イベント/隻眼吼ゆ

Last-modified: 2012-05-04 (金) 20:49:36

シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント。


隻眼吼ゆ

覚悟と殿(しんがり)

 
 

「……は?」
最初に響いたのは敵の断末魔でも、我々の喝采でもなかった。
信じられないものを見たかのようなレミリアの呟きだ。

 

「グゥ、オ……!」

 

放たれた魔槍は確かに命中した。
ズ・ダ、ヅェー・シシュ、バックゴデックではなく、
彼らの盾になる様に横から飛び出した隻眼のオークに。
しかも、

 

「耐えた……!?」
魔槍をまともに受け、隻眼のオークは尚も立っていた。

 

「……お嬢様、最近結果がガッカリすぎませんか」
「…………………………」
「お、おいィ!? レmリアが落ち込んで蹲っているんですがねぇ!」
「が、ガッカリとか言わないでよ! ただでさえお姉さま自信過剰なんだから!」
「ざまあwwww」
次の瞬間炎剣とナイフの群列と雷の左拳が、間を置かず汚いアサシンの顔面へ一斉にぶちこまれた。
事前に蝉を貼っていたので難を逃れたアサシンの姿を見、加害者三名は忌々しく舌を打つ。
「「「……チッ、まだ生きてやがる」」」
「お前ら味方に容赦なさすぎだろ!?
……つーかよそいつの妹とナイトはともかくメイドォ! テメエもかよ!」
「お嬢様を目の前で堂々と貶していいのはメイド長であるだけですので」
「理不尽だ、理不尽の体現者が此処にいるぞ……!」

 

「……いや」
隻眼のオークが呟いた。
その声と表情からは色濃い死相が漂っている。
「守りの指輪にプロテス……持てる護りの加護の全てをかけて尚この威力……見事という他、ない……!」
オークの有様に目を向け、思わず息をのむ。
その腹は防護していた鎧が弾け飛び、中身が深く抉れていた。
隕石の衝突痕に似た傷が生物にできたら恐らくはこうなるのだろうか。……明らかに致命傷だ。
オークは穿たれた己の腹部にケアルをかけ、応急処置とする。
しかし呼吸は荒いままに、失った血や疲労までは回復しきれない。
「グワッジボッジ……!」
バックゴデックが隻眼のオークの様相を見、声を荒げる。
グワッジボッジ、ジュノ攻防戦にて見かけたあのオークだ。会戦でも敵将の中にその姿はあった。

 

「キサマ、負傷しで衛生兵共に運ばれでいだのではながったのが!」
しかし、グワッジボッジはそれには答えず、
「大将、ならびに他の頭領方……! ここは、一端お退き……召されよ!」
「何ィ……?」
「……下々の俗人が神に意見するか」
「グワッジボッジよ、負げを認めで背をむげろ、そう言いだいのが」
不快を隠さない彼らに、グワッジボッジは命を振りしぼり告げる。
「否! 断じて否! これは敗北の為の撤退に非ず! 即ち……再起の為の撤退であります!」

 

「貴方達こそが我ら獣人達の要、求心力そのもの……!
例え彼奴等を凌駕する兵力を備えていようが、貴方達がいなくては烏合の衆同然。
しかし……逆を言えば我らが幾千死のうが、貴方達さえ健常ならば、……盤石ということでございます……!」
「「「……」」」

 

「……涙ぐましい忠誠心じゃ。しかしな、むざむざ逃がすとでも思うたか?」
「ああ、逃がすわけにはいかない、ここで討ち取る!」

 

「いいや、逃がさせてもらおう……」

 

「このグワッジボワッジ、これより此処にいる全てのアルタナ四国側勢力に対し、一騎打ちを申し込む……!」

 

「「「……!」」」
「「「何い!?」」」
グワッジボワッジが放った斜め上の発言に、敵味方問わず驚愕の表情を受けべた。

 

「退避のための時間は私が稼ぎましょう。その間に各々の拠点までお引きを……! テレポがあれば手間はかかりますまい……!」
「おいこら、そんなアホな話に乗っかると……!」
「乗らなくては困る。少なくとも騎士の国であるサンドリアだけでも!」
グワッジボワッジは吐血の気配を以て吼えた。
「……どうした、たかが手負いのオーク一名! 押し潰すのは容易かろう!?
それとも、貴様ら人間は、騎士の決闘を踏み躙る事を由とするか……!
獣人、否、全ての騎士から見下げ果てられるような行いを由とするか……!!」

