世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント
アドゥリン英雄譚
図書館へ赴いた君は、早速歴史書を紐解く。
まずは、『アドゥリン英雄伝』という題名の本を手にとった。
…こうして、初代のアドゥリン王は11人の部下と共に大陸の奥へと進んでいった。
行く手に立ちはだかる幾百の獣たちを蹴散らし、覆いがふさるように迫ってくる樹海を掻き分け、更にその奥深くへと。
だが……。
アドゥリンの地は一騎当千の彼らさえ拒むほどの魔境だったのだ。
11人の勇敢なる王の部下たち。
だが、ある者は大剣ほどもある牙を持つ獣に倒され、ある者は這いまわる植物が吐く毒にやられ、1人また1人と減っていった。
最後まで王に付き従うことができたのは、幾頭もの獣を従えることが出来た女、カセンただ1人だったという。
そして、大陸の奥で何かが起こった。
遥かな昔のことで誰にもわからない。
だが、初代王はその地で倒れ、自らの命が尽きつつあることを悟った。
自らの証とするために、形見の品と一振りの剣をカセンへと託した。
『これより先、人は魔境に永劫立ち入るなかれ』
そう言いつけてアドゥリン島へと帰したのだ。
カセンは王の遺志を伝えた後、たった1人、また森へと戻っていったという……。
1冊目を読み終え、次の本を手にとった。
『英雄王と金獣王』という書物だ。
どうやら子供向けの本のようだ。
おうさまたちのまえにたちはだかったのは、それはおおきなけものでした。
そのおおきさったら!
まるでちいさなやまほどもありました。
みあげるとくびがいたくなるほどです。
ぜんしんをおおうけがきらきらとおひさまにかがやいています。
がおう、とけものがほえました。
ふりかざしたツメは、ひとつひとつがおうさまがてにしたけんよりもおおきくてきょうぼうです!
「おまえたちはさがっていろ!」
おうさまはなかまをかばうと、たったひとりでけものとたたかいました。
なのかななばんたたかって、ようやくけものは「ごめんなさい」とまけをみとめたのです。
「おまえはなにものだ?」
「このとおりです」
けものはにんげんのすがたになりました。
けもののしょうたいはおおかみおとこだったのです。
「おまえはまけたのだから、わたしにしたがうのだ」
「わかりました」
こうして、おうさまはおおきなおおきなけものをしたがえて、さらにもりのおくへとすすんでいったのです。
2冊目を読み終え、次の本を手にとった。
『王家の宝物展』という書物だ。
『七星剣』
初代王ショウトクが肌身離さずに持ち歩いていたとされる懐剣。
代々のアドゥリン王は、即位の際に民の前で七星剣を掲げ、初代の王の遺志を受け継ぐ旨を宣言する習わしになっていた。
現代では、王家は1名家となり同盟の一員でしかなくなったが、アドゥリン家を継ぐ者は昔ながらにこの習わしを守っている。
不思議な力を宿しているとのまことしやかな噂もあるが、その真偽は不明である。
…どうやら、それらしい本はこれで全部のようだ。
これ以上詳しいことは調べることは出来そうにない。
と、そこへマティウスが現れた。
「呑気にしているな、緊急事態だというのに」
緊急事態? なにかあったのだろうか?
「フトが攫われたらしい」
!?
「森へ行ったフトが、突然金色の獣に攫われたと聞いたぞ」
大変じゃないか!?
「大変だな」
急いで連れ戻さないと!
「森は広いぞ。どこを探す気だ?」
し、しかし…。
「その件に関して、緊急で会議が開かれるらしいぞ。お前も行ってみたらどうだ?」
わ、分かった…。
緊急会議
「攫われたっていうか…普通に餌になっただけじゃないの?」
開口一番、エアリーが不謹慎なことを言った。
エドガーが苦言を呈する。
「言いたいことはわかるがね。今まで散々、森に入って無事だったんだぞ」
「今回も無事だとは言えないだろう。強力な魔獣だったようだし…」
「何にせよ、捜索隊はすぐにでも編成するべきだろう。君はどうだい? やってくれるか?」
その誘いを、君は二つ返事で引き受けた。
フトを放ってはおけない。
エアリーが近寄ってくる。
「それはいいけど、闇雲に森に入ったってどうしようもないと思わない? きちんと情報を集めるべきよ」
情報か…しかし、何の情報を?
