イベント/虹の喧騒

Last-modified: 2014-12-09 (火) 09:01:02

シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント。


虹の喧騒

アルバイト始めました

「お昼にパンはいかがですかー。とっても美味しい焼き立てのパンですよー」

 

昼下がりのサンドリア王都の街並みは賑わっている。
特産品、雑貨、食事、武具。目的のものを求めて、内外問わず様々な人々が往来する。

 

「パンはいかがですかー。美味しい……きゃあっ」

 

そんなサンドリアの市街を主人公が歩いていると、雑踏の向こうに喧騒の気配を感じ取った。
辿ってみれば柄の悪いチンピラ数人が、パン屋の店員に何事か因縁をつけているではないか。
人混みで見えにくいが、店員の女性はおろおろと困惑しているようだ。

 

……最近、こういう奴儕が街中に増えたな。

 

見過ごすわけにはいかず、チンピラどもに声をかけた。反応と対応は御察しである。
貧困なボキャブラリで脅しをかけ、チンピラは主人公に牙を剥いてきた。

 

この国に訪れて一番に出くわした騒動を思い出し、思わず頭を痛める主人公であったが
軽く捻るか、と戦闘態勢を取る。
そして、チンピラに絡まれていた女性の姿を見て、思わず呆けてしまった。

 

思いがけない人物が、日中に居たのである。
フランドール・スカーレットが可愛らしいエプロンに身を包んで、パン屋の店員をやっていた。

 
 
 

「ごめんなさい。助けてもらって……!」

 

チンピラを鎧袖一触で片づけ、神殿騎士団のみなさんに引っ立ててもらった後。

 

主人公に助けられたフランドールは、申し訳なさそうにぺこぺこと頭を下げていた。
買い求めたチョコクロワッサンを頬張りながら、主人公はフランドールの謝罪を笑って流す。

 

しかし、あんな連中、指一本で片づけられるのではないか?
主人公の疑問に、フランドールは困ったような顔を浮かべた。

 

「アルバイトの最中に荒っぽいことしたら店の評判が落ちちゃうから……」

 

……接客業のつらいところであろう。連中はお客様以前の話だが。
だが何故フランドールが接客業をやっているのだろうか。見たところ金銭苦と言ったわけでもなさそうだ。

 

「え? あ、うん……きっかけはパン屋の店主さんを助けたことだけど。
 交流を通じて、人との繋がり、接し方を学びたいと思ったの」

 

数日前、市街にて美味しそうなパンを買い求めていたところ、この店の奥で病気で倒れている店主を見つけたらしい。
幸い峠は越えたが、まだまだ体に堪えるらしく、それなら、と手伝いを買って出たそうな。
調理をクリスタル合成で賄い、店の準備、声かけなどなど、それらを一人でこなしている……とのこと。

 

アルバイトというか店長代理である。
発想はともかく、その行動力は恐ろしく高いものであった。

 

「なかなか、上手くいかないけどね。さっきみたいな人が来ることもあれば、……怖がられるし」

 

最後の言葉は弱弱しげだった。

 

「『吸血鬼の作ったパンなんか食えるか』とかね。
 買ってくれる人が結構いるから、そこまで気にならないけど」

 

やっぱり仕方ないよね、とフランドールは申し訳なさそうに笑う。

 

弱音を黙って聞くと、主人公は齧ったクロワッサンを見つめた。

 

小麦粉とチョコレートの混じった良い匂いが鼻孔をくすぐる。
主人公は食べかけのパンを頬ばると、そのまま満足そうに平らげた。

 

普通に美味しいじゃないか、これ。

 

「そ、そう?」

 

不思議そうに首を傾げるフランドールに、主人公は尋ねた。

 

もっとパンが食べたい気分になってきた。
店長代理、他にオススメはないだろうか。

 

それを聞いたフランドールは、キョトンとした表情からはにかみながら微笑むと、こくりと頷いた。

なんや

「失礼する。先程、騒ぎがあったそうだが……」
「やあ、主人公じゃないか。それと……レミリア・スカーレットの妹さん?」

 

