イベント/母、帰る

Last-modified: 2013-12-10 (火) 00:41:26

シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント


母、帰る

シルバーデビル

夜のネ・ジツ大陸。
サンドリアを目指して、主人公が月明かり以外の照明のない道を歩いていると
後ろからか細い声が聞こえてきた。

 

「あのぅ、そこの御人。
 旅の最中に申し訳ありませんが、少しよろしいでしょうか」

 

声がした方を振り向けば、そこには夜にも関わらず日傘を手にした少女がいた。
いや…一見すれば少女のような姿だったが、そいつの背には白い蝙蝠のような翼が生えていた。
白銀の髪、初雪のような白い肌、純白のドレス、そして血のように紅い瞳。
その姿は明らかに人間ではない。警戒しながら少女を見ると、当の本人は驚いたように首を傾いだ。

 

「あ…驚かないのですね」

 

見た目の割に随分畏まった喋り方だなと思い、こういうのにも随分と慣れてしまったなと内心で溜め息をついた。
そんな主人公の姿を見たそいつは「てっきり怖がると思いましたわ」とたおやかに微笑む。
よく見れば、その笑みは自分が知っている女性とどこか似ていた。

 

「? む、あなた…」

 

急に少女が困惑したような表情を浮かべた。

 

…顔にナニカ付いているのか。

 

「あ、いえ… 何でもありません。
 ありませんから、そんなに構えないでくださいな。
 取って食うつもりはないので、話だけでも聞いて下さいませんか?」

 

そう言いつつ、白銀が悠然とした態度でこちらに歩み寄る。
敵意は感じられなかったが、その立ち振る舞いは得体が知れない。

 

「サンドリアという国を御存じですか?
 ええと、娘がそこにいるので、ぜひ立ち寄りたいと考えているのですけども…」

 

娘…?

 

「困ったことに、道がわからず迷ってしまったのです。
 恥ずかしい話ですが、この大陸に離れて久しいものでして…
 …おかしいなあ、レミちゃんから貰った地図、間違ってるのかしら?」

 

…れ、レミちゃん?

 

娘という言葉に、彼女に対する既視感が強まり、先程の発言でいよいよ決定的となった。
…この少女――顔立ちが似ているのだ。あの、レミリア・スカーレットに。
彼女の妹・フランドール以外にもう一人妹がいたなんて話、聞いたことはないが…

 

レミちゃんって…レミリアのことか?

 

そう口走った瞬間、白い少女が目を見開いた。

 

「あなた…やっぱりレミちゃんのお友達?」

 
 
 
 
 

主人公は道中を歩きながら、あの少女と話していた。
外見から予想していたが、やはり彼女は吸血鬼だった。

 

「レミちゃんとフランちゃんにお友達ができたと聞きましたがー
 貴方もその一人なのですね?」

 

歩かず、ふわふわと宙を滑るように移動しながら少女が尋ねる。
どうやらレミリアだけでなくフランドールについても知っているようだ。

 

フランはともかく、レミリアとは友達なんだろうか。
割とぞんざいに扱われているんだけど。

 

「それは付き合いに遠慮がないということですわ、旅人さん。
 形式ばったお付き合いよりも、ずっとずっと親しみあるものです」

 

親しい仲にも礼儀ありということわざを知らないのかよ。
…というかあんたいったい何者なんですかねぇ…。

 

得体のしれないこの人物に向けて、胡乱気に尋ねる。
するとそいつは相好を崩してコロコロと笑った。

 

「あら、自己紹介がまだでしたかー。
 私はメガリス。メガリス・スカーレットと申しますわ、旅人さん」

 

スカーレット。
その姓を聞いて、脳裏に二人の吸血鬼の姿が過る。
しかして、一番驚愕したのは、次の発言であった。

 

「あの子達の母親です♪」

 

母、帰る

 
 
「何で帰ってきた!!!」
 
 

ホッカイドゥのお屋敷に、強烈な怒号が飛んだ。
怒号の主はこのお屋敷に住む吸血鬼の一人、レミリア・スカーレット。
そして、その猛烈な突風の如き叫びは実の母(らしい)であるメガリスに向けて放たれていた。
しかし、鼓膜が吹っ飛びそうな大声にもメガリスは涼しい顔でニコニコ微笑むばかりだ。

 

「ツンデレねぇ、レミちゃんったら」
「今の発言からどうして受け取れる?」

 

これが唯我独尊系吸血鬼親子の会話らしい。
儚げな容姿の少女にしか見えないメガリスと怜悧な麗人であるレミリア。
どちらかというと歳の離れた姉妹にしか見えないのだが…