「フトを攫ったっていうのは、獣なんでしょう? アドゥリンで獣に一番詳しい奴に聞けばいいと思うわ」
なるほど。で、アドゥリンで一番獣に詳しい人とは?
「人じゃないわ」
へ?
「クムハウ。この辺の獣は、全部あいつの部下なんだから」
いや、しかし…クムハウ自体も獣なんだから、会話はできないのでは?
「この鈴をあげよう」
これは?
「獣だけに聞こえる特殊な音波を出す鈴よ。警告しておくけど、これはあくまで裏道であって、正直あんまりいい方法じゃないわ。
けど、今最優先すべきはフトの身柄であって、多少の危険は犯しても仕方ない。そうでしょう?
私は貴方の実力に掛けるわ」
そ、そうか…。いや、危険は承知の上だ。クムハウに話す役目は引き受けよう。
「いい? 敵意がないことと、金色の獣のこと。これだけを聞くのよ。そうすれば多分、大丈夫よ」
絶零公
クムハウが住む地へ趣き、探していると、向こうから現れてくれた。
白い身体、立派なたてがみ、鎧のように身にまとった氷、獰猛な牙…。
絶零公の異名を持つ七支公、クムハウが。
「忌々シイ。不快ナ音ヲ、タテオッテ……。コノ地ヘ何用ダ? 返答ニヨッテハ、タダデハ帰サンゾ」
君は敵意がないことを伝えた。
「ホウ……。ナラバ、不快ナ音ヲ出ス「ソレ」ハ何ダ? アア、忌々シイ……!」
どうやらエアリーに渡された鈴の音は、クムハウにとって相当不快なようだ。
人間の耳には何ら聞こえないが…。
「頭ノ奥ニマデ響ク。敵意がナイトイウノナラ、即刻捨テヨ!」
そう言われて、君は慌てて鈴を投げ捨てた。
「……フン。ソノ慌テヨウ、ナニモ知ラズニ持タサレタヨウダナ…小賢シイ策ヲ。マンマト誘イ出サレタトイウコトカ…クク、面白イ」
…どういうことだ? まるで罠に嵌められたとでも言いたげではないか。
エアリーの真意は分からないが、とりあえず、目の前の巨大な氷獣から敵意は薄れたようだ。
君は金色の獣のことについて尋ねた。
「……語ルニ値セズ」
一蹴だった(泣)
しかし、一瞬の間があったように思えたが、一体?
ひとまず君はフトのことについて尋ねた。
エアリーから「敵意がないこと」「金色の獣こと」だけ聞け、と言われたことは、この後で気付いた。
「ナニ? あどぅりんノ姫君ガ攫ワレタダト?」
しまった、と思っていた君に対する返答はしかし、クムハウの今までで一番敵意がない声だった。
「古ノ契約ノ証……アノ剣ヲ携エタ娘ノコトカ……」
そ、そうだ。何か知っているのか?
「信ジラレン……ダガ……モシヤ……モシカスルト何カ理由ガアレバ『彼女』ナラバ……」
『彼女』って……?
「今カラ教エル場所ヲ目指セ。ソコニ洞窟ガアル、『彼女』ノ棲家ダ。行ケバ、何カワカルカモシレン……」
狼女
クムハウに言われた場所へ行くと、無事にフトを発見出来た。
しかし、意外にもフトは毛布を掛けられ眠っていた。
どうやら、割と丁重に扱われたらしい。
そして傍らで眠る大きな獣…何故か服を着ていたが、地毛は赤黒い。
服も金味はなく、金色とは見間違いようがなさそうだが…。
獣がこちらに気付き、起き上がった。
…と、大きな獣が徐々に縮んでいき、女性の姿に変わった。狼女だ。
「私はカゲロウ。黄金狼男の血を引く者よ」
カゲロウと名乗った狼女。彼女が、クムハウの言っていた『彼女』なのだろうか?
