イベント/流血

Last-modified: 2014-12-10 (水) 01:48:29

シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント。


流血

惨劇のあと

それから数日が過ぎた。
急きょ編成が決まり、サルヴァへ派遣された調査団が無事帰還した。

 

しかし、帰還した団員の顔色は皆、蒼白であったという。
一員に加わっていたというスコールとカインがそのことを話してくれた。

 

「……凄惨だった。獣人との戦でも、あそこまでひどいものは見られはしない」

 

結果だけを述べると、聖壁の都サルヴァは犠牲者の流血によって血の海と化していた。
都を治めていた王を筆頭に、ありとあらゆるものの血漿がサルヴァを赤く染めていたという。

 

……マトモな奴の仕業じゃない。

 

「略奪が目的にしては、常軌を逸していた。血を見たいだけ、といった方がまだしっくりくる」

 

ちなみに、とスコールは補足を加えた。
サンドリア周辺では女神アルタナを深く信仰しているが、サルヴァの場合は……

 

「サルヴァは竜を信仰し、崇めていた。
 今では絶えてしまった龍神信仰、というものだ。
 ……そして、サルヴァは実際に竜を囲み、それを信仰の対象としていた」

 

主人公は思わず驚いた。
竜騎士が飛竜と共生するように、彼らもまた、営みの傍らに竜の存在があったというのか。

 

「報告通り、サルヴァに住まうものは皆殺されていた……彼らが崇めていたという竜も含めて、な」

 

竜は躯という躯を裂かれ、血という血を奪われつくされていた。
生命の尊厳もあったものではない。

 

「……そう、許されるものではない」

 

カインの声に静かな怒りが帯びる。
スコールは重苦しく息を吐くと、壁に寄り掛かった。

 

「報告は以上だ。……どうやら下手人は血を啜るのが大好きらしい」

 

血を啜る、と聞いて主人公は渋い表情を浮かべた。

心に注ぐ陽は身を焼かず

「ウワッハッハッハ! 美味い!」

 

フランドールの様子を見に、主人公がパン屋を訪れると、
そこではバケツみたいな兜を被った偉丈夫が体を両手をY字に広げていた。

 

最近この国に顔を出すようになった太陽マニアの遍歴騎士、ソラールさんである。
奇矯な言動と一本筋の通った人柄から、一部でじわじわと噂になっている。

 

「貴公。もしや、これは噂に聞く『太陽のパン』というものではないか?」
「……ただの自家製パンです……」
「おおっ! では、貴公は所謂『太陽の手』を持ち手か!」
「……クリスタル合成です……」
「恥ずかしがることは無いさ、太陽万歳……!」
「……わたし、太陽は、あまり好きじゃないです……」
「いやいや。悪い、冗談だった。ついついからかいたくなった」
「……ううー」

 

当のフランドールは、困窮ここに極まりけり、といった風情であった。
悪気がない分、荒くれ者の方が対処しやすいのではなかろうか。

 

ソラールさんじゃないか。太陽は見つかったんですか?

 

流石に見かねて助け舟を出す。
するとソラールは主人公の方へ向き、太陽賛美の構えを取った。
主人公も同様に両手をY字に広げた。太陽バンザイ、ウワハハと笑いあう。

 

「おお、貴公か。貴公もこの店に通っていたのだな。
 ん? 俺自身の太陽か? 見ての通り、相変わらず、さっぱりさ」

 

豪快に笑い飛ばすソラール。

 

「噂を聞いて初めてきたが、この店は良いな」
「……噂ですか?」
「ああ、何でも日中にも拘らず、吸血鬼が店の番をしていると聞いた」
「……」
「興味本位でふらついてみたが、
 そうだな、太陽のような"熱さ"は無いが、ひだまりの様に温かな真心が溢れている」
「ひだまり、ですか?」
「太陽と相容れなくとも、心まで日に沈んでいるわけではなかろうさ。
 俺が東洋の国で出会った化生は、皆、陽光のように暖かい連中ばかりだった」
「……」
「貴公も同じだ。その心はあいつらとまったく相違ない。
 そうとも、貴公の心は弱くないだろう。その瞳を見ればわかる」
「…………」
「大したものだ、うん……うん……」