 

「あぅ、そうそう。レミちゃん、地図の内容間違ってたよ。おかげでお母さん困っちゃって」
「……そう、わざと間違えたのよ。私は今ほど主人公の奴をしばき倒したいと思った事はない…」

 

事情を知らないものとしては大変なとばっちりであった。
そして、それを聞いて「わかってるわよ…」とレミリアは小さく肩を落とした。

 

主人公はそうは思わなかったのだが、先の反応を見る限り、彼女たちの母親は相当厄介な手合いらしい。
悪さをしたり、何かをするつもりは全くないことは道中で理解したつもりなのだが…

 

「私やブロントさん、アトルガンの聖皇、東国の姫、フラン…
 そして母親…どうしてこうも知り合えるのかしらね…」
「…んぅ? レミちゃんったら気付いてないの?」
「あんたは黙ってなさい」

 

そう言うと、レミリアはどこからか「飲んだら即死!」と書かれたヤバげなジュースを取り出し、
有無を言わさずメガリスの口に押し込んだ。
それをゴクゴクと飲みながら、メガリスの態度は崩れない。
……傍目には長女が末っ子をいじめている光景にしか見えないが。

 

「…おいィ? カーチャンいじめるとかちょとsyれならんしょ…
 れmりあもいい加減バカみたいにヒットした頭を冷やせ」
「ブロントさんはわかってないから言えるのよ…」

 

慌てて止めに入るブロントさんとそれを嘆くレミリア。
その間に、ヤバそうなジュースを飲みほしたメガリスがニコニコと割って入った。

 

「…あ。あなたがレミちゃんの良い人ですね? メガリスです」
「俺の名前はブロント謙虚だからさん付けでいいぞ。
 おぜうの溜めにとんずらでカカッっと駆けつけたらしいと感心するがどこもおかしくないな」
「あらあら、これはご丁寧にどうもありがとうございまうs…………あら?」

 

そのまま談話に入る二人を、フランドールとテンシの二人が辟易しながら止めに入る。

 

「…ブロントさん、甘やかさない方がいいよ」
「そうよ、お義兄ちゃん。ただでさえ吸血鬼が2りも居るってのに」
「そんな邪険にしないでくださいな。お土産も持ってきましたのに」
「お土産物? ……へ、へえ。経験が生きたわね」
「嫌な予感しかしないけど…どんなの?」
「パンジェント・ファンガスという一風変わった毒のキノコを…」

 

最後まで言い切る前にフランドールがメガリスの首根っこを引っ掴み、窓の外へ放り投げた。

 

「お、おいィィィィ!?」
「実の親に向かって、ちょっと過激じゃない?」
「全然」

 

直後、光の靄と共にメガリスが先程の位置へと姿を現した。

 

「フランちゃんったら、いつの間にそんなお転婆に…」
「……ほらね」
「……」
「お、おう…」

 

何やら振るやかに騒いでいる一方、サクヤがレミリアの傍に寄って、話しかけてきた。

 

「あのお嬢様…、この方がお嬢様のお母様なのですか?」
「……そうよ」
「闇のお…コホン、ラオグリム様の奥方ですよね?」
「……うん、そうなるわね」

 

複雑そうにレミリアが答えた。
それを聞いたサクヤは言いにくそうに、

 

「失礼ながら……つまり、見た目がちんまい奥方様と、
 ラオグリム様の間にお嬢様たちが生まれた、と…?」

 

その場にいた一同が黙りこんだ。
ガルカに生殖機能はないと聞いたが……ザイド辺りの反応が気になる話題ではある。

 

「……気にしない方がいいわよ」

 

レミリアはため息をついて、メガリスに視線を向ける。

 

「それより何で戻ってきたのかしら。お母様」

 

一息。

 

「……15、6年前に旅に出て以来、大陸外を飛び回っていたアンタが、今更」

 

15年。相当長い期間だ。むしろ姉妹の母親がいたことに驚いたが。
対するメガリスはレミリアの発言を聞き、頬に指を当てて首を傾ぐ。

 

「んー? それはね……。
 レミちゃん達、ラオグリムさんを助けてくれたのでしょう?
 そのお礼を言いたいなと思って」

 

…お礼?

