イベント/竜と竜人

Last-modified: 2012-02-04 (土) 21:50:38

シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント。


竜と竜人

青龍王国

「あいたっ」
空中に開いたスキマから、霊夢と愉快な仲間たちが落下してきた。
ちょっと痛かったが、食竜鬼に引きずり込まれた時よりは余程マシだ。
「もう少し痛くない助け方は無かったの?」
「緊急事態だったので」
スキマを開けた人物は、もちろん紫に他ならない。
「ナラク……さっきまで貴方たちが居たところは結界があったからスキマを開けられなかったしね」
「ナラク?紫、あんたなら何か知ってるんじゃないの?」
「さぁ……調べ事なら、もっと適任がいるんじゃない?」

 

「はい?ナラク?竜を食べる人型の魔物?」
紫に言われたので、幻想郷で調べ事といえば阿未しかいないだろうと彼女の元を訪ねた。
「はぁ、ちょっと待っていて下さい」
暫くして、阿未は一冊の古びた書物を掘り出して来た。
「『青龍王国』。これは、口伝で伝えられていたある国のことを記した本です。当時は紙すらなかったそうですから……口伝なので正確性には欠けるかもしれませんけど」
机に紙を広げてみせる。
「ほら、ここ……『ナラク』の項がありますよ」
その書物によれば、こうだ。

 

青龍王国。
人と竜とが力を合わせ共存していた稀有な王国。
竜の助力を得てかつて無いほど力をつけた人間たちは、しかし貪欲にも更なる力を求めた。
竜を喰らうことによって、力を求めた。
だがそれは、竜たちの神の逆鱗に触れる行為だった。
龍神に呪詛を掛けられた青龍王国の民は魔物の如く変貌していき、子孫も残せず、だが呪いによって死ぬこともできない体となった。
次第に理性をも薄れさせていった彼らは人も竜も構わず喰らうようになった。その凶暴さを恐れた当時の人々は力を合わせ、彼らを『ナラク』と呼ばれる地に封じた。
しかし、それも一時的なものに過ぎず、何時かの未来に彼らが再び世に混沌をもたらす時が来るも知れない……。

 

青龍人というのか、あいつらは。
「皆さんが訊いてくるってことは、やっぱり目覚めたんですよね、青龍人……」
間違いにい、凄くそれっぽかった。
「そういえば、竜の巣に行ったんですよね、どうでした、様子は?」
「ああ、期待外れもいいとこだ。ドラゴンは思ったほど会わないわ、青龍人に襲われるわ、散々だったぜ。結局、先発隊の連中とも合流できなかったしな」
恐らくは、今頃……。
「やっぱり……。きっと、竜たちは巣を移したんですね。青龍人を遠ざけるために」
竜を喰らって力を得た彼らの鱗は竜のブレスを弾き、爪を防ぎ、逆に容易く致命傷を与えられるようになっている、と阿未は付け加えた。
「青龍人の鼻は竜を嗅ぎ分けます。逆に、竜たちも黙ってやられるだけではないはず。どこかで青龍人と戦うための戦力を集めているはずです」
「竜と竜人の戦争か。おっかないな」
「他人事で済むの?」
多分、済まない。知らないけどきっとそう。
龍と青龍人との戦いが人間社会に影響を及ぼさないとは考えづらい。どれほどの規模の戦いになるか、想像もつかないからだ。
「ドラゴン共が騒がしかったのは青龍人が復活したからだったんだな」
「死人が蘇ると碌なことにならないわね」
「止める術は無いものだろうか?」
阿未が更に書物を読み進める。しばらくそうしていたが、うーんと唸って難しい顔になった。
「青龍人をもう一度ナラクに封印すれば良いのでしょうけど……そのための方法に問題ありですね」
方法というのは、どんな?
「ナラクを封じたのは当代の術士だったようです。その人は沢山の戦士と協力して『竜の心臓』なる物体を入手して、それを媒介にしたみたい」
竜の心臓?って、文字通りの意味ではないんだろうなぁ……。
「なにぶん口伝を纏めただけの文献ですから……詳しいことは。ただ、これには『竜の大群の激しい抵抗にあった』とあります。竜の個体よりも竜族全体にとってとても大事なものなんじゃないかと」
「大事なものー?」
「はい。例えば……」

