イベント/氷雪の境界線

Last-modified: 2015-01-05 (月) 01:31:14

シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント。


氷雪の境界線

崖下突入

冷たい風が頬を強く叩く。
今、主人公はフランドールと呼ばれた女性(……と言ってもどう見てもこの世界のフランだろう)に抱えられ、
峡谷をダイブしている真っ最中だった。

 

しかし、命綱を付けずに飛び込んでいるこの状況に不安を抱かないわけがない。
一応、自分を抱えている彼女は空を飛べるようなので、大丈夫だとは思うが……

 

やがて底が見えてきた。

 

「……ごめんなさい」

 

急にフランが誤った。へ? と声が出る。

 

「さっき、あいつに手痛くやられた。上手く減速できない」

 

ヘェア!?

 

「……多分、このままだと墜落する」

 

マジかマジでマジだ!?
半ば恐慌状態で慌てるこちらを尻目に、

 

「着地方法が少し手荒になる。身構えて」

 

そう言って、空いた片手に持った両手剣を峡谷の岩肌に突き刺した。
ガリガリと岩が削れ、徐々に落下速度が減速し始める。
その度に削れたつぶてが手に当たり、さらにその強引な所作、しかも支えは片手のみ。
本来聞こえてはいけないはずの音が腕から聞こえてきた。

 

「くっ……!」

 

しかし、峡谷の底は既に眼前。

 

「えーと、何処かの誰かさん」

 

着陸を目前にして、さっきの問いの返答が返ってきた。
フランはてへへ、と舌を小さく出して、

 

「……貴方はどこに落ちたい?」

 

降りかかる悲劇を嘆く暇もなく。

 
 
 

まもなくして雪煙が二つ上がった。

鈍痛からの回想

全身に響くような痛みと鋭い冷たさに促され、フランドール・スカーレットは目を覚ました。
自身を覆っていた雪を払いのけ、頭をふるふると振る。

 

先程の着陸で頭を打ったのか、前後の記憶がぼんやりしている。

 

(どうしてザルカバードなんかにきたのかしら……)

 

頭をフル回転させて記憶を手さぐりする。

 

(……そうだった。獣様から連絡をもらって……)

 

自称・登山家の友人の屈託のない笑顔が思い浮かぶ。

 

(といっても獣様とは素顔でちゃんと話したことはないんだけど。
 わたしが吸血鬼だってバレたら嫌われちゃうよね……)

 

困っている人がいる。助けてほしい。
とてとて簡潔に述べると、そう言う内容だった。
……まさかその助けてほしい人達の目的が、あの男がいるズヴァール城偵察とは思いもしなかったが。
大急ぎで駆けつけたが、結局一人だけしか助けられなかったのが歯がゆい。

 

その時の事を思い出すと、あの男に蹴られた顔が今更になって疼きだした。

 

(今度会ったら倍返しよ)

 

姉が聞いたら、きっと笑われるかもしれないが、こればかりは仕方がない。
理屈抜きで嫌な感じがするのだから。

 

(……それから、逃げて峡谷の壁に剣を突き刺して……)

 

ふと、両手剣を持っていた利き手を見る。

 

(今に至る、か)

 

落下減速の際の負担で、利き手はズタズタになっていた。
空気に触れるたびに鋭い刃物を直に当てられるような激痛が腕を走る。
この程度の傷なら、普段なら吸血鬼の自然治癒力ですぐに治るはずのだが。

 

(闇の王の(まじない)か)

 

彼奴の攻撃を受けた時に、何らかの影響を受けたか。治癒力が明らかに落ちている。
ケアルなどで回復するのが手っ取り早いだろうが、アンデッドの自分には火に油を注ぐようなもの。
まぁ、時間をおけば元に戻るだろう。色々と弱点の多い種族ではあるが、この点については吸血鬼様々だ。
しかし、この状況で剣を万全の状態で振えないのは痛い。

 

(誰か、サポートをしてくれる人が欲しいよね……)

 

……最も、今の、吸血鬼の姿を晒した自分を助けてくれる者なんて、限られてるくるだろうが。

 

そういえば、と自分が救出した人物の事を思い出した。
無事だろうかと、キョロキョロと辺りを見回して、程なくして見つける。

 
 
 

当の人物は頭から雪の中に埋もれていた。

 
 
 

上半身が腹のあたりまでが雪に埋まり、ガニ股になって天に突きだした足がピクピクと痙攣している状態で。

 

それを見たフランドールの頭の中の種がパキーンと弾ける。
フランドールはこれと似たような状況を東洋の読み物で見たことがあった。

 

その読み物の中に「イヌガミケ・スタイル」と呼ばれる、暗殺の奥義がある。
彼の奥義を受けたものは、目の前の人物の様に、逆さまで地面に突き刺さった様な状態になってしまうのだ。
この足を天に向ける姿を劇中ではスケキヨ、と呼称し、他にもスケキヨる、キヨるといった呼び方がある。
そう、目の前の御身こそがまさにそれだった。劇中の人物一様が戦慄した、東洋の秘奥の一端。

 

おお、東洋の神秘。思わず口から言葉が漏れだす。
今、自分はフィクションでしか見られなかったマボロシの光景を目の当たりにしている……!