 

フランドールは呆気にとられていたが、ソラールは腕を組んで、得心したように何度も頷いている。

 

「そうだ、斯様な変人を無碍にせず付き合ってくれた礼だ。
 この店で一等高い品を買わせてはくれないか?」

 

そこまで余裕がない事は知っていたが、主人公は何も言わなかった。
この店に居るのはみんな変人なのだ。

 
 
 
 

「ありがとうございました。またのご来店をー」
「ああ、その時には良いパンを焼き上げてくれよ」

 

ソラールを見送りつつ、フランドールは小さく一礼した。
既に、ソラールを見る目は変人を見るそれではない。

 

「最初は困ったけど……本当に良い人だった、あの騎士さん」

 

変人ではあるが、真っすぐな人である。

 

「そうね、変人……わたしが言えることではないけど……」

 

「あの人は、きっと、誰かの太陽になれる人だわ」

 

雑踏に消えるソラールを見つめながら、フランドールはいつもより晴れやかに微笑んでいた。
と、フランドールはこちらに顔を向けていたずらっぽく笑う。

 

「……でもね、私にとっての一番の変人はあなただよ? 主人公」

 

主人公は澄まし顔で受け流した。
知り合いが変人ばかりだから、その辺りの感覚がマヒしているのだ。

竜血騎士

「……今日も終わり、っと」

 

パン屋の店じまいを済ませ、軽く伸びをする。
既に時刻は夜を回っている。血族にとっては、ここからが本調子となる時間帯、だが……

 

「ふああ、眠たい……」

 

夜に寝て朝に起きるという人間のような生活を繰り返しているため、
今のフランドールは、夜になると本調子になるが眠くなるという変わった状態だ。

 

「今からホッカイドゥに戻るのも億劫だし、今日も二階の寝室借りようかな」

 

医院の医者曰く、来週にもなれば店長の体調も快復するという。
その時は今の毎日ともお別れだ。

 

「……」

 

少し寂しいかも、と内心思いつつ。
イヤな相手がいた。心ない言葉をかけてくる相手がいた。
凹んだこともあったが、それ以上に嬉しい事もあった。

 

いつも贔屓にしてる店だから、味が美味しいから、売り子を頑張っているから、
理由は様々だが、自分が作ったパンを買ってくれる人がいる。
主人公といい、サンドリア騎士団の面々といい、今日のソラールといい、思いがけない一期一会もあった。

 

こうやって、知らない人や知っている人と言葉を交わす機会はあまりない。
だからこそ短い期間ではあるが、パン屋の忙しい毎日は彼女にとって貴重な時間だった。

 

(考えるの、やめよ)

 

今ここでヘンに悩んでもしょうがない。
湯浴みでこざっぱりして、あったかいベッドでたっぷり寝よう。
そう考えて踵を返そうとしたときだった。

 
 

外から悲鳴が聞こえた。

 

「ッ!」

 

距離は遠い。魔族の鋭敏な感覚だからこそ聞き取れるようなか細い音だ。
それを聞いたフランドールは反射的に床を蹴った。そのまま破るような勢いで扉を開け、外へ飛び出す。
直感で、嫌な気配を感じ取ったのだ。

 
 

夜風が髪を叩いて揺らす。
冷たい空気に触れていても、イヤな汗は彼女の頬をじわりと濡らしてくる。
間に合え、と内心で祈りながら、吸血鬼は全力で夜の市街を駆け抜けた。

 

そして、悲鳴の根源を見つけた。
いつだったか、フランドールに絡んでいたチンピラの男だ。
血塗れのチンピラは、ガクガクと震えながら地面にへたり込んでいる。
そして、男に迫るようにして、そいつはいた。

 

黒い鎧だった。

 

