イベント/生死の交換場所

Last-modified: 2012-01-29 (日) 14:08:09

シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント。


生命の交換場所

命の峠

永遠亭。
ひんがしの国の中枢にしてこの国における最大の医療機関。

 

――――麟は!?

 

そこで麟が治療を受けていると聞いた主人公は、扉を開け放つなり叫んでいた。
場には永淋がいる。

 

……麟は……大丈夫なのか!?
「はっきり言って……厳しいわ」
いきなりの問いに対する永淋の返答は簡潔で、淡白だ。
それはあくまで患者の容体を客観的に見ているからだろう。
患者を治療する側である彼女がパニクってたら、治療も糞も無い。

 
 

……っ
強い眩暈を得た。
「……彼女のことで姫様から話があるそうよ。まずはそっちで話を聞いてあげて頂戴。
その間に彼女の治療に全力を注ぐわ」

 

大丈夫なのかと、そう聞くと、
「私を誰だと思ってるの?」

 

「瀕死? 危篤? 治療するだけ無駄? 何それ、外人? 歌?
そんな巫山戯た結論をぶん殴って『全快』まで捻じ曲げるのが私達医者の仕事よ」

 

「だから、ここは私に任せておきなさい。こちとら国全体の健康一手に引き受けてるの。
一人を黄泉比良坂から引き戻すくらい余裕のよっちゃんイカよ」
永淋先生……それ、死語通り越してアレ過ぎます。
「軽口叩けるくらいには余裕できた?」
あ……。
「良いから行ってきなさい。こっちは患者治療する直前にストップくらって、今にも治療したくてうずうずしているんだけど」
h、hai!

 

駈け出した主人公の後ろ姿を見て、永淋は溜息をついた。そして患者の状態を思う。

 

……正直、生きているのが不思議な状態だ。
危篤という形で済んだのも、彼女の中に妖怪の血が流れていたからだろう。普通なら死んでる。

 

ここまでひどい死に体の患者は東方前線で医療班として回って以来か。
「あの馬鹿弟子がいれば、少しは手が回るんだけど……。
泣き言なんて言えないわね。散々偉そうに見得切ったんだもの」

 
 

「さぁ、いきましょうか。
なんてことはない、その場所で死ぬべきじゃなかった人を一人救うだけよ。今までの様にね」

オロチ

永遠亭。輝夜姫の一室。
天幕に遮られる形となるが、輝夜姫との再会を果たす。
しかし再会のあいさつもそこそこに、姫が口を開いた。

 

「麟だけどね……倒れてた現場に、血文字でメッセージを残していたそうなの。
『オロチ』『気を付けて』『ね』って」

 

オロチ……?
聞きなれない単語を耳にして、眉をひそめる。

 

「そうね、簡単に言えば……ひんがしの国の生命力。ひんがしの国自身といったところかしら。
この国の地下深くには強いエネルギーの流れが存在し、『龍脈』という形で大地の中を流れ込んでいる。
いわば、このエネルギーというものは土地自身の生命力ね。そして龍脈は私達の体で例えるなら、血管みたいなもの」

 

そして、龍脈が流れ込んでいるのは「オロチ」と呼ばれる存在がひんがしの大地に溶け込み、一体になっているからという。

 

「オロチは八つの首を備えた巨龍、その八つの首が伝導線となってオロチの生命力が地面に走り、龍脈としてひんがしの国の中を流れている。この国は豊かなのは、このオロチが大地に溶け込んで、生命力を送ってくれているからよ」

 

文字通り龍が土地の脈になっているのか。
しかし、気をつけろとはどういうことなのだろうか。
そう尋ねるとベールの向こうの輝夜姫の声が堅くなった。

 

「……どれほど前のことだったかしら。1000年の枠に収まる程度に昔のことだった筈。
過去に、龍脈そのものであるオロチが暴走して、大規模の災厄を起こした事があるの。
沢山の犠牲が出て、ようやく納まったけど……本当にひどい状態だったわ」
1000年以内前の事。彼女の口ぶりはまるで直接目にしてきたかのような調子だった。

 

「だから、あのメッセージを見て、一瞬考えたわ。
麟が残した伝言の意味は、オロチの暴走を示唆しているのではないか、と。
……麟を傷つけたのはオロチじゃないかって」
ちょっと待って。オロチってひんがしの国中に溶け込めるくらい大きいんだろう?
それだと、すぐに見つかってしまわないか?