カゲロウに揺さぶられ、フトも目を覚ました。
「…おお、お主か。こいつに攫われた時はどうなることかと思ったが意外と…え、ミコ様の言葉の意味が分かった?」
寝起きで悪いが、早く知りたいのはフトも同じだろう。
「導く鍵というのは、七星剣のことを言っていたのか?
…そういえば、幼き頃、初めて七星剣を見た時、ミコ様のお父上から聞かされた話がある。
『大地に災い降りかかりし時、王の盟約は果たされん。』
『天高く聖なる剣を掲げよ。』
『放たれし眩き光の下へ、6つの刃を携えし、白き翼は舞い降りる』……」
それが、七星剣に関する話か。
「災いが起こった時…つまり今、天高く掲げれば良いのだな?」
「やってみましょうよ」
「まあ、掲げるだけでいいなら」
フトは開けた場所へ移動し、七星剣を鞘から抜き、天高く掲げる。
すると剣から眩しい光の筋が地平の彼方へと伸びていく。
光の先から、真っ白の翼を持つ龍が現れた。
「今のは…?」
「大災神って伝説を知ってる?」
「…アドゥリンに災厄訪れし時に現れる白竜だ。災いを起こす存在とも、逆に救国の使者とも呼ばれているが…今のが?」
あの龍に会ってみるべきそうすべき。
「う、うむ。それが正解であろう」
光の道が示す先は
光が指し示した先は結構遠いようで、正確な位置が分からなかった。
そこで、少し場所を変え、もう一度七星剣を掲げる。
今度も光は律儀に現れ、同じ場所を指した。
同じことを何度か繰り返し、根気よく位置を割り当てる。
どうやら、カミール山の頂上を指しているらしいことが分かった。
「しかし、龍をこの目で見られるとはな。PCは冒険者だから、きっと龍を何度も見てきたのであろう?
お主には助けられてばかりだな」
まあ、色々あったな…。
「山に向かうなら、準備がいるんじゃない? 私は平気だけどー、貴方たちは人間だし」
一理あるな。一旦街へ戻ろうか。皆も心配しているし。
「分かった、そうするか」
街へ戻ったフトを待っていたのは…当然ではあるが、『もう森には入るな』という忠言だった。
しかし、それに対してフトは。
「我も一アドゥリン市民に過ぎん。ならば、望めば開拓者になれる…そうであろう?」
自分が開拓者になることで、正式な許可をとったのだ。
凄い度胸だ…。
準備を整え、カミール山へ登るPCとフト。
長い道のりを終え、辿り着いた先で、真っ白い龍を見た。
龍はこちらに気付くと、起き上がって翼を広げた。
「ここは人間の立ち入って良い場所ではない。森を荒らすお主たちのような輩は、早々に立ち去るのだ。さもなくば……」
龍は、脅しにと羽ばたき、強い風を巻き起こした。
「待て! これを見るが良い!」
フトは七星剣を龍へ見せた。
龍はフトをじっと見つめた…!
