよりも早く、ソラールは懐からメダルを取りだすと、主人公の掌に押しつけた。
人肌か、じんと温かさが伝わるが、生温かいものは感じない。

 

「あり合わせが無くてな。
 このようなものですまんが、受け取ってくれ」

 

若干困惑した面持ちでメダルを見つめる。
仄かな陽の香りがする以外、なんの変哲もないメダル。
そこに価値を見出せるわけでもなく、生返事をするしかない。

 

「貰っておきなさいな。人の好意は受け取っておかなきゃ損よ?」

 

鈴を転がすように幽々子が微笑む。
確かに迷惑なものでない以上、断るのは失礼だろう。
そこまでいうならば、と主人公はメダルを受け取ることにした。

 

「貴公には世話になった。改めて礼を言うぞ。
 しばらくはこの国を巡ろうと思うが、何かあれば遠慮なく声をかけてくれよ。
 その時はこのソラール、喜んで力を貸すぞ、ハッハッハッハ!」

 

楽しそうに笑うソラールに、「あの…」と妖夢が不安げに声をかけてきた。
その手にあるのは、一枚の紙切れだが――

 

「これ、明細なんですけど…お支払いは大丈夫ですか?」

 

妖夢の言葉を聞いたソラールの笑いが止まった。ステイシス。
そのまま、ソラールは硬い動きで首だけで振り向いた。
妖夢と目線が合い、暫くその状態が続く。

 

「……」
「……」

 

まずソラールが肩をがっくりと落とし、妖夢が額を抑えた。
国を回るのは良いが、まずは食った分を稼がなきゃいけないようだ。
しかし、ソラールはガッと上半身を跳ねあげると、その場に直立した。

 

「まあ、生きているんだ、こういうこともあるだろう。
 なるようになるさ、ワッハッハッハッハ!」

 
 

「太陽万歳!」

 
 

「取り敢えず、皿洗いからですね」
「うむ…」

 
 

…奇矯な人物だな…
ソラールという人物を語るには、まずこの一節から始まりそうだった。

 
 
 

  • 入手アイテム
    「太陽のメダル」
 
  • サンドリア王国にソラールが定期的に出没するようになる。