 

「そ、お礼。
 憎悪に囚われていたあの人を過去の因縁から解き放ってくれた。
 私にはできなかったことを」

 

……知っていたのか。

 

かつての闇の王…ガルカの英雄だったラオグリムは人間への憎悪に駆られ、憎しみの魔王と化した。
その発端はかつての仲間の裏切り、そしてそれからラオグリムを庇った女性の死だった。
主人公の問いに、メガリスは小さく頷いた。

 

「知っていますわ。
 ザルカバードが珍しく吹雪かなかったあの日に、
 "闇の王"となった彼を見つけたのですから」

 

メガリスは静かに思い返す。

 
 
 

その日、メガリスは人の気配に勘づき、バルカバードを彷徨っていた。
切っ掛けは暇つぶしに遠目から観察して見ようという気紛れ。
寄る者を遠ざける僻地ザルカバードを訪れる物好き、登山家かなにかだろうか、と。
そうして見つけたものは三人の人間のいさかい。いや、一人のヒュームによる一方的な裏切りだ。
裏切りを受けた二人はヒュームから致命傷を受け、クレバスへと落ちていった。

 

それだけならば、何の感慨もわかなかった。
人間にとって殺し合いなど、日常茶飯事。それは今も昔も変わらない。
メガリスが興味を抱いたのは、手負いが落ちた奈落の底から強烈な感情を感じたからだ。

 

憎悪、嘆き、憤怒、失望。
負の感情の中に僅かに混じる慈愛。
死に逝く片方を想う、思い遣りの感情。

 

アンバランスな感情の奔流に惹かれるのと同じく、
メガリスはザルカバードの地の底から不穏な気配を感じ取る。

 

かつての亡国イフラマドが渇仰していた守護神。
死者の魂が送られるというヴァルハラの支配者、オーディン。
それに近しいものだった。

 

嫌な予感に衝き動かされ、翼を広げ、クレバスの底へと向かう。
そこでメガリスが見たのは、凄まじい邪気を湛え、多数のデーモンどもを従えた異形のガルカ。

 

闇の王となったラオグリムその人だった。

 
 
 

「アレと契約したことはすぐに察しがつきました。
 だから、慌てて保護したんです。このまま放置するわけにはいかない、とね」
「……え、お母様、アレ知ってるの?」
「……知ってるもなにも。最終戦争(ラグナロク)で、
 知り合いと一緒にアレと白い神のどちらが勝つかで賭けてましたわ」

 

その言葉に「アレ」について詳しく知らないテンシ以外が一斉に顔を青ざめさせた。

 

「アレについては今はどうでもいいでしょう。
 最初は見つけた手前と監視のつもりだったんだけど……」
「……そのまま惚れちゃったと?」
「さっちゃん、せーかい!」
「……」
「落ち付きなさいサクヤ。気持ちはわかるけど」
「……チッ」

 

ナイフを構えた仏頂面メイドを吸血鬼長女が嗜める。
メガリスはクスクスと笑ったが、やがて真顔に戻った。

 

「私が惹かれたものは思想や行動じゃない、あの人の中に僅かだけど残っていた人間らしさ。
 最後の一線まで踏みとどめた、人間への慈愛だった」
「それは、心の闇に呑みこまれても尚、留まっている。
 触れる形はどうあれ、貴女達を、娘として扱っていることが何よりの証拠」
「……」「……」
「そう、あの人は完全に憎悪に呑まれた訳ではなかった。
 貴女達がいたからこそ、あの人は慈しむことを忘れずにいられた」

 

「でも、それも時間の問題でした。
 あの人の闇は少しづつ膨れ上がって……いずれは、最後の人間性も押しつぶされてしまう」

 

「それが、あんたはあいつらの下から離れた理由?」

 

テンシの問いかけに、彼女は重く息を吐いた。

 

「なんらかの動きを起こす必要がありました。
 彼を止めるために人間の側に着くことはできず、今のままでは何れ最悪の結果を迎える。
 どっちつかずでいなければ、大事なものを失ってしまうのは目に見えていました

 

既におちゃらけた態度は消え失せていた。
犯した罪状を打ち明けるように、ぽつぽつと静かに語る。

 

「その頃には娘達はラオグリムさんの行いに懐疑的でしたから、何れは袂を別つことは予想できていました。私も、彼も。
 もし、私が貴方達の前から消えなかったら……
 絶対、ラオグリムさんの方に味方していたでしょうね」

 

レミリアとフランが顔を顰めた。
惚れた弱みね、メガリスは自嘲を込めて苦笑した。

 

「レミちゃん達があの人を止めてくれるかは賭けでした。
 結果は……言う必要はないですね」
「自分ではできなかった後始末を私達に任せたってコトか」
「そうね……意図を伝える手段はあったけど、できなかった」