「ふむ……。では、お主たちは森を荒らす輩ではなく、げにも気高くも勇敢であった王…ショウトクの意を汲む者だと言うのだな?」
「初代王の名をそうも親しげに呼ぶとは…もしや、ショウトク王を知っているのか? ショウトク王が生きていた時代など、1000年前だぞ…」
「もちろん知っているとも。我が名はハーサーカ。
彼の王と共に戦いしもの。
彼の王に絶対の忠誠を誓いしもの。
人間たちの言う歳月などという言葉は、悠久の時を生きる我には無縁だ。
だが、敢えてこう言おう。千の昼が暮れようと、万の夜が明けようと、王と我との誓いは揺るがぬ。
我から見れば、人の一生などうたかたのようなもの。
束の間だけ輝いてみせたかと思えば、瞬きほどの間に消えていってしまう。
消えては結び、また消えゆく。儚き存在が人間だ……。
だが、あの王だけは我には異なって見えた。
光の龍である我よりもなお、彼のほうが輝いて見えたぞ。我を影の国から連れ出してくれたあの王だけは……。
そうとも。我は彼のことを忘れはせぬ」
初代王について語るハーサーカの口調には、熱があった。今でも鮮明に思い出せるのだろう。
龍という人外の存在を、ここまで執心させるほどのカリスマを、初代王ショウトクは持っていたのだ。
「だが人間の娘よ…お前はどうなのだ? ショウトク王の意を汲む者だと言い張るが、どれほどあの御方のことを知っているのか」
「それは…」
「では、アドゥリンの守護者として問おう。ショウトクから森の守護を託された7つの魔物がいるのは知っているな?」
「七支公……」
「彼らはそれぞれ決められた場所を守護している。だが、実はその7つの魔物以外にも、王を助けた金色の狼がいるのだ」
黄金狼男か。
「思ったよりは博識なようだな。では、その黄金狼男と戦った場所は知っているか?」
「え、戦った場所? …そんなこと、図書館の本には書いてなかったぞ…!」
「どうやら知らないようだな。その程度の知識量では、話にならぬな。我はショウトクのことを、一時も忘れたことはないというのに…」
「ヨルシア森林よね」
声のする方を見ると、カゲロウだった。
「酷いわ、置いていくなんて」
「すまん…」
「詳しいようだな」
「まあ、黄金狼男についてはね。
黄金狼が吠えると周囲の獣は身を引き、王もまた部下には手をだすなと言った。
王と黄金狼の戦いは7日に渡って続き、お互いに力を認めて真の友となった。
更に、黄金狼は王の部下の1人に自分の子を遣わした。これが、私のご先祖様ね」
「先祖? …そうか、黄金狼の…王と黄金狼の戦いは、我とショウトクが出会う以前のことであったが、王からも黄金狼からも何度も聞かされたものだ」
「けど意外だったわ。まさかハーサーカがヤンデレキャラだったとは」
「……やんでれ?」
言葉の意味が分かっていないらしい。
カゲロウはカゲロウで、人里離れて暮らしているのにどこでそんな言葉覚えたんだと突っ込みたいが。
「ちょっと…知り合いがね。詳しい人なのよ」
「自信があると見える。ではおまえに質問しよう。もし答えられないようであれば…」
「心配ないわ、大丈夫だから」
どうもカゲロウは、ハーサーカの質問には全て答えられると思っているようだ。
詳しい知り合い、というのが誰なのか分からないが、そういうことであれば任せてみよう。
「では、始めるぞ。黄金狼の子は、おまえたち人間の1人に助けられた。その人間の名は? 答えてみよ!」
「カセン!」
「ふ…その通りだ。彼の王に比べればやや輝きは落ちるとはいえ…あの11人の男女たちは、我の魂を揺さぶった数少ない人間たちであったぞ。それは今も変わらぬ」
「では、最後の問いだ。ショウトク王が最後の戦いの地として選んだのは、どこだ? 答えてみよ!」
「大冥宮よ」
「正解だ…どうやら、本当に黄金狼の子孫のようだな」
助かった、もう駄目かと思ったよ>>狼女感謝
「それほどでもない。私にとっては生まれた時から聞かされてきた話だからね」
「ハーサーカ。お主の口ぶりからすると、アドゥリンの生まれではないようだな?」
「そうだ。ここではない、暗い場所へ閉じ込められていた。王は我をあそこから救い出してくれたのだ。
もう戻りたいとは思わんよ、我も、あいつらもな」
「あいつら?」
「七支公と呼んでいるのだろう?」
む? 七支公は森を守っていた魔物だと聞いていたが、彼らもアドゥリン以外の地から初代王によって連れて来られたというのか?