 

「知るか!」
汚いアサシンが怒鳴りつける。
「騎士なんて……誇りだの、くだらねぇモンにしがみ付いて古くせえ生き方しかできない人種が全てだと思、」

 

「いいぞ」
「えっ」
「……!」

 

「オークの騎士よ。その挑戦、受けよう。
我ら騎士は何よりも名誉を尊ぶ。……望むのであればそれが敵であろうと、だ」
承諾したのは、ランペール王だった。
「……他の方々は構わないだろうか」
「我々の狙いはあくまで闇の王。いまある余力を削る事だけは避けたいが……」
「甘いですわねぇ……ま、お好きにどうぞ。暑苦しくて気が削がれてしまいましたわ」
「名誉……誇りか。ならば仕方がないの……我らの種族も誇りを尊ぶがゆえに」
「どいつもこいつも……くそったれ! ああ、勝手にしろ!」

 
 

「……忝ない」

 
 

「グワッジボワッジよ」
「……はっ」
「供はおるが?」
「"切り裂き"団は私を除き既に黄泉路へ。……何より私の我儘に友や部下を付き合わせる必要はありますまい」
「そうが……ならばグワッジボワッジよ! ならばキサマに命令を与える……!」

 

「キサマはごの地に踏み留まり、肉の最後の一辺まで戦い抜げ!
その豪胆、並びに『隻眼のグワッジボワッジ』の名を人間共に轟がせでこい!!
こごが己の死地ど自負し、精魂果でるまで戦野を駆げ抜げろ……!」

 

大将である自らが命令を与えることで、この行いをグワッジボワッジ個人の暴走ではなく、あくまでオークの総意とした。
今生の未練なく戦ってこい、と。

 

「はッ!」
それらの意味を噛み締め、グワッジボワッジは応答した。

 
 

「オークの謙譲ゥ、しかと見たァ。 然らばァ退路に進めェ!
どうしたァ! オークの勇士がァ、殿を務めておるゥ! 戦人の粋を無下にするなァ!!」
「殿の役目、大儀。……ならば」
「往くぞ! 退げい、退げい者共……!」

 

獣人の群れがほうほうの体で去ってゆく。
あとは、戦で討ち果たされた獣人の遺骸と、

 
 

「我が終、此処に見たれり……!」

 
 

一人のオークだけが残されていた。

すべてを受けて

例えバックゴデックが斃れようと、北の帝国から大将に代わる新たな指揮官が派遣される。
例えザ・ダが討ち取られようと、その名は次の代に襲名される。
例えヅェー・シシュが滅ぼされようと、何れ新たな現人神が神託に見出され姿を現す。
しかし、
「主君の落命をおめおめと許す家臣がどこにいようッ!」

 

いくら代替わりが約束されようとも大将の死は自軍にとって少ない打撃にある。
ヤグードならば特にそうだ。ヅェー・シシュは不滅を自称するが、仮にそうだとしてすぐに蘇るものか?
その間に遺されたものはどうなる。
ゆえに、

 

「……我が名は隻眼のグワッジボワッジ!」

 

一時とは言え手を組んだ同胞を護りしこの行いは。
この己の行いはけして無駄ではない筈だ。

 

「進むべきは高潔、従うは忠義、欲するは主君の護命、最期に望むはその結果。
来たれい、我が死共。これは遠きヴァルハラへの凱旋、その誉れの先陣!
しかと見よ、これが我が騎士道也……!

 
  • VS.隻眼のグワッジボワッジ
    ♪Another Side -Battle Ver.-
    隻眼のグワッジボワッジとの一騎討ち。
    戦闘メンバーは前イベントで操作したメンツから一名を選択、戦闘に臨むことになり、またグワッジボワッジのレベルは相対するキャラと同等の値になる。
    使用する技はフラッシュやホーリー、ジュノ攻防戦で猛威を振ったバトルダンスと遠隔攻撃のエアリアルホイール、そしてHPが50%を切った時、一度だけケアルⅣを使用。激しい疲労の再現で、常時呪いと出血のステート(治癒不能)にかかっており、毎ターンごとにHPとMPが減少する状態にあるがそれすらも構わず立ち向かってくる。戦闘メンツと同レベルでもNMであるため中々手強い。またHPとMPが半減、更に時間を置けばあっという間に減衰するが、撃破しても一回だけHPが全快して復活。また復活した瞬間にインビンジブルで物理を無効してくる。
    PC自身が一騎打ちすることも可能だが、レベルやステータスに自信がないなら素直に強キャラに任せてしまってもいい。
     