 

いくらなんでも無責任すぎるだろう、思わず非難の声が喉から出かかった。
主人公や周りが咎めるよりも先に、ブロントさんが言葉を発した。

 

「ラpグリムを裏切ることになるからか?」
「……その通りです。惚れた弱み。
 そう……彼の前から、離れることしかできなかった。
 『父親を倒せ』なんて、娘を唆すなんて……できなかった」
「……「」確かにな」

 

過去に、今の伴侶であるレミリアと殺し合った騎士はそれだけ呟くと、黙りこくった。
次は微妙な表情を浮かべたフランが口を開く。

 

「言いたい事は山ほどあるけど、けど……
 お父様のお礼だけの為に来たわけじゃないわよね」
「そーね、まあ、恨み辛みをぶつけてもらおうってね。
 ……母親と妻失格なのは聞いての通りだから」

 

その言葉を聞くと、フランはますます微妙な表情を浮かべた。
レミリアの方にアイコンタクトで合図を取ると、レミリアは何とも言えない表情で肩を落とした。

 

「……それで、どうするの。お義姉様」
「……正直、ねぇ。アレについては好き勝手やり続けてきた結果だし」

 

ねえ?とレミリアが促すと、気不味そうに姉妹で顔を見合わせた。

 

「あいつの過去を知らなかったら、本気でトドメ刺すつもりだったしね……」
「ぶっちゃけ、お母様がお父様を拾ってなきゃ、私達生まれてないわよね……」

 

あまり強く言えない様だった。
まあ、そりゃそうか。仮にも母親な訳で……。

 

そうやっているとテンシが腰に手を当てながらジト目でメガリスを睨みつけた。

 

「……私としては、終わった話をグチグチ掘り返す気はないんだけどね。
 お義姉様もだけど、惚れた相手に対してダメになりすぎじゃないの?」
「う、うう……」
「私も!?」
「お義姉様だって、お兄ちゃん助けるために自作自演で死ぬつもりだったんでしょ。
 似たもの親子というか……少しは顧みなさいよ!」
「おっととテンシがズバリと言ってしまった感。とりあえずその辺にするべきそうするべき」

 

ひややせかいたブロントさんがテンシをなだめ、涙目のレミリアとメガリスをサクヤが(目だけ)楽しそうに見ていた。
やや落ち着いたところで、サクヤが疑問を投げかけた。

 

「ところで、ラオグリム様についてはどうされるおつもりで?」

 

現在、ラオグリムはバストゥークにいる。
闇の王としてではなく、ズヴァール城に長年監禁されていたが、大戦の終結と同時に生還した英雄として。
魔王として北の地に君臨していた頃から繋がりのある彼女は、今の彼の立場を打ち壊す存在だ。
立ち場を脅かす存在だったとして、ラオグリムが今更気にするとは思えない。
だが、メガリス自身はそれについて何を思うか。メガリスは何も言わない。難しそうに笑うだけだ。

 
 

「顔くらい見せに行きなさいよ」

 

それを見たレミリアが頬杖をかいて無愛想に呟いた。

 

「顔を見せないといじけるわよ、お父様。お母様が出てってからずっとそんな感じだったから」
「うん……私も大統領さんにお願いしてみるから。ね?」
「おまえもあいつもダイヤモンド・パワーの精神力なのでそう簡単にはくじけない。
 まずは会いに行ってやるべき。まあ、一般論でね?」

 

メガリスは最初、ポカンとした表情を浮かた。
やがて表情が弛緩すると、ゆっくり微笑みながら頷いた。

 

「そ、う……ね。     ありがとう」

 
 

……とりあえず、丸く収まったんだろうか。
「そのようですわ。でも、少しだけ羨ましいですね」

 

サクヤが嫌味のない羨望の言葉を呟いた。
驚いて彼女の方を見ると、サクヤは少し固い表情を浮かべる。

 

「……私は親というものを知らずに生き続けました。
 それが温かいものだという事は重々理解しております。ですから……」

 

「そういえば、義叔母様はこの城にいつまで滞在するの?」
「このまま住んでは駄目なの?」
「あー、うん。やっぱりそのつもりになるわよね……」
「というか、ここに住み着いちゃったらお父様はどうするのよ」
「そうね、だからラオグリムさんも一緒に……」
「お母様、まさかサンドリアに引き摺り込むつもりじゃないわよね」
「おもえはもう少し国際情勢考えるべきだと思った(真顔)」
「えーと……なんで、みんな怖い顔をしてるのでしょうか?」