 

「竜の巣の最奥に鎮座されていると噂の、竜の卵……とか」

ドラゴン・ネスト

竜の卵。
竜の巣の最奥に置かれている、全ての竜にとって守護の対象とされているもの。

 

……という仮説があるらしい。
なにぶん、実際に竜の巣の最奥に自ら足を運ぶなんて真似を成し遂げた人間はいない。学者が、竜の大群が巣を守ろうとするのは何か竜たちにとって特別なものがあるからなのではないか、と提唱したに過ぎない。もちろん、その実在は証明されていない。

 

「あるかも判らない。役に立つかも判らない。だって言うのに私たちを仕向ける気?」
ルーミアが抗議の目で阿未を睨んだ。
「ううっ、すいません。でも他に思い当たる節が無くて……」

 

「私は行こう」
WOLが一歩踏み出て真っ先に言い放った。
「戦など、起きないに越したことは無い。多少の危険を承知してでも、戦争の火種は絶たなくてはならない……と、思う」
「あんた……」

 

「私も便乗させてもらうぜ」
魔理沙!?
「竜の巣の全貌を知る者はいない。竜が邪魔するからでもあるが、竜の巣が今回みたいな有事に合わせて場所を丸ごと移すからだ。前人未到……なんて聞いたら冒険者【トレジャーハンター】の血が騒ぐぜ」
「盗賊【シーフ】でしょ?」
「平和より素晴らしい宝があるのかね?私は素晴らしいお宝を探しに行くのさ」

 

「霊夢はどうするの?」
ルーミアの赤い瞳に見つめられ、霊夢がため息を吐いた。
「行くわよ。何であれ、異変解決は博麗の巫女の仕事だもの」
「みんな行くのかー。……仕様がないから、私もついて行くよ。置いてけぼりは嫌だもん」
「はぁー……。私の周りの……八割は厄介事で出来てるなぁ」
面倒がりつつも霊夢とルーミアも赴くつもりのようだ。というか、この状況で降りる方が勇気が要るかもしれないが……。

 

なんだかんだ言って竜の巣に行くつもりの霊夢たちを見て、阿未がはらはらした表情で告げた。
「私が力になれるのはここまでですね……。竜のことなら龍に訊くのが良い。霧の湖の龍に会っておくといいかもしれませんよ?」

静寂の向こう

霧の湖の龍。それは、三龍の一体・ヨルムンガンドのことだ。普段は着物の少女サーシャの姿でいることが多い。

 

……のだが、残念ながら会って話を訊くことは出来なかった。
「あの龍なら巣に帰ったわよ」
虚空を引き裂いてスキマが開き、紫が姿を現した。
「でもそれは当然のこと。なにせ、種族全体の危機だもの」
悟ったような口ぶりで紫が話す。
「……何を知っているの?」
「私は普通より色々なものが見れるというだけ。だから少しだけ情報が早いの。例えば、」

 

「竜と青龍人との戦いは既に始まっていることとかね」

 

「……実は手遅れだったのか」
「いいえ?私はこの時を待っていた」
不気味に笑う妖怪の賢者。紫が誰より幻想郷を大切に想っているのは疑う余地もない。
だが、それ以外のことをどう感じているのかは、霊夢にも判らなかった。

 

「どういうこと?」
「貴方たちのことだから、どうせ竜の巣に行きたがるだろうと考えて、タイミングを見計らっていたのよ。即ち、竜の大多数がナラクに向かい、巣の守りが希薄になる隙を」
紫は不気味な笑みを崩さず、大きめのスキマを開ける。
「さあ!最後のダンジョンよ。頑張って攻略しましょうか」
「って、紫も来るの?まあいいけど」
意を決すると、一同はスキマの中に飛び込んだ。