 

「ええ、口伝に依ればひんがしの国全体を覆い尽すほどの大きさだったそうね。
だけど、オロチそのものはひんがしの国と溶け込んでいて、『どこにもいない』。
その代わり、オロチはひんがしの国そのものだからこの国の『どこにでもいられる』。
オロチにとって姿かたちは重要じゃないの。自分の一部を顕現させるなんて、難しい事じゃないと思う。

 

……正直、暴走しそうな理由もありそうだしね」
それは?

 

「麒麟よ」

 

……麒麟、他国を救おうとした結果、穢れに冒され、神を僭称し四神と死者を操ったひんがしの国の霊獣。
「『穢れ』から放たれた」そう言い、霞となった霊獣の姿が脳裏に浮かんだ。

 

「五神が守護する方角とその場所にはね、『龍穴』っていう龍脈を伝って流れる孔のような部分があるの。
氣を地上へと流し、周囲の氣を取り入れ、循環する。呼吸器官に当たる部分よ。
……でね、この龍穴は周囲の氣を取り入れるから穢れとか、そういった負の概念の影響をモロに受けやすいの

 

まさか……麒麟達の穢れを取りこんで、同様に『穢れ』てしまったと?

 

「……最近、土地が痩せ気味という報告もある。その可能性もあるかもしれないわ。
だから、貴方に頼みたい事があるの」
……なにかな、言ってみるべき。

 

「龍脈が本当に穢れてしまったのかどうか、その調査をしてほしい」
友人が関わってる以上、答えは一つしかなかった。

もののふの辿り

主人公が姫の命を受け、エントランスに戻ると、そこにはヤグードの武人ことゲッショーがいた。
曰く、主人公に与えられた命と同様の勅命を受け馳せ参じたそうだ。つまり彼と共に事の次第に当たるという事か。
……そして、麟は未だに治療を受けている最中だ。

 

「麟殿に流れる妖の血が、彼女の命を繋ぎとめた……と」
半妖。主人公はタブナジアへ向かう途中に彼女にその時のいきさつをほんの少し聞いた事がある。

 

「妖憑き。そう言われ、麟殿は迫害を受けたと聞き申した」

 

仕方がなかったんです。と、その話を語った時、麟は苦しそうに笑っていた。

 

「聞く処によれば、当時の世は妖の跳梁跋扈によって渾沌を極め、民草は困窮していたのだと。
妖は脅威にして害悪だった、そう聞き及んでるでござる。
……それらを祓う者達は、彼らにとって大きな支えであったのでござろう」

 

「故に、退魔の家柄でありながら妖の血を引く麟殿を皆は畏れた。護り手側であるものが、妖の側を継いでいる。
いつ、自分達に歯牙を向くものかわからぬと」

 

――殺されぬだけまだ良し。あくまで追放としたのは、なけなしの情だったのでしょう。

 

麟の孤愁とした笑みを脳裏に浮かべ、ゲッショーはされど、と言葉を継ぐ
「……されど、時代は移ろうもの」

 

「異形のやぐうどの身である拙者も、奇異の眼差しで見られることは多々とあるでござるが、
今のひんがしの国には姫をはじめ、それでも良くしてくれる人達ばかりでござるよ」

 

それは月照殿の人柄もあるんじゃないか。

 

「滅相もござらぬ。……しかれど、拙者、麟殿に申したいのでござる」

 

ふむ、と首肯。

 

「このひんがしの国でも、『違う』事を理由に誰かを傷つける様な時代は既に通り過ぎたのだと。
……もう、そのような心配や不安を抱えることはない、と」

 
 
 

「そう、言えるようになりたいでござるよ」

 
 
 

だったら、言おう。
一仕事終えて、麟が目を覚ましたら、言ってあげよう。

 

「――御意……!」