 

「……ですから、早速憂さを晴らそうかと」

 

ドタバタする一行の下へ、サクヤは活き活きとした表情で向かう。

 

例え人間ではなくても、魔物でも
根っこさえ同じなら、あのように歓談を過ごせるのだろう。
彼らに関わった時から知っていたことだったが、改めて思い返す。

 

そう、やはりサクヤは相変わらずだった。

星辰の指輪

「主人公さん。少し時間はよろしいでしょうか?」

 

結局、吸血鬼母ことメガリスは目処が立つまでホッカイドゥに居付くことになった。
そんな中、主人公は突如彼女に人気のない場所へと呼びだされたのだった。

 

「ホッカイドゥへの案内をしてもらったお礼を忘れていました」

 

別にそんな下心から案内したわけではないのだが、本人はかなり乗り気だ。

 

「見たところ、あなたは面白い境遇の様ですから
 ちょっとした秘術なんてものをお教えしようかな、と」

 

境遇?

 

「ここの世界の生まれじゃないですよね?
 うん、その顔を見ると当たりみたいですね」

 

どうしてわかったのか、静かに問い詰める。
周りに人がいないのは幸いだが、誰かに知られたら面倒事では済まない。

 

「あなたと似たようなものを見たことが幾らかありましたから。あとは勘でしょうか……」

 

自分と同じような存在が他にもいる。
主人公の不安を感じ取ったのかメガリスが大丈夫ですよー、と背中を軽く叩いた。

 

「こことは違う世界からやってくる存在はそこそこ見かけます。
 流されるままに世界と世界の間を彷徨う存在。
 そういった類の徒輩を、古なじみは『ヴォイドウォーカー』と呼んでいるのですけど……
 主人公さんは無害な方ですから、安心してくださいな」

 

何を安心すればいいというのか。

 

「あと、レミちゃんに絡まれたか、絡みましたよね?
 あなたがただものではないと解ったのはそれが一番の理由なのです」

 

任務で襲撃したり、遭難したところを助けてもらったりしたと述べると
妙に納得したような表情をされた。

 

「レミちゃんに関わり続けるとですね、その人の分を越えた出来事が頻繁に起こり続けるのです。
 『運命を操る』とでもいいますか……この世界で出会った知り合いを思い浮かべてください。
 失礼ですが、本来なら雲の上の人や高嶺の花がそれなり以上に居らっしゃると思うのですが」

 

実際凄まじい知り合いが多い。著名な騎士は勿論だが、妖怪、龍王、大統領、聖皇、お姫様、真龍だの。
目の前に居る吸血鬼やその一家もそれに当て嵌まる。

 

「簡単に言えば、奇縁を結びやすくなるのです。私が娘との関わりが深いあなたと"偶然"出会ったように。
 ……もっとも、あの子はそれに気がついていないのですけど」

 

「あ……話が脱線しました。主人公さんは色々な世界を渡り歩けるのですよね?」

 

首肯すると、メガリスは懐に手をやった。

 

「ですから……お礼はお金や武具、防具でもいいのですが……
 そうね、主人公さんにはこれが一番丁度いいのではないでしょうか」

 

そう言って取りだしたのは一個の指輪。

 

「これは『星辰の指輪』。肉体から魂を分離することができる指輪です」

 

穏やかではないワードが飛び出てきた。
主人公が疑問を呈すると、メガリスは人差し指をピンと立てた。

 

「あらゆる生命に宿る魂は、本質的にそれ自体の成長を渇望しています」

 

立てた人差し指をくるくる回しながら、メガリスは語る。

 

「その魂の成長にはより多くの経験が必要なのですが、生命に与えられた器は生涯、ただひとつきり。
 ですから、経験を積むには自ずと限界があるのです」

 

そこで言葉を切ると、メガリスはニコリと笑った。

 

「ですが、もし手軽に魂の成長を促せるとしたら?」

 
 

「この指輪は、その一助となる面白いアイテムです」

 
 

「……あ、信じてませんね? もしくは踏ん切りがついていないとか」

 

内心で思っていたことが顔にも出ていたようで、娘そっくりのジト目で見つめられた。
しかし、すぐに相好を崩してニコニコ微笑む。

 

「これだけでは、胡散臭く想われても致し方ありませんね」

 

指輪を手元に戻すと、メガリスは純白の羽根を広げてふわりと浮かび上がった。

 

「考えが決まったら、私のところまで相談しに来て下さいな。
 その時に、もっと詳しい説明を致しますわ」