ボロボロの漆黒の鎧に、背を覆う深紅のマント。
以前、自分が纏っていたボロボロの甲冑を思い出すいで立ち。
それらを塗りつぶすように、どす黒く変色した血液が全身をべっとりと覆っている。

 

黒い騎士は巨大な剣を掴むと、振り被ってそのままチンピラめがけて振り下ろす。
剣の切っ先はずぶりと、生々しい音を立てて確かに貫いた。

 

庇うように立ちはだかり、差し出されたフランドールの右腕を。
チンピラは茫然とした面持ちでフランドールを見上げている。

 

「……」
「お、おまえは……あの時の……!」

 

腕から垂れる赤い流血が床を濡らす。
鎧がギ・ギ・ギと奇怪な擬音を鳴らしてそれを凝視した瞬間、フランドールは甲冑を蹴り飛ばした。

 

『ゴギャァ、ア オ』

 

ひしゃげるような音を立てて、鎧が吹き飛ぶ。
フランドールが腕を振り抜くと、出血と共に鋭く尖った大剣が宙を舞い、床にカランカランと転がった。
そのままチンピラを見やる。大した怪我は無い。
お縄に着いて釈放されたのか、それとも逃げおおせたのか。どちらにせよあまり興味を持てなかった。

 

「無事?」

 

一応の安否を尋ねると、
チンピラはフランドールの右腕に何度も視線を合わせ、真っ青な顔で問い掛けた。

 

「な、なんで……だ!?」
「無事なら行って。この後ろを走れば教会がある。
 神殿騎士団に加護を訴えれば、安全は保障されるわ」
「で、でもよ! その腕……!」
「いいから、早く」

 

平坦な声音が、有無を言わせぬ口調で斬り捨てる。
数日前の昼でいちゃもんを付けられ、おろおろしていた店員とは別人のようだった。

 

チンピラは茫然としていたが、すぐに振り向き、転がるように走るとそのまま夜の闇に消えて行った。

 

それを合図に、肉を穿たれた部分がじわじわと再生し始めた。
右腕を軽く振っていると、血塗れ騎士がむくりと起き上がる。

 

「どちら様かしら。そんな恰好で辻斬りだなんて、穏やかじゃないけど」

 

『……ダ』
「……」

 

騎士が言葉を放ったが、フランドールはふと違和感を覚えた。
そいつが呟きは複数人で輪唱したような、連続した音の重なりがあった。

 

『……血、ダ 血ヲ』

 

「え……?」

 

『……血ヲ 浴ビル ノダ
 真ヲ得ルタメニ
 真理ニ到達スルタメニ
 タメニ タメ ニ タ メニ 』

 

「……」

 

それは狂信者が口にする妄執の様だった。
狂人のような口ぶりで、騎士は呟き続ける。

 

『血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血
 血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血
 血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血
 血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血
 血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血
 血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血
 血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血
 ヲ…… …ノ 血 ヲ……』

 

『……【竜】ノ 血 ヲ ヨコセ エ エ ェ エx !』

 

「!」

 

叫ぶや否や、騎士が四つん這いの動きで這い寄りフランドールに飛びかかった。
そして、横槍気味に放たれた攻撃が跳躍中の騎士を吹っ飛ばす。
攻撃が放たれた方を見やれば、

 

「……主人公!」

 

主人公その人が武器を構えて、血みどろ騎士を険しい表情で睨みつけていた。

 

「ど、どうして?」

 

……似たような連中が王都にわいてきている

 

そう、主人公は苦々しく呻いた。

 

黒い鎧と赤い外套。先端が鋭く尖った大剣を持った騎士たち。
竜の血を求め、無差別に襲いかかる血みどろ騎士の軍勢が、サンドリア王都に出現したのだ。

 
 

聖壁の都サルヴァを襲い、殺りくを繰り返した犯人。
床に転がっていた大剣を掴み、起き上がっているそいつは、その一味だ。

 
 

それは、ようやく精神が安定したサルヴァの民が語った殺戮者達の容姿と合致していた。

 

「そう」

 

