イベント/遠き日の約束

Last-modified: 2012-01-31 (火) 00:47:35

シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント。


遠き日の約束

思念3

機嫌良く眠りに付いた『それ』だったが、再び安寧から叩き起こされた。
あの不快な気配が再び『それ』に干渉しようとしたからだ。
流石に頭にきた。冴月の人間に免じて逃がしてやろうと思ったが、最早我慢の限界である。
このまま八つ裂きにしてくれよう、そう思い、実行することにした。
そして、『それ』は『それ』に干渉してくる気配の下に意識を飛ばした。
意識を飛ばした瞬間に下で人間や鳥にそっくりな人間が騒いでいたが、それどころではなかった。

 

しかし、不快な気配は意識を向けた途端にすぐに途絶えてしまった。
何度辺りを見回しても気配が戻る事はない。
『それ』は忌々しさを内心に抱え、意識を元の場所へと戻した。

 

……。

 

最近になって自身の具合が悪いと『それ』は思う。
今までなら国全体に意識を広げる事ができたのに、今はこの様だ。
霊獣がおかしくなってから少しづつ調子が悪くなっているのだ。

 

それに、

 

……最近は己のことに目を向ける者もめっきり減ってしまった。
近東との戦争だとか、人間のやる事を『それ』はあまり理解できない。
そして戦いが終わったかと思えば、霊獣達がおかしくなって、それに気を取られたっきりだ。

 

また忘れられるのだろうか。

 

……大丈夫だと、己に言い聞かせる。
例え、この国の人間の全てに忘れ去られたとしても、まだ『それ』には支えがある。

 

冴月との約束がある。それさえあれば己が完全に忘れ去られる事はない。

復讐鬼の予兆

永遠亭に戻った主人公達を最初に出迎えたのは永淋だった。
彼女が今ここにいるという事は……
「麟殿は……」
永淋が溜息をついた。

 

「言ったでしょ。巫山戯た結論ぶん殴って捻じ曲げるのが私達医者の仕事だって。
……治しておいたわよ。あの娘にかかってた悪疫と呪詛の呪いダブル重ねには手古摺ったけど、上手くいったわ」

 

安堵に、全身の力が抜けるのがわかった。背後ではゲッショー殿が男泣きしていた。
「まだ意識は戻っていない。でも時間がたてば目を覚ますでしょう。
……あ、お見舞いに行ってもいいけど、先に済ませる事を済ませてからね? 様子見たいのはわかるけど」
そして永淋が疲れたように肩を回す。
「結構疲れたわね……」
……肩でも叩きましょうか?
「肩を叩いてもらうほど疲れてません。というかまだまだ現役だから、そういうのは勘弁願いたいわ」

 
 
 
 

先に済ませる事を済ませてから。そう諭された主人公はゲッショー殿に麟のお見舞いを任せて輝夜姫から依頼された調査の報告に赴く。
そして輝夜姫に調査の結果とドウマンと名乗ったデーモンの事を話すと、天幕の向こうの気配が変わった。

 

「あの時、麟の残した文字の意味は『オロチに気をつけて』ではなく、
『オロチを狙っている者がいる。気をつけて』ということ……そしてドウマン、か……」

 

心当たりはあるのか?
「数百年前の人間……かつて名の知れた退魔師よ」
ということは、あいつは人間だったのか。……しかし、あの時見せた姿は完全に人間の形ではなかった。

 

輝夜姫は一息つき、
「優れた腕を持つがゆえに、己に驕れ、その果てに魔道に堕ちた。そして別の退魔師に敗れて、封印されたのだけど……」
それが麟の一族だったのか?
「ええ……『忌々しい冴月』……一連の流れから見て、麟を害したのはあいつの仕業と見て間違いなさそうね」

 

……あれはオロチを従えるなんて言ってた。本当にそんなことできるのだろうか?
「多分……無理でしょうね。随分前に龍脈と其れに巡る氣を欲してオロチの制御を試みた時期があったけど、その結果は国全体を危うく焦土に変えるほどの大破壊。オロチの暴走だった。……結局、得られたのは大規模な災禍と『オロチは人がどうこう出来るような代物ではなかった』という事実だけでした」
ほんのちょっとだけ引っ掛かる言い方だった。
ドウマンもだがいくらなんでも詳しすぎるというか……大昔の出来事の筈なのにまるで直に見てきたかのような物言いだ。
そしてその気配に気づいたのか、輝夜姫が思案するかのように首を傾いだ。

 

「……まるで『なんでそんなこと知ってるんだ』って顔をしてますね」
気になるといえば気になる。

 

天幕の向こうの輝夜姫が、傾いだ首を俯かせた。どうも悩んでいるようだ。
「オロチが関わる以上、貴方も知った方がいいのでしょうね。貴方には何度も世話になったもの。
何よりひんがしの民は忠義を尊ぶ。けれど…………」

 