 

「…………」

 

いや、ちょっと待って。

 

「……今、それどころじゃないよね!?」

 

セルフツッコミ。今更になってスケキヨっている人物が命の危機に瀕していることに気付いた。
舌打ち一発。慌てて足を掴んで引っこ抜く。現状は片手しか使えないが、怪力があるので問題ない。
泥沼に刺さった棒きれを引き抜くような要領であっさりいけた。

 

「……だ、大丈…………
 きゃあ、この人息してない!?」

 

パニックに陥りかけるが冷静さを失ってはならないと必死に自分に言い聞かせる。
確かこういう場合は……!

 

「人工呼……ああ、駄目駄目、まだ初めては譲れない……っ! じ、じゃあ心臓マッサージで!」

 

とりあえず左胸に掌を押し当てて思いっきり全力全開で力を入れた。

 

ズ ド ン !

 

という重々しい粉砕音が響き、対象が釣れたての鯉の様にビクンビクン激しく跳ねた。
反応はあったが息は吹き返していない。

 

「だったらもう一回……!」

 

フランドールは諦めない。
全力で心臓に刺激を与えることを試みる。
何回かやって、ようやく目の前の人物が息を吹き返した。
それを見てふう、と安堵の息が出た。額の汗を爽やかな笑顔で拭いとる。
……なぜか対象の肉体的な損壊がひどいので、ケアルをかけてこっそり誤魔化す。
そして心臓マッサージ連打するくらいなら、
レイズかければよかったのではと気付いたのはそれから7秒後のことであった。

 
 
 
 

「よかった……ようやく起きた!」

 

目覚めてから聞いた第一声がそれだった。
瞼を開けるとフランが半分涙目でこちらの顔を覗いていた。

 

……ああ、自分は生きていたのか。
雪がクッションになってくれていたのか、高高度から激突してもミンチになる様な事にはなかったみたいだ。

 

ん?
……なんだろう、気のせいか、左胸のあたりがピンポイントでやけに痛むようn……

 

「生きているって、それだけでも素敵な事だよね? ね?」

 

急にフランが迫力ある笑顔で迫ってきた。
そりゃあ、命あっての物種ですけれど……まぁ、目立った怪我をしていないだけ良しとしよう。

 

「……夢違え、幻、の紅の屋敷の異彩を……♪」

 

……さっきから鬱々と鼻歌を歌っているフランに妙な悪寒を感じるが、それは些細なこと……だよね?

氷雪の境界線

「そういえば」
? 何かな。

 

「貴方はわたしを見ても驚かないんだね。わたし、人間じゃないのに」

 

フランはそういうと ほら、と羽根をぴこぴこ動かした。
……なんというか、何を今更と思う。種族はどうあれ、助けてもらったんだし。
つーか、自分が知っている輩で人間辞めている人間がたくさんいる。気にすることもない。

 

「あ……うん、ごめんなさい。変な事言っちゃって」

 

申し訳なさそうに羽根を畳んだ。
その姿を見ていると少し前に闇の王と激しく剣を交えていた人物とは思えない。
これが素なのだろう。

 

「自己紹介がまだだったよね? ……わたしはフラン、フランドール……一応吸血鬼だよ」

 

あ、そういえばそうだ。自分は主人公。気軽にさん付けでいいぞ。

 

「ええと、じゃあ……主人公。ちょっとお願いがあるの」

 

スルーかいな。……それで?
フランが片腕を差し出す。元は白かっただろう腕は今では血塗れのボロ雑巾の様だった。
思わず息をのむ。

 

「さっき壁に剣突き刺した時に手を怪我しちゃって。
 時間が経てば治るけど、今のわたしはさっきみたいに暴れられない」

 

だから、と一端言葉を切り、

 

「……此処から出るまでの間でいい、わたしに力を貸してください」

 

そう言って、頭をちょこんと下げた。

 

つまり、PTを組みたい、と?

 

「え、っと……はい」

 

よしきた、貸された。

 

一声で快諾すると、ポカンとした顔で見つめられた。

 

「本当に、そんな簡単なノリでいいの?」

 

いいですとも。そんなことよりも、此処から出るんだろう?
ぐずぐずしていると、追手か何か来るかもしれない。さっさと行こう。

 

「あ……う、うん!」

 

フランを伴い、主人公は北の大地を境界線の様に走る峡谷の底を歩き始めた。

 

 

▼フランドールがPTイン