イベント/汚い目線の手配

Last-modified: 2014-02-05 (水) 02:25:08

シナリオ/世界移動シナリオ-黄金艦隊編のイベント。

汚い目線の手配

その日、一人の男が鋼鉄戦隊の官舎を訪れた。

 
笠松
「統合潜水艦隊、第一潜水戦隊指揮官、笠松農夫雄。大佐だ。
 鋼鉄戦隊の指揮官との面会を希望したい」
 

大佐、というにはみすぼらしい印象を与える男だ。
鉱山の発掘に身をやつす鉱夫をそのまま士官にしたような、奇妙な違和感を感じる。
初見では統合潜水艦隊の主力の一角とは思えまい。

 

目もとに刻まれた深い皺や、倦怠と剣呑さが入り混じった佇まいを除いて。

 
萃香
「おや、笠松大佐じゃないか。
 皆の頼れる嫌われ者『汚い忍者』がこんなところに何用ですかね」
 
笠松
「茶化すな、子鬼。
 用件だと? ふん、上司の上司からの言伝を伝えにきた」
 
萃香
「古明地中将の? ……しかし、たったそれだけの理由でアンタが?」
 
笠松
「ケッ。それだけなら電文を打つだけで済んでるだろ。
 ついでにコイツの処遇を任せにきたんだよ。お前達の管轄だろう?」
 

そう言うと笠松大佐は一人の少女をずい、と前に突き出した。
スクール水着の上にセーラー服を着用した、桜色の髪の少女だ。
少女はイムヤの姿を見ると、半泣きの表情でてちてちと音を立てながら歩み寄ってきた。

 
伊168
「ゴーヤ! ゴーヤじゃない!」
 
伊58
「あ、イムヤ! みんなも!
 よかったよぅ……もう、ひとりぼっちはいやでち……」
 
伊168
「ちょ、ちょっと!」
 
笠松
「先日の補給路破壊任務のことだ。
 その帰路に就く最中、こいつが同僚の伊58の上にへばり付いてやがった。
 『艦娘』だったよな?」
 
伊168
「そうだけど、ゴーヤがこんなに怯えるなんて……」
 
伊58
「お腹が空いたって言ったらこの人、ゴーヤの口におっきなちくわを押しこんだの。
 苦しかったよぉ……」
 

周囲からジト目で見られた笠松大佐は重圧に耐えらず、たまらず叫ぶ。

 
笠松
「ちくわしか持ってなかったんだよ! 別に妙な真似はしてねェ! いや、ちくわ旨いだろ!」
 
「それにしたって、いきなりちくわを押しこむって……」
 
大和
「輪切りにした方が、よろしかったのではないでしょうか……?」
 
笠松
「あ? 素のままのちくわを食えねえとか、ニワカか手前」
 
大和
「別に、そんなことはありませんけど……」
 

信念にひっかかったのか、いきなり大和に詰め寄った笠松だが、ふと怪訝な表情を浮かべた。

 
笠松
「ん? お前……」
 
大和
「あ……あの、なんでしょうか?」
 

引き攣った表情を浮かべる大和に対して、笠松大佐は一言。

 
笠松
「……有事を警戒するのはいいと思うが、
 鉄板を胸に詰める必要はねェんじゃねえか?」
 

顔を真っ赤にしてぎょっとする大和。
その事実を知る艦娘以外の一同は、大なり小なり驚愕の表情を浮かべた。

 
笠松
「いや、何も着けていないよりは、それはそれでアリなのもしれんが」
 

直後、艤装を召喚した大和がその場をターンした。
結果として横凪に振り回された艤装、特に46cm三連装砲の砲塔に笠松は頭をしこたまぶつける運びとなった。
怒ってそのまま去る大和を指さし、笠松大佐は納得いかないという風に叫んだ。

 
笠松
「そこまでやることかよ!」
 
萃香
「そこまでだよ、笠松大佐。アンタが有能なのは知ってるけどさー。
 いい加減、アンタはデリカシーつーか、女の扱いを心得た方が良いと思うんだ」
 
笠松
「今は戦時中、しかも劣勢だ。
 草国の皇太子ではあるまいし、女に(かま)けてどうするつもりだ」
 
萃香
(つーか、私も一応女なんだが……)
 