「救い出されたのだ、彼の地から。それゆえ王の力を認め、王に命じられて、この地を6つに割ってそれぞれの守護者となった。
人間を遠ざけ、森を護れ。大地の守護者たれ、と。古の盟約だ」
「とはいえ…長い年月が過ぎた。我にとってはそうでなくとも、他はそうとは限らぬ。
代替わりをしてしまい、護り続けている理由すら失ったものもいれば、
生き続けている者でも当時の記憶が定かでなくなったものもいる」
ハーサーカは悲しげに言った。
「大地の守護者と言ったがな…真に守っていたのは森ではない。彼らが6つの地に分かれて棲み、その地を守護するという名目を掲げ、
それぞれの地を離れられなくなった理由…それはな。
大冥宮へと続く6つの道を見張るためだったのだ」
大冥宮…さっきカゲロウが口にした地名だが、よくは知らない。
「大冥宮というのは、闇の眷属と呼ばれる謎の魔物を生み出している場所よ」
闇の眷属…。
「最後の戦いの時、ショウトク王は大冥宮へと留まり、我とカセンは王を残したまま地上へと戻った。
我らには使命があったからだ。王の命を伝えるという使命が。
七支公に大冥宮を見張れという命を」
「ちょっと待ってくれ!」
フトが待ったをかけた。
「大冥宮へ続く道は6つ…だったな。6つの道を七支公が見張っていると」
「然り」
「入り口は6つ。守護者は7体。1体余るではないか。こいつは何を守っていたのだ?」
「……そいつはな、他の公とはいささか違う。
そいつは、かつては不死君と呼ばれていた。闇の眷属たちの王に仕えていたのだ」
「…敵の王に!?」
「あやつだけはどこにいて何をしているか我も知らぬ。だが、おおかた…。
いや、やはり分からぬと答えておこう。気ままな奴だからな…」
不死公というのは、かなり勝手な奴らしい。
「ハーサーカ。我らはこの、七星剣に導かれてここまで来た。
ショウトク王はお主に何かを託したのだと思う。
この地で起きる異変…何か知っていることがあるのではないか?」
「……。大冥宮の扉が開きつつあるのだ。過去の亡霊が蘇りつつある…」
「過去の亡霊…それは闇の眷属を操っていた…?」
「然り。ショウトクと最後まで戦い、王の力をもってしても倒すことが叶わず、大冥宮の奥深くへと王がその身を賭して封じ込めた存在…」
「そやつの名は、大冥宮の主……『ハデス』だ」
ハデス…。
「我には分かるぞ。あやつはゆっくりと復活しつつある…。闇の力が…生あるものにとっての負の力が日増しに強くなっておる。
それゆえ、相対的に世界樹は力を失いつつあるのだ」
生あるものにとっての負の力が大冥宮から溢れ、生あるものにとっての正の力である世界樹が、根となってそれを抑えていたのだ。
毛玉のキングが言っていたことを覚えているだろうか?
世界樹はもはや風前の灯火である。
すなわち、大冥宮から負の力が、地上へと侵食しようとしているのだ。
世界樹が完全に死んだ時、闇の眷属が地上に溢れ、生きとし生ける者全てを苦しめるだろう。
「どうすれば良いのだ? 我々は何をすれば…」
「かつて王は、この地に世界樹の若木を植えた。若木は一瞬で成長し、大木となったのだ。
同じことをすればいい。もう1度世界樹の若木を植えれば…しかし…」
「しかし?」
「その世界樹の若木がある光輝く地へは、光の龍である我しか辿り着けぬ。だが、見よ、この傷を」
そう言ってハーサーカは、胸の傷を見せた。
鱗が剥がれ落ち、紫色に光っている。
ただの傷ではないことは一目瞭然だった。
「大冥宮でつけられた傷だ…我は鱗を奪われ、呪いをかけられた上で鱗をどこかへ封じられてしまった。
この傷は鱗を取り戻さぬ限り永遠に癒やされぬ。今の我は羽ばたくだけで全身を耐え難い痛みが襲うのだ…」
飛べぬ龍…呪われた鱗…光輝く地…打つ手はないのか?
「そうでもないわ」
カゲロウが明るく言った。
「ついてきて!」