世話になった。という言葉を聞き、内心驚いた。……いつの間に彼女からそう言われるほどの行いをしたのか?
驚きの合間に、輝夜姫の思案は5分以上は長く続いた。
そして、
「……知る者は少なくはない、けれど、広く明かすべき内容ではない。
その旨を理解して、自分から口外はしないと約束できるならば、お話するわ」
首肯する。

 

輝夜姫が唇を開く気配が伝わった。
「昔々……」

永遠のお姫様/自称・罪人

昔々、あるところに御姫様がいました。
暢気で他人を巻き込みがちな危なっかしい所があったり、知り合いの子とよく喧嘩もしていましたが、周りに支えられて、幸せに暮らしていました。

 

ある時、御姫様は民の暮らしをもっと豊かにできないかと考えました。
そこで、地の奥底に眠る龍神様の力を借りようと考え付いたのです。
龍神様は風雨を起こして土地を豊かにし、大地に瑞々しい水を湛える力を持っておりました。
その力を借りれば、もっと暮らしも便利になるのではないかと。

 

ですが、龍神様の力は人の手には余りあるモノでした。
挨拶もなしに勝手に自分の力の一部を干渉され、弄られた龍神様はとても怒りました。
「普段は我らの存在など知らんぷりの癖に、都合の良い時だけ力を借りようとはなんと無礼な!」

 

龍神様の鼻息は嵐となり、畑と人を呑みこみました。
龍神様の怒りは雷となり、大地を焼き払いました。
そして、龍神様は御姫様に呪いをかけました。

 

『老いる事も、死ぬ事もできず、永遠に俗世を彷徨う呪い』を。

 

荒れた畑が新しく興され、失った人の数が元に戻っても、
今でも、御姫様は呪いを背負いながらどこかで生き続けているそうです。
独りよがりで民を失わせてしまった自分を、罪人だと名乗って。

 
 
 
 

輝夜姫が語ったのは、何かの御伽話だった。
「……今のお話にはモデルがある。千年近く前に起きた実話が元になっているの」

 

「その実話と言うのは、オロチの暴走。龍神様というのは、オロチのこと。
あとね、御姫様は本当に呪いを受けた訳じゃないの。
オロチの暴走に伴って、活性化した龍脈に従者や腐れ縁と一緒に呑みこまれて……龍脈の中に一瞬だけ溶け込んだ。
その時に龍脈に流れていたオロチの生命と合一して……死ぬことも老いることもなくなってしまったのよ。
察しが付いたでしょう。その御姫様と言うのは……」

 

「……私」

 
 

「……あまり、驚かないのね」
まぁ、知り合いに長生きできたり実際している人がかなりいますので。
「主人公の人脈の広さは地面に広く根付く木の根の如しね」
くすくす笑いながらそんな事を言われた。
「罵倒される事も覚悟していたんだけどね」
んなことしたら、打ち首切腹確実じゃないですかー!
「……確かに永淋とか、そこのところのシャレが通じなさそうよね」
お互いに納得してしまった。

 

昔、大ポカやらかしたのは事実らしいが、今も国民に広く慕われてるのも事実と言う訳で……。
「……うん。私の思いつきのせいでオロチの暴走で沢山犠牲が出て、お先真っ暗になった時も、彼らがもう一度引っ張り上げてくれた」

 

『貴方がいなければどうしていいのかわからない』
『悔むくらいなら、畑仕事でも手伝ってほしい』『自分達のためにやったことだし、それを受け入れたのも自分達』
『貴方の事は憎いけど、それよりも優先する事がある』
『死ななかっただけマシ』『畑は残ってる。建物すべてが消えたわけじゃない』『もう一度やり直せばいい』
『立ち止まって永遠の中を停滞するくらいなら、オロチが、この国が滅ぶまで、こいつらを引っ張り上げてみろ。……どうせ私達にとって永い時間すら須臾の合間に過ぎない』

 
 

「……あの時、彼らに語り掛けられた言葉は、今でも記憶の中に残ってるわ」

 
 
 

物思いに耽っていた輝夜姫が声を紡いだ。
「……ドウマンが狙っているのはオロチの制御だと思うわ。麟の事は……復讐のつもりなんでしょうね」
輝夜姫が悔しさと怒りに手を握り締めた。
しかし、オロチの制御は不可能だ。他ならぬオロチを制御しようとして失敗した輝夜姫の言がある。
「……オロチを制御するために作られた神器がある。かつて、私がオロチの力を借りる為に作った剣が。
制御できる心当たりと言えばそれくらいしかないけど」

 

そういえばひとつ、聞きたい事が。
「何かしら?」
オロチが暴走したと言ったけど、あれは最終的にどう鎮まったんだ?

 

「……一人の人間が生贄を志願して、オロチの怒りを鎮めようとしたの。
でも、どういう訳かオロチと話しあって……ある約束と引き換えに、怒りを鎮めさせてこの国の龍脈に戻る事に成功させた」

 

約束?
「それは私にもわからない。でも、自分の姓を後世に受け継ぐ事がその証明になるのだと、そう言ってたわ」

 

「その人間の姓は……冴月」

 

「退魔師の一族、冴月の始祖よ」