シナリオ/世界移動シナリオ-黄金艦隊編のイベント。
汚い目線の手配
その日、一人の男が鋼鉄戦隊の官舎を訪れた。
- 笠松
- 「統合潜水艦隊、第一潜水戦隊指揮官、笠松農夫雄。大佐だ。
鋼鉄戦隊の指揮官との面会を希望したい」
大佐、というにはみすぼらしい印象を与える男だ。
鉱山の発掘に身をやつす鉱夫をそのまま士官にしたような、奇妙な違和感を感じる。
初見では統合潜水艦隊の主力の一角とは思えまい。
目もとに刻まれた深い皺や、倦怠と剣呑さが入り混じった佇まいを除いて。
- 萃香
- 「おや、笠松大佐じゃないか。
皆の頼れる嫌われ者『汚い忍者』がこんなところに何用ですかね」 - 笠松
- 「茶化すな、子鬼。
用件だと? ふん、上司の上司からの言伝を伝えにきた」 - 萃香
- 「古明地中将の? ……しかし、たったそれだけの理由でアンタが?」
- 笠松
- 「ケッ。それだけなら電文を打つだけで済んでるだろ。
ついでにコイツの処遇を任せにきたんだよ。お前達の管轄だろう?」
そう言うと笠松大佐は一人の少女をずい、と前に突き出した。
スクール水着の上にセーラー服を着用した、桜色の髪の少女だ。
少女はイムヤの姿を見ると、半泣きの表情でてちてちと音を立てながら歩み寄ってきた。
- 伊168
- 「ゴーヤ! ゴーヤじゃない!」
- 伊58
- 「あ、イムヤ! みんなも!
よかったよぅ……もう、ひとりぼっちはいやでち……」 - 伊168
- 「ちょ、ちょっと!」
- 笠松
- 「先日の補給路破壊任務のことだ。
その帰路に就く最中、こいつが同僚の伊58の上にへばり付いてやがった。
『艦娘』だったよな?」 - 伊168
- 「そうだけど、ゴーヤがこんなに怯えるなんて……」
- 伊58
- 「お腹が空いたって言ったらこの人、ゴーヤの口におっきなちくわを押しこんだの。
苦しかったよぉ……」
周囲からジト目で見られた笠松大佐は重圧に耐えらず、たまらず叫ぶ。
- 笠松
- 「ちくわしか持ってなかったんだよ! 別に妙な真似はしてねェ! いや、ちくわ旨いだろ!」
- 橙
- 「それにしたって、いきなりちくわを押しこむって……」
- 大和
- 「輪切りにした方が、よろしかったのではないでしょうか……?」
- 笠松
- 「あ? 素のままのちくわを食えねえとか、ニワカか手前」
- 大和
- 「別に、そんなことはありませんけど……」
信念にひっかかったのか、いきなり大和に詰め寄った笠松だが、ふと怪訝な表情を浮かべた。
- 笠松
- 「ん? お前……」
- 大和
- 「あ……あの、なんでしょうか?」
引き攣った表情を浮かべる大和に対して、笠松大佐は一言。
- 笠松
- 「……有事を警戒するのはいいと思うが、
鉄板を胸に詰める必要はねェんじゃねえか?」
顔を真っ赤にしてぎょっとする大和。
その事実を知る艦娘以外の一同は、大なり小なり驚愕の表情を浮かべた。
- 笠松
- 「いや、何も着けていないよりは、それはそれでアリなのもしれんが」
直後、艤装を召喚した大和がその場をターンした。
結果として横凪に振り回された艤装、特に46cm三連装砲の砲塔に笠松は頭をしこたまぶつける運びとなった。
怒ってそのまま去る大和を指さし、笠松大佐は納得いかないという風に叫んだ。
- 笠松
- 「そこまでやることかよ!」
- 萃香
- 「そこまでだよ、笠松大佐。アンタが有能なのは知ってるけどさー。
いい加減、アンタはデリカシーつーか、女の扱いを心得た方が良いと思うんだ」 - 笠松
- 「今は戦時中、しかも劣勢だ。
草国の皇太子ではあるまいし、女に感けてどうするつもりだ」 - 萃香
- (つーか、私も一応女なんだが……)
- 萃香
- 「あまり仲良くしちゃうと早死にしそうだけどさ。
……そろそろ意識しないと、刺されちゃうよ? 二人くらい」 - 笠松
- 「そりゃ、どういうこった?」
萃香に呆れられる笠松大佐を余所に、艦娘らはゴーヤを囲んでいた。
首を捻る笠松を見ていた吹雪がふと疑問をゴーヤにぶつける。
- 吹雪
- 「でも、どうしてゴーヤ先輩が潜水艦の上にへっついていたんでしょうか」
- 伊58
- 「ゴーヤは海の中でお昼寝するつもりだったんだよ。
そうしたら、耳鳴りと懐かしい臭いがして……」
気が付いたら別世界の伊58の上で寝ていた、ということらしい。
- 日向
- 「耳鳴りだって?」
ゴーヤの言い分を聞いた日向が訝しげな表情を浮かべた。
- 吹雪
- 「私達もその耳鳴りを聞きましたよね、二回」
- 日向
- 「この世界に来た時も、同じ耳鳴りを感じたが……」
- 麻耶
- 「あとはアホみたいに早い船に出くわした時だよな」
- 伊勢
- 「多分、耳鳴りはあの船からよね。
南方棲鬼の反応からして、あいつらの仕業とは思えないし」 - 大和
- 「大和も、電探で途轍もなく速い戦艦を確認しました。
恐らく……指揮官たちが倒したというヴィルベルヴィント、でしょうね」 - 鳥海
- 「あの時、交戦した深海棲艦も退散しました。
『存在してはいけないもの』を見つけたと……まるで、あの船を追うように」
吹雪、日向、伊勢、鳥海、麻耶、大和は何事か話し込んでいると思うと、一斉に黙りこんでしまった。
- 伊58
- 「あれ? そういえば、てーとく達はどこ?
