シナリオ/世界移動シナリオ-SAVIOR IN THE DARK編のイベント
最高の遊び
「獲物は誰でもいいってわけじゃあねぇな」
ドスの利いた声で、狼が唸った。
狼には体がなく、煙のように揺らめいていた。
ビルよりも高く空に浮きながら、地上を見下ろす狼は、最後に月を一瞥するとビルの屋上へ戻った。
「親愛なる狼さん、誰にするか決めた?」
「ああ」
そこで狼を待っていた羊は返事を聞くと、それ以上の詳細を聞くこともなく、弓を構えた。
矢をつがえていない弓から矢が放たれることはない。
ただ、遠く離れた雑踏を歩く一人の男性の頭上に、青白い渦のような模様が現れた。
周囲の人々にはそれは見えず、本人も同じ。何事もなかったかのように歩を進めた。
作業を終えた羊は、煙の狼を引き連れてビルから飛び降りた。
「あなた、だあれ?」
人目につかない路地裏に音もなく着地した羊に、何者かが声を掛けた。
誰の目にも明らかな超常の存在に?
無論、相手も普通ではなかった。
真っ黒いゴシックロリィタ風の衣装の、幼い少女のように見えるが、こんな時間に一人でこんな場所を出歩いているのは不自然だ。
「子羊ちゃん、こいつは?」
「私は知らないわ、狼さん」
狼の質問に、羊は首をかしげて答える。物知り羊だったんじゃないのか、と狼は愚痴を零した。
黒い少女は悠然と微笑んでいる。
「ただ……いきているもの、ではないわね」
「そうか。この辺は多いからな」
羊の言葉を聞いて、狼は途端に興味を無くした。
「あたしと遊ばない?」
「お嬢ちゃん、俺たちはいきているものとしか遊ばないんだ。じゃあな」
「ざんねん」
そう言う少女の顔は大して残念でもなさそうだった。
「いきているもの、って人とは、どういう遊びをするの?」
「追いかけっこさ」
「おいかけっこ?」
「この世界で最高の遊びさ。勝つのはいつだって俺たちだけどな」
それだけ言い残し、羊と狼は路地裏の奥……いや、闇の中へ消えた。
人の目には闇の中に何も見つける事はできないが、少女にはまるで今でも見えているかのように、じっと闇を見つめていた。