パンの代金を支払っていると、
近衛騎士団のセシル・ハーヴィと王立騎士団のカイン・ハイウインドがやってきた。
生まれも所属も異なるが、共に友誼を結んだ親友同士である。

 

「白玉楼で一服していたところ、騒ぎを聞きつけてな」
「狼藉を働いた連中は既にお縄になったけど、最近治安が悪いからね。
 様子が気になって、顔を覗きに来たんだけど……」

 

二人に事情を話すと、

 

「やっぱり、君がやっつけたのか。捕まえた神殿騎士団員がそれらしいことをいってたよ。
 手柄なのに、申請しないのかい?」
「あの『吸血鬼の妹』がパンを焼いているのにも驚いたが……」
「……やっぱり、おかしいでしょうか?」

 

気弱なフランドールの言葉に、両者は首を横に振った。

 

「とんでもない。俺は笑わんさ」
「むしろ人の命を助けたばかりか、代わりに仕事を請け負っているんだ。罵られる方がおかしいよ」

 

と、二人も言っているのでお前全力で自信持っていいぞ?

 

そう言うと、元気づけられたのかフランドールは嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「そうだ。折角来たんだ、そこのソーセージロールを一つ頂いてもいいかな?」
「このまま帰るのも悪い。俺は……そうだな、ポアチャを貰いたい」
「は、はい!」

 

オーダーを受け、忙しなく店内を走るフランドール。
体を動かすたび、胸部装甲が軽やかに弾む。

 

その格好は可愛らしいデザインのエプロンであったが、
それは鎧であまり目立たないフランドールのふくよかな胸部装甲をぐぐっと目立たせるものだった。

 

「「……むっ!」」

 

直後、飛来した矢が二人のドタマを派手にブチ抜いた。

 

「え、ええっ!?」

 

フランドールは驚愕から悲鳴を上げ、主人公は天を仰いでおっぱい星人二名のしまらなさを嘆いた。

 
 
 
 

「痛つっ……最近、ローザが手厳しいな……」
「当り前だろう、自分の立場を鑑みろ……うぐっ」

 

頭を押さえ、店を出る愉快な騎士二名。
制裁がセシルの恋人だけで済んだからいいものを、レミリア達が知ったらどうなっていたことやら。

 

「面目ない話だ……」

 

と、セシルとカインは急に真面目な口調で主人公に話しかけた。

 

「……ところで主人公。近々出国する予定はあるのか?」

 

今のところは考えていない。急に思い立って出立するかもしれないが。
と、返答するとセシルが真剣な表情で語った。

 

「サンドリア王国から少し離れたところに
 『サルヴァ』という岩壁に囲まれた小国があるんだけど、
 先日、サルヴァの民がサンドリアにほうほうの体でやってきたんだ」

 

主人公が眉をひそめると、カインが重苦しい表情を浮かべた。

 

「ランペール王に助けを求めたその者はこう言ったそうだ。
 ……『聖壁の都サルヴァが一夜にして壊滅した』と」

 

……温度差がひどい、と主人公は思った。
近日、調査隊を結成し、王立騎士団から数名を派遣する予定らしい。

 

「生き残りは心神喪失。証言もあやふやではっきりしたことはわからん。
 だが、サルヴァという国が大事になったのは事実だ」

 

サルヴァは周囲との国交も少なく、
閉鎖的な国であったが地形や風習から「聖壁の都」と称され、その名の通り鉄壁の守りを誇っていた。
小国ながら、かつての戦乱を生き抜いたのはそうした所以からだという。
その都が僅か一晩で滅んだ。

 

「魔物か、獣人の仕業か……どちらにしろ、尋常ではない。
 サンドリア王国はともかく、周辺国にとっては不穏極まりない話だ。
 無論、道行く旅人にとってもな」

 

事態が収束するまで、外界の動向と安全に注意しろ。
別れ際に二人にそう念を押され、主人公は苦い表情で首肯した。