「美事也……!」

選択キャラが主人公で勝利

息も絶え絶えのグワッジボワッジが盾を差し出した。
「受け……取ってくれ、人間の勇士……
それが手向け、だ……」

 

「頼む……」
承諾し、差し出された盾を受け取る。

 

▼オハンを手に入れた。

 

「かたじ、け……ない……」

 

グワッジボワッジは一歩二歩下がり、しかしそれ以上は下がらずに大地を踏み締め、

 

「感謝、する……。
悔いの……無い……戦い……で……あっ……た…………」

 

その言葉を最後に沈黙した。
兜の奥の隻眼は光を宿してはいない。

 

仁王立ち。

 

グワッジボワッジは立ったまま事切れていた。

氷雪の向こうへ

獣人血盟軍との会戦。
その結末は獣人血盟軍の5/8近くが討ち取られ、撤退するという結果に終わった。
こちらの被害も大きかったが、各々の活躍、ティアマットといった予想外の援軍によって被害は想定よりもずっと下回るものだった。

 

レミリア曰く、
「遠目で親衛隊の面々を見たけど、どうみてもあれで全部じゃないわ。
まだあいつらの戦力の大部分がズヴァール城に引き篭もっている筈よ」
とのことだった。

 

獣人軍を打ち破ってもズヴァール城の戦力は潤沢ということか。
決戦の地となるザルカバードが険しい地形ということもあるため、まともな攻城戦は難しい。
大魔元帥の話通りウルガランから迂回して、ズヴァール城の外郭へと攻撃を仕掛ける短期決戦の流れとなった。
しかし、
「どうしても迂回すると敵に目立つ、か」
「はい。そのために戦力を別てようとおもいましゅ(`・ω・´)」

 

A部隊が正面から侵攻し、気を反らしているうちに、案内役である獣様を先頭にしたもうB部隊が外郭から奇襲を仕掛ける。
「そこで派手に立ち回れる我々の出番という訳か」
ランペール王が顎鬚を軽く撫でた。
「わかった、いつもの通り大暴れすればいいんだね!
その立派な顎鬚を興味深そうに見ていたウツホが晴れやかに声を上げる。……うん、これ以上ないくらいわかりやすく的を射ておる。

 
 
 
 

「いよいよ北の地かというか鬼なる」
「隊長を助けた時以来ね」
「ああ……」

 

「北の地、ですか。気が引き締まりますね」
「うむ、いよいよ雌雄を決する刻でござる」

 

「……少し古傷が痛む、かな」
「ん。何かあった?」
「あ、ううん。ちょっと前に崖下に突っ込んだだけ」
「「「「ガタガタッ」」」」
「「お前らじゃねぇ妄想してろ」」

 

武者震いか緊張か。一同はいつになく張りつめていた……と思ったが案外リラックス模様。
取り敢えずこちらがやる事は一つ。大魔元帥が横合いから殴り付けるまで、思う存分暴れればいい。
それこそさっきまでと同じように。

 

物思いに耽りつつ眺めていると、それを見たアリスが、
「ところで会戦では『生きるために前へ進撃しろ』って言ったけど、次からどうすればいいのかしら指揮官さん」
あれはサクヤさんにけし掛けられただけであって別に指揮してたわけじゃないんですけどねぇ。
「そう? 大分様になってたわよ?」

 

「勝って兜の緒を締めよ。ひんがしの諺だとか。もう一度気合いを入れ直す意味で何か一言どうぞ」
……そうだなぁ。

 

次からが本当の正念場になる。
闇の王が相手になる以上、今まで以上に厳しい戦いになるかもしれない。
死ぬほど痛い目に遭うかもしれない。一辺死にかけるのもザラもありえる。
それでも、勝つ。勝つためにここにいる。
今ここにいる連中が安泰のまま勝てれば万々歳。最低もしくは最悪、闇の王と相討ちくらいとして。
でもどうせ勝つなら万々歳のままがいい。見た感じ死にたがりがいるわけではないし。
そう言う訳で戦いの先も今までの様に生きていられるように、

 

――次も、そのために前に進む。進撃あるのみ、だ。

 
 

「「「了解!」」」

 
 

余力を大きく残したのを幸いに、アルタナ四国連合とこのまま北の地へと進撃する。
残るは北の地に潜む闇の血族と闇の王。
目指すはザルカバード、闇の牙城の懐へ。
スタートラインから発つための号砲は既に撃たれた。