主人公の苦々しい表情から、フランドールは溜息をついて首肯した。

 

「それなら、手早く片付けるべきよね」

 

フランドールがカツン、と靴の爪先を広場の床に打ち付ける。
そこを起点に足元から火柱が沸き上がると、あっというまに彼女の体を呑み込んだ。
突如噴き上がった炎の柱は篝火のように轟々と燃え盛り、やがて内側から破裂する。

 

火柱が弾けた跡にパン屋の店長代理の姿は無かった。代わりに、

 

コルセットを思わせる深紅の軽鎧を身につけ。
赤茶色に焦げた外套をその上から羽織り、
手足を朱色のガントレットとグリーヴで守り、
ガントレット越しの手に炎を湛えた魔剣を握った――

 

七色の翼を広げたフランドール・スカーレットの姿がそこにあった。

 
  • 大規模戦闘
    U.N.オーエンは彼女なのか?
    勝利条件:敵の全滅
    敗北条件:味方ユニットの戦闘不能
     
    敵はアンデッド族の「竜血騎士」がソロで1ユニット、コウモリ族×3がソロで2ユニット。
    味方側のキャラは主人公とフランドールのみ。
    竜血騎士はVITが高く、スタン、麻痺、怯みに完全耐性を持つ。
    また、全て攻撃が斬/雷属性の魔法攻撃。物理防御ではなく魔法防御力の影響を受けることに注意。
    ただし、この戦闘での竜血騎士はそれほど強くは無い。
    レベルが安定しており、前衛職ならば主人公だけで圧倒できる。
 

『グ ゴオ オオ ガガ ガ ッ ガ ガア  ッ !?』

 

騎士は奇声をあげ、歪つな動きで反り返る。
剣を引きずり、妄執を喚きながら、未だなお迫る。

 

『血! 血! 血ヲ捧ゲロ! 血血血血血 血……ッ!?』

 

だが、それ以上は進めなかった。
フランドールが騎士を上から真っ二つに両断したからだ。

 

「そんなに血が好きなら、そこで血だまりになりなさい」

 

魔剣が甲冑を軽やかに断ち切り、その切っ先がカツン、と床を叩く。
それが合図代わりのように、左右が泣き別れとなった騎士は前後別々の方向に倒れた。

 

『我ラ 竜血騎士団 ハ 不滅……!』

 

竜血騎士団。
騎士の残骸は最期にそう名乗ると、真っ赤な血煙となって霧散した。

 

フランドールは振り向くと、主人公の方に歩み寄った。

 

「……主人公、アレは何かわかる?
 少なくとも、今のあなたは、わたしよりも連中について詳しいと思う」

 

主人公はフランドールに、ことのあらましを可能な限り手早く説明した。

 

説明を聞くにつれ、フランドールは徐々に顔をしかめていく。
特に『サルヴァが奉っていた『竜が血を絞り尽くされて殺されていた』という点が顕著だった。

 

「『血を浴びるのだ、真を得るために、真理に到達するために』
 『竜の血を寄越せ』『竜血騎士団』……」

 

騎士が呟いていた言葉を繋ぎ、フランドールは険しい表情を浮かべた。

 

「……昔ね、書物で読んだことがあるの。
 『竜の血には生命の神秘を紐解く特別な力がある。
  生き血を浴びた者は、生命を真の理解し、
  超越的な力を得ることができるのだ』、と」

 

「……だから、あいつらは竜の生き血欲しさに、血に飢えている」

 

それだけでも、怖気を隠しきれないものだったが

 

「ううん、それだけでじゃないわ。
 多分、あいつらは竜とそれ以外の区別すらついていない。
 浴びる血が誰のものでもいい、見境なしの有様」

 

対峙した時の、狂気に囚われた様といい、
そうでなければ、サルヴァの惨劇を説明し様がない。

 

「わたしには竜血騎士団がなんなのか、わからない。
 元は人間だったのだろうけど、どうしてああなってしまったのか……」
でも、
「アレを野放しにしてはいけないわ。絶対に」