ゴーヤ、あの人たちのこと、知らないよ」 - 伊勢
- 「……まずは私達の置かれてる状況を教えないといけないわねー」
そうやってかしましいというか、賑やかな艦娘達を見ていると、笠松大佐に声をかけられた。
そこで彼の目的が艦娘の引き渡しと、君に対する用事もあったことを思い出した。
古明地さとり中将からの言付けらしいが。
- 笠松
- 「託けは簡単に言えばこうだ。
『統合潜水艦隊ニ於ケル情報網ノ利用ヲ認可ス』
……わからんか? ハア、つまりな、俺達が掴んだ情報を優先的にそっちに通達するってことだよ」 - 笠松
- 「統合潜水艦隊の役割はなにも闇打ち、俵糧攻めだけじゃあない。
隠密性を活かし、解放軍の耳目を担う諜報活動も担当している。
その掴んだ情報を大本営よりも先にお前達、鋼鉄戦隊に流すということだ……わかったか?」
君が頷くと、笠松大佐は溜息をついて、眉をひそめた。
- 笠松
- 「古明地中将はお前らに期待をかけているらしいが、正直わからん。
その面構えを見るに、お前が一番わからんようだがな」
そう言うと、笠松大佐は君の胸を軽く叩いた。
- 笠松
- 「せめて鷹揚に振る舞うか、しゃきりとして見せろ。
飛竜の野郎に見られたら、こんなもんじゃすまねェぞ」 - 赤城
- 「え、飛龍も来ているんですか?」
- 笠松
- 「二航戦じゃねえ、ウチらの頭だ。分かりにくいボケを横から振るな。
……しかし、艦娘にも二航戦はいるんだな」
話がずれた、と赤城をしっしと手で払い、話を続ける。
赤城は不服そうにバケツに入ったボーキをもっさもっさと食べていた。
……はて、そのボーキはどこから仕入れてきたものなのか。
- 笠松
- 「……で、肝心の情報だが。帝国関連の線はまだない」
- 橙
- 「ないんですか?」
- 笠松
- 「チッ、言われると癪だな。違うネタならある。
一週間前に潜水中の伊401が確認したんだが、『沖ノ鳥島方面へ向かう不気味な影』を見たらしい。
曰く、『蠢いていて、挙動がわかる程度にはデカかった』そうだ」 - 橙
- 「影が海の中を蠢いていた……?」
- 笠松
- 「そうだ。ウネウネしていたんだと。
401艦長は帝国の新兵器ではないかと推測している。
俺は生物的な動作から深海棲艦の可能性も踏んでいるが、どうだお前ら」
艦娘に振って見るが、芳しい反応は得られない。
- 伊58
- 「ウネウネしたおっきい深海棲艦? ゴーヤは知らないよ?」
- 伊168
- 「私も知らないわ。
海の中っていうと、心当たりがあるのは潜水艦くらいだけど……。
蠢くとしたらあの長い髪の毛くらいかな」
その一言で一部の艦娘が震え始めたが、イムヤはスル―する。
厳密に言うと涙目なのでスル―し切れていないが。
- 伊58
- 「……もう気にしちゃダメでち。大事なのは慣れだよ」
- 伊168
- 「わかってる、わかってるんだけど……っ! う、ううっ」
- 萃香
- 「えーっと……あいつらのことは置いておくとして。
見間違えとか、そういうもんじゃないよね?」 - 笠松
- 「そうかもしれねぇな。ウチらの中でもそういう声は多い。
正直、ただの見間違えと斬り捨てるには不安が残るがな……」 - 萃香
- 「なんかあるのかい?」
- 笠松
- 「最近、海域を巡航する補給艦が何隻も行方不明になっているんだよ。
案外、みとりの言い分も間違っていねェかもな。帝国の野郎が嫌がらせでもしに来たか」 - 笠松
- 「……今はこの程度のショボイネタしか入ってきていねェ。
何かあれば、そちらに随時連絡しておく。そういうことだ」 - 笠松
- 「気になるンなら調べてきてもいいが、保証はせんぞ。
……貴様らには独立行動の権利があるが、即ち、本営の後ろ盾が得られないということだ。
行動するなら、よくよく熟考するように。……以上だ。俺は帰る」
- 艦娘「伊58(ゴーヤ)」が着任しました
燃費が軽い潜水艦なので、着任直後から即戦力として使える。
性能に関しては癖の塊のような艦種なので、扱いには注意。