萃香
「あまり仲良くしちゃうと早死にしそうだけどさ。
 ……そろそろ意識しないと、刺されちゃうよ? 二人くらい」
 
笠松
「そりゃ、どういうこった?」
 

萃香に呆れられる笠松大佐を余所に、艦娘らはゴーヤを囲んでいた。
首を捻る笠松を見ていた吹雪がふと疑問をゴーヤにぶつける。

 
吹雪
「でも、どうしてゴーヤ先輩が潜水艦の上にへっついていたんでしょうか」
 
伊58
「ゴーヤは海の中でお昼寝するつもりだったんだよ。
 そうしたら、耳鳴りと懐かしい臭いがして……」
 

気が付いたら別世界の伊58の上で寝ていた、ということらしい。

 
日向
「耳鳴りだって?」
 

ゴーヤの言い分を聞いた日向が訝しげな表情を浮かべた。

 
吹雪
「私達もその耳鳴りを聞きましたよね、二回」
 
日向
「この世界に来た時も、同じ耳鳴りを感じたが……」
 
麻耶
「あとはアホみたいに早い船に出くわした時だよな」
 
伊勢
「多分、耳鳴りはあの船からよね。
 南方棲鬼の反応からして、あいつらの仕業とは思えないし」
 
大和
「大和も、電探で途轍もなく速い戦艦を確認しました。
 恐らく……指揮官たちが倒したというヴィルベルヴィント、でしょうね」
 
鳥海
「あの時、交戦した深海棲艦も退散しました。
 『存在してはいけないもの』を見つけたと……まるで、あの船を追うように」
 

吹雪、日向、伊勢、鳥海、麻耶、大和は何事か話し込んでいると思うと、一斉に黙りこんでしまった。

 
伊58
「あれ? そういえば、てーとく達はどこ?
 ゴーヤ、あの人たちのこと、知らないよ」
 
伊勢
「……まずは私達の置かれてる状況を教えないといけないわねー」
 
 

そうやってかしましいというか、賑やかな艦娘達を見ていると、笠松大佐に声をかけられた。
そこで彼の目的が艦娘の引き渡しと、君に対する用事もあったことを思い出した。
古明地さとり中将からの言付けらしいが。

 
笠松
(ことづ)けは簡単に言えばこうだ。
 『統合潜水艦隊ニ於ケル情報網ノ利用ヲ認可ス』
 ……わからんか? ハア、つまりな、俺達が掴んだ情報を優先的にそっちに通達するってことだよ」
 
笠松
「統合潜水艦隊の役割はなにも闇打ち、俵糧攻めだけじゃあない。
 隠密性を活かし、解放軍の耳目を担う諜報活動も担当している。
 その掴んだ情報を大本営よりも先にお前達、鋼鉄戦隊に流すということだ……わかったか?」
 

君が頷くと、笠松大佐は溜息をついて、眉をひそめた。

 
笠松
「古明地中将はお前らに期待をかけているらしいが、正直わからん。
 その面構えを見るに、お前が一番わからんようだがな」
 

そう言うと、笠松大佐は君の胸を軽く叩いた。

 
笠松
「せめて鷹揚に振る舞うか、しゃきりとして見せろ。
 飛竜の野郎に見られたら、こんなもんじゃすまねェぞ」
 
赤城
「え、飛龍も来ているんですか?」
 
笠松
「二航戦じゃねえ、ウチらの頭だ。分かりにくいボケを横から振るな。
 ……しかし、艦娘にも二航戦はいるんだな」
 

話がずれた、と赤城をしっしと手で払い、話を続ける。
赤城は不服そうにバケツに入ったボーキをもっさもっさと食べていた。
……はて、そのボーキはどこから仕入れてきたものなのか。

 
笠松
「……で、肝心の情報だが。帝国関連の線はまだない」
 
「ないんですか?」
 
笠松
「チッ、言われると癪だな。違うネタならある。
 一週間前に潜水中の伊401が確認したんだが、『沖ノ鳥島方面へ向かう不気味な影』を見たらしい。
 曰く、『蠢いていて、挙動がわかる程度にはデカかった』そうだ」
 
「影が海の中を蠢いていた……?」
 
笠松
「そうだ。ウネウネしていたんだと。
 401艦長は帝国の新兵器ではないかと推測している。
 俺は生物的な動作から深海棲艦の可能性も踏んでいるが、どうだお前ら」
 

艦娘に振って見るが、芳しい反応は得られない。

 
伊58
「ウネウネしたおっきい深海棲艦? ゴーヤは知らないよ?」
 
伊168
「私も知らないわ。
 海の中っていうと、心当たりがあるのは潜水艦くらいだけど……。
 蠢くとしたらあの長い髪の毛くらいかな」
 

その一言で一部の艦娘が震え始めたが、イムヤはスル―する。
厳密に言うと涙目なのでスル―し切れていないが。

 
伊58
「……もう気にしちゃダメでち。大事なのは慣れだよ」
 
伊168
「わかってる、わかってるんだけど……っ! う、ううっ」
 
 
萃香
「えーっと……あいつらのことは置いておくとして。
 見間違えとか、そういうもんじゃないよね?」
 
笠松
「そうかもしれねぇな。ウチらの中でもそういう声は多い。
 正直、ただの見間違えと斬り捨てるには不安が残るがな……」
 
萃香
「なんかあるのかい?」
 
笠松
「最近、海域を巡航する補給艦が何隻も行方不明になっているんだよ。
 案外、みとりの言い分も間違っていねェかもな。帝国の野郎が嫌がらせでもしに来たか」
 
笠松
「……今はこの程度のショボイネタしか入ってきていねェ。
 何かあれば、そちらに随時連絡しておく。そういうことだ」
 
笠松
「気になるンなら調べてきてもいいが、保証はせんぞ。
 ……貴様らには独立行動の権利があるが、即ち、本営の後ろ盾が得られないということだ。
 行動するなら、よくよく熟考するように。……以上だ。俺は帰る」
 
 
 
  • 艦娘「伊58(ゴーヤ)」が着任しました
    燃費が軽い潜水艦なので、着任直後から即戦力として使える。
    性能に関しては癖の塊のような艦種